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セシリア「わたくしが主役でしてよ」④
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meteor089
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セシリア「わたくしが主役でしてよ」④
161 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:05:54.57 ID:L9XZ9DUh0
寮に戻り、自室の扉をあける。
「はー、博物館も結構バカにできないわね、存外楽しめたわ」
外套を脱ぎ、コートハンガーに向かって放り投げながら鈴はまっすぐにベッドに向かい、ダイブする。
「ちょっと鈴。せめて部屋着に着替えてくださいまし」
セシリアは鈴のように投げたりはせず、直接掛けに行ってコートハンガーに掛けながら、横目で自分のベッドに飛び込む鈴をジト目で見やる。
(……横着のくせにやたらと器用ですわね)
鈴の投げた外套は、器用に襟元が引っ掛かっている。投げて掛ける事が出来れば色々と便利かも、今度コツを聞いてみようなんて一瞬思い、すぐにそれを否定する。とてもではないが淑女としてそんな真似は恥じるべきだ。
「セシリア―、ジャージとって―、あとテレビつけてよ」
部屋着に着替えろと言ったらジャージを要求するようになったら淑女としておしまいだ、たぶん。一度呆れた眼差しで鈴を見た後、深々と溜息を着いてからクローゼットを開き、畳んである鈴のジャージを手に取ると……
「少しはご自分で動いてくださいましっ!」
それを鈴の顔面めがけて思い切り投げつける。しっかりと丸めたものならともかく、畳んだだけのジャージは投げつけた所で勢いもなく、せいぜいばさっと鈴の顔にかぶさる程度だけれど。
「わぷ、サンキュー」
「全く……女子高というものは男性の目がないから油断しがちとは言いますけれど、一夏さんもいるのですからそこはレディとしての嗜みとして自律をですわね……」
垂れ流されるセシリアの愚痴は聞こえているけれどハイハイと適当に相槌を打ちながら右から入った言葉が左に抜けていく。ベッドの上でゴロゴロと転がったまま服を脱ぎ、ジャージに着替える鈴。セシリアが持ち込んだ大型のテレビに電源が入り、リモコンを机の上に置いてセシリアは洗面所に向かう。
162 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:06:36.39 ID:L9XZ9DUh0
「えー、別に一夏ならいいんじゃない?」
「なんですのその理屈。ま!まさか一夏さんをまだこの期に及んで諦めておりませんの!?」
セシリアは即座に踵を返しつかつかつかとベッドサイドまでやってきて両手を腰に鈴を睨みつける。
「いや、それはないわ。アンタね……一夏は男だけどフリーじゃないじゃん?そりゃ異性ってランクから外れるわよって意味」
本当に一夏の事になると沸点が低いなーと少し呆れながら鈴が説明し、それを聞くと一度セシリアは目をぱちくりとさせて、浮かれた足取りで再び洗面所に向かう。
「ん……ふふっ、そういう事なら皆がずぼらになってゆくのも悪い気は致しませんわね♪」
「はいはい、そーねー。あ、リモコンとってよ」
ゴロリと横になったまま、手だけを軽くセシリアに向ける鈴。ずぼらも悪くないと言った直後だけれど、そこまでズボラになってしまえるのもどうかとは思う。というかズボラのレベルは超えてないだろうか?
「ご自分でどーぞ」
両肩を竦めながら洗面所の扉がぱたんと閉じられた。
「なによ、ケチ」
少し勢いをつけて起き上がり、テーブルの上のリモコンを手にしてまたベッドへと戻ってゆく。
「セシリアー、ご飯どうする?」
チャンネルをポチポチと変えながら鈴が大きな声でセシリアに呼び掛けるが、返事がない。テレビではつい先日米国で開催されたIS欧州大会の準優勝者が結婚というニュースを大々的に報じている所だった。欧州大会はその名前の通り欧州とその周辺地域の国家が参加するトーナメント大会であり、世界大会程ではないにせよ、国家代表だけでなく、国家代表候補も参加するそれなりに大きな大会だ。
「……あれ?欧州って事はイギリスも含まれるわよね?セシリア出てたの??」
イギリスだけでなく、ラウラのドイツ、シャルロットのフランスも勿論欧州なのだけれど、この三人が出場したという話は聞かない。少なくともセシリアは連休でイギリスに仕事をしに戻っている時以外は毎日部屋にいたはずだ。洗面所から、タオルで頬の水滴を吸わせながらセシリアが出てきたので鈴は改めて聞いてみることにした。
163 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:07:34.88 ID:L9XZ9DUh0
「ねーセシリア」
「なんですの、まったく、洗顔中に話しかけられても回答に困りますわよ。わたくしは一夏さんと夕食を食堂で食べる約束をしていますの」
「いや、そのことじゃなくってサ、っていうかそんなら私も行くわ。この欧州大会って代表候補も出場する大会なんでしょ?」
テレビの画面を指差しながら言う鈴に、セシリアもベッドへと向かいながら画面を見る。
「あら、ではいらっしゃらなくて結構でしてよ?あぁ、この大会ですの……鈴さん、わたくし達の性質をお忘れになってません事?」
「は?絶対行くし。性質?」
「…………はぁ……いいですか?私達IS学園在学の国家代表候補生は、IS学園に在学中は原則的に如何なる国家の制約も受けませんわ。つまり、国際大会の参加資格もございません」
それは個人情報を男性と偽装して入学したシャルロット・デュノアや、VTシステムの暴走事件を起こしたラウラ・ボーデヴィッヒが在学し続ける事が出来る理由である特記事項。如何なる国家の制約も原則的に受けないという事は、国家の威信を背負う事は出来ないということに他ならない。母国を誇るセシリアにとってはそこは少しだけ不満だったりもするけれど。
「あー!そういえばそうだったっけ」
「それに、わたくし達の専用機は、第二世代であるシャルロットさんの《ラファール・リヴァイブ・カスタムII》や、規格外である箒さんの《紅椿》を除いてあくまで第三世代のトライアル機ですのよ?例え参加できるとしてもわたくし達を出場させる事はまず無いと考えていいでしょうね」
第三世代ISの存在、技術は既に実用化に近い段階となってはいるにしても、未だ試作を繰り返している段階だ。ベッドにぽす、と腰を下ろしながら、セシリアもニュースを見ている。尤も、同じニュースを見ても興味の対象は別。
結婚。
結婚と言えば一夏しか考えられない。まだ10代とはいえ、五年六年などあっという間だ。いつか自分もこんな風にニュースに取り上げられて全世界から祝福されるのだろうか?『IS世界大会5年連続覇者セシリア オルコット結婚!お相手は世界唯一の男性IS操縦者織斑一夏』なんて大々的に新聞の一面を飾るのだろうか。
(……やはりプロポーズは改めて一夏さんに仰っていただきたいですわね)
女尊男卑の時代とはいえ、それはそれ。一見、女尊男卑の精神が根付いていそうなセシリアだが、異性に求めるのは紳士たらんとする古風な男らしさを求めている。女尊男卑というよりは古くからのレディファーストの精神である。だからこそ、はっきりと言葉でセシリアの方から一夏に告白ができなかったわけで、告白できていたらこれまでの経緯も色々変わっていたかもしれない。
164 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:08:22.70 ID:L9XZ9DUh0
(ど、どんな風に?きゃー!きゃー!だ、ダメですわ!そんな恥ずかしい!)
「セシリアー、キモイ顔してるわよー」
「――ッは!?」
からかうような鈴の声にセシリアははっとして両手を頬に首を振る。勿論その妄想が実現する可能性は世界大会連続優勝の辺りを除けば慢心でも何でもなく高いと思っているから別に妄想も今更感があったけれど、それでも考えるたびに頬が緩んでしまう。
「なぁに?『織斑一夏結婚!相手はIS世界大会3年連続準優勝のイギリス代表』みたいな見出しでも期待して妄想しちゃってたわけ?」
鈴がピンポイントで正解を当てて来るのも驚いたが、それ以上に……。
「ちょ、何でわか……って!なんですのその3年連続準優勝って!?わたくしが出場する以上優勝以外あり得ませんわ!」
「は!無理無理。あんたが出るって事は当然同世代、アタシ達が相手にいるわけよ?だったら優勝はアタシに決まってんじゃない」
「ハァ?お言葉ですけれど……鈴さんの《甲龍》にそこまでのポテンシャルが有るのかしら?そもそも決勝まで勝ち上がれるとは思えませんわね!」
「ぁあ!?ちょっと!流石にそれは聞き捨てならないわよ!!」
「なんですの!!燃費だけが取り柄のくせに!」
「なによ!!欠陥機のくせに!」
中国開発の《甲龍》は第三世代ISとしてのイメージインターフェイス兵装である全方位対応空間圧縮砲《龍咆》を装備しているが、あくまで第三世代兵器を武装の一環ととらえ、ISとしての運用効率を高める為のバランスに最大の重点を置いて設計されている。結果、機体の運動性に非常に優れ、パッケージ換装による汎用性までも実現していた。第三世代ISが世界の標準となって行く時代におけるシェアの世代交代に焦点を合わせ数年後のIS学園や世界の軍隊では《打鉄》や《ラファール・リヴァイブ》に代わり《甲龍》が使用されているかもしれない程の完成度の高さを誇る。
ただ、それゆえに第三世代でありながら突出した性能がない機体となってしまっていた。兵器としては間違っていない、実に理想的な次世代機ではあるが、そこまでの機体、燃費だけが取り柄、と揶揄されてしまうのも頷けた。
対する《ブルー・ティアーズ》はと言えば、突出した性能を持つ代わりに欠点を抱える設計の多い第三世代機の中でも、実験機とはっきり銘打たれた完全特化機体であり、例えBT兵装装備の機体が世界標準となる時代が来たとしても、ティアーズ型の派生機が量産される事はあれ、《ブルー・ティアーズ》というISはセシリアのものが最初で最後だろう。BT兵器以外の武装がほぼ無きに等しいとあっては兵器としての評価は欠陥機以外の何物でもない。
「よろしいですわ!では決闘で決着をつけましょう!」
「望むところよ!」
びしと鈴の鼻先に指を向けるセシリア。鈴はその指に噛み付きそうな勢いで応と返し、ぴょんとベッドから飛び降りて収納棚のほうへ向かうのだった。
165 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:09:00.30 ID:L9XZ9DUh0
――――
白熱した激闘が続く部屋の中。ドアが二度叩かれる。
「……ッ……セシリア……お客さん」
「ぁッ!ちょっと……そこはお待ちに……!」
「ダメ、待たない……っ!」
一時中断を申し入れるセシリアだったが、鈴は待たない。ここぞとばかりに攻め立てる。
―― セシリア?いないのか?
「ッ!はーい!ちょっと……お待ちにッなってッ!!」
―― なんだ?大丈夫なのか?
「大丈夫ですわッ!?ぁあ!もう!鈴!?」
「ほらほら!これで!!」
「あぁッ!!」
―― っ!?入るぞ!?
ガチャリとセシリアの部屋に駆け込んできたのは箒だった、そこで見た光景は、背中合わせに設置された二つのモニターを挟み、床に置いたローテーブルの上には二本のスティックが特徴的なやたら高価な専用コントローラーが二つ、片方にはガッツポーズの鈴、片方はそのまま仰向けに転がるセシリア
「……なんだ、ゲームか。何事かと思ったじゃないか」
「あれ、箒じゃん。どうしたの?」
鈴はてっきり一夏でもやってきたのかと思っていた。声を思い返してみれば確かにあれは箒の声だったような気もする。それにしてもどうしたのだろう?
166 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/16(水) 00:11:32.80 ID:L9XZ9DUh0
「なんだ、私は特に用がないと来てはいけないのか?」
腕組をしながら室内へ足を運ぶとふんと揶揄するように口角を上げる。胸の下側で組まれた腕に寄せて上げられた偉大な双丘は地味めなトレーナーの下で存在をまるで街頭宣伝車の如き過剰な主張をしている。
「まったくいい年の女子が、お前達もピコピコか……全く、軟弱だぞ」
「も?」
「も?」
「も?」
敗北の屈辱に仰向けに伸びていたセシリアもハモりながらむっくりと上体を起こし、同じ箇所に突っ込みを入れる。
「ッ……。ええい、相変わらずだなお前たちは。セシリア、少し座らせてもらうぞ?」
「ええ、どうぞ。――ほら鈴さん!?これが普通ですのよ!」
断りを入れてからベッドに腰掛ける箒に笑顔で返してから、今のを聞きましたか?と断りもなくベッドに外着のまま飛び込む鈴にセシリアが気を吐く。
「えー、だってアタシの部屋じゃんここ」
鈴はと言えば、言葉にしなくても「いちいちうっさいなぁ」とまさに態度で語っていた。
「……い、居候っていう立場をすっかり忘れてるんじゃありませんこと……?」
ヒクヒクと頬を引きつらせながら、セシリアが指先をわななかせる。
「……あー……ンっン。お前たち、ならそれ、そのピコピコで決着をつければいいだろう」
噴火寸前のセシリアの様子を見て、箒が助け舟を出す。軟弱と言った手前、専用機持ち同士ISないし剣道で決着をつけろと言おうとしたが、
『なら第三アリーナに移動ですわ』
『受けて立とうじゃない!』
とはならず
『この場で十分!抵抗する間も無くマッシュポテトにして差し上げますわ!《ブルー・ティアーズ》!!』
『冗談!逆に叉焼にしてやるわよ!《甲龍》!!』
と、この場で始まるであろう事が予想できた。なるほど、ピコピコにもいい面はあるものだ、少し箒はピコピコに興味を引かれていた。
174 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/28(月) 04:45:34.93 ID:Wc+6Ba6q0
さぁ喧嘩をするならピコピコで決着をつけるがよい、我ながらなんて平和的な提案だろう!暴力的と言われ続けた私とてこのように平和的な解決策を見つけることもできるのだ。もう暴力女などとは言わせない。箒はちょっとしたドヤ顔で、セシリアのベッドに腰掛けたまま足を組む。
だがしかし、反応がない。
「ん? ……どうした、やらないのか?」
「いや……やるけどさ」
鈴が訝しげな顔で箒を見ている。ふと視線をずらせば、セシリアも困惑した顔で箒を見ていた。
「なっ!なんだお前達!私が平和的な提案をした事がそんなに珍しいのか!?」
「いや……ねえ?」
「そういうわけではございませんけれど……」
一度鈴とセシリアが目配せし合う。だったらなんだというのだ、何が不満だというのだこの二人は。そうか、私にも入れと言っているのか?ふむう、ピコピコの経験は無いが、今の私には敵などないなんとなく北斗の力が私にも宿っている気がする。そう、これぞもう何も怖くないというやつだ、よかろう、この私が……
「あのさ箒……ピコピコはないわ」
「!?」
「あの、ピコピコ、ってなんですの??」
「!?!?」
175 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/28(月) 04:47:24.91 ID:Wc+6Ba6q0
「いやぁ……ピコピコって……ピコピコはないわー、本当にないわ。一夏は結構ゲーム好きだから当然言わないし、アタシの母さんだってゲームはしないけど精々プレステって言ってたわよ?」
「なん……だと」
「あの、ぴこぴこって……」
呆れたように鈴が語る言葉が、鋭利な刃物となって次々と箒に突き刺さる。ババ臭い、言葉にはしないがそう言っているであろう事はひしひしと伝わってくる。セシリアは日本語で言う擬音、しかもセシリアが知っているゲームにはピコピコなんて擬音が発生するゲームが無い為か、言葉の意味自体がわかっていないようで困ったように二人に問いかけている。
箒は箒でそれの事だとゲーム機本体を指差して教えて、セシリアにまで笑われるかもしれないと思うとそうする事も出来ず、かといって鈴も鈴でいちいち箒のババ臭さをセシリアに解説するというのもあまりにモップが可哀想すぎてする気にはなれず、結果として二人してセシリアをとりあえずはスルーする事に決め込んでいた。
箒は箒でそれの事だとゲーム機本体を指差して教えて、セシリアにまで笑われるかもしれないと思うとそうする事も出来ず、かといって鈴も鈴でいちいち箒のババ臭さをセシリアに解説するというのもあまりにモップが可哀想すぎてする気にはなれず、結果として二人してセシリアをとりあえずはスルーする事に決め込んでいた。
「う、うるさい。私の家はローテク指向と言うやつでな!あまりそういうものに触れてこなかったから……」
「あんた……お姉さん……」
当代におけるハイテクの代名詞たる束の実妹でありながらどれだけローテクだと鈴が肩を落としながら、ものすごく残念なものを見るように箒に視線を向ける。
「う、うるさいっ!姉さんは関係ないだろう姉さんは!だ、大体ピコピ……て、TVゲームなど私にはやっている暇などなかったのだ!お、お前と違って打ち込むものが有ったからな!」
「聞き捨てならないわね!アタシだって別にそればっかりってわけじゃないんだから!」
(ああ……ピコピコとはゲームの事ですのね……)
セシリア自身もあまりテレビゲームに触れることは少なかった。しかし一夏と交際を始めてからというものテレビゲームに触れる機会が多くなり。はじめはゲームセンターで一夏と鈴や弾が対戦するのを一夏側の後ろから見ているだけだったのだが、二人協力プレイのガンシューティング等から徐々に染まり、気がつけば家庭用のハードを揃え、自室でLAN対戦ができる環境まで揃えていた。
「まぁまぁ鈴さん。鈴さんがどれだけ怠惰な中学生生活を送っていたのかここでぶちまけた所で、全国大会優勝するほど剣道に打ち込んでおられた箒さんとは比べ物にならない程無為な青春だと自白する結果になるだけでしてよ? ただ箒さん、やってみるとテレビゲームも意外と面白いものでしてよ?」
「えっ!?何、なんでアタシがディスられてんの!?」
そう言って、そっと自分の座っていた場所を箒にどうぞ?と示しながら立ち上がる。
「お二人とも、決着は平和的に、ぴこぴこで着けるとよろしいですわ」
176 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/28(月) 04:48:39.63 ID:Wc+6Ba6q0
「なっ……」
自身の言葉を獲られる形になった箒は目を剥いて講義しようと口を開くも、ふと視界の中で鈴が勝ち誇った顔をするのが見えたから。ぴくんと眉根を寄せて、応とベッドから立ち上がるのだった。見ればどうやらいつも一夏がやっているボタンとスティックで操作するものではなく、セシリア達のは二本のスティックを動かして操作するものらしい。
「ふむ、少し慣らしをしてもよいか?」
「いいわよー、つーかアタシが負けたら何でも言う事聞いてあげるわよ?」
箒が鈴にそう問いかければ、初心者をボコっても面白くないし少し練習すれば?と上から目線の回答。多少練習した所でボコボコにしてやるわよと表情が語っている。セシリアは箒と入れ替わりにベッドに腰を下ろし、箒の操作を見守っている。実際に体を動かすISと比べようもないものの、画面内のロボットは少しISに似ていなくもない。こう操作感覚が違うとシミュレーターとも全然違う感じだが、箒にはとっつきやすかった。 その結果……。
――
「え?あ、勝った!勝ったのか!?やった……!やった!私の勝ちだ!勝ちだよな!?」
嬉しそうに箒が声を上げる。双方の話し合いの結果、やめた方がいいと鈴に言うセシリアの制止も聞かず、結局勝負形式は1本勝負デスマッチ形式となった。
終始押して、余裕を見せつつ「遊んで」いた鈴だったが、勝負は箒の放ったレーザー直撃による逆転勝利で幕を閉じた。ゲームバランスが崩壊していると言われがちだれど、これは当たる方が悪い。以前一夏がそんなことを言っていたのを思い出す。 同時に、部屋で二人きりだったのにゲームに熱中して、嬉しそうにその解説をする一夏をどう誘惑したものか策を弄して全て滑った苦い経験をセシリアはついでに思い出していた。
終始押して、余裕を見せつつ「遊んで」いた鈴だったが、勝負は箒の放ったレーザー直撃による逆転勝利で幕を閉じた。ゲームバランスが崩壊していると言われがちだれど、これは当たる方が悪い。以前一夏がそんなことを言っていたのを思い出す。 同時に、部屋で二人きりだったのにゲームに熱中して、嬉しそうにその解説をする一夏をどう誘惑したものか策を弄して全て滑った苦い経験をセシリアはついでに思い出していた。
「は……はああぁぁああ!? こッこんなの事故よ!!事故ッッ!!」
「あら、鈴さん。事故も何も……今のは当たる方が悪い、というものでしてよ?」
セシリアが呆れたように溜息を吐く。確かに事故かもしれない、鈴自身の油断、慢心もあったろう、だがそれより何より、箒には動体視力と、そして基本動作を正確に素早く動かす器用さが有った。コンピュータゲームというものは操作には慣れていなくても、画面内のキャラクターは一定の操作さえすれば確実にその目的を完遂しようとしてくれる。どんなに気合を込めたって実際に波動拳は撃てないけれど、236+Pのコマンドさえ入力すれば画面内のキャラは手からビームだって出せる。基礎の動きを重視する性格と、剣道全国大会優勝剣士の動体視力はこの手のゲームの才能とも言えた。
(ぶっちゃけ強いですわね……)
177 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/11/28(月) 04:49:17.89 ID:Wc+6Ba6q0
「――こほん。ふん、なんだ、ぴこぴことは……なかなかに楽しいものだな!どうだ鈴、どーしてもと頼むのならば……泣きの一回を受けてやらんでもないぞ?」
胸を張り、腕を組みながら威高々と箒はがっくりと崩れ落ちている鈴に言い放つ。早速調子に乗ってますわね、とセシリアは思うも、とりあえずは口に出さないでおいた。次はセシリアが箒と戦わせられるかもしれない。少しでも勝ちの可能性を上げる為には箒の慢心はとかない方がいい。そしてなんでTVゲームをピコピコと言うのかがいまだにセシリアには判らなかった。
「き、き、き」
「……鈴さん?」
「キ!キエエエェェェェエエエイ!!」
鈴が絶叫を発する。最初、余りの無様な負けっぷりに頭でもおかしくなったかと心配げな表情で互いに顔を見合わせる箒とセシリアだったが、そうでもないらしい。わしゃわしゃと頭と掻くと、キリッとした顔つきになって箒を見つめる。
「……箒、泣きの一回をお願い」
プライドを捨てた。腹を据えた。こういう時の鈴の思い切りの良さは、一年の代表候補生の中でも一番だ。 そして、こういう時の鈴は、強い。次は絶対に負けない。見ているだけのセシリアにもその気迫が伝わってくる。
「あ~~ 聞こえんなぁ!!」
そんな一人でシリアスモードに突入した鈴を他所に、箒はばっさりとその願いを断る。その声色が一組のクラス内でプチ流行を見せている北斗の拳キャラのモノマネだったせいもあって、セシリアが顔をそむけて思い切り吹き出し、爆笑する。始めたのは誰だったかもう忘れてしまったけれど、竹本か相川辺りが悪ふざけではじめたのがきっかけだったと思われる。 そういえば今度の休みに集まって上映会をやるとか言っていた。一夏はその場に行けばいじられる(剥かれる)のが判っているからか不参加を決め込んでいた為、セシリアも不参加を決めたけれど。今日がその「今度の休み」だった。ということはもしかして箒はその帰りなのだろうか?
もっとも、一組ローカルのバカウケネタなど鈴にとってはただイラっとくるだけで、けたけたと笑いあう一組二人を半睨みで見つめるばかりなのだけれど。
「何よ」
「ああ、ちがいますわ鈴、今のはですね……ぷっ!くくく!」
「そ、そうだ、別に喧嘩を売っているわけでは……ぷはっ!やめろセシリア!無言で仕草を真似るな!」
鈴の不機嫌そうな声が聞こえると、慌ててセシリアは弁解しようとする、けれど、このタイミングで言われた事がそんなにツボなのか思い出し笑いに肩を震わせ、続いて箒も弁解するのだけれど、それを見たセシリアが声なしでそのポーズだけを真似るものだから弁解途中で笑いだす。そんな二人の態度が鈴の苛立ちを更に加速させる。冗談なのはわかった、別にそれはいい。いいの? 良くないけれどいい。そのいかにもなローカルネタで笑っているのが腹が立つ。面白さが判らない。単体で聞いても何にも面白くない。正常なのは自分のはずなのに何とも言えない疎外感、屈辱、このアホ乳どもどうしてくれようか……鈴は頬を膨らませせながら、二人をぎゃふんと言わせる方法を考えるのだった。