見えざる遺産 2*大町星雨

「うぬっ!?」
突然猫田が声を上げた。オレが声をかける間もなく、オレが持っていた紙をひったくる。それを机に置いて、一部を指でごしごしとこすり始めた。
「やっぱり……」
「おい猫田、何が『やっぱり』なんだよ」
オレの突っ込みは猫田の耳に届かなかったらしい。猫田は猫じゃらしに飛びつく猫のごとくに事務机に飛びつき、消しゴムを持って戻ってきた。
そして遺書の字をせっせと消し始め――って!
「お前、何してんだよストップストップ!」
「た、探偵さん、やめてください!」
オレと安藤さんが同時に猫田に飛びついた。オレが消しゴムを、安藤さんが遺書を取り上げる。オレは猫田の頭に拳骨を入れた。
「ったくお前は! 遺書を抹消する気か!」
猫田があうーと言いながらその場にしなしなとうずくまる。
そんな横で、安藤さんがあっと声を上げた。
「刑事さん、これ!」
差し出された手紙を見て、オレもあっと声を出しそうになった。
遺書の一部が猫田によって消されかかっていたが、その中で相変わらずはっきりと見える文字がある。つまり、消しゴムでは消えない文字。
「この手紙、所々万年筆で書いてあるのか!」
「そーゆーこと」
猫田がひょいと胸を張った。手加減したとは言え、そこそこ力は入れて殴った気がするんだが。回復の早いやつだ。
「折り目のところで大抵の字はかすれてるのに、いくつかかすれてない字があったんだ。それでまさかって思ったんだけどその通りだったね。おじいさんの『私のことを毎日思ってくれるようならばその隠し場所も分かるだろう』っていうのは、この手紙をずっと持ち歩いてくれれば、字がかすれてきて万年筆の字だけが目立つようになってくるって意味だったんだよ」
なるほど。それでいきなり消し始めたって訳か。しかし、家族中が見ても区別がつかないほど万年筆の濃さと鉛筆の濃さを似せておくとは、なんて暇なじいさんだ……。
「さ、早く残りも消しゴムかぐぇ!」
消しゴムを取り返そうとした猫田の頭に、オレの拳骨がもう一発落ちた。
「だからって遺書の内容を全部抹消してどうする! オレがコンビニでコピーとって来るから、それまで大人しく待ってろ!」

 オレがコピーを用意したところで、手紙の謎を解く作業が再開された。
 消しゴムがかけられた後、ぽつぽつと残る万年筆の文字を別の紙に書き取っていく。
「じゃあ、読むぞ」
 文字を拾い終わった所で、オレがその紙を手に取った。
「『い』『さ』『ん』『は』『小野山』『の』『い』『た』『だ』『き』『す』『ぎ』『の』『木』『の』『下』」
 遺産は小野山の頂、杉の木の下。


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最終更新:2011年10月17日 17:45