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18 永遠の光
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18 永遠の光
「ククールよ、ワシやおぬしのような男前は何を着ても似合うもんじゃ!ほれ、着てみぃ!」
「おっさん……ククールはともかく、おっさんは男前に入らないでがすよ……」
「何を言っとるんじゃ!ワシはこれでも『トロデーン美男子コンテスト』で、
第5回から現在に至るまで連続優勝を果たしておるのだぞっ!!」
「そのコンテスト、怪しいでがす!きっと審査員もおっさん自身に決まってるでがすよ!!」
「……あんたら、人の結婚式にまで来てケンカすんなよ……」
オレはため息混じりに、前でギャーギャー騒いでるトロデ王とヤンガスに言ったんだ。
ほんと、相変わらずだよ……この二人は、さ。
狭い部屋に一つだけある小窓からは、春特有の薄ぼんやりした太陽の光が差し込んでいて、
部屋の中を白く照らしている。
ほんのり暖かい部屋の空気の中で、オレは上着を脱いで、壁に寄りかかっていた。
「お前さんもつべこべ言ってないで、さっさと着替えちまいな!せっかくここの騎士団が用意してくれたんだからさ!」
そう言いながらドニの町からやって来たセイラが、オレの前に大きな木の箱をドン、と置いた。
その箱から視線を逸らし、オレは窓際の衣装掛けにぶら下がっているタキシードをちらっと見たんだ。
「普通、新郎ってさ……タキシードとか着るんじゃねーのかよ」
「お前さんは一応、騎士の端くれだろ?騎士の正装は騎士の服、って決まってんだよ!
……それとも、結婚式用の衣装をせっかく作ってもらったから、もったいないと思ってんのかい?」
「いや……あれは作ってもらったというか、勝手に作られてたっていう方が近いんだけどさ……」
オレはセイラに勧められるままに箱の蓋を開けた。
中には新品の聖堂騎士団の服が一式、綺麗に畳まれて入っている。
それは、オレがここにいた頃には着たことが無かった青い騎士の服……だった。
「王様からもサッシュと勲章を貰ったんだから……付けなきゃ損だよ。さっさと着替えちまいな!」
「そうじゃぞ!おぬしのためにわざわざ新しい称号まで考えて、勲章を作ったのだぞ!
早よ着替えて、勲章も付けるがよいぞ!」
「へいへい、判りましたよ。……で、新しい称号って何だ?」
着ていた服を脱ぎながらオレが尋ねると、トロデ王は偉そうに胸を張って答えた。
「モテモテじゃったおぬしが結婚するのだからな……その名もズバリ!『年貢の納め時騎士』じゃっ!!!」
「……有難みがねーな」
オレは何だかバカバカしくなり、トロデ王に背を向けた。
で、さっさと着替えることにしたんだ。
胴着とズボンを身に付けて胴着を押さえるようにしてサッシュベルトを巻いていく。
そして上着を着て、近くにあった椅子に腰掛けてブーツを履いた。
「ほら、ゲートルも新しいのに替えるんだよ!」
オレはセイラから真新しいゲートルを受け取り、ボタンを外してブーツの上から付けながら、ヤンガスに話しかけた。
「そう言えば……ヤンガス、この先の海岸に船が着岸してたけど、あれってゲルダのだよな。
お前、あの船でここまで来たのか?」
そうヤンガスに問いかけると、ヤンガスは少し照れくさそうに頭を掻きながら、答えた。
「まぁ……そういうことでがすよ。待っててくれるってんで、帰りも世話になろうと思ってるんでがすが……」
「へぇ……。じゃあお前、まだゲルダのところにいるんだ」
「ははは……ゲルダは盗みの腕がピカイチなのは間違いねぇんでがすが、
何せ魔物と戦う能力はこれっぽっちも持ち合わせてないもんで、アッシが手伝っているんでがすよ。
いわゆる……腐れ縁ってやつでがすかね?」
「そりゃお前が言うことじゃなく、ゲルダのセリフだと思うぜ?」
皮肉っぽく笑うオレの言葉を聞いて、ヤンガスは呆れたようにオレを見て言った。
「……結婚しようとしまいと、やっぱり相変わらずでがすよ、ククールは……」
「ほら、無駄口叩いてないで、剣も付けて!」
そう言ってセイラから手渡された剣は、オレのレイピアじゃなかった。
鞘や柄に、丁寧な彫刻の装飾が施された高価そうな騎士用の剣だ。
……これ、どっかで見たような記憶があるんだよなぁ。
「これ……何だよ」
「騎士団の服と一緒に騎士団の人が持って来たんだよ。お前さんが付けろ、ってことだろ?」
鞘をよく見てみると、何か文字が彫ってある。
「おっさん……ククールはともかく、おっさんは男前に入らないでがすよ……」
「何を言っとるんじゃ!ワシはこれでも『トロデーン美男子コンテスト』で、
第5回から現在に至るまで連続優勝を果たしておるのだぞっ!!」
「そのコンテスト、怪しいでがす!きっと審査員もおっさん自身に決まってるでがすよ!!」
「……あんたら、人の結婚式にまで来てケンカすんなよ……」
オレはため息混じりに、前でギャーギャー騒いでるトロデ王とヤンガスに言ったんだ。
ほんと、相変わらずだよ……この二人は、さ。
狭い部屋に一つだけある小窓からは、春特有の薄ぼんやりした太陽の光が差し込んでいて、
部屋の中を白く照らしている。
ほんのり暖かい部屋の空気の中で、オレは上着を脱いで、壁に寄りかかっていた。
「お前さんもつべこべ言ってないで、さっさと着替えちまいな!せっかくここの騎士団が用意してくれたんだからさ!」
そう言いながらドニの町からやって来たセイラが、オレの前に大きな木の箱をドン、と置いた。
その箱から視線を逸らし、オレは窓際の衣装掛けにぶら下がっているタキシードをちらっと見たんだ。
「普通、新郎ってさ……タキシードとか着るんじゃねーのかよ」
「お前さんは一応、騎士の端くれだろ?騎士の正装は騎士の服、って決まってんだよ!
……それとも、結婚式用の衣装をせっかく作ってもらったから、もったいないと思ってんのかい?」
「いや……あれは作ってもらったというか、勝手に作られてたっていう方が近いんだけどさ……」
オレはセイラに勧められるままに箱の蓋を開けた。
中には新品の聖堂騎士団の服が一式、綺麗に畳まれて入っている。
それは、オレがここにいた頃には着たことが無かった青い騎士の服……だった。
「王様からもサッシュと勲章を貰ったんだから……付けなきゃ損だよ。さっさと着替えちまいな!」
「そうじゃぞ!おぬしのためにわざわざ新しい称号まで考えて、勲章を作ったのだぞ!
早よ着替えて、勲章も付けるがよいぞ!」
「へいへい、判りましたよ。……で、新しい称号って何だ?」
着ていた服を脱ぎながらオレが尋ねると、トロデ王は偉そうに胸を張って答えた。
「モテモテじゃったおぬしが結婚するのだからな……その名もズバリ!『年貢の納め時騎士』じゃっ!!!」
「……有難みがねーな」
オレは何だかバカバカしくなり、トロデ王に背を向けた。
で、さっさと着替えることにしたんだ。
胴着とズボンを身に付けて胴着を押さえるようにしてサッシュベルトを巻いていく。
そして上着を着て、近くにあった椅子に腰掛けてブーツを履いた。
「ほら、ゲートルも新しいのに替えるんだよ!」
オレはセイラから真新しいゲートルを受け取り、ボタンを外してブーツの上から付けながら、ヤンガスに話しかけた。
「そう言えば……ヤンガス、この先の海岸に船が着岸してたけど、あれってゲルダのだよな。
お前、あの船でここまで来たのか?」
そうヤンガスに問いかけると、ヤンガスは少し照れくさそうに頭を掻きながら、答えた。
「まぁ……そういうことでがすよ。待っててくれるってんで、帰りも世話になろうと思ってるんでがすが……」
「へぇ……。じゃあお前、まだゲルダのところにいるんだ」
「ははは……ゲルダは盗みの腕がピカイチなのは間違いねぇんでがすが、
何せ魔物と戦う能力はこれっぽっちも持ち合わせてないもんで、アッシが手伝っているんでがすよ。
いわゆる……腐れ縁ってやつでがすかね?」
「そりゃお前が言うことじゃなく、ゲルダのセリフだと思うぜ?」
皮肉っぽく笑うオレの言葉を聞いて、ヤンガスは呆れたようにオレを見て言った。
「……結婚しようとしまいと、やっぱり相変わらずでがすよ、ククールは……」
「ほら、無駄口叩いてないで、剣も付けて!」
そう言ってセイラから手渡された剣は、オレのレイピアじゃなかった。
鞘や柄に、丁寧な彫刻の装飾が施された高価そうな騎士用の剣だ。
……これ、どっかで見たような記憶があるんだよなぁ。
「これ……何だよ」
「騎士団の服と一緒に騎士団の人が持って来たんだよ。お前さんが付けろ、ってことだろ?」
鞘をよく見てみると、何か文字が彫ってある。
――親愛なる神の御子、マルチェロヘ
己の人生は己の身のものだけにあらず。仲間と共のものなり。
聖堂騎士団団長就任の祝として
マイエラ修道院院長 P.オディロ
己の人生は己の身のものだけにあらず。仲間と共のものなり。
聖堂騎士団団長就任の祝として
マイエラ修道院院長 P.オディロ
「こういうところには、ダジャレは使わないんだよな……オディロ院長はさ……」
オレは独り言のように呟きながら、ソードベルトを腰に付けてその剣を差し込んだ。
――何でわざわざ、こんなものまでオレに寄越すかなぁ……。
セイラに左胸に勲章を付けてもらい、右の肩からサッシュを掛けた。
白い手袋を胸ポケットに入れて、着替えが終わり、オレは「どうだ?」と
両腕を広げながらトロデ王とヤンガスの前に歩いていった。
「……おお!見ちがえたぞ!まるでどこかの青年貴族のようじゃ……。やっぱり男前は違うのぉ!」
「ほんとでがす!さすがククールは顔とイカサマだけが取り柄の男でがすよ!!」
「……褒めてねーだろうよ、それじゃ!」
オレが怒鳴ると、ヤンガスは「さっきの仕返しでがすよ!」とニンマリ笑ってやがる。
「さて、ワシらはゼシカの様子でも見にいこうかのぉ……。ゼシカの花嫁姿なら、さぞかし美しかろう!」
「そうした方がよさそうでがすな。兄貴や馬……いやミーティア姫様は、
ゼシカの部屋にいるらしいんで、交代してくるでがすよ!」
そう言いながら二人は部屋のドアを開けて出て行った。
「じゃあオレも……」
オレが二人の後を追って部屋を出ようとすると、後ろからセイラが襟首を掴んで引き止めた。
「お前さんはまだゼシカちゃんに会えないっつってんだろ!」
「オレだって見たいぜ?ゼシカの花嫁姿……」
「後で十分見られるだろうさ!結婚式も始まってないのに、
花嫁に堂々と会いにいく花婿なんてどこの世界にいるんだい!?」
セイラはオレを大声で窘めながら、引っ張られたせいでひん曲がったオレの襟元を直している。
「……ったく、お前さんは変わんないねぇ。せっかく幸せ掴んだと思ったら、
まだガキのまんまだよ!これじゃあゼシカちゃん苦労するね!」
オレは何だか恥ずかしくなって、プイと横を向いた。
「……余計なお世話だよ」
「でも……あたしはさ、本当にホッとしたんだよ。お前さんが結婚するって聞いてさ……。
あんな泣き虫でチビだったククールが、やっと地に足つけて過ごせる場所が出来たんだなぁ……って思ってさ」
セイラは襟元から手を離し、オレの胸をポン、と叩いた。
「幸せになるんだよ。……ならなきゃダメだよ」
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ククール……いる?」
――エイトの声だ。
オレが「ああ、入れよ」と言うと、エイトがドアを開けて入って来て、続いてミーティア姫様もやって来た。
エイトは見慣れた旅の服じゃなく、王族独特の薄手の布で出来た服を着て、マントまでしている。
二人はオレに歩み寄り、セイラに軽く会釈した。
「久しぶりだね!今日はおめでとう! 」
エイトはニコニコしながらオレの手を取って、ぎゅっと握り締めながら言った。
「ゼシカ、とっても綺麗になってたよ!」
「オレも見たくて堪んないんだけどな」
オレの言葉に、エイトの隣にいるミーティア姫様は、ふふ、と微笑んでいる。
「それは後のお楽しみ……ですわね。元々ゼシカさんは可愛くって魅力的な女の子でしたけど、
すっかり女性らしくなってましたわ!……ククールさんのおかげ、かしらね?」
その話を聞いて、セイラがオレをからかうように、ヒューと口笛を吹いている。
オレは咳払いを一つして、エイトの顔を見た。
旅をしている時はいかにも兵士らしく日に焼けて勇ましい顔をしていたのに、今じゃ少し色白になり、
王族としての風格も見えるようになっていたんだ。
「王様になるために勉強してる、とか言ってたよな?どんな勉強してんだ?」
オレが尋ねると、エイトは少し首を傾げ、上目遣いで話し始めた。
「トロデーン法典とか、歴代の国王陛下たちが書いた書物を毎日読んだりとか……。
あと、国王陛下からお話を聞いたり、学者の先生から講義を受けたり……って感じかなぁ?」
「うわぁ……絶対オレには出来ねーな!」
オレの言葉に、後ろからセイラが笑いながら突っ込んでくる。
「誰もお前さんになんか、王様になって欲しいなんて思ってないから安心しな!」
エイトもミーティア姫様も、セイラと一緒になって笑っている。
少ししてエイトは笑うのを止め、少し真剣な面持ちでオレの全身を見回した。
「似合うね……その服」
「そうかな?ま、オレなら何でも似合うだろうよ」
「相変わらずだねぇ、ククールは!……あ、そう言えばね、中庭で女の人が三人大泣きしながら
『ククールのバカ!』とか叫んでたんだけど……あれってククールの知り合いかなぁ?」
オレの後ろで、オレが着ていた服を片付けながらセイラが言った。
「ああ、そりゃうちの町のバニーガールたちだね。お前が結婚するってんで、そりゃあショックみたいだよ。
……ほんとにお前さんは『年貢の納め時騎士』だね!トロデーンの王様はいいとこ突いてるよ!」
セイラの話に、またエイトとミーティア姫様は笑い始めている。……何だよ、まったく……。
するとその時、ドアをノックする音と共に、ワイン色のドレスを着て、
いつも以上に気合いの入った化粧をしたゼシカの母さんが部屋へ入って来た。
「失礼しますわね……まぁ、ククールさん!まるでどこかの国の王子様みたいですわ!!
素敵ねぇ!……あ、そうそう、そろそろお時間ですの。
列席者の皆様は、聖堂のお席に付いて頂いてよろしいかしら?」
ゼシカの母さんに答えるようにエイトは頷いた。
「判りました。じゃあ、僕らは先に行ってるよ。セイラさんも行きましょう」
「そうですね。……ククール、しっかり頑張るんだよ!」
三人が出て行って一人きりで部屋にいると、部屋の外からバタバタと走ってくる音が聞こえて来た。
そしてノックもなしにバン!とドアがいきなり開いたんだ。
「おーい、ククール!」
――ポルクとマルクだ……。
オレは二人へ歩み寄り、ポルクの両方の頬を思いっきり引っ張ってやった。
「……呼び捨てにするなと何回言ったら解るんだ?『ククールさん』と呼べ!!『ククールさん』と!」
「わーかったよ!痛ぇよ!離せってば!!」
オレが手を離すと、ポルクは頬を押さえて顔を歪めている。
ポルクの隣にいるマルクは、いつものように指を咥えながらオレを見て、ゆっくりと話し始めた。
「えっとね……もう時間だから、ククールさんも聖堂の方に来て欲しいんだってさ」
「判ったよ。……今日はお前ら、何かやるんだよな?」
ポルクとマルクはプレスのよく効いた白いシャツに、黒の蝶ネクタイをしている。
それに黒い半ズボン、三つ折ソックスにエナメルの靴、という格好は、
いつものやんちゃな二人を、少し利口な子供に見せていた。
「ゼシカ姉ちゃんのベールを持つんだよ!……じゃ、オレたちも行こうぜ、マルク!」
ポルクが大声で言い、二人で部屋を出ようとした時、オレはふとある考えが浮かんだんだ。
「……ちょっと待て。そう言えばお前ら、オレの子分になったんだよなぁ?オレの頼みごと、聞いてくれないか?」
エイトとミーティア姫様が結婚したあの日の帰り、リーザス塔へこの弱虫の代わりにいった代償として、
オレはこいつらを「子分」とすることにしたのさ。
ま、二人はあんまり納得してないみたいだけどな。
「何言ってんだ?もう時間がないんだよ!」
反論するポルクの両頬を、オレはもう一度思いっきり引っ張った。
「……聞けるよなぁ?子分だもんなぁ……」
「い、痛ってーって!!判ったよ!何だよ!」
オレはポルクの頬を離すと、二人に用件を耳打ちした。
オレが「頼んだぞ」と言うと、二人はしぶしぶ「……はーい」と行って、部屋を出て行った。
オレは胸ポケットから白い手袋を取り出し、左手に持って部屋を出た。
廊下を通って聖堂の横にある入り口から中に入ると、列席者はみんなオレが入ってくるのをじっと見ている。
ゆっくりと歩き、祭壇の前へ近づいたところで、ふと立ち止まった。
祭壇を見上げると……そこには神父として、マルチェロがいた。
マルチェロは騎士の服は着ておらず、黒地の法衣を着ている。
腰には……剣は無かった。
そうだよな、オレが今、こいつの剣を身に付けてんだから。
オレとゼシカが三角谷に行ったあの日から数日後、マルチェロはこの修道院へと戻って来たらしい。
そしてすぐに聖堂騎士団の連中に付き添われて、ニノ法王の元へ出頭した、ということらしいぜ。
法王から言い渡されたマルチェロへの処罰の内容は、
「騎士としての活動を今後一切禁止。一聖職者として、
前法王殺害の罪を贖罪し続け、冥福を祈ることだけに一生を捧げよ」
というもので、実刑では無かったんだよ。
まさにトロデ王が嘆願した、「寛大な措置」だったってことだよな……。
ま、ニノ法王が大司教時代にマルチェロを利用しようとしたことが、
ゴルド崩壊の原因を作ったようなモンだから、法王だってマルチェロを強く攻める訳にもいかないだろうしなぁ。
祭壇にいるマルチェロは、オレの視線に気づいたらしく、オレの方をちらっと見た。
「緊張すんなよ、兄貴」
オレが小声で話しかけると、ヤツは声を出さずに、口の動きだけで返事をした。
――だ ・ ま ・ れ
オレは苦笑いして、「はいはい」と軽口を叩くように返事をして、
赤い絨毯の敷かれたヴァージンロードの途中まで行き、歩みを止めた。
すると、聖堂にパイプオルガンの音色が鳴り響いてきたんだ。
その後に重々しい扉の開く音がして、扉が開き切ると、外から射す光の中に花嫁姿のゼシカがいた。
父親役の代わりとして、トロデ王がセシカと手を繋いでいる。
二人がこちらに近づいてくると、次第にゼシカの姿がはっきりと見えて来た。
レースの縁取りが付いたベールの中に見える、伏目がちなゼシカの顔は、いつも以上に綺麗に見えた。
オレはそんなゼシカを見て、思わず顔が緩んじまったよ。
髪をゆるやかに上へ纏め上げているので、ゼシカの細い首筋が露になっている。
ドレスに刺繍された銀色の糸が、聖堂の中を点す蝋燭に反射して、キラキラと光っていた。
ゼシカの後ろでは、ポルクとマルクが緊張で顔を強張らせながらベールを持ってて、何だか滑稽な感じがしたな。
サテンレース地のドレスの裾をゆらゆらと揺らしながらゼシカがオレのところまで来ると、
ゼシカはトロデ王と手を離し、オレと腕を組んだ。
そして二人でゆっくりと祭壇へ向かい歩いて行ったんだ。
マルチェロは、オレたちが祭壇の前に立ったことを確認すると、
聖書を開いて神の言葉を告げ、オレたちに永遠の愛を誓わせる。
それが済むと、オレは祭壇に用意されていた結婚指輪をゼシカの左手の薬指にはめた。
ゼシカがさ、結婚指輪はオレの聖堂騎士団の指輪がいい、って言ったんだよ。
オレもゼシカの母さんも、もっといい指輪がいいだろうって言ったんだけどさ……。
ゼシカが「初めてククールと会った時には貰う気がしなかったけど、今は貰いたい気持ちになったから……」
と言って聞かなかったんで、結局ゼシカの言う通りにしたって訳さ。
その後、ゼシカのベールを上げて誓いのキスを交わし、式が終了した。
マルチェロは聖書をぱたんと閉じ、無表情なままでオレを見て、また口の動きだけで話をした。
――お ・ め ・ で ・ と ・ う
オレは思わず肩をすくめて、マルチェロへ軽く会釈した。
オレたちは祭壇に背を向けて、聖堂の扉へと向かって歩いて行ったんだ。
外へ出ると、リーザス村の人たちやドニの町の人たちが、歓声を上げながら、
たくさんの量のライスシャワーを掛けてくる。
そして聖堂の鐘が鳴り始め、空高く響き渡っていった――。
オレは独り言のように呟きながら、ソードベルトを腰に付けてその剣を差し込んだ。
――何でわざわざ、こんなものまでオレに寄越すかなぁ……。
セイラに左胸に勲章を付けてもらい、右の肩からサッシュを掛けた。
白い手袋を胸ポケットに入れて、着替えが終わり、オレは「どうだ?」と
両腕を広げながらトロデ王とヤンガスの前に歩いていった。
「……おお!見ちがえたぞ!まるでどこかの青年貴族のようじゃ……。やっぱり男前は違うのぉ!」
「ほんとでがす!さすがククールは顔とイカサマだけが取り柄の男でがすよ!!」
「……褒めてねーだろうよ、それじゃ!」
オレが怒鳴ると、ヤンガスは「さっきの仕返しでがすよ!」とニンマリ笑ってやがる。
「さて、ワシらはゼシカの様子でも見にいこうかのぉ……。ゼシカの花嫁姿なら、さぞかし美しかろう!」
「そうした方がよさそうでがすな。兄貴や馬……いやミーティア姫様は、
ゼシカの部屋にいるらしいんで、交代してくるでがすよ!」
そう言いながら二人は部屋のドアを開けて出て行った。
「じゃあオレも……」
オレが二人の後を追って部屋を出ようとすると、後ろからセイラが襟首を掴んで引き止めた。
「お前さんはまだゼシカちゃんに会えないっつってんだろ!」
「オレだって見たいぜ?ゼシカの花嫁姿……」
「後で十分見られるだろうさ!結婚式も始まってないのに、
花嫁に堂々と会いにいく花婿なんてどこの世界にいるんだい!?」
セイラはオレを大声で窘めながら、引っ張られたせいでひん曲がったオレの襟元を直している。
「……ったく、お前さんは変わんないねぇ。せっかく幸せ掴んだと思ったら、
まだガキのまんまだよ!これじゃあゼシカちゃん苦労するね!」
オレは何だか恥ずかしくなって、プイと横を向いた。
「……余計なお世話だよ」
「でも……あたしはさ、本当にホッとしたんだよ。お前さんが結婚するって聞いてさ……。
あんな泣き虫でチビだったククールが、やっと地に足つけて過ごせる場所が出来たんだなぁ……って思ってさ」
セイラは襟元から手を離し、オレの胸をポン、と叩いた。
「幸せになるんだよ。……ならなきゃダメだよ」
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ククール……いる?」
――エイトの声だ。
オレが「ああ、入れよ」と言うと、エイトがドアを開けて入って来て、続いてミーティア姫様もやって来た。
エイトは見慣れた旅の服じゃなく、王族独特の薄手の布で出来た服を着て、マントまでしている。
二人はオレに歩み寄り、セイラに軽く会釈した。
「久しぶりだね!今日はおめでとう! 」
エイトはニコニコしながらオレの手を取って、ぎゅっと握り締めながら言った。
「ゼシカ、とっても綺麗になってたよ!」
「オレも見たくて堪んないんだけどな」
オレの言葉に、エイトの隣にいるミーティア姫様は、ふふ、と微笑んでいる。
「それは後のお楽しみ……ですわね。元々ゼシカさんは可愛くって魅力的な女の子でしたけど、
すっかり女性らしくなってましたわ!……ククールさんのおかげ、かしらね?」
その話を聞いて、セイラがオレをからかうように、ヒューと口笛を吹いている。
オレは咳払いを一つして、エイトの顔を見た。
旅をしている時はいかにも兵士らしく日に焼けて勇ましい顔をしていたのに、今じゃ少し色白になり、
王族としての風格も見えるようになっていたんだ。
「王様になるために勉強してる、とか言ってたよな?どんな勉強してんだ?」
オレが尋ねると、エイトは少し首を傾げ、上目遣いで話し始めた。
「トロデーン法典とか、歴代の国王陛下たちが書いた書物を毎日読んだりとか……。
あと、国王陛下からお話を聞いたり、学者の先生から講義を受けたり……って感じかなぁ?」
「うわぁ……絶対オレには出来ねーな!」
オレの言葉に、後ろからセイラが笑いながら突っ込んでくる。
「誰もお前さんになんか、王様になって欲しいなんて思ってないから安心しな!」
エイトもミーティア姫様も、セイラと一緒になって笑っている。
少ししてエイトは笑うのを止め、少し真剣な面持ちでオレの全身を見回した。
「似合うね……その服」
「そうかな?ま、オレなら何でも似合うだろうよ」
「相変わらずだねぇ、ククールは!……あ、そう言えばね、中庭で女の人が三人大泣きしながら
『ククールのバカ!』とか叫んでたんだけど……あれってククールの知り合いかなぁ?」
オレの後ろで、オレが着ていた服を片付けながらセイラが言った。
「ああ、そりゃうちの町のバニーガールたちだね。お前が結婚するってんで、そりゃあショックみたいだよ。
……ほんとにお前さんは『年貢の納め時騎士』だね!トロデーンの王様はいいとこ突いてるよ!」
セイラの話に、またエイトとミーティア姫様は笑い始めている。……何だよ、まったく……。
するとその時、ドアをノックする音と共に、ワイン色のドレスを着て、
いつも以上に気合いの入った化粧をしたゼシカの母さんが部屋へ入って来た。
「失礼しますわね……まぁ、ククールさん!まるでどこかの国の王子様みたいですわ!!
素敵ねぇ!……あ、そうそう、そろそろお時間ですの。
列席者の皆様は、聖堂のお席に付いて頂いてよろしいかしら?」
ゼシカの母さんに答えるようにエイトは頷いた。
「判りました。じゃあ、僕らは先に行ってるよ。セイラさんも行きましょう」
「そうですね。……ククール、しっかり頑張るんだよ!」
三人が出て行って一人きりで部屋にいると、部屋の外からバタバタと走ってくる音が聞こえて来た。
そしてノックもなしにバン!とドアがいきなり開いたんだ。
「おーい、ククール!」
――ポルクとマルクだ……。
オレは二人へ歩み寄り、ポルクの両方の頬を思いっきり引っ張ってやった。
「……呼び捨てにするなと何回言ったら解るんだ?『ククールさん』と呼べ!!『ククールさん』と!」
「わーかったよ!痛ぇよ!離せってば!!」
オレが手を離すと、ポルクは頬を押さえて顔を歪めている。
ポルクの隣にいるマルクは、いつものように指を咥えながらオレを見て、ゆっくりと話し始めた。
「えっとね……もう時間だから、ククールさんも聖堂の方に来て欲しいんだってさ」
「判ったよ。……今日はお前ら、何かやるんだよな?」
ポルクとマルクはプレスのよく効いた白いシャツに、黒の蝶ネクタイをしている。
それに黒い半ズボン、三つ折ソックスにエナメルの靴、という格好は、
いつものやんちゃな二人を、少し利口な子供に見せていた。
「ゼシカ姉ちゃんのベールを持つんだよ!……じゃ、オレたちも行こうぜ、マルク!」
ポルクが大声で言い、二人で部屋を出ようとした時、オレはふとある考えが浮かんだんだ。
「……ちょっと待て。そう言えばお前ら、オレの子分になったんだよなぁ?オレの頼みごと、聞いてくれないか?」
エイトとミーティア姫様が結婚したあの日の帰り、リーザス塔へこの弱虫の代わりにいった代償として、
オレはこいつらを「子分」とすることにしたのさ。
ま、二人はあんまり納得してないみたいだけどな。
「何言ってんだ?もう時間がないんだよ!」
反論するポルクの両頬を、オレはもう一度思いっきり引っ張った。
「……聞けるよなぁ?子分だもんなぁ……」
「い、痛ってーって!!判ったよ!何だよ!」
オレはポルクの頬を離すと、二人に用件を耳打ちした。
オレが「頼んだぞ」と言うと、二人はしぶしぶ「……はーい」と行って、部屋を出て行った。
オレは胸ポケットから白い手袋を取り出し、左手に持って部屋を出た。
廊下を通って聖堂の横にある入り口から中に入ると、列席者はみんなオレが入ってくるのをじっと見ている。
ゆっくりと歩き、祭壇の前へ近づいたところで、ふと立ち止まった。
祭壇を見上げると……そこには神父として、マルチェロがいた。
マルチェロは騎士の服は着ておらず、黒地の法衣を着ている。
腰には……剣は無かった。
そうだよな、オレが今、こいつの剣を身に付けてんだから。
オレとゼシカが三角谷に行ったあの日から数日後、マルチェロはこの修道院へと戻って来たらしい。
そしてすぐに聖堂騎士団の連中に付き添われて、ニノ法王の元へ出頭した、ということらしいぜ。
法王から言い渡されたマルチェロへの処罰の内容は、
「騎士としての活動を今後一切禁止。一聖職者として、
前法王殺害の罪を贖罪し続け、冥福を祈ることだけに一生を捧げよ」
というもので、実刑では無かったんだよ。
まさにトロデ王が嘆願した、「寛大な措置」だったってことだよな……。
ま、ニノ法王が大司教時代にマルチェロを利用しようとしたことが、
ゴルド崩壊の原因を作ったようなモンだから、法王だってマルチェロを強く攻める訳にもいかないだろうしなぁ。
祭壇にいるマルチェロは、オレの視線に気づいたらしく、オレの方をちらっと見た。
「緊張すんなよ、兄貴」
オレが小声で話しかけると、ヤツは声を出さずに、口の動きだけで返事をした。
――だ ・ ま ・ れ
オレは苦笑いして、「はいはい」と軽口を叩くように返事をして、
赤い絨毯の敷かれたヴァージンロードの途中まで行き、歩みを止めた。
すると、聖堂にパイプオルガンの音色が鳴り響いてきたんだ。
その後に重々しい扉の開く音がして、扉が開き切ると、外から射す光の中に花嫁姿のゼシカがいた。
父親役の代わりとして、トロデ王がセシカと手を繋いでいる。
二人がこちらに近づいてくると、次第にゼシカの姿がはっきりと見えて来た。
レースの縁取りが付いたベールの中に見える、伏目がちなゼシカの顔は、いつも以上に綺麗に見えた。
オレはそんなゼシカを見て、思わず顔が緩んじまったよ。
髪をゆるやかに上へ纏め上げているので、ゼシカの細い首筋が露になっている。
ドレスに刺繍された銀色の糸が、聖堂の中を点す蝋燭に反射して、キラキラと光っていた。
ゼシカの後ろでは、ポルクとマルクが緊張で顔を強張らせながらベールを持ってて、何だか滑稽な感じがしたな。
サテンレース地のドレスの裾をゆらゆらと揺らしながらゼシカがオレのところまで来ると、
ゼシカはトロデ王と手を離し、オレと腕を組んだ。
そして二人でゆっくりと祭壇へ向かい歩いて行ったんだ。
マルチェロは、オレたちが祭壇の前に立ったことを確認すると、
聖書を開いて神の言葉を告げ、オレたちに永遠の愛を誓わせる。
それが済むと、オレは祭壇に用意されていた結婚指輪をゼシカの左手の薬指にはめた。
ゼシカがさ、結婚指輪はオレの聖堂騎士団の指輪がいい、って言ったんだよ。
オレもゼシカの母さんも、もっといい指輪がいいだろうって言ったんだけどさ……。
ゼシカが「初めてククールと会った時には貰う気がしなかったけど、今は貰いたい気持ちになったから……」
と言って聞かなかったんで、結局ゼシカの言う通りにしたって訳さ。
その後、ゼシカのベールを上げて誓いのキスを交わし、式が終了した。
マルチェロは聖書をぱたんと閉じ、無表情なままでオレを見て、また口の動きだけで話をした。
――お ・ め ・ で ・ と ・ う
オレは思わず肩をすくめて、マルチェロへ軽く会釈した。
オレたちは祭壇に背を向けて、聖堂の扉へと向かって歩いて行ったんだ。
外へ出ると、リーザス村の人たちやドニの町の人たちが、歓声を上げながら、
たくさんの量のライスシャワーを掛けてくる。
そして聖堂の鐘が鳴り始め、空高く響き渡っていった――。
式の後、修道院の中庭で宴が開かれたんだ。
オレとゼシカは、ワインを片手に中庭の中央にある大きなテーブルの脇に立って、
みんなから代わる代わる祝いの言葉を掛けられていた。
中庭には、ここだけを照らし出すかのように光が差し込んで来ていて、すべての人の顔が輝いて見えたな。
ドニの町の踊り子たちが歌って踊って、リーザス村の男たちが鼻の下を伸ばしながら囃し立てて……。
エイトやミーティア姫様、それにヤンガスとトロデ王も、酒を飲んで、顔を赤くしながら笑い合っている。
修道院の連中もさ、マルチェロの法王就任祝いの時のように大酒を飲んでいたんだ。
でも……その中に、マルチェロはいなかった。
「……いない、か」
オレが思わず呟くと、ゼシカがオレの顔を覗き込んできた。
「探してるんでしょ。マルチェロのこと」
ゼシカはふざけたような口調で、笑いながら言った。
「あの融通の利かない人のことだもの、『罪人である自分には、このような華やかな場はふさわしくない』とか言って、
一人で修道院の中にいるに決まってるわよ」
「まぁ……そうだろうけど……あいつ、オレのこの服だけじゃなく、自分の剣までオレに用意してたんだよ。
それがどういう意味なのか、さっぱり解んなくってさ」
オレが大きくため息をつきながら言うと、ゼシカは微笑みながら話し出した。
「複雑な意味なんか無いんじゃない?ククールにただ着て欲しかっただけ、
ただ剣を持ってて欲しかっただけ、だと思うわよ。
だってあの人……もう騎士にはなれないんでしょ?」
「まぁな……」
「自分が大切にしてきたものを、誰かに引き継いで欲しかったんじゃないかなぁ?それだけよ」
ゼシカが話し終えると、突然中庭を突風が吹きぬけて来てさ、それと一緒に何処からともなく、
桜の花弁がたくさん舞い散って来たんだよ。
中庭にいるみんなは、突風に煽られて、目を閉じながら驚きの声を上げている。
しばらくして突風が収まると、桜の花弁は空中を舞う力を失って、ゆっくりと地面に降り積もるように落下していった。
そんな花弁の舞い落ちる様子を見て、ゼシカは「綺麗……」と言って見とれていた。
確かに……本当に綺麗だったんだ。
優しい日差しの中を、白い花弁がそれぞれにいろいろな道筋を描いて地面へと辿り着く光景は……
もし本当にあるとしたら、「天国」ってこんなかんじなんじゃないかなぁ?と思えるくらいだった。
「……綺麗だな。空から差し込んでくる光も……ここってこんなに綺麗な場所だったかな?」
オレがいた頃は、ここは灰色に澱んだ世界としか思えなかったんだけどなぁ。
うんざりするような、深い泥沼の中のような……さ。
それなのに今は、ここを本当に美しい場所だと思えているんだよ。
――何だろうな、この違いは……。
ぼーっと花弁を見ているオレに、ゼシカがにっこり微笑んで、オレに言った。
「きっと、ククールが変わったのよ」
「オレが?」
「私もね、呪いの杖から解き放たれた後、リブルアーチで朝日を見てたら、
今までと全然違ってものすごーく世界が綺麗に見えたのよ。
で、いつの間に世界は変わってたんだろう……って言ったら、一緒に朝日を見ていたおばあちゃんに、
『世界なんてそう変わらない。変わったのはあんただ』って言われたことがあるの。
だから……ククールも変わったのよ、きっと」
「そういう……モンかなぁ」
「そういうモンです!」
オレはふと空を見上げた。
太陽は薄雲に隠れながらも、柔らかな光をオレたちに与え続けている。
そっと瞳を閉じてみた。
そしてオレは、思わず神様に祈っちまったんだよな。
――神様。オレはあんたが本当にいる存在だなんて、信じたことはほとんど無かったけど、
今日はあんたに祈らずにはいられないよ。
――どうぞ、この美しい光が、永遠にみんなの中で続きますように。
そして、この光がマルチェロの心にも届きますように……。
オレとゼシカは、ワインを片手に中庭の中央にある大きなテーブルの脇に立って、
みんなから代わる代わる祝いの言葉を掛けられていた。
中庭には、ここだけを照らし出すかのように光が差し込んで来ていて、すべての人の顔が輝いて見えたな。
ドニの町の踊り子たちが歌って踊って、リーザス村の男たちが鼻の下を伸ばしながら囃し立てて……。
エイトやミーティア姫様、それにヤンガスとトロデ王も、酒を飲んで、顔を赤くしながら笑い合っている。
修道院の連中もさ、マルチェロの法王就任祝いの時のように大酒を飲んでいたんだ。
でも……その中に、マルチェロはいなかった。
「……いない、か」
オレが思わず呟くと、ゼシカがオレの顔を覗き込んできた。
「探してるんでしょ。マルチェロのこと」
ゼシカはふざけたような口調で、笑いながら言った。
「あの融通の利かない人のことだもの、『罪人である自分には、このような華やかな場はふさわしくない』とか言って、
一人で修道院の中にいるに決まってるわよ」
「まぁ……そうだろうけど……あいつ、オレのこの服だけじゃなく、自分の剣までオレに用意してたんだよ。
それがどういう意味なのか、さっぱり解んなくってさ」
オレが大きくため息をつきながら言うと、ゼシカは微笑みながら話し出した。
「複雑な意味なんか無いんじゃない?ククールにただ着て欲しかっただけ、
ただ剣を持ってて欲しかっただけ、だと思うわよ。
だってあの人……もう騎士にはなれないんでしょ?」
「まぁな……」
「自分が大切にしてきたものを、誰かに引き継いで欲しかったんじゃないかなぁ?それだけよ」
ゼシカが話し終えると、突然中庭を突風が吹きぬけて来てさ、それと一緒に何処からともなく、
桜の花弁がたくさん舞い散って来たんだよ。
中庭にいるみんなは、突風に煽られて、目を閉じながら驚きの声を上げている。
しばらくして突風が収まると、桜の花弁は空中を舞う力を失って、ゆっくりと地面に降り積もるように落下していった。
そんな花弁の舞い落ちる様子を見て、ゼシカは「綺麗……」と言って見とれていた。
確かに……本当に綺麗だったんだ。
優しい日差しの中を、白い花弁がそれぞれにいろいろな道筋を描いて地面へと辿り着く光景は……
もし本当にあるとしたら、「天国」ってこんなかんじなんじゃないかなぁ?と思えるくらいだった。
「……綺麗だな。空から差し込んでくる光も……ここってこんなに綺麗な場所だったかな?」
オレがいた頃は、ここは灰色に澱んだ世界としか思えなかったんだけどなぁ。
うんざりするような、深い泥沼の中のような……さ。
それなのに今は、ここを本当に美しい場所だと思えているんだよ。
――何だろうな、この違いは……。
ぼーっと花弁を見ているオレに、ゼシカがにっこり微笑んで、オレに言った。
「きっと、ククールが変わったのよ」
「オレが?」
「私もね、呪いの杖から解き放たれた後、リブルアーチで朝日を見てたら、
今までと全然違ってものすごーく世界が綺麗に見えたのよ。
で、いつの間に世界は変わってたんだろう……って言ったら、一緒に朝日を見ていたおばあちゃんに、
『世界なんてそう変わらない。変わったのはあんただ』って言われたことがあるの。
だから……ククールも変わったのよ、きっと」
「そういう……モンかなぁ」
「そういうモンです!」
オレはふと空を見上げた。
太陽は薄雲に隠れながらも、柔らかな光をオレたちに与え続けている。
そっと瞳を閉じてみた。
そしてオレは、思わず神様に祈っちまったんだよな。
――神様。オレはあんたが本当にいる存在だなんて、信じたことはほとんど無かったけど、
今日はあんたに祈らずにはいられないよ。
――どうぞ、この美しい光が、永遠にみんなの中で続きますように。
そして、この光がマルチェロの心にも届きますように……。
その時、中庭の芝生をオレの方へ向かって駆けて来る音が聞こえてきたんだ。
目を開けて正面を見ると、ポルクがオレに向かって走り寄って来ていた。
ポルクはオレの前で立ち止まると、オレを指差して、言った。
「おい!さっきのお前の頼みごと、ちゃんと伝えて来たからな!」
オレは焦って、ゼシカに聞こえないように小声でポルクに耳打ちする。
「……バカ!ゼシカのいる前で言うなって言ってんだろ!」
「えっ!でも、報告しないとって思って……」
オレとポルクがひそひそと話している後ろで、殺気立つ気配が感じられる……。
「ポルク……一体何のこと?私に何を隠しているの?」
少しドスが効いたゼシカの声に、オレは怖くて後ろを振り返れなかったね……。
ポルクはゼシカの顔を見て「ひっ……」と一声叫び、蛇に睨まれた蛙のように、体を硬直させて動けなくなってたんだ。
「言いなさい、ポルク!」
ゼシカの声に、次第に怒りが混じってきている。
体をカチンカチンにしたままで、ポルクはしどろもどろになりながら、ゼシカに答え始めた。
「け、結婚式の、ま、前に、ク、ククールに……」
「ククールに……何?」
「な、中庭で泣いてるバニーガールたちに……『結婚しても必ず会いに行くから、待ってろ』って……
伝えてくれって言われたんだ……」
ポルクの言葉を聞いて、ゼシカの声が急に低音になった。
「……ふーん……。私と結婚したっていうのに、まだそんなことしてるんだ……。
あんた、本当はまだ全然変わってないみたいね……」
オレが必死の思いで後ろを振り返ると、呪いの杖で呪われていた時よりも
数倍怖い顔をしたをしたゼシカが立っている。
シュウ……という音を立てながら、ゼシカの手からは火花が迸り始めていた。
……これって絶対、メラゾーマを唱えるつもり……だよな……。
「ゼ、ゼシカさん……ストップ……」
オレは顔を引きつらせて、思わず後ずさりした。
――ああ、神様……もう一つお願いごとがあります。どうかこのゼシカの怒りを抑えてください……。
目を開けて正面を見ると、ポルクがオレに向かって走り寄って来ていた。
ポルクはオレの前で立ち止まると、オレを指差して、言った。
「おい!さっきのお前の頼みごと、ちゃんと伝えて来たからな!」
オレは焦って、ゼシカに聞こえないように小声でポルクに耳打ちする。
「……バカ!ゼシカのいる前で言うなって言ってんだろ!」
「えっ!でも、報告しないとって思って……」
オレとポルクがひそひそと話している後ろで、殺気立つ気配が感じられる……。
「ポルク……一体何のこと?私に何を隠しているの?」
少しドスが効いたゼシカの声に、オレは怖くて後ろを振り返れなかったね……。
ポルクはゼシカの顔を見て「ひっ……」と一声叫び、蛇に睨まれた蛙のように、体を硬直させて動けなくなってたんだ。
「言いなさい、ポルク!」
ゼシカの声に、次第に怒りが混じってきている。
体をカチンカチンにしたままで、ポルクはしどろもどろになりながら、ゼシカに答え始めた。
「け、結婚式の、ま、前に、ク、ククールに……」
「ククールに……何?」
「な、中庭で泣いてるバニーガールたちに……『結婚しても必ず会いに行くから、待ってろ』って……
伝えてくれって言われたんだ……」
ポルクの言葉を聞いて、ゼシカの声が急に低音になった。
「……ふーん……。私と結婚したっていうのに、まだそんなことしてるんだ……。
あんた、本当はまだ全然変わってないみたいね……」
オレが必死の思いで後ろを振り返ると、呪いの杖で呪われていた時よりも
数倍怖い顔をしたをしたゼシカが立っている。
シュウ……という音を立てながら、ゼシカの手からは火花が迸り始めていた。
……これって絶対、メラゾーマを唱えるつもり……だよな……。
「ゼ、ゼシカさん……ストップ……」
オレは顔を引きつらせて、思わず後ずさりした。
――ああ、神様……もう一つお願いごとがあります。どうかこのゼシカの怒りを抑えてください……。