ダンゴムシは口を閉ざす 2 *小豆

空はからりと晴れています。太陽が真正面からパダンを照らしていました。パダンはあまりの明るさに目をしょぼしょぼさせました。目が明るさに慣れた頃には、パジルの姿がもう遠くの方にありました。今にも曲がり角に姿を消してしまいそうです。
パダンはそれでもパジルに追いつこうと、懸命に14本ある足を動かします。しかしなかなか、二匹の距離は縮まりません。それどころかどんどん開いていきます。しまいにパダンはパジルの姿を見失ってしまいました。
パダンは足を止め、ぜぇぜぇ、と何度も粗く息を吸ったり吐いたりしました。長い道のりをゆっくり歩くのは得意なのですが、走るのはどうも苦手なのです。
 パダンは休憩させてもらおうと、途中にあった大きな岩の下に潜りこみました。周りには木がたくさん生えていて土も湿っているので、たくさんのダンゴムシが住んでいそうだと見当をつけたのです。思った通り、そこはダンゴムシ達の集落でした。
パダンはかしこまって居住まいを正しました。何事にも第一印象が大切です。
「こんにちは、初めまして。僕はドングリの木の下のパダンと言います。友達を追いかけていたら見失ってしまいました。ここで少し休ませて下さい。休んだらすぐに出ていきます」
 すると、どうやらここの長であるらしいダンゴムシが集落の奥から出てきて言いました。
「あらあら大変ねぇ。ダンゴムシが走るなんてよっぽどの事だわ。焦っておいでだとは思うけれど、アキアカネやミンミンゼミ達ならともかく、見失ってしまったら私たちではどうにもならない。そのお友達は帰りもここを通るのかしら?」
「通ると思います」
 彼女はにっこりと笑いました。
「なら、それまでここでお休みなさい。暇なダンゴムシに外を見張ってもらうように頼んでおくから」
 パダンは丁寧に断ろうとしました。しかし相手が全く折れないので、パダンが折れるしかありませんでした。パダンは気まずいのもあって、入口のすぐ近くで休む事にしました。ここなら、自分でもちょくちょく外の様子を見る事ができるし、手間を取らせる事もないだろうと思ったのです。
 長が集落の方に戻って行きます。大勢のダンゴムシの前で何やら話を始めました。どうやらパダンの事を説明しているようです。
パダンが外の見える位置で楽な格好をしていると、小さいダンゴムシ達が四匹ほど、パダンの近くに寄ってきました。この集落の子ども達です。余所からきたパダンに興味津々のようでした。
「おにいさんどこから来たの?」
「友達って誰?」
「彼女いるの?」
「名前なんていうの?」
 パダンは快く答えました。
「僕はドングリの木の下から来たパダンだよ。友達はワラジムシのパジルって言うんだ。彼女はいないよ」
 子ども達は、ふぅん、と言ってまた次の質問をしようと口を開きました。すると大人のダンゴムシがやってきて、子どもたちを叱りつけました。
「全くアンタ達は、長老様の言っていた事を聞いてなかったの!? この人は大事な用事で疲れてらっしゃるのよ!」
「だってつまんないんだもん」
「長老様の話長いんだもん」
「外に出たことないんだもん」
「つまんない!」
「だからって質問攻めにしてはいけません!」
 パダンは構いません、と言おうとしましたが、その大人のダンゴムシはパダンの言葉に、にっこりと笑っただけでした。
「さあ、家に戻って勉強をしなさい。タッタカタ」
 大人のダンゴムシは子どものダンゴムシ達を追い払ってしまいました。そしてお邪魔してごめんなさい、と言って、集落の奥の方へ行ってしまいました。
 パダンは、ふぅ、と息を吐いて、外に目を戻しました。



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最終更新:2011年11月21日 20:16