『大嘘憑き』VS『幻想殺し』(前編) ◆ElBBuB18Y2
球磨川禊はどうしようもない『過負荷(マイナス)』であり、『負完全』である。
思想は退廃的で破滅的。
人々をあざ笑うかのような態度と、良いと悪いを一緒くたにした弁術で、『嫌悪感(マイナス)』を周囲へと振り撒く。
常人であればある程そのマイナスには耐えきれず、相対しただけで関わり合いたくないと思わせる。
『過負荷』であり『負完全』。
世界有数の心療科医でさえ、その心の在り方を、その心の存在すらも把握できなかった男。
『過負荷』の中でもトップクラスにマイナスな存在。
それが球磨川禊。
異質度でいえば、今回の殺し合いに参加する者の中でも群を抜くだろう。
思想は退廃的で破滅的。
人々をあざ笑うかのような態度と、良いと悪いを一緒くたにした弁術で、『嫌悪感(マイナス)』を周囲へと振り撒く。
常人であればある程そのマイナスには耐えきれず、相対しただけで関わり合いたくないと思わせる。
『過負荷』であり『負完全』。
世界有数の心療科医でさえ、その心の在り方を、その心の存在すらも把握できなかった男。
『過負荷』の中でもトップクラスにマイナスな存在。
それが球磨川禊。
異質度でいえば、今回の殺し合いに参加する者の中でも群を抜くだろう。
(『ん~、それにしてもどうしようかな。これは』)
そんな球磨川は今、正直に悩んでいた。
他でもないこの殺し合いという状況に、どう行動していくかを悩む。
脳内の爆弾を解除し、平戸ロイヤルを打倒する?
これは駄目だ。ツマらな過ぎるし、そんな『幸福(プラス)』な結末など自分の目指す所ではない。
もっとマイナスな、不条理と理不尽とやるせなさに満ち満ちた結末が望ましい。
ならば、どうする。
参加者を殺害していくか?
それはそれで面白そうだが、未成年の内に殺人を犯すとどうにも損をしたような気分になる。
それに、この案では平戸ロイヤルが『丸得(プラス)』になってしまう。
平戸ロイヤルは殺し合いを開催した動機について、ラスボスを倒す為に必要だと言っていた。
その最中に出てきた安心院については一旦棚に上げ、ラスボスという言葉に注目してみる。
ラスボスとは、少年漫画的に言えば『悪』だ。
ラスボスを倒せば、『悪』を倒せば、殆どの人々は幸福になる。
ラスボスとはそういうものだ。逆に言えば、そういう存在でなければラスボスたりえない。
つまり、この殺し合いの末にラスボスが倒されてしまえば、沢山の幸福が発生するのだ。
例えこの殺し合いで全参加者を殺害したとしても、相対的に人々は『幸福(プラス)』となってしまう。
それはツマらない。
もっとマイナスへ、皆が皆等しく絶望に浸れるようなバッドエンドを目指さなくては。
それが『過負荷』たる自分の目指す所だ。
他でもないこの殺し合いという状況に、どう行動していくかを悩む。
脳内の爆弾を解除し、平戸ロイヤルを打倒する?
これは駄目だ。ツマらな過ぎるし、そんな『幸福(プラス)』な結末など自分の目指す所ではない。
もっとマイナスな、不条理と理不尽とやるせなさに満ち満ちた結末が望ましい。
ならば、どうする。
参加者を殺害していくか?
それはそれで面白そうだが、未成年の内に殺人を犯すとどうにも損をしたような気分になる。
それに、この案では平戸ロイヤルが『丸得(プラス)』になってしまう。
平戸ロイヤルは殺し合いを開催した動機について、ラスボスを倒す為に必要だと言っていた。
その最中に出てきた安心院については一旦棚に上げ、ラスボスという言葉に注目してみる。
ラスボスとは、少年漫画的に言えば『悪』だ。
ラスボスを倒せば、『悪』を倒せば、殆どの人々は幸福になる。
ラスボスとはそういうものだ。逆に言えば、そういう存在でなければラスボスたりえない。
つまり、この殺し合いの末にラスボスが倒されてしまえば、沢山の幸福が発生するのだ。
例えこの殺し合いで全参加者を殺害したとしても、相対的に人々は『幸福(プラス)』となってしまう。
それはツマらない。
もっとマイナスへ、皆が皆等しく絶望に浸れるようなバッドエンドを目指さなくては。
それが『過負荷』たる自分の目指す所だ。
(『やれやれ。「参加者をマイナスにする」、「主催者もマイナスにする」。両方やらなくちゃならないってのが『過負荷』の辛いところだぜ』)
わざとらしい溜め息と共に言葉を吐き捨て、球磨川は道を往く。
そんな彼が、その参加者と出会ったのはもう少しばかり先の話である。
決して揺らがぬ信念を以て数多の幻想をぶち殺してきた少年―――上条当麻。
何があっても守り抜きたかった存在と、共に戦いを潜り抜けてきた右腕とを喪失した、満身創痍の『幻想殺し』。
寺生まれの男に背負われ運ばれる上条を、球磨川は遠目ながらに発見する事となる。
球磨川は覚えていた。
始まりの始まり、あの体育館にて爆殺された少女。
誰もが驚愕の声を上げる中で、ただ一人少女の名前を叫んだ男いた。
悲壮の籠もった男の声に、『過負荷』としての好奇心が反応し、視線を動かす。
そして、その姿を垣間見た。
ウニのようなツンツン頭の学生服の男。
上条当麻の姿を、球磨川は覚えていた。
灰色のアスファルトを見知らぬ男に背負われて進んでいく上条に、球磨川は僅かに口角を吊り上げた。
何も深い考えがあった訳ではない。
ただ面白そうだから、言うなればただそれだけの、子どもの如く純粋な気持ちで球磨川は行動する。
上条と寺生まれの男を追跡する球磨川。
前方を歩く彼等が辿り着いたのは市街地の中に聳え立つ施設であった。
外見からその施設が何なのか球磨川にも理解できた。
看板に大きく掲げられた赤い十字架。
白色を基調として彩られた建物は、薄暗闇の中でも目立って見える。
病院だ。
ゲーム開始と同時に確認した地図にも載っていた施設である。
恐らく背負われている上条が怪我でもし、その治療の為に病院へと向かっていたのだろう。
まあ、妥当な判断だ。
そんな彼が、その参加者と出会ったのはもう少しばかり先の話である。
決して揺らがぬ信念を以て数多の幻想をぶち殺してきた少年―――上条当麻。
何があっても守り抜きたかった存在と、共に戦いを潜り抜けてきた右腕とを喪失した、満身創痍の『幻想殺し』。
寺生まれの男に背負われ運ばれる上条を、球磨川は遠目ながらに発見する事となる。
球磨川は覚えていた。
始まりの始まり、あの体育館にて爆殺された少女。
誰もが驚愕の声を上げる中で、ただ一人少女の名前を叫んだ男いた。
悲壮の籠もった男の声に、『過負荷』としての好奇心が反応し、視線を動かす。
そして、その姿を垣間見た。
ウニのようなツンツン頭の学生服の男。
上条当麻の姿を、球磨川は覚えていた。
灰色のアスファルトを見知らぬ男に背負われて進んでいく上条に、球磨川は僅かに口角を吊り上げた。
何も深い考えがあった訳ではない。
ただ面白そうだから、言うなればただそれだけの、子どもの如く純粋な気持ちで球磨川は行動する。
上条と寺生まれの男を追跡する球磨川。
前方を歩く彼等が辿り着いたのは市街地の中に聳え立つ施設であった。
外見からその施設が何なのか球磨川にも理解できた。
看板に大きく掲げられた赤い十字架。
白色を基調として彩られた建物は、薄暗闇の中でも目立って見える。
病院だ。
ゲーム開始と同時に確認した地図にも載っていた施設である。
恐らく背負われている上条が怪我でもし、その治療の為に病院へと向かっていたのだろう。
まあ、妥当な判断だ。
(『ん、あれは』)
だが、上条を背負う男は正面口から病院に入ろうとはしなかった。
不信に思った球磨川も病院の正面玄関へと視線を向ける。
そこには何か作業をしている男がいたのだ。
筋肉質の男は、殺し合いの場だというのに鼻歌混じりの軽い調子で作業を行っている。
自身の実力に相当な自信でもあるのだろう。
不信に思った球磨川も病院の正面玄関へと視線を向ける。
そこには何か作業をしている男がいたのだ。
筋肉質の男は、殺し合いの場だというのに鼻歌混じりの軽い調子で作業を行っている。
自身の実力に相当な自信でもあるのだろう。
(『トラップか何かかな? いやに楽しそうだけど』)
第一印象で球磨川は筋肉質の男を『普通』か『特別』かのどちらかだと断定する。
その男からは『異常』や『過負荷』特有の異質さが感じられない。
あの自信に満ち満ちた態度も判断の一員となっている。
あんなプラスな様相など『過負荷』に醸し出せる訳がない。
球磨川は筋肉質な男についての考察を終え、上条を背負う男の追跡を再開する。
男はどうやら裏口へと回っていくようであった。
玄関先の男との遭遇を避けたのは、それだけ上条が緊急の状態にあり、尚且つ男が殺し合いに乗っていないか判断できなかったからであろう。
球磨川もその後をついて行く。
玄関から病棟を迂回し、裏手にあった扉から中に入る。
上条を背負う男は周囲に警戒を飛ばしながら病棟内を進んでいく。
様々な部屋に入っては棚や引き出しの中を漁り薬品や包帯を持ち出していき、最終的には病室の一つに入っていった。
恐らくは入院患者が使用する個人用の病室なのだろう。
その男からは『異常』や『過負荷』特有の異質さが感じられない。
あの自信に満ち満ちた態度も判断の一員となっている。
あんなプラスな様相など『過負荷』に醸し出せる訳がない。
球磨川は筋肉質な男についての考察を終え、上条を背負う男の追跡を再開する。
男はどうやら裏口へと回っていくようであった。
玄関先の男との遭遇を避けたのは、それだけ上条が緊急の状態にあり、尚且つ男が殺し合いに乗っていないか判断できなかったからであろう。
球磨川もその後をついて行く。
玄関から病棟を迂回し、裏手にあった扉から中に入る。
上条を背負う男は周囲に警戒を飛ばしながら病棟内を進んでいく。
様々な部屋に入っては棚や引き出しの中を漁り薬品や包帯を持ち出していき、最終的には病室の一つに入っていった。
恐らくは入院患者が使用する個人用の病室なのだろう。
『うーん、入りづらいなあ』
入り口は一つだけ。
どう入っても室内の男には発見されてしまうだろう。
球磨川としては現状、親しい人物を殺害され精神的に落ち込んでいる上条にしか、興味はない。
他の参加者と接触して無駄手間を被りたくもないのだが、
どう入っても室内の男には発見されてしまうだろう。
球磨川としては現状、親しい人物を殺害され精神的に落ち込んでいる上条にしか、興味はない。
他の参加者と接触して無駄手間を被りたくもないのだが、
『ま、いっか。別に大した事じゃないし』
球磨川はそんな自分の考えすらも適当に打ち切った。
何の気なしに上条と男が入っていった部屋へ向かい、その扉を開けた。
開いた扉から、唐突の入室に驚きながら此方を振り返る男と、ベッドに寝かせられている上条の姿が見える。
上条と男の二人を見回し、球磨川は何時も通りの笑顔で言い放った。
何の気なしに上条と男が入っていった部屋へ向かい、その扉を開けた。
開いた扉から、唐突の入室に驚きながら此方を振り返る男と、ベッドに寝かせられている上条の姿が見える。
上条と男の二人を見回し、球磨川は何時も通りの笑顔で言い放った。
『えー、出会ったばかりのいきなりで申し訳ありませんが、今から僕的ぶっ殺しタイムに入りたいと思います』
殆どが口から出任せの、取り敢えず場を乱す事だけを目的とした言葉の数々。
何時も通りの笑顔で言い切り、球磨川は手中に巨大な螺子を発現させる。
適当に言葉を吐くだけで、人は容易く動揺を表に出す。
大抵の人間はその隙をつくだけで打ち倒す事ができるものだ。
何時も通りの笑顔で言い切り、球磨川は手中に巨大な螺子を発現させる。
適当に言葉を吐くだけで、人は容易く動揺を表に出す。
大抵の人間はその隙をつくだけで打ち倒す事ができるものだ。
『あ、残念ながら拒否権は何処にも御座いませんので、よろしく―――』
言葉で隙を引き出し、その隙を見逃す事なく、突く。
相手のマイナスを察知できる球磨川だからこそ、その戦法は本来のものとは桁違いの効力を以て、戦果を齎す。
殆どの敵はこの戦法だけで螺子だらけの雁字搦めとできる。
相手のマイナスを察知できる球磨川だからこそ、その戦法は本来のものとは桁違いの効力を以て、戦果を齎す。
殆どの敵はこの戦法だけで螺子だらけの雁字搦めとできる。
「破ぁっ!!」
できる筈だったのだが、球磨川の前に立つ男は球磨川以上の問答無用さを持っていた。
球磨川が隙を突くよりも早く、男は迷いの無い行動で己の技を繰り出していた。
飛びかかろうと両脚に力を込めた球磨川へと拳を掲げ、咆哮一発。
たったそれだけで球磨川の痩躯が紙切れのように舞い上がり、入ってきた扉を突き破って廊下の壁へと激突した。
球磨川が隙を突くよりも早く、男は迷いの無い行動で己の技を繰り出していた。
飛びかかろうと両脚に力を込めた球磨川へと拳を掲げ、咆哮一発。
たったそれだけで球磨川の痩躯が紙切れのように舞い上がり、入ってきた扉を突き破って廊下の壁へと激突した。
「ふう、危なかった……奴はまぁあれだ、なんやかんやで危ない奴だった、うん。かなりのヤバさだったな。いや、危なかった」
球磨川を吹き飛ばした男は一人納得するようにうんうんと頷き、上条の側へと戻っていく。
今回は無事に守り抜く事ができたと、男は思わず安堵の表情が浮かべていた。
男の通称は、寺生まれのTさん。
法力を込めた一括により数多の悪霊を封じてきた、寺生まれの男だ。
Tさんは手慣れた動作で上条の傷の治療に取り掛かろうとする。
謎の侵入者に邪魔されてしまったが、上条は早急に治療をしなければマズい状態だ。
何せ右腕が切断されてしまったのだ。
応急処置としての止血は行ったが、それも完全ではない。
今直ぐに完全な止血を行わなければならないだろう。
失血を回復させる為に輸血なども行いたいが、残念ながら其処までの知識は持ち合わせていなかった。
今は出来る限りの処置を。
弱きを助ける為に力を手に入れた男が、一つの命を助ける為に奮闘を始める。
今回は無事に守り抜く事ができたと、男は思わず安堵の表情が浮かべていた。
男の通称は、寺生まれのTさん。
法力を込めた一括により数多の悪霊を封じてきた、寺生まれの男だ。
Tさんは手慣れた動作で上条の傷の治療に取り掛かろうとする。
謎の侵入者に邪魔されてしまったが、上条は早急に治療をしなければマズい状態だ。
何せ右腕が切断されてしまったのだ。
応急処置としての止血は行ったが、それも完全ではない。
今直ぐに完全な止血を行わなければならないだろう。
失血を回復させる為に輸血なども行いたいが、残念ながら其処までの知識は持ち合わせていなかった。
今は出来る限りの処置を。
弱きを助ける為に力を手に入れた男が、一つの命を助ける為に奮闘を始める。
『うわー、酷いなあ。粉砕した肋骨で内臓がズタズタだあ。あぁ、意識も朦朧としてきたなあ。これ死んじゃうのかな? あ、でも痛みは凄いあるからなー。どうなんだろ?』
ベッドに寝かせられている上条の傍らに膝を付いたその時、寺生まれの男は聞いた。
撃退した筈の存在の声を。
おどろおどろしい雰囲気に染められたその声を。
殆ど反射的に振り返り、再び念力を放とうと拳を突き出す。
撃退した筈の存在の声を。
おどろおどろしい雰囲気に染められたその声を。
殆ど反射的に振り返り、再び念力を放とうと拳を突き出す。
『遅ぇよ』
が、突き出した拳は巨大な螺子によって迎撃された。
拳を破砕して、螺子が突き進む。
拳はもはやその形を成しておらず、赤と肌色と黄色の混ざった物体となっていた。
螺子は壊れた拳を貫通して、Tさんを病室の壁へと縫い付けた。
次いで左腕に螺子が刺さり、更に腹部に二本の螺子が刺さる。
まるで標本に飾られる虫のように、寺生まれの男が病室へと飾られた。
拳を破砕して、螺子が突き進む。
拳はもはやその形を成しておらず、赤と肌色と黄色の混ざった物体となっていた。
螺子は壊れた拳を貫通して、Tさんを病室の壁へと縫い付けた。
次いで左腕に螺子が刺さり、更に腹部に二本の螺子が刺さる。
まるで標本に飾られる虫のように、寺生まれの男が病室へと飾られた。
「お、前は……」
身体を襲う激痛に、それでも叫び声の一つも上げなかったのは日頃の鍛錬の成果なのだろう。
確かに念力は直撃した。
先程の妖怪の時と同様に本来の威力ではなかったものの、直ぐに立ち上がれるような攻撃ではなかった筈だ。
それが何故こうもピンピンしている。
いや、何故傷一つ負っていない。
自分の法力が通じなかったとでも言うのか。
コイツは―――、
確かに念力は直撃した。
先程の妖怪の時と同様に本来の威力ではなかったものの、直ぐに立ち上がれるような攻撃ではなかった筈だ。
それが何故こうもピンピンしている。
いや、何故傷一つ負っていない。
自分の法力が通じなかったとでも言うのか。
コイツは―――、
『言っただろ。俺は球磨川禊、どうしようもなく駄目で、どうしようもなく腐っていて、どうしようもなく不快な、ただの『過負荷(マイナス)』さ』
Tさんは薄れる意識の中、迫り来る巨大な螺子の姿を見ていた。
脳裏に思い浮かぶのは走馬灯か。
救う事ができた後輩達の顔、救う事ができた友人達の顔、そして最後に浮かぶは両親たる父と母の姿。
ああ、あの父だったら、自分より遥かに強い力を持つ父だったら、もっと上手くやれたのだろうか。
激痛すら押しのけて込み上げる悔恨に、Tさんは強く歯を鳴らした。
脳裏に思い浮かぶのは走馬灯か。
救う事ができた後輩達の顔、救う事ができた友人達の顔、そして最後に浮かぶは両親たる父と母の姿。
ああ、あの父だったら、自分より遥かに強い力を持つ父だったら、もっと上手くやれたのだろうか。
激痛すら押しのけて込み上げる悔恨に、Tさんは強く歯を鳴らした。
―――グシャリ
そして、Tさんの顔面に巨大螺子が突き刺さった。
消毒液を右腕の断面図にぶっかけ、薬品を滅菌のヘラを使用して薬品を塗り込む。
ガーゼで傷口を抑え、包帯で強く巻いた。
『過負荷』の自分に上手な処置が出来る訳がないので、適当に処置を行ったのだが、効果はそれなりに出ているらしい。
上条の表情から幾分か苦悶の色が抜け、落ち着いたようにも見える。
死んでしまったら死んでしまったで、まあ『過負荷』の自分には似合いの結果だとも思ったが、無駄な努力でもどうやら実を結ぶらしい。
取り敢えず上条を放置し、球磨川は隣のベッドへと腰掛ける。
あとは意識が回復するまで待つばかりだ。
球磨川は暗闇の病室にて仮初めの笑顔を浮かべて、時が来るのを待っていた。
ガーゼで傷口を抑え、包帯で強く巻いた。
『過負荷』の自分に上手な処置が出来る訳がないので、適当に処置を行ったのだが、効果はそれなりに出ているらしい。
上条の表情から幾分か苦悶の色が抜け、落ち着いたようにも見える。
死んでしまったら死んでしまったで、まあ『過負荷』の自分には似合いの結果だとも思ったが、無駄な努力でもどうやら実を結ぶらしい。
取り敢えず上条を放置し、球磨川は隣のベッドへと腰掛ける。
あとは意識が回復するまで待つばかりだ。
球磨川は暗闇の病室にて仮初めの笑顔を浮かべて、時が来るのを待っていた。
◇
気付けば上条当麻は、明かり一つない真っ暗な世界にて佇んでいた。
上下左右、全てが全て真っ暗闇。
自分がどちらを向いているのかも分からなくなる、そんな暗闇だ。
何がどうなった、と上条は純粋に疑問を浮かべていた。
完全な暗闇という異質な空間にいるにも関わらず、恐怖は感じない。
ただ、疑問が沸き上がる。
どうにも記憶がハッキリとしない。
今まで自分は何をしていた?
何故こんな空間にいるのだ?
ここは何処だ?
必死に思考を回すも、記憶が引き出される事はない。
まさかまた記憶喪失にでも陥ったのかと、思わず考えてしまう上条であったが、どうもそういう訳でもないらしい。
自分の名前も思い出せるし、少し前のものならば記憶だって呼び起こせる。
スキルアウトに襲撃された御坂美鈴を助けに行き、スキルアウトのリーダーらしき男をぶちのめし、そして救急車へと乗せられた。
そして僅かばかりの間、何時もの病院に入院する事になり―――そこから先の記憶が見付からない。
思い出す事ができない。
お馴染みの病室にて外を眺めたいて、それからどうなった?
どうして、こんな意味不明空間にいるのだ?
もしや、また魔術師の仕業か?
アイツを狙ってまたもや魔術師が動き出しているのか?
助けにいかねば。
こんな空間なんて、この右手で直ぐにぶち破ってやる。
それでアイツの元に駆け付け、絶対に守り抜く。
そうさ、アイツは『上条当麻』が命懸けで、自身の記憶と引き換えにしてまで救い出したかった存在だ。
『上条当麻』の分まで、守らなければならない。
何より、自分の心が叫んでいる。
アイツを―――イン■■■■を救うんだ、と。
上下左右、全てが全て真っ暗闇。
自分がどちらを向いているのかも分からなくなる、そんな暗闇だ。
何がどうなった、と上条は純粋に疑問を浮かべていた。
完全な暗闇という異質な空間にいるにも関わらず、恐怖は感じない。
ただ、疑問が沸き上がる。
どうにも記憶がハッキリとしない。
今まで自分は何をしていた?
何故こんな空間にいるのだ?
ここは何処だ?
必死に思考を回すも、記憶が引き出される事はない。
まさかまた記憶喪失にでも陥ったのかと、思わず考えてしまう上条であったが、どうもそういう訳でもないらしい。
自分の名前も思い出せるし、少し前のものならば記憶だって呼び起こせる。
スキルアウトに襲撃された御坂美鈴を助けに行き、スキルアウトのリーダーらしき男をぶちのめし、そして救急車へと乗せられた。
そして僅かばかりの間、何時もの病院に入院する事になり―――そこから先の記憶が見付からない。
思い出す事ができない。
お馴染みの病室にて外を眺めたいて、それからどうなった?
どうして、こんな意味不明空間にいるのだ?
もしや、また魔術師の仕業か?
アイツを狙ってまたもや魔術師が動き出しているのか?
助けにいかねば。
こんな空間なんて、この右手で直ぐにぶち破ってやる。
それでアイツの元に駆け付け、絶対に守り抜く。
そうさ、アイツは『上条当麻』が命懸けで、自身の記憶と引き換えにしてまで救い出したかった存在だ。
『上条当麻』の分まで、守らなければならない。
何より、自分の心が叫んでいる。
アイツを―――イン■■■■を救うんだ、と。
………………?
イン■■■■?
イン……何だったっけ?
変てこな名前で、まるで文房具屋にでも売ってそうな名前。
そんな名前の筈だったのに……。
思い、出せない?
何より救いたい者なのに、何時までも共に居たい者なのに、
思い出せない。
その名前が、思い出せない。
思い出せない。
その名前が、思い出せない。
?
??
??
何がどうなってるんだ?
「……とーま」
声が、聞こえた。
聞き覚えのある声は、聞き覚えのない声色でもった紡がれていた。
聞き覚えのある声は、聞き覚えのない声色でもった紡がれていた。
ああ、イン■■■■……良かった、無事で―――
「とーま、痛いよ」
あ、
ああ、
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
思い出した。
思い出してしまった。
「何で助けてくれなかったの? とーま。ねえ、とーま?」
そうだ。
イン■■■■は、死んだ。
自分の目の前で、頭を吹き飛ばして
死んだ。
「とーまなら救ってくれるって、助けてくれるって信じてたのに。ねえ、どうして? 何で助けてくれなかったの? とーま」
少女がいた。
顔の半分を無くしてしまった少女が、
純白だった修道服を血に染めて、
そこにいた。
「あ、」
「痛いんだよ、苦しいんだよ、助けて欲しいんだよ、。とーま、とーま、とーま、とーま」
「う、あ」
「とーまああああああああああああああああああああああ!!」
「う、わああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
気付けば、少女に背を向けて、走っていた。
怖い。
ただ、怖かった。
血まみれの少女が、ではなく、少女から飛ばされる言葉が。
怨みの募った言葉が、ただひたすらに怖い。
怖い。
ただ、怖かった。
血まみれの少女が、ではなく、少女から飛ばされる言葉が。
怨みの募った言葉が、ただひたすらに怖い。
「助けてよおおおおおおおおおおお、とーまああああああああああああああああああああ!!!」
走れども走れども、声は何処までもついてきた。
ごめん、悪い、すまなかった。
謝罪の言葉は浮かべど、口から出る事はない。
思わず右手を振るう。
神だろうと何だろうと、それが異能であれば打ち消す右手を、振るう。
幻覚ならば、幻想ならば、消えてくれと。
心の底から願って、右手を振り回す。
全てを覆う暗闇へと、しっちゃかめっちゃかに振り回す。
振り回して気付いた。
異様なまでに右手が、軽い。
違和感に従って、視線を右手へと送る。
全てを覆う暗闇の中で、何故か右手の様子ははっきりと伺えた。
さっきのイン■■■■と同じである。
右手を見て、心が再度恐怖に支配された。
ごめん、悪い、すまなかった。
謝罪の言葉は浮かべど、口から出る事はない。
思わず右手を振るう。
神だろうと何だろうと、それが異能であれば打ち消す右手を、振るう。
幻覚ならば、幻想ならば、消えてくれと。
心の底から願って、右手を振り回す。
全てを覆う暗闇へと、しっちゃかめっちゃかに振り回す。
振り回して気付いた。
異様なまでに右手が、軽い。
違和感に従って、視線を右手へと送る。
全てを覆う暗闇の中で、何故か右手の様子ははっきりと伺えた。
さっきのイン■■■■と同じである。
右手を見て、心が再度恐怖に支配された。
「うわああああああああああああああああああ!!?」
右手が、無い。
数多の事件を共に解決してきた右手が、数多の幻想をぶち殺してきた右手が、ない。
グロテスクな断面だけが、其処にある。
恐怖。
ただ、それだけが上条の精神を凌辱する。
どんな敵を前にしようと揺らぐ事の無かった瞳が、力無く濁る。
謝って許して貰えるなら幾らでも謝る。
夢ならば、覚めてくれ。
お願いだ。
誰か、この幻想をぶち壊してくれ。
数多の事件を共に解決してきた右手が、数多の幻想をぶち殺してきた右手が、ない。
グロテスクな断面だけが、其処にある。
恐怖。
ただ、それだけが上条の精神を凌辱する。
どんな敵を前にしようと揺らぐ事の無かった瞳が、力無く濁る。
謝って許して貰えるなら幾らでも謝る。
夢ならば、覚めてくれ。
お願いだ。
誰か、この幻想をぶち壊してくれ。
「ねぇ、とーま」
ポン、と肩に手が置かれる。
その軽い触感に、上条は叫び声を上げて転んだ。
如何なる相手と相対しようと、前へ前へ突き進んだ両脚が、あまり易く崩れる。
ガチガチとぶつかり合う歯が、上条の心中を表していた。
その軽い触感に、上条は叫び声を上げて転んだ。
如何なる相手と相対しようと、前へ前へ突き進んだ両脚が、あまり易く崩れる。
ガチガチとぶつかり合う歯が、上条の心中を表していた。
「とーまの―――嘘吐き」
あ、と、上条は、感じた。
自分の全てを、底の底までを、否定された気がした。
嘘。
そう、上条は嘘を吐き続け、生きてきた。
記憶を失った事、この上条当麻は君が想う『上条当麻』とは違う事、全てを嘘で塗り固め、生きてきた。
それでも、この少女が笑顔でいてくれるなら、それで良いと思ってきた。
それで良いと、言い聞かせてきた。
でも、結局は守れなかった。
何も守れず、イン■■■■が死ね瞬間を黙って見ていただけだ。
『上条当麻』なら、イン■■■■を絶望から救い出した『上条当麻』なら、動けたのだろうか。
嘘を吐き続け、それで良いと自己を擁護し、結局はイン■■■■を死なせてしまった。
自分の全てを、底の底までを、否定された気がした。
嘘。
そう、上条は嘘を吐き続け、生きてきた。
記憶を失った事、この上条当麻は君が想う『上条当麻』とは違う事、全てを嘘で塗り固め、生きてきた。
それでも、この少女が笑顔でいてくれるなら、それで良いと思ってきた。
それで良いと、言い聞かせてきた。
でも、結局は守れなかった。
何も守れず、イン■■■■が死ね瞬間を黙って見ていただけだ。
『上条当麻』なら、イン■■■■を絶望から救い出した『上条当麻』なら、動けたのだろうか。
嘘を吐き続け、それで良いと自己を擁護し、結局はイン■■■■を死なせてしまった。
俺は、俺は、俺は
「う、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
何が至らなかったのだろうか。
訳も分からぬ叫びが喉なら迸った。
夢なら覚めてくれ。
上条当麻は心底からそう願い、
訳も分からぬ叫びが喉なら迸った。
夢なら覚めてくれ。
上条当麻は心底からそう願い、
「うああ!!」
そして、跳ね上がるように、悪夢から目覚めた。
仰向けの状態から勢い良く上体を起こし、荒い呼吸を繰り返す上条。
身体は寝汗でびしょ濡れになっていた。
頭が重い。
思考も鈍っている。
息を深く吸い、長く吐き出した。
一度の深呼吸は、上条にそれなりの落ち着きを取り戻させていた。
イン■■■■の声は聞こえない。イン■■■■の姿も見えない。
周囲は変わらぬ暗闇であるものの、それは薄暗いといった程度のもの。
先程までの異質な空間とはまるで違う、現実感のあるものであった。
身体は寝汗でびしょ濡れになっていた。
頭が重い。
思考も鈍っている。
息を深く吸い、長く吐き出した。
一度の深呼吸は、上条にそれなりの落ち着きを取り戻させていた。
イン■■■■の声は聞こえない。イン■■■■の姿も見えない。
周囲は変わらぬ暗闇であるものの、それは薄暗いといった程度のもの。
先程までの異質な空間とはまるで違う、現実感のあるものであった。
「夢……だったのか?」
胸裏を占める安堵感に任せて、声が零れていた。
全てが、夢だった?
さっきの出来事も。
右手が斬り落とされた事も。
イン■■■■が死んだ事も。
全てが夢?
夢なのか?
全てが、夢だった?
さっきの出来事も。
右手が斬り落とされた事も。
イン■■■■が死んだ事も。
全てが夢?
夢なのか?
『そう、夢だよ。全部、全部、ぜーんぶ夢。イン■■■■が死んだのも、あんな殺し合いも、全部夢だ。だから安心して、呑気に、間抜けに、寝てて大丈夫さ』
唐突に、声が聞こえた。
薄暗闇の中から聞こえる声。
やはり何故だか、イン■■■■の所だけがノイズでも走ったかのように聞き取れない。
自分自身が聞く事を、思いだす事を拒絶しているかのようだ。
薄暗闇の中から聞こえる声。
やはり何故だか、イン■■■■の所だけがノイズでも走ったかのように聞き取れない。
自分自身が聞く事を、思いだす事を拒絶しているかのようだ。
「お前は……?」
視線を向けると、そこには男が立っていた。
おそらくは上条と同年代の少年であろう。
学生服を身に纏った少年は、無邪気な笑みを張り付かせて上条を見つめていた。
おそらくは上条と同年代の少年であろう。
学生服を身に纏った少年は、無邪気な笑みを張り付かせて上条を見つめていた。
『俺は球磨川禊。今回のスーパードッキリ企画の企画人さ。どう驚いた? 最新CG技術をフル活用したグロテスクシーンは? 大丈夫、心配するなよ。
イン■■■■ちゃんは無事だよ。本当にあんなグロテスクなことする訳ないじゃん。だから、夢。さっきの、てか全部夢さ』
イン■■■■ちゃんは無事だよ。本当にあんなグロテスクなことする訳ないじゃん。だから、夢。さっきの、てか全部夢さ』
混乱する頭に、更なる混乱の要因が流れ込む。
本当に、本当に、全ては嘘なのか。全てが幻想であってくれるのか。
なら、それはどんなに嬉しい事だろうか。
本当に、本当に、全ては嘘なのか。全てが幻想であってくれるのか。
なら、それはどんなに嬉しい事だろうか。
「本、当に……?」
『そう全部夢。つまりは嘘さ。イン■■■■ちゃんは死んじゃいないし、君の右腕だって斬られちゃいない。あと、因みに―――』
『そう全部夢。つまりは嘘さ。イン■■■■ちゃんは死んじゃいないし、君の右腕だって斬られちゃいない。あと、因みに―――』
眼前にちらつかされた希望に、上条は絶望の表情に笑みをたたえた。
薄い薄い、普段の彼からすれば余りに力の無い微笑み。
普段の彼を知る者ならば、彼に感化された者ならば、その表情に驚愕を覚えるだろう。
彼が、上条当麻が、このような表情を浮かべるのか、と。
薄い薄い、普段の彼からすれば余りに力の無い微笑み。
普段の彼を知る者ならば、彼に感化された者ならば、その表情に驚愕を覚えるだろう。
彼が、上条当麻が、このような表情を浮かべるのか、と。
『―――僕の言った事も全部嘘』
「…………は……?」
「…………は……?」
絶望の笑みが、困惑に止まった。
アイツの事も、右腕の事も、あの殺し合いだって全部嘘。
だけど、男は自身の発言さえ嘘という。
つまり、どういう事なのだ。
嘘、なのだろう? あんな酷い出来事、実際に有り得る訳がない。
イン■■■■を、あんな優しい少女をああも簡単に殺害するなんて。
まるで物でも扱うかのように、殺害するなんてそんな訳があるものか。
アイツの事も、右腕の事も、あの殺し合いだって全部嘘。
だけど、男は自身の発言さえ嘘という。
つまり、どういう事なのだ。
嘘、なのだろう? あんな酷い出来事、実際に有り得る訳がない。
イン■■■■を、あんな優しい少女をああも簡単に殺害するなんて。
まるで物でも扱うかのように、殺害するなんてそんな訳があるものか。
『あれ、まだ良く分かってないみたいだね。いやあ、鈍いねー。じゃあ、自分の右腕を見てみれば? 最悪で最高の答えがそこにあるよ』
男の言葉に、思わず視線がさ迷ってしまう。
そう、右腕を見れば答えは分かる。
自分は右腕を斬り落とされた。
あの出来事が夢でなかったとすれば、自分の右腕は存在しない。
あの出来事が夢ならば、自分の右腕は存在する筈だ。
一目瞭然。見れば分かるイージー問題だ。
だが、怖い。
その答えを見てしまうのが、本当の事実を知ってしまうのが、どうしようもなく怖い。
そう、右腕を見れば答えは分かる。
自分は右腕を斬り落とされた。
あの出来事が夢でなかったとすれば、自分の右腕は存在しない。
あの出来事が夢ならば、自分の右腕は存在する筈だ。
一目瞭然。見れば分かるイージー問題だ。
だが、怖い。
その答えを見てしまうのが、本当の事実を知ってしまうのが、どうしようもなく怖い。
『あはっ、現実逃避も良いんじゃないの? 何時までも現実から目を背けて、クソったれな幻想を見続けてると良いよ。先に待っているのは、最高にハッピーで最高に下らない結果だろうけどね』
男の言葉には脅威と感じる程の圧力があった。
男の言葉に逆らえない。
上条の視線が揺らぎ、その右腕がある、もしくはない方向へと向かっていく。
本人からすれば何十秒にも感じる長い時を挟んで、上条は見た。
見て、幻想をぶち壊される。
男の言葉に逆らえない。
上条の視線が揺らぎ、その右腕がある、もしくはない方向へと向かっていく。
本人からすれば何十秒にも感じる長い時を挟んで、上条は見た。
見て、幻想をぶち壊される。
「あ、あ、ああ……」
当然の如く、其処に腕は存在しなかった。
視認すると同時に認識する。
腕がない。
存在しないのだから動かす事はできないし、触覚もない。
バランスもおかしく身体が左側に傾げる。
むしろ何故今まで認識できなかったのだと思う程だ。
全ては幻想でしかなかった。
全部が夢だったなど、現実逃避の幻想でしかなかった。
つまり、あの金髪の女に腕を斬り落とされたのは勿論、イン■■■■が殺害されたのも全て―――、
視認すると同時に認識する。
腕がない。
存在しないのだから動かす事はできないし、触覚もない。
バランスもおかしく身体が左側に傾げる。
むしろ何故今まで認識できなかったのだと思う程だ。
全ては幻想でしかなかった。
全部が夢だったなど、現実逃避の幻想でしかなかった。
つまり、あの金髪の女に腕を斬り落とされたのは勿論、イン■■■■が殺害されたのも全て―――、
「あああああああああああああああ゛あ゛あ゛あああああああああああああああ!!!」
獣じみた絶叫が上条の喉から迸る。
何かを否定するかのように何度も何度も首を横へ振り、右腕の断面図を握り締める。
食い込む指に激痛が走ろうと、上条の行動は止まらなかった。
遂にはバランスを崩し、ベッドから転がり落ちる上条。
何かを否定するかのように何度も何度も首を横へ振り、右腕の断面図を握り締める。
食い込む指に激痛が走ろうと、上条の行動は止まらなかった。
遂にはバランスを崩し、ベッドから転がり落ちる上条。
白色の床へと何度と頭を打ち付け、上条は顔中の至る所から液体を流す。
涙が、鼻水が、涎が、上条の言葉と共に床へとまき散らされる。
守りたかった、守らねばならなかった、少女。
彼女を守れるならば、何を犠牲にしても良いとすら考えていた。
『上条当麻』はイン■■■■を救う為に死んだ。
なのに、自分は何もできやしなかった。
呆然と立ち尽くし、イン■■■■が殺害される瞬間を見ていただけだ。
何をしているのだ。
俺は、俺は、俺は―――
涙が、鼻水が、涎が、上条の言葉と共に床へとまき散らされる。
守りたかった、守らねばならなかった、少女。
彼女を守れるならば、何を犠牲にしても良いとすら考えていた。
『上条当麻』はイン■■■■を救う為に死んだ。
なのに、自分は何もできやしなかった。
呆然と立ち尽くし、イン■■■■が殺害される瞬間を見ていただけだ。
何をしているのだ。
俺は、俺は、俺は―――
『好きな人すら守れない男、か。いや、守れなかったてのは今更どうでも良いか。あれは完全に不意打ちだったもんね。仕方無い面も少しはあるよ。
でも、戦おうとすらしないなんてねえ。近年稀に見る最低意気地なし男だよ、上条ちゃんは』
でも、戦おうとすらしないなんてねえ。近年稀に見る最低意気地なし男だよ、上条ちゃんは』
球磨川の声に上条の動きが、止まる。
自身の胸中を見透かされたかのような言葉であった。
イン■■■■を助けられなかった事実に対する自己嫌悪。
その気持ちを完全に言い当てられた。
そしてもう一つ、上条が球磨川の言葉に反応した理由があった。
『戦おうとすらしないなんて』―――球磨川のその一言に上条は反応した。
上条は生気の無い瞳で球磨川を見上げる。
自身の胸中を見透かされたかのような言葉であった。
イン■■■■を助けられなかった事実に対する自己嫌悪。
その気持ちを完全に言い当てられた。
そしてもう一つ、上条が球磨川の言葉に反応した理由があった。
『戦おうとすらしないなんて』―――球磨川のその一言に上条は反応した。
上条は生気の無い瞳で球磨川を見上げる。
「戦おうとすら……しない……?」
『だってそうだろ? 君はイン■■■■ちゃんが殺されてしまったっていうのに、こんな所でのうのうと気絶していたんだ。とてもじゃないけど信じられないね。想い人を殺害された男の取る行動じゃあない』
「でも……だって、もうアイツは……」
『だってそうだろ? 君はイン■■■■ちゃんが殺されてしまったっていうのに、こんな所でのうのうと気絶していたんだ。とてもじゃないけど信じられないね。想い人を殺害された男の取る行動じゃあない』
「でも……だって、もうアイツは……」
上条の理解は追い付かない。
眼前の男が何を言っているのか分からない。
戦おうとすらしない、という事は何かと戦えばイン■■■■は助かるという事なのか。
ならば幾らでも戦う。
どんなに強い敵とだって戦ってみせる。
それでイン■■■■が蘇るのなら、自分の身体がどうなろうと幾らだって戦う。
眼前の男が何を言っているのか分からない。
戦おうとすらしない、という事は何かと戦えばイン■■■■は助かるという事なのか。
ならば幾らでも戦う。
どんなに強い敵とだって戦ってみせる。
それでイン■■■■が蘇るのなら、自分の身体がどうなろうと幾らだって戦う。
『平戸ロイヤルが言ってたじゃないか。殺し合いに優勝すれば、願い事を叶えて上げるって』
色々な事が起こりすぎて、上条は平戸ロイヤルの言葉を忘れていた。
願い事。
死亡した人間の蘇生も、記憶をなくして元の場所に帰還させる事も、永遠の命も、莫大な富さえも、平戸ロイヤルは与えてみせると言っていた。
自分がこの殺し合いで生き延び、優勝すれば、イン■■■■を蘇生する事だって出来る。
いや、この殺し合いで死んでしまった全ての参加者を生き返らせる事だって出来る。
平戸ロイヤルが言った事とは、つまりはそうだ。
自分が生き延びれば、全ての参加者を打ち倒せば、全ての参加者を殺害すれば―――誰もが誰も幸せな、ハッピーエンドを迎えられるのだ。
願い事。
死亡した人間の蘇生も、記憶をなくして元の場所に帰還させる事も、永遠の命も、莫大な富さえも、平戸ロイヤルは与えてみせると言っていた。
自分がこの殺し合いで生き延び、優勝すれば、イン■■■■を蘇生する事だって出来る。
いや、この殺し合いで死んでしまった全ての参加者を生き返らせる事だって出来る。
平戸ロイヤルが言った事とは、つまりはそうだ。
自分が生き延びれば、全ての参加者を打ち倒せば、全ての参加者を殺害すれば―――誰もが誰も幸せな、ハッピーエンドを迎えられるのだ。
『どうする、上条ちゃん。君に覚悟はあるのかい? 例え人から後ろ指を刺される殺人鬼になったとしても、それでもイン■■■■ちゃんを、全ての参加者を救う覚悟が』
平戸ロイヤルのあの言葉が嘘のようには思えなかった。
上条には想像も付かない力で、恐らく本当に死者の甦生をやってのけるのだろう。
イン■■■■が助かる。
他の参加者だって助かる。
球磨川の言葉に、上条は俯き加減にあった表情を上げた。
瞳には何時もの力強い灯火が宿っていた。
数多の人々を救い、その生き方を変えてきた男の力強い眼光。
もはや上条に迷いはなかった。
上条は、覚悟の言葉を紡ごうと口を開き、
上条には想像も付かない力で、恐らく本当に死者の甦生をやってのけるのだろう。
イン■■■■が助かる。
他の参加者だって助かる。
球磨川の言葉に、上条は俯き加減にあった表情を上げた。
瞳には何時もの力強い灯火が宿っていた。
数多の人々を救い、その生き方を変えてきた男の力強い眼光。
もはや上条に迷いはなかった。
上条は、覚悟の言葉を紡ごうと口を開き、
「俺は―――」
そして、思い出した。
『インデックスは……インデックスは、とーまのことが大好きだったんだよ』
記憶を無くし、全てが未知に見える世界で出会った、少女の姿を。
涙を目に溜めて、震える声で言葉を吐き出す少女の姿を。
自分が彼女に対して嘘を吐き通そうと決意した瞬間の事を、思い出した。
涙を目に溜めて、震える声で言葉を吐き出す少女の姿を。
自分が彼女に対して嘘を吐き通そうと決意した瞬間の事を、思い出した。
インデックス。
何故、今まで思い出せなかったのだろう。
インデックス、インデックス、インデックス。
コロコロとした笑顔を浮かべる少女を思い出し、上条は薄い微笑みを讃えた。
何故、今まで思い出せなかったのだろう。
インデックス、インデックス、インデックス。
コロコロとした笑顔を浮かべる少女を思い出し、上条は薄い微笑みを讃えた。
(そうだ、そうだよな、インデックス……)
大きく息を吸った後、万感の想いと共に言葉は紡がれる。
上条の覚悟が言葉に乗る。
そう、答えはこんなにも簡単なものだったのだ。
全ての罪を背負い、それでも前に進む。
その為にも自分は、『上条当麻』とは違う第二の上条当麻は、暗闇の道を突き進む。
そうだ。
それで良い。
だから、この男にはこう答えるのだ。
上条の覚悟が言葉に乗る。
そう、答えはこんなにも簡単なものだったのだ。
全ての罪を背負い、それでも前に進む。
その為にも自分は、『上条当麻』とは違う第二の上条当麻は、暗闇の道を突き進む。
そうだ。
それで良い。
だから、この男にはこう答えるのだ。
「―――俺は、殺し合いには、乗らない」
そう、自分の覚悟の証を、紡ぐ。
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「パンティとストッキングが交差するとき、物語は始まる!」 feat. 坊主-T | 寺生まれのTさん | 『大嘘憑き』VS『幻想殺し』(後編) |
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