ダンゴムシは口を閉ざす 3 *小豆

 いつの間にかパダンは眠っていたようでした。何だか騒がしいので目を開けると、パダンの周りに、集落のダンゴムシ達が集まってきていました。パダンが起きあがると、ちょうど長老がやってくるところでした。
「どうやらお友達が来たようです。でもお友達は厄介事も持ってきたようです……」
 どうしたんだろう、とパダンは外に這い出ました。そして目に入った光景に驚きました。たくさんの虫がそこに集まっていたのです。
大きなツノを上下に何度も振り上げているカブトムシ。その隣には顎をゆっくり開いたり閉じたりしているクワガタムシ。色とりどりのコガネムシもいます。アリの群れも少しいます。花の上に止まり、ツンと澄まして周りを見わたしているチョウがいます。トンボは無邪気に飛びまわっていました。他にもハチやムカデやカマキリやカメムシ、バッタ、ガ、コオロギ、アブ、カゲロウ、ホタル、テントウムシ……それこそ数えきれません。
 たくさんいる虫の中から、一匹のカミキリムシがパダンに近寄ってきました。そして、とても長い触角をゆらゆら揺らして気取った声で話しかけてきました。
「チミがパダン君かね?」
ええ、とパダンは頷きましたが、一体何が起こっているのか、パダンには全く分かりませんでした。
 カミキリムシはパダンの様子など意に介しません。カミキリムシは、エホン、と咳払いをして長く長く息を吸いました。
「聞くところによるとチミは落ち葉こそがこの世で最上の食べ物であると恐れ多くも数多くいる他種の虫の識者を無視して宣言したらしいじゃないか。それはけっこう全くもってけっこう。チミは単なるダンゴムシに過ぎないからだ。チミが言ったところで本気にする虫はそうそういない、単なる感想に過ぎないからだ。ところがチミはよりによってその単なる感想を他の虫に押しつけようとした。これは由々しき事だ。強要は許されぬ。議論が必要になる、そう議論が。チミは証拠を提出しなければならない。ここにいる虫みんながそう思って集まっている。さあ早くこちらに来てチミの意見を言うのだ。みんなチミがどんな落ち葉論を述べるのか楽しみにしている。おっと失礼申し遅れた。私はシロスジカミキリのマシロだ。以後お見知りおきを」
 シロスジカミキリのマシロはそこまで一息に言いました。パダンが呆気にとられていると、マシロは満足げに頷いて身を引き、虫の集まりの中に戻ろうとしました。
「おいおい、おとなげないよマシロさん。彼、びっくりしちゃってるよ」
 聞こえてきたのは、マシロとは正反対の軽薄な調子の声でした。声がしたのははるか頭上の木の枝からです。マシロは不機嫌そうに触角を上下に動かし、その声の主の方へ目をやりました。
「チミはそんな所からしかモノを言えないのかね」
「おっと、こりゃあ失礼」
 パダンは小さな虫が木の枝から飛び降り、落ちてくるのを見ました。あわや地面にぶつかる瞬間、その虫は宙づりになり、パダンとマシロの間でぷらぷらと揺れました。クモでした。
「やあ、僕はジョロウグモのクロキだよ。よろしくね」
 クロキのあいさつに、パダンは、よろしくお願いします、と頭を下げました。
「ご丁寧にありがとう」
 クロキはそう答え、さて、マシロの方を見ました。クロキの顔つきが変わり、浮ついた印象が消えます。
「クロキは議論になると性格が変わるんだ」
 いつの間にか隣にいたムカデがパダンにささやきました。
クロキがマシロを見ながら、たしなめるように言います。
「マシロさん、嘘を言うのは悪い事だ。パダン君から直接聞いた事はまだ何もない。全て虫づてだ。落ち葉の是非を問うのはまだ早すぎるんだよ」
「だが、確かな情報だ。わが師が私に教えてくれた。チミは我が師を侮辱しようと言うのかね」
「マシロさん、君は、君の師の言っていた事をきちんと思い出すべきだよ。それか、君の師も万能ではない事を知るべきだ。君の師は情報収集の専門家ではないのだから」
「我が師を侮辱したな!」
「君は僕の話を聞いていないようだね」
 たちまちマシロとクロキの間に激しい舌戦が始まりました。パダンはその様子を見守りながら、真実を語る瞬間をうかがっていました。



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最終更新:2011年11月21日 20:18