自分用SSまとめ
億泰「幻想御手…? こいつぁ違うぜぇ~」②
最終更新:
meteor089
-
view
億泰「幻想御手…? こいつぁ違うぜぇ~」 ① ②
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 01:40:51.21 ID:mY3L7nhn0 [3/17]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
億泰「……なんだぁ~!?」
幻想猛獣を見て素っ頓狂な声をあげる億泰。
億泰の目の前でブヨブヨに膨れ上がった幻想猛獣が御坂美琴を捕らえようと触手を伸ばしている姿だった。
伸びくる触手を電撃で焼き尽くし砂鉄のブレードで切断をする御坂。
伸びくる触手を電撃で焼き尽くし砂鉄のブレードで切断をする御坂。
バチバチと雷を操りながら危なげ無く攻撃を加えている御坂を見て嫌なものを思い出しかのように眉をひそめる億泰。
億泰「あいつ……『電気』をつかうのかよぉ~…」
複雑そうな顔をしたまま棒立ちになった億泰にようやく気付く御坂。
御坂「ちょっ! アンタなんでここにいんの!?」
億泰がレベルゼロだということを知っていた御坂は苦虫を噛み潰したような顔になる。
御坂「危険だから逃げて! アイツはあたしが引きつけるから!」
そう叫びながらバシンと電撃を幻想猛獣に叩きつける御坂。
その時だった。
その時だった。
ブヨブヨと膨れ上がった幻想猛獣がぶるりと身震いをしたかと思うと体表に幾つもの眼球が生えてくる。
同時に怨念のようなくぐもった様々な声が大気を震わせた。
同時に怨念のようなくぐもった様々な声が大気を震わせた。
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 01:46:53.79 ID:mY3L7nhn0 [4/17]
――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――
「幾千幾万の努力がたったひとつの能力に打ち砕かれるのが現実だ」
「能力を数値化してどっちが優秀かハッキリさせちゃうなんて…残酷よね」
「出鱈目に高くて分厚い壁。 …突破なんて出来るわけないじゃないか」
「…上を見上げず前を見据えず下を見て話そう」
「力のある奴はいつだってそうだ…」
「何をやったってねじ伏せられてバカにされる」
――――――――――――――――――――――――――――――
御坂「なに…これ…?」
泥のように吐き出される大量の感情に驚く御坂。
それはレベルアッパーを服用した一万人の学生達の苦悶の…恨みの…諦観の声だった。
同時に手当たりしだいに周辺を攻撃しだす幻想猛獣。
御坂にはそれがまるで自暴自棄になり自らを傷つけるようにも見えた。
同時に手当たりしだいに周辺を攻撃しだす幻想猛獣。
御坂にはそれがまるで自暴自棄になり自らを傷つけるようにも見えた。
御坂「…苦しんでる…の?」
134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 01:59:34.30 ID:mY3L7nhn0 [5/17]
■幹線道路・高架上
■幹線道路・高架上
初春「……」
頭に響く卑屈な感情に思わず声を失う初春。
彼等の気持ちはレベル1の初春にとっても人ごとではなかった。
彼等の気持ちはレベル1の初春にとっても人ごとではなかった。
気が抜けたように立ち尽くした初春の後ろにこっそりと立つ少女。
佐天「うーいはるーぅ!」
バサァ! と盛大に初春のスカートをめくったのは佐天涙子だった。
初春「……へっ!? なっ何するんですか佐天さん!!」
スカートをめくられ真っ赤になって佐天に抗議する初春だったが…
佐天「なーにぼんやりしてるのさ?」
そう言って笑う佐天を見て言葉を失った。
136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:03:03.72 ID:mY3L7nhn0 [6/17]
佐天「あたしたちは御坂さんや…アイツみたいにあのオバケの前に立つことはできないけどさ」
佐天「あたしたちは御坂さんや…アイツみたいにあのオバケの前に立つことはできないけどさ」
佐天「それでもあたしたちに出来ることは絶対あるって!」
初春「佐天さん…」
元気づけようとしてくれた佐天を見て初春の瞳に力が戻る。
初春「そっそうですよね! ボーっとしてる場合じゃないですよね!」
自分に言い聞かせるようにコクコクと首を振る初春。
すっかりといつもの調子を取り戻した初春を見て佐天が口を開く。
すっかりといつもの調子を取り戻した初春を見て佐天が口を開く。
佐天「とりあえずはさ…あの赤ん坊をどうすればいいのか… あそこにいる生みの親に話を聞きに行こうよ」
佐天の視線の先にはボンヤリと幻想猛獣を見つめている木山の小さな背中が見えた。
佐天「ホラ! 行こう!」
そう言って初春に右手を差し出す佐天。
初春「はっはい!」
元気よく返事をしながらその手を握り共に駆け出す少女たち。
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:06:43.72 ID:mY3L7nhn0 [7/17]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
暴れまわる幻想猛獣を見て深いため息を吐く木山。
木山「もはや…ネットワークは私の手を離れ…あの子達を回復させることも叶わなくなったか…」
取り出した拳銃をこめかみに突きつけ自嘲する。
木山「…もうおしまいだな」
教え子たちに詫びながら自らの生涯の幕を閉じようとしたまさにその時だった。
初春「ダッダメェ―――!!」
佐天「なに考えてんですかー!」
勢いのついた二つのタックルが木山に叩き込まれる。
木山「なっ!?」
飛び込んできたそれを受け止めることができずそのままゴロゴロと転がる木山。
きゅう、と目を回した木山にまたがるのは佐天涙子と初春飾利だった。
140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:16:55.26 ID:mY3L7nhn0 [8/17]
タックルで痛んだ腰と喉をさすりながらも問われるままに現状を説明する木山。
タックルで痛んだ腰と喉をさすりながらも問われるままに現状を説明する木山。
初春「虚数学区?」
聞き慣れない言葉に眉をひそめる初春。
そんな佐天に木山が丁寧に説明をしだす。
そんな佐天に木山が丁寧に説明をしだす。
木山「虚数学区… それはAIM拡散力場の集合体だ」
木山「アレもおそらく原理は同じだろう」
そう言ってチラリと暴れ狂う幻想猛獣を目にする。
佐天「AIM力場の集合体って言っても… どこにそんなのが…」
疑問をそのまま口にする佐天。
木山「あぁ。 レベルアッパーのネットワークによって束ねられた一万人の拡散力場が触媒さ」
佐天「触媒って… そもそもあんな拡散力場の塊をどうやってシミレーションなんかに使うつもりだったんです?」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:23:49.39 ID:mY3L7nhn0 [9/17]
そう問いかけた佐天に静かに答える木山。
そう問いかけた佐天に静かに答える木山。
木山「あのAIMバースト…便宜上幻想猛獣とでも呼ぼうか。 あれは…ネットワークの暴走が原因だ」
木山「まず幻想猛獣に自我があるとは考えにくい。 が、ネットワークの核であった私と一万人のマイナス方向のイメージが表面化しているんだろうな」
初春「じゃあ…どうすれば止めることができるんですか?」
それは最も聞きたかったこと。
その初春の言葉を聞いて木山がポケットの中に手を伸ばす。
その初春の言葉を聞いて木山がポケットの中に手を伸ばす。
木山「あれはネットワークの怪物だ。 ならばネットワークそのものを破壊すれば止められるかもしれない」
木山「…当然、治療用のプログラムも私が持って…いる…」
その木山の言葉を聞いてホッとする佐天。
佐天「なーんだ。 だったら早くそのプログラムを起動しましょうよ!」
そこまで言って佐天は気付く。
ダラダラと嫌な汗を流している木山がそこにいた。
ダラダラと嫌な汗を流している木山がそこにいた。
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:30:43.10 ID:mY3L7nhn0 [10/17]
初春「…あ、あの?」
初春「…あ、あの?」
異様な表情の木山を気遣うよう初春。
そんな少女たちの視線を受けてそろそろとポケットの中にいれていた手を開く木山。
そんな少女たちの視線を受けてそろそろとポケットの中にいれていた手を開く木山。
木山「………すまない」
木山の手のひらの上にはまっぷたつに割れた小さなデータカードがチョコンと乗っていた。
佐天「…え゛?」
木山「負けるつもりはなかったのだが…」
電気信号の塊であるデータカードは静電気ですら致命傷になりうる。
ポケットの中に剥き出しの精密機器を入れたまま『超電磁砲』と闘ったのだ。
ポケットの中に剥き出しの精密機器を入れたまま『超電磁砲』と闘ったのだ。
145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:41:20.42 ID:mY3L7nhn0 [11/17]
木山「その…まさか私もこんな展開になるとは予想もつかなくてな……悪かった」
木山「その…まさか私もこんな展開になるとは予想もつかなくてな……悪かった」
親に叱られた子供のように佐天と初春から目を逸らしながら謝る木山。
初春「…それじゃあ」
木山「あとは…力尽くしかないな」
佐天「だ、だったらさ! 今は一旦皆で逃げてアンチスキルに後を任せたりとかだって!」
次の解決策を提示した佐天だったが、それはバッサリと木山に否定された。
木山「…そんな猶予はないだろうな。 幻想猛獣の向こうに見える建物…あれが何か判るかい?」
木山が指さした先を見ると確かに幻想猛獣が大きなプラントのような施設に向かい動き出していた。
146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:55:22.67 ID:mY3L7nhn0 [12/17]
木山に問われるもさっぱり見当がつかない佐天。
木山に問われるもさっぱり見当がつかない佐天。
佐天「えっと…」
木山「あれは原子力実験所だ。」
そんな佐天に恐ろしい事実を告げる木山。
佐天「…嘘」
木山「嘘ではない。 もはやあの巨体のどこかにある20cm弱三角柱の形をした核を破壊するくらいしか手はないだろう」
初春「20cm弱の核?」
遠くに見える幻想猛獣は今や15メートル近くの巨体となっていた。
あの中から手のひらほどの核を破壊することなど可能なのだろうか?
あの中から手のひらほどの核を破壊することなど可能なのだろうか?
それは佐天と初春にとっては笑ってしまうくらい絶望的な難題に見えた。
しかし、目の前には御坂美琴がいる。 虹村億泰がいる。
しかし、目の前には御坂美琴がいる。 虹村億泰がいる。
ならばきっと何とかしてくれる。
二人の少女はそう信じていた。
二人の少女はそう信じていた。
147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 02:58:30.09 ID:mY3L7nhn0 [13/17]
絶望的な状況であるはずなのに諦めているとは思えない少女たちを見て木山春生は首をひねる。
この少女たちは自分の話を聞いて、なおかつ疑いもしていないのだ。
絶望的な状況であるはずなのに諦めているとは思えない少女たちを見て木山春生は首をひねる。
この少女たちは自分の話を聞いて、なおかつ疑いもしていないのだ。
木山「ところでひとつ聞きたいのだが… なぜ私の話を信用する?」
不思議そうにそう問いかけてくる木山を見て佐天と初春が顔を見合わせて微笑んだ。
佐天「なぜって… 判っちゃったからとしか言いようがないですねー」
木山「判った… いったいなんのことだ?」
初春「木山先生が…嘘をつかないっていうことですよ」
屈託の無い瞳を眩しがるように足元を見つめる木山。
木山「…本当に。 根拠もなく人を信用する子供の相手は苦手だ…」
そう呟いた木山の口元には静かな笑みが浮かんでいた。
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 03:09:20.89 ID:mY3L7nhn0 [14/17]
木山「治療用のプログラムは失われ、アンチスキルの増援が到着するまであとどれくらいかかるのかも判らない」
木山「治療用のプログラムは失われ、アンチスキルの増援が到着するまであとどれくらいかかるのかも判らない」
暴れまわる幻想猛獣を見て淡々と現状を整理していく木山。
木山「もはや…エレクトロマスター…学園都市の第三位『レールガン』御坂美琴に賭けるしか打つ手がないということか」
そう呟いた木山に力強い否定が返ってきた。
初春「御坂さんだけじゃありませんよ?」
木山「?」
顔を上げた木山の目に飛び込んできたのは強い意志の光。
佐天「あそこにいるノッポでガラの悪いアイツもきっと何とかしてくれる。 …あたしたちはそう思ってますし」
初春「私も佐天さんと同じ意見です!」
そう言って頷き合う少女たち。
佐天涙子と初春飾利の願いにも似た希望は数分後、たやすく踏みにじられることとなる。
佐天涙子と初春飾利の願いにも似た希望は数分後、たやすく踏みにじられることとなる。
151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 03:28:51.16 ID:mY3L7nhn0 [15/17]
■原子力実験所前・広場
■原子力実験所前・広場
巨大な剣のように尖らせた力場の塊を電撃で破壊し距離をとる御坂。
ぽたりと大粒の汗が額を流れ落ちる。
ぽたりと大粒の汗が額を流れ落ちる。
御坂美琴が疲労している原因のひとつはここから立ち去ろうとしない『一般人』の存在だった。
虹村億泰から幻想猛獣を引き離すように攻撃を打ち消しながら動き回っていたせいで想像以上の体力が消耗。
ぜぇぜぇと荒い息をつく御坂。
そしてもうひとつの原因。
それは一万人の怨念のようなイメージを至近距離で受け続けた精神的な疲弊だった。
それは一万人の怨念のようなイメージを至近距離で受け続けた精神的な疲弊だった。
「ntns欲sr」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」
御坂「あぁもう! ホンっとキリない!!」
苛立も混ぜながら大きな電撃を放たんと身構える御坂。
その時だった。
その時だった。
億泰「アホかてめぇ!! なにボケッとしてんだぁっ!」
御坂の背後に大きな怒声が叩きつけられた。
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 03:42:06.28 ID:mY3L7nhn0 [16/17]
振り返った御坂の目に飛び込んできたのは猛烈な勢いでこちらに駆け寄ってくる億泰の姿。
振り返った御坂の目に飛び込んできたのは猛烈な勢いでこちらに駆け寄ってくる億泰の姿。
御坂「なっ!? 危ないから離れててっ言ったでしょ!」
疲弊した御坂美琴は気づいていなかった。
死角からこっそりと回りこむように地を這う一本の悪意に。
死角からこっそりと回りこむように地を這う一本の悪意に。
獲物を見つけた蛇のように鎌首をもたげ、勢い良く美琴に迫るは赤ん坊の腕を模した触手。
御坂「へっ!? いつの間にっ!? つーかヤバッ!」
ようやく己に迫るそれを見て目を丸くする御坂だったが…
億泰「ンなこという暇あんならよぉ~ 避けろっつーんだよぉーッ!!」
間一髪。
御坂の襟首を掴んだ億泰が引き抜くようにして後方に放り投げる。
御坂の襟首を掴んだ億泰が引き抜くようにして後方に放り投げる。
そのまま軽々と数メートルは宙を飛び、尻餅をつく御坂。
御坂「っ! 痛テテ… もうちょっと優しくしなさいよねー」
痛む腰をさすりながら立ち上がる御坂。
御坂「………え?」
そこには信じ難い光景が広がっていた。
172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 11:34:59.24 ID:cLOHSFDt0 [1/41]
億泰「う…うおおおおおッッ!?」
億泰「う…うおおおおおッッ!?」
触手から無数に生えた赤ん坊のような小さな手に捕らわれる億泰。
グジュグジュと耳障りな音を発する手は食虫植物のようにゆっくりと億泰を取り込み始めていたのだ。
億泰「ヤッヤベーぜこいつはっ! ビクとも動けねぇ~」
踏ん張る億泰だったが、抵抗むなしく幻想猛獣の本体に呑み込まれはじめる。
御坂「ご、ごめん…あたしそんなつもりじゃあ…」
結果的に自分の身代わりとなってしまった億泰。
幻想猛獣のうちに引きずり込まれていく億泰に向かい震えた声で謝る御坂。
幻想猛獣のうちに引きずり込まれていく億泰に向かい震えた声で謝る御坂。
だが。
億泰「気…気にすんじゃあねぇぜぇ… オマエのせいじゃあねえ…」
無数の手に身体を固定され、ズブズブとその肥大した肉の塊に取り込まれながらも億泰が返事をした。
御坂「でもっ! 私のせいで!」
気休めのような優しい言葉を否定しようとする御坂。
しかし、それを聞いた億泰の声が静かにそれを遮った。
しかし、それを聞いた億泰の声が静かにそれを遮った。
174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 11:45:12.36 ID:cLOHSFDt0 [2/41]
億泰「オレじゃなくてもよぉ… きっと『アイツ』だって同じことをしてたはずだしなぁ…」
億泰「オレじゃなくてもよぉ… きっと『アイツ』だって同じことをしてたはずだしなぁ…」
御坂「…え」
そう呟く億泰。
御坂の脳裏に映ったのは、ある少年の後ろ姿だった。
御坂の脳裏に映ったのは、ある少年の後ろ姿だった。
馬鹿で無鉄砲で飄々としているツンツン頭。
自分のことを『超電磁砲』としてではなく、一人の少女として相手をしてくれた初めての少年のことを。
自分のことを『超電磁砲』としてではなく、一人の少女として相手をしてくれた初めての少年のことを。
言葉を失った御坂に向かい、さらに億泰が語りかける。
億泰「『アイツ』ならよぉ… きっとこう言うはずだぜェ…」
億泰「『悲しんでる暇があるなら…自分の手で切り拓けよ!』ってなぁ~…」
そこまで言ってチラリと遠く離れた高架下を見る。
そこには佐天と初春、そして見知らぬ女性が呆然とこちらを見ていた。
そこには佐天と初春、そして見知らぬ女性が呆然とこちらを見ていた。
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 11:55:38.66 ID:cLOHSFDt0 [3/41]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
佐天「…うそ」
初春「に、にじむら…さん?」
目の前で起きている事実を認められずぺたんと尻餅をつく佐天と初春。
もはや億泰の身体の殆どはAIMバースト…幻想猛獣に取り込まれていた。
首だけを動かしてこちらを見た億泰の口元が動く。
しかしその呟きは佐天と初春に届かず、虚空に消える。
しかしその呟きは佐天と初春に届かず、虚空に消える。
木山「馬鹿な… 拡散力場の塊が人を取り込むのか?」
ある意味では一番驚いていたのは木山だった。
ネットワークの塊、AIM拡散力場の集合体が人間を取り込むなど考えられることではない。
ネットワークの塊、AIM拡散力場の集合体が人間を取り込むなど考えられることではない。
しかし、現実は無情にも木山の推測をまたしても裏切っていた。
176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:07:54.70 ID:cLOHSFDt0 [4/41]
■原子力実験所前・広場
■原子力実験所前・広場
佐天と初春に向けて何事かを呟いた億泰が再び御坂に視線を戻す。
真っ青な顔で…それでも視線をそらすことなくこちらを見つめている御坂美琴。
真っ青な顔で…それでも視線をそらすことなくこちらを見つめている御坂美琴。
黙りこくった御坂を鼓舞するように口を開く億泰。
億泰「…オマエならよぉ~ 判ってるはずだよなぁ~?」
億泰「今一番守らなきゃあいけねえのが… 何なのかってことをよぉ」
それは御坂に決意を促す言葉。
その言葉は確かに御坂美琴に届いた。
その言葉は確かに御坂美琴に届いた。
少女の瞳に映る意志を、決意を確認して、空を見上げる億泰。
真っ青に晴れ渡った空に目を細めながらポツリとちいさく呟いた。
真っ青に晴れ渡った空に目を細めながらポツリとちいさく呟いた。
億泰「あばよ……『 』」
かけがえのない親友に向かいそう別れの言葉を口にしたのとほぼ同時。
肉の塊に埋もれていくように億泰の身体は完全に幻想猛獣の内部へと取り込まれ…消えた。
肉の塊に埋もれていくように億泰の身体は完全に幻想猛獣の内部へと取り込まれ…消えた。
179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:13:31.90 ID:cLOHSFDt0 [5/41]
億泰が幻想猛獣に取り込まれた途端、その場にいる全員の頭の中を雑音が駆け巡る。
間断なく流れていた一万人の負の感情。
それが塗りつぶされていくように変わっていく。
億泰が幻想猛獣に取り込まれた途端、その場にいる全員の頭の中を雑音が駆け巡る。
間断なく流れていた一万人の負の感情。
それが塗りつぶされていくように変わっていく。
それは虹村億泰の記憶。
――『おやじのやつ…また億泰を殴りやがったなっ! クズめっ!』
――『10年間だっ! 俺達兄弟はッ! 10年間もの間っ! 欲望に魂を売った肉の塊みてえな親父と共に暮らしてきたんだっ!』
――『親父だからこそ…やりきれねえんだ… せめてフツーに死なせてやりてえって気持ちがあんだ…』
――『俺にさわるんじゃあねえっ! 億泰ッ! おめーも引きずり込まれるぜっ!』
それは実の父親に虐待され続けてきた力ない兄弟の記憶だった。
父を救うために父を殺す方法を探し続け、非道に堕ちた兄の記憶だった。
そして…その身を呈して兇手から弟を救った兄との別れの記憶だった。
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:15:28.96 ID:cLOHSFDt0 [6/41]
それは虹村億泰の記憶。
それは虹村億泰の記憶。
――『仲間だどっ! オラたち同じ力をもつ仲間だよねぇ~っ!』
――『目が醒めたど…オラ欲に目がくらんでた…』
――『よかったら弁当だけ買って一緒に来ればいいどっ』
――『オラが守るどっ! 『パパ』と『ママ』をっ! 『この街を』守るんだどっ! 』
それは友情を履き違えていた小柄な少年との記憶だった。
両親以外に認められることがなかった孤独な少年だった。
一人でランチを食べることに何の疑問も抱かなかった後輩と共に悪ふざけをした記憶だった。
そして…父と母を、この街の平穏を守ろうとして散っていった友人との別れの記憶だった。
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 12:29:30.83 ID:cLOHSFDt0 [8/41]
少女たちの頭の中に流れるイメージは億泰が抱えていた悲しい記憶そのもの。
少女たちの頭の中に流れるイメージは億泰が抱えていた悲しい記憶そのもの。
普段の態度からは想像がつかないほどの重く辛い想い出だった。
言葉もなく立ちすくむ少女たち。
そして…動かなくなったのは幻想猛獣も同じだった。
幻想猛獣「ギ…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
耳をつんざくような物凄い叫び声をあげる胎児の形をしたAIMバースト。
苦痛に耐えられないような悲鳴をあげながら幻想猛獣の全身がブクブクと膨れ上がり、肥大する。
苦痛に耐えられないような悲鳴をあげながら幻想猛獣の全身がブクブクと膨れ上がり、肥大する。
幻想猛獣「キィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
まるで内部で爆発が起きているかのように肉が盛り上がり…そして『弾けた』
ボタボタと周囲に肉片を撒き散らす幻想猛獣。
吹き飛んだAIM拡散力場の欠片が雨のように地面を叩く。
186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:37:09.17 ID:cLOHSFDt0 [9/41]
だが、それで終わったわけではない。
幻想猛獣はいまだそこに存在していた。
だが、それで終わったわけではない。
幻想猛獣はいまだそこに存在していた。
四散した肉片をそのままに、再生をはじめる幻想猛獣。
数回まばたきができるほどの僅かな時間で先程と同じ巨体を取り戻す。
数回まばたきができるほどの僅かな時間で先程と同じ巨体を取り戻す。
そしてまたゆっくりと動き始める幻想猛獣。
その歩みの先にショートカットの少女が立ちはだかる。
その歩みの先にショートカットの少女が立ちはだかる。
御坂「自爆…ってわけでもないようね」
御坂美琴の見据える先に立つは先程と変わらぬ巨体を揺らす幻想猛獣の姿。
御坂「ごめん。 恨んでくれても構わない」
ポツリとそう呟く御坂。
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:44:05.36 ID:cLOHSFDt0 [10/41]
小さなコインをその手に握り、構える御坂。
小さなコインをその手に握り、構える御坂。
御坂「原子力施設の破壊だけは…させるわけにはいかない」
それは幻想猛獣を億泰諸共、超電磁砲にて貫くことを意味していた。
御坂「人を殺しちゃえばきっと…私は一生笑えなくなる」
『お姉様がお姉様ではなくなってしまう…そんな予感がしてならないですの…』
人知れず呟いた黒子の小さな言葉。
人知れず呟いた黒子の小さな言葉。
御坂美琴は一人の少年を思い浮かべる。
御坂「アイツなら…あの馬鹿なら…アンタを救えたのかもしれない…」
あの少年ならばきっと現状を打開してくれる…御坂美琴はそう思う。
御坂「でも」
だが、この場に彼は…上条当麻はいない。
御坂「私はアイツじゃないんだ…………ごめん」
静かに懺悔しながら超電磁砲を撃ちだすため指先に電撃を集中しだす御坂。
…その時だった。
191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 12:58:17.62 ID:cLOHSFDt0 [11/41]
【まったく…どこまでも馬鹿な弟だ。 だが……ちょっとは成長したか】
【まったく…どこまでも馬鹿な弟だ。 だが……ちょっとは成長したか】
どこからか。
【しししっ でもさっきの億泰さんは中々カッコよかったど】
声がした。
幻想猛獣の思念のように響く二つの声。
だが、AIMバーストの垂れ流す思念とは、ある一点が決定的に違っていた。
だが、AIMバーストの垂れ流す思念とは、ある一点が決定的に違っていた。
マイナスな感情を吐き出す幻想猛獣と違い、暖かく力強い意志の込められた声。
御坂「…なに? なんなの?」
突如響いた正体不明の声に驚く御坂は違和感に気付く。
辺り一帯でもぞもぞとナニカが動き出していたのだ。
…それは爆散し、無数にはじけ飛んだ幻想猛獣の肉片。
AIMバーストの肉片から生まれ出てくるようにして姿を現したモノを見て御坂は声を失う。
195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 13:10:37.59 ID:cLOHSFDt0 [12/41]
ずらりと幻想猛獣に向かう小さな影。
ずらりと幻想猛獣に向かう小さな影。
…それは武装した兵士。
【整列しろっ! バッド・カンパニィーッ! 攻撃準備だぁッ!】
幻想猛獣の体内から響く雄々しい声に指揮をされ幾何学の形に整然と並ぶ軍隊。
小さな兵士の手に握られているのはM-16カービンライフル。
パラパラと独特のローター音を鳴らしながら宙を旋回するはAH-64攻撃ヘリ。
キャタピラ音を鳴り響かせながら砲塔を向けるはM1戦車とT-55戦車。
…それは異形の戦士。
【ハーヴェストッ! 油断するんじゃあないどっ!】
まだ声変わりをしていないであろう少年の声が大気を震わせる。
異形の戦士は腕を大きく広げ、幻想猛獣の前に立ちはだかる。
太い縞のはいった特徴的なカラーリングは生物ならば誰しも恐れる自然界での警戒色。
4本の腕を持つ無数の小人が幻想猛獣を取り囲む。
197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 13:24:00.15 ID:cLOHSFDt0 [13/41]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
四散した幻想猛獣の肉片から生まれでたモノを見た木山がボソリと呟く。
木山「あれに常識が通用しないことなど…判っていたはずだった」
木山「…一万人のAIM拡散力場が触媒になっているんだ。 何が起こっても不思議ではない」
木山「意志と力の塊であるAIMバーストならば…どのような能力をふるってもおかしくはないと…そう思っていた」
木山「…だが」
そこまで言って天を仰ぐ。
木山「これは…いったいどういうことなんだ?」
それは奇しくも御坂美琴が口にした『怪獣映画』のワンシーンのよう。
体長数十メートルに達しようとする幻想猛獣に立ちはだかるのは無数の兵士と戦士の混合部隊。
体長数十メートルに達しようとする幻想猛獣に立ちはだかるのは無数の兵士と戦士の混合部隊。
198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 13:32:47.40 ID:cLOHSFDt0 [14/41]
■原子力実験所前・広場
■原子力実験所前・広場
【全隊~~~~~~~~ッ! 攻撃態勢にうつれッッ!!】
【おまえたちっ! 気ぃ抜くんじゃないどっ!】
幻想猛獣からの声に従い、アサルトライフルを構える小さな兵士と拳を握る戦士たち。
AIMバーストの欠片から生まれしものがAIMバーストを討ち滅ぼさんとする光景。
それは反乱だった。
それは反乱だった。
「ntns欲sr」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」
「n羨rls」
「gw苦dgz」
「助wsdpl」
「jed救zj」
苦痛の悲鳴をあげながら足元に散らばる己の身体から生まれたものを見下ろす幻想猛獣。
自分の意思を伝える方法をそれしか知らぬと言わんばかりに触手を振り上げる。
天をさすかのように振り上げられた触手が唸りをあげて落下するのと同時に叫ぶ二つの声。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 13:49:06.36 ID:cLOHSFDt0 [15/41]
【全隊一斉射撃ッ! 全ミサイル全砲弾っ! すべてを撃ちつくせェェェーッ!!!】
【全隊一斉射撃ッ! 全ミサイル全砲弾っ! すべてを撃ちつくせェェェーッ!!!】
砲煙弾雨が幻想猛獣を蹂躙する。
降り注ぐ豪雨のような無数の弾丸が幻想猛獣の肥大した肉体を弾き飛ばす。
【いくどっ! 絶対にっ! 絶対に取り返すんだどっ!】
黒い嵐が幻想猛獣を取り囲む。
獰猛な蜂のように纏わり付き、小さな拳で持って幻想猛獣の肉を抉り出す。
御坂は、佐天は、初春は、木山は知らず知らずのうちに拳を握りその光景を見つめていた。
それはまるで囚われた一万人の希望の力。
押し潰され、踏み砕かれた心の奥底の熱い思い。
巨大な現実…見上げるのも馬鹿らしい壁に反抗し抗う一万人の意地が具現化したように見えた。
押し潰され、踏み砕かれた心の奥底の熱い思い。
巨大な現実…見上げるのも馬鹿らしい壁に反抗し抗う一万人の意地が具現化したように見えた。
「頑張れ…頑張れ…」
ポツリと、そう誰かが呟いた。
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 13:58:23.53 ID:cLOHSFDt0 [16/41]
いつ終わるともしれない攻撃。
撃ちぬかれ、狙撃され、爆撃され、切り裂かれていく圧倒的な破壊力の速度は幻想猛獣の再生速度を優に超えていた。
いつ終わるともしれない攻撃。
撃ちぬかれ、狙撃され、爆撃され、切り裂かれていく圧倒的な破壊力の速度は幻想猛獣の再生速度を優に超えていた。
幻想猛獣「キィィ゙…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
マンドラゴラの悲鳴のような叫びをあげながら大きく身震いをするAIMバースト。
その時、ボロボロにはじけ飛んだ身体の中にチラリと何かが見えた。
それは見間違うことのない億泰の身体。
それは見間違うことのない億泰の身体。
それを確認した戦士たちの攻撃がピタリと止まると同時に大気を震わす二つの声。
【グリーンベレェーッ! この期を逃すなぁっ!!】
【今だどっ! 億泰さんを取り返すんだどっ!】
攻撃を放棄した無数の軍勢が凄まじい速度で幻想猛獣に取り付いていく。
取り込まれた億泰を救わんと振るわれる無数の小さなナイフと拳。
切り裂き、掘り返し…ついには億泰の身体が幻想猛獣から開放された。
切り裂き、掘り返し…ついには億泰の身体が幻想猛獣から開放された。
しかし、億泰の身体に意志はなかった。
崩れるようにして地面に倒れ、ピクリとも動かない億泰。
崩れるようにして地面に倒れ、ピクリとも動かない億泰。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 14:12:42.00 ID:cLOHSFDt0 [17/41]
身動きをしない億泰に近付き、首筋に手を当てた御坂が下唇を噛む。
指先からは何の手応えも返ってこない。
身動きをしない億泰に近付き、首筋に手を当てた御坂が下唇を噛む。
指先からは何の手応えも返ってこない。
御坂「……間に合わなかった」
心臓の鼓動が止まった億泰から手を離した御坂の視線の先には暴れ狂う幻想猛獣。
幻想猛獣「キィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
赤ん坊の癇癪のように力場の塊を生成し、無差別に周辺を攻撃しだす幻想猛獣。
御坂「もう…容赦しないから」
ギリっと歯を食いしばった御坂に向かい幾つもの氷塊が降り注ぐ。
しかし。
御坂「通じるもんかぁっ!」
それらはすべて御坂の発した電撃によって迎撃され、破壊された。
御坂「自暴自棄もいい加減にしなさいよねっ!」
幻想猛獣に言葉をぶつける御坂。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 14:34:36.05 ID:cLOHSFDt0 [18/41]
幻想猛獣にやりきれない思いをぶつける御坂。
幻想猛獣にやりきれない思いをぶつける御坂。
御坂「どんだけ悔しくたって! やっていけないことくらいわかんないのっ?」
さして親しい間柄というわけではなかったが、それでも知人が目の前で死んだのだ。
間に合わなかった悔しさを電撃に込める御坂。
間に合わなかった悔しさを電撃に込める御坂。
だが、まだ諦めていない意志があった。
それは遠くで見守ることしか出来ない二人の少女の希望。
そして無数の軍勢を指揮する二人の男の遺志だった。
【億泰ッ! 言ったはずだっ! 決めるのは俺じゃないとっ!!】
兄の叱咤の声が億泰の心の臓を揺さぶる。
【そうだど億泰さん! いつまでもボンヤリしてる場合じゃないどっ!】
友人の激励の声が億泰の心の臓に血を送る。
それは―――確かに億泰に届いた。
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 14:41:07.57 ID:cLOHSFDt0 [19/41]
トクンと…消えてしまいそうな小さな鼓動。
トクンと…消えてしまいそうな小さな鼓動。
しかし、それは消えることはなく。
それどころか数を重ねるごとに力強さを増していく。
小さな呟きが聞こえた。
「……俺はよぉ~ 最初…夢見てんのかなぁ~って… そう思ったよ…」
声の主、虹村億泰は倒れたまま顔だけを持ち上げてぼんやり目の前の光景を眺めていた。
ジワリと億泰の瞳に涙が浮かび上がる。
ジワリと億泰の瞳に涙が浮かび上がる。
億泰「なぁ~… これやっぱり夢でしたっつーわけじゃあ…ねぇーんだよなぁ~」
そう漏らした小さな言葉に返事は帰ってこない。
だが…
幻想猛獣に間断なく攻撃を加える無数の軍勢は確かに『そこ』にいた。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 14:48:55.76 ID:cLOHSFDt0 [20/41]
【撃ち続けろっ! バッド・カンパニー!】
【撃ち続けろっ! バッド・カンパニー!】
【あんなデカブツ怖くなんかないどっ! おらのハーヴェストは無敵だどッ!】
止むことを知らない一斉射撃が氷塊を撃ちぬく。
獰猛な軍隊アリのように群がり、四方に伸びる触手を切り裂いていく。
獰猛な軍隊アリのように群がり、四方に伸びる触手を切り裂いていく。
そんな軍勢の中にぽっかりと小さな空間があった。
それはまるで最後のピースを待っているパズルのよう。
それはまるで最後のピースを待っているパズルのよう。
はやく立ち上がれと。
はやくここに戻って来いと。
はやくここに戻って来いと。
言葉にならなくとも確かにそれは億泰に伝わった。
億泰「……今行く。 今行くぜぇ…… 兄貴…重ちぃ」
自分に言い聞かせるように呟きながらゆっくりと立ち上がる億泰。
そして――虹村億泰は学園都市に来て初めてひとつの言葉を口にする。
218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 14:50:46.08 ID:cLOHSFDt0 [21/41]
億泰 「『ザ・ハンド』ッッッ!!!!」
それは『幽波紋』
ヴィジョン
それはパワーを持った像
それはパワーを持った像
Stand by me
それは『側に立つもの』
それは『側に立つもの』
stand up to
それは『立ち向かうもの』
それは『立ち向かうもの』
それはただ一言…こう呼ばれていた
『スタンド』―――と。
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 15:05:05.90 ID:cLOHSFDt0 [22/41]
立ち上がった億泰に驚く御坂美琴。
そして彼女はソレを見た。
立ち上がった億泰に驚く御坂美琴。
そして彼女はソレを見た。
目撃したのは御坂だけではない。
木山春生の瞳にも佐天涙子の瞳にも初春飾利の瞳にも確かに『スタンド』が映っていた。
木山春生の瞳にも佐天涙子の瞳にも初春飾利の瞳にも確かに『スタンド』が映っていた。
億泰の背後にゆらりと浮かび上がった影。
古代の拳闘士のような逞しい筋肉質の肉体。
表情を削ぎ落した無機質な機械のような顔面。
鋼のような胸板には億泰を象徴するかのような『¥』と『$』のマーク。
本来、スタンドを見ることができるのは同じくスタンド使いのみ。
AIMバーストの欠片から現れた軍勢とは違い、億泰の能力をスタンド使いではない彼女たちが見れることはありえない。
AIMバーストの欠片から現れた軍勢とは違い、億泰の能力をスタンド使いではない彼女たちが見れることはありえない。
だが、この場に限ってはそれは例外だったのだろう。
本来見えないはずの拡散力場が集合し、自我をもったAIMバーストがここに存在しているように。
AIM拡散力場が乱れたせいなのか? それとも川尻早人のように一時とはいえ決意が現実を凌駕したのか?
本来見えないはずの拡散力場が集合し、自我をもったAIMバーストがここに存在しているように。
AIM拡散力場が乱れたせいなのか? それとも川尻早人のように一時とはいえ決意が現実を凌駕したのか?
この答えはおそらく出ることはない。
しかし、ただひとつ確かに言えることがある。
しかし、ただひとつ確かに言えることがある。
それは虹村億泰のスタンド、ザ・ハンドがそこに立っているという事実がそこにあるということ。
224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 15:19:12.78 ID:cLOHSFDt0 [23/41]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
初春「オバケ……じゃあないですよね?」
億泰の側に立つスタンドを見てぼそりと呟く初春。
佐天「どうなんだろ …あたしに聞かれてもわかんないよ」
立て続けに起きる想像を遥かに超える事態を理解し切れない佐天。
木山「あれは…AIM拡散力場なのか? いや…個人で具現化するような力場など存在するはずがない」
科学者である木山春生も虹村億泰のスタンドについては全く把握できなかった。
その時、彼女たちの後ろからゼエゼエと息を切らした声がかかった。
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 15:25:01.38 ID:cLOHSFDt0 [24/41]
「お、お姉様は…無事なんですの? それに…あれはいったい?」
「お、お姉様は…無事なんですの? それに…あれはいったい?」
その声に驚いて振り向く初春。
初春「白井さん!? どうしてここに?」
そこには汗だくになった白井黒子がいた。
黒子「こ、固法さんがいらしたので…居ても立ってもいられずテレポートでここまで来たんですの」
ジャッジメントの支部に到着した先輩の固法に無理やり頼み込み、空間跳躍を駆使して現場に急行してきたということを息も絶え絶えにつたえる黒子。
黒子「演算の繰り返しで…少々頭痛がしますけど… それより初春? 状況の説明をお願いしますの」
少々とは言い難いほど疲弊している黒子。
壁に寄り掛かりズルズルと腰をおろす。
壁に寄り掛かりズルズルと腰をおろす。
そんな黒子の様子に驚きながらも説明をする初春と佐天。
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 15:31:44.77 ID:cLOHSFDt0 [25/41]
黒子「なるほど…思ったよりも事態は簡単ですのね」
黒子「なるほど…思ったよりも事態は簡単ですのね」
話を聞いた黒子が頷く。
簡単と言い切った黒子に目を丸くする佐天と初春。
簡単と言い切った黒子に目を丸くする佐天と初春。
佐天「か、簡単ですか?」
黒子「つまりは…AIMバーストをお姉様たちが倒せるかどうか… 問題はそれだけなのでしょう?」
初春「確かに言葉を言い換えればそういうことになりますけど…」
おぞましい巨体を震わせながら泣き叫ぶ幻想猛獣を見て言葉が詰まる初春を見て黒子が優しく諭す。
黒子「わたくしは信じてますの お姉様ならきっと何とかしてくれると」
そう言ってチラリと視線を移す。
黒子「それにお姉様には及ばなくとも… あそこの殿方だって信頼に値する人物でしょう?」
黒子の視線の先を追う佐天と初春。
そこいは無数の軍勢の中心に立つ億泰と御坂の姿があった。
241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 18:20:20.19 ID:cLOHSFDt0 [27/41]
幻想猛獣「jed救zj…ィィ゙…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
幻想猛獣「jed救zj…ィィ゙…ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!」
ノイズが幾重にもかかった悲鳴をあげるAIMバースト。
幻想から生まれた猛獣は一万人の学生たちの負の感情に突き動かされ暴走を続ける。
ワクチンソフトは既にこの世になく、内部からこの存在を制御するのはもはや不可能。
幻想から生まれた猛獣は一万人の学生たちの負の感情に突き動かされ暴走を続ける。
ワクチンソフトは既にこの世になく、内部からこの存在を制御するのはもはや不可能。
だが、その巨体の前に幾つもの人影が立ちふさがる。
それは群体であるAIMバーストの欠片から生まれた軍勢。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな戦士たち。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな戦士たち。
かつてそれを操っていた少年はもうこの世にいない。
しかし…スタンド『ハーヴェスト』は確かにそこにいた。
しかし…スタンド『ハーヴェスト』は確かにそこにいた。
そのざわめく『ハーヴェスト』の中をゆっくりと進む少女。
パチパチと音をたてる静電気をその身にまとい、AIMバーストを見上げるあどけない少女。
パチパチと音をたてる静電気をその身にまとい、AIMバーストを見上げるあどけない少女。
それは学園都市では知らぬものなどいない最強の『電撃使い』
七人しかいない最高レベルの『超能力者』である少女の名は御坂美琴といった。
七人しかいない最高レベルの『超能力者』である少女の名は御坂美琴といった。
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 18:31:36.19 ID:cLOHSFDt0 [28/41]
それは群体であるAIMバーストの欠片から生まれた軍隊。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな兵士たち。
それは群体であるAIMバーストの欠片から生まれた軍隊。
幻想猛獣と同じく群体でありながらも個である小さな兵士たち。
かつてそれを操っていた男はもうこの世にいない。
しかし『バッド・カンパニー』はまるで弟を守るかのようにその場に整列する。
しかし『バッド・カンパニー』はまるで弟を守るかのようにその場に整列する。
幾何学的に並んだ『バッド・カンパニー』の中央をゆっくりと歩く男。
今は亡き兄のスタンドと共に並ぶは億泰のスタンド『ザ・ハンド』
今は亡き兄のスタンドと共に並ぶは億泰のスタンド『ザ・ハンド』
右手で掴んだものならばなんであろうと問答無用で削りとる強力な力を操る男。
魔術でも科学でもない力を行使する男の名は虹村億泰という。
魔術でも科学でもない力を行使する男の名は虹村億泰という。
拳を握る『ハーヴェスト』
雷を操る『レールガン』
兵を操る『バッド・カンパニー』
そして全てを削りとることができる『ザ・ハンド』
雷を操る『レールガン』
兵を操る『バッド・カンパニー』
そして全てを削りとることができる『ザ・ハンド』
4つの力が立ち向かうは10000人の力場の塊。
思い通りにならない世界を呪う幻想猛獣を叩き伏せる怒涛の攻撃がはじまった。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 18:48:35.78 ID:cLOHSFDt0 [29/41]
御坂「ったく! メンドーな相手よね!」
御坂「ったく! メンドーな相手よね!」
伸びくる触手のすべてを雷撃でもって一掃した御坂が文句を口にする。
まるでその御坂の言葉に反発するかのように数を増した氷塊が宙に浮かぶ。
まるでその御坂の言葉に反発するかのように数を増した氷塊が宙に浮かぶ。
御坂「ハッ! どんだけ数があろうと!」
そう叫んで更なる電撃を放とうとするが、そんな御坂の攻撃より空を切り裂き飛来したのは無数の弾丸。
御坂「…へっ?」
次々と氷塊が撃ちぬかれ四散していくのを見て呆気にとられた声をあげる御坂。
思わず立ち尽くしてしまった御坂を襲おうと触手が再び御坂を襲う。
思わず立ち尽くしてしまった御坂を襲おうと触手が再び御坂を襲う。
【狙撃班っ! 気を抜くんじゃあないっ!!】
それらは全てミサイルと銃弾の嵐に撃ち落され砕け散る。
御坂「…ありがと。 助かったわ」
すぐ側でパラパラとホバリング音をたてているAH-64戦闘ヘリに言葉をかける御坂。
247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 19:03:40.38 ID:cLOHSFDt0 [30/41]
億泰「ウッシャアアアア!!!」
億泰「ウッシャアアアア!!!」
伸びくる触手を拳のラッシュで持って迎撃する億泰。
億泰「けっ! 油断しなきゃよぉ~ こんなトロイ攻撃に当たっかよォッ!」
AIMバーストを睨みつける億泰。
同時に宙より飛来する氷塊を軽々と粉砕する。
そんな億泰の耳に悔しそうな声が届いた。
同時に宙より飛来する氷塊を軽々と粉砕する。
そんな億泰の耳に悔しそうな声が届いた。
【うぐぐっ! ズルイどっ! 高いところから攻撃なんてルール違反だどっ!】
目を向ければ高所より飛来する氷塊に攻撃をする手段がなく慌てている小さな戦士たち。
億泰「よぉっ! そいつは俺に任せろよなぁ――ッ!」
駈け出しながら叫ぶ億泰。
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 19:14:41.06 ID:cLOHSFDt0 [31/41]
ハーヴェストを叩き潰さんと落下しだす氷塊に向かい、無造作に空間を引っ掻くザ・ハンド。
ハーヴェストを叩き潰さんと落下しだす氷塊に向かい、無造作に空間を引っ掻くザ・ハンド。
ありとあらゆるもの全てを削りとるザ・ハンドの手の軌跡が数瞬、その場に残る。
そして次の瞬間。
そして次の瞬間。
ガオン!
轟音と共にハーヴェストを襲っていた氷塊が億泰の目の前に現れる。
億泰「空間を削りとってぇ~ッ! 瞬間移動させるっ!」
その氷塊に向かい、高々と右手をあげるザ・ハンド。
億泰「そしてぇ~ッ! 更に『削る』ッ!」
氷塊に叩きつけるようにして加えられた掌打。
ガオン!
中心を削りとられた巨大な氷塊は自重を維持することができずに、砕け散った。
億泰「こーゆーシンプルな戦い方ならよぉ~ 負ける気しねーぜッ!」
ビシッとポーズを取る億泰。
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 19:48:06.77 ID:cLOHSFDt0 [32/41]
■幹線道路・高架下
■幹線道路・高架下
黒子「…圧倒的じゃないですの」
幻想猛獣を圧倒する御坂と億泰を見て声を失う黒子。
初春「ふぁー… 御坂さんだけじゃなく虹村さんも凄かったんですねー」
ポカンと口を開けながら喉の奥から素直な感想を口にする初春。
佐天「でも一万人の力場でしょ? あんな簡単にやられちゃうもんなの?」
佐天のそんな疑問を耳にした木山がボソリと口を開く。
木山「レールガンはともかく…あの少年も規格外ということなのだろう。 それともうひとつ」
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 19:51:33.60 ID:cLOHSFDt0 [33/41]
億泰と御坂の戦い方を見ていた木山は気がついたこと。
億泰と御坂の戦い方を見ていた木山は気がついたこと。
木山「攻撃が自然と挟撃の形をとっている。 衝動で動くAIMバーストには非常に効果的だ」
そう結論をだす木山に、聞き慣れない言葉を聞いた佐天が思わず問いかける。
佐天「えっと…キョウゲキっていうと…」
そう言った佐天をフォローするように初春が口を開く。
初春「虹村さんたちはあの怪物の右側から、御坂さんたちは左側ってことですよね?」
両手の人差し指をツンツンと突き合わせる初春を見て頷く木山。
木山「そうだ。 つまりはハサミうちの形になっているということだ」
そこまで説明したときだった。
AIMバーストの腹部からキラリと光が漏れ、それに気付いた木山がハッと驚いて叫ぶ。
木山「っ!? アレはっ!!」
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 20:06:18.30 ID:cLOHSFDt0 [34/41]
■原子力実験所前・広場
■原子力実験所前・広場
レールガン、ザ・ハンド、バッド・カンパニー、ハーヴェストの波状攻撃は如何に一万人の力場であろうと耐え切ることはできなかった。
絶大な威力をもつ攻撃に再生は追いつかず、まるで砂上の城のようにその身を崩しながらも、尚足を進める幻想猛獣。
絶大な威力をもつ攻撃に再生は追いつかず、まるで砂上の城のようにその身を崩しながらも、尚足を進める幻想猛獣。
そんなAIMバーストの前に億泰が立った。
億泰「オレもよぉ~… オメェー達の言い分も判らなくはねえ」
幻想猛獣「ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!!!!!!」
進路を塞がれたAIMバーストが威嚇のような鳴き声をあげる。
だが、そんな耳を塞ぎたくなるような叫びをその身に受けた億泰は静かに問いかけた。
だが、そんな耳を塞ぎたくなるような叫びをその身に受けた億泰は静かに問いかけた。
億泰「けどよぉ~ 『逃げ』たってよぉ~ その先にはよぉ~…なぁーんもないぜぇ~?」
AIMバーストは逃げている…そう億泰は指摘した。
その言葉が届いたのかどうか、AIMバーストはその巨体でもって億泰を押し潰さんとする。
その言葉が届いたのかどうか、AIMバーストはその巨体でもって億泰を押し潰さんとする。
だが。
億泰「忘れちまったのかぁ~? スデにてめーは充分! ザ・ハンドの射程距離内に入っちまってるっつーことをよぉ~」
ガ オ ン !!!
260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 20:11:32.18 ID:cLOHSFDt0 [35/41]
ありとあらゆる物を空間ごと削り取るザ・ハンドの右腕が音をたて幻想猛獣の身体を深く切り裂いていく。
ありとあらゆる物を空間ごと削り取るザ・ハンドの右腕が音をたて幻想猛獣の身体を深く切り裂いていく。
幻想猛獣「ギィィヤアアアァァァァァァッッッ!?」
熱したバターをスプーンで抉り取ったかのようにポッカリと大きな穴を開けられ苦悶の叫びをあげるAIMバースト。
内臓のように蠢く肉の中で光がきらめく。
内臓のように蠢く肉の中で光がきらめく。
見え隠れする金属の塊のような三角柱。
その時、遠くから木山の叫び声が届いた。
その時、遠くから木山の叫び声が届いた。
木山「っ!? 間違いないっ! それが力場を自立させている核だっ!」
その木山の叫びを聞き、右手をゆっくりとあげたのは御坂美琴だった。
掌の中には小さなコインが握られていた。
掌の中には小さなコインが握られていた。
だが、なぜか戸惑ったような表情を見せる御坂。
狙いをつけた態勢のまま億泰に問いかける。
狙いをつけた態勢のまま億泰に問いかける。
御坂「ねぇ……いいの?」
それが何を意味した言葉なのか察した億泰は静かにその問に答える。
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 20:25:04.55 ID:cLOHSFDt0 [36/41]
億泰「…あぁ こいつが消えればどうなるかくらいはよぉ~ …判ってるつもりだ」
億泰「…あぁ こいつが消えればどうなるかくらいはよぉ~ …判ってるつもりだ」
そう呟く億泰の視線の先…そこには一度たりとも忘れたことがない兄と友人のスタンドが並んでいた。
御坂「……そっか」
それ以上はもう何も聞けないとばかりに億泰から視線を外す御坂。
御坂美琴の視線の先には胎児の形をとったAIMバースト。
親指に力を込め、手の中のコインを宙に弾く。
太陽の光を反射するそれを一瞥もせず幻想猛獣に語りかける御坂。
太陽の光を反射するそれを一瞥もせず幻想猛獣に語りかける御坂。
御坂「ね。 わかったはずよ…バーチャルリアリティ、自分だけの現実をさ…他人に委ねなくたって可能性はあるってこと」
澄んだ音を立てた一枚のコインが高く高く宙を舞う。
御坂「だからさ…こんなトコで苦しんでないで」
そう、幼い子供に微笑み掛けるように告げた御坂の拳の上に小さな感触が戻ってきた。
御坂「…とっと自分に帰りなさい」
レールガン
呟いた御坂美琴の掌から撃ち出されたのはその名を冠する超電磁砲。
レールガン
呟いた御坂美琴の掌から撃ち出されたのはその名を冠する超電磁砲。
ローレンツ力で加速されたコインはAIMバーストを楽々と貫通し核に直撃。
音速の三倍というすさまじい破壊力に曝された核がピシリと小さな音を立て…砕けた。
音速の三倍というすさまじい破壊力に曝された核がピシリと小さな音を立て…砕けた。
267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 20:37:18.69 ID:cLOHSFDt0 [37/41]
巨体となった幻想猛獣が大きく歪み、灰のように霧散していく。
それはAIMバーストの欠片から生まれた戦士たちも例外ではなかった。
巨体となった幻想猛獣が大きく歪み、灰のように霧散していく。
それはAIMバーストの欠片から生まれた戦士たちも例外ではなかった。
別れの刻。
空気に溶けていくかのように消えていくバッド・カンパニーとハーヴェストを見て億泰は何かを言おうとして口を開く。
億泰「……っ」
だが…何を言えばいいのか判らず、拳を握り締める億泰。
そんな億泰に静かな声がかかった。
そんな億泰に静かな声がかかった。
【億泰…昔のおまえなら出来なかった決断だ。 『おまえ』が決めることが出来たんだ】
それは億泰の兄、虹村形兆の声。
【しししっ…この貸しもスッとぼけられないように手帳につけておくど】
それは億泰の友人、矢安宮重清の声。
空に舞う幻想猛獣の霧が僅かに人の姿を模したかのように揺らめく。
億泰「兄貴…重ちー…」
名前を呼ぶも答えが返ってくることはなく。
最後に何も聞こえなくなった大地に億泰は立ち続けていた。
最後に何も聞こえなくなった大地に億泰は立ち続けていた。
269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 20:51:53.98 ID:cLOHSFDt0 [38/41]
御坂美琴は空を見上げる億泰の表情が笑っているのか泣いているのか判らなかった。
御坂美琴は空を見上げる億泰の表情が笑っているのか泣いているのか判らなかった。
それでも、なにか言葉をかけようとした時に自分の異常に気付く。
御坂「…あれ? あれれ?」
空気の抜けた風船のような声を漏らす御坂。
すぐ側でなにかがベチャリと音を立てたことに気付いた億泰が振り返る。
そこには顔面から地面に倒れこんだまま悶えている御坂がいた。
そこには顔面から地面に倒れこんだまま悶えている御坂がいた。
億泰「……なにしてんだオメェ~?」
そんな御坂に呆れ返った声をかける億泰。
御坂「で、電池切れ。 もー無理 もー限界」
そう言い返す御坂を見て億泰がため息をつく。
億泰「…しかたねーなぁ~」
272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 21:01:15.89 ID:cLOHSFDt0 [39/41]
そう愚痴をこぼしながら御坂に近づく億泰。
しかし、その歩みは飛び込んできた小柄なツインテールの少女に遮られる。
そう愚痴をこぼしながら御坂に近づく億泰。
しかし、その歩みは飛び込んできた小柄なツインテールの少女に遮られる。
黒子「おおおおねえさまあああああああぁぁぁっっっ!!!!」
御坂「ちょっ! 黒子っ!? 待っ! 私動けなっ!」
ドグシャア!といった擬音と共に御坂に飛び込んできた闖入者。
御坂「なんであんたがここにっ? つーかどいてぇー」
白井黒子に組み伏せられた御坂は必死になってマウントをとった黒子に文句を言うが…
黒子「まぁお姉様? まぁまぁまぁお姉様? なんたる! なんたることですの!」
それは一言一句、只の一言も黒子の耳には届いていなかった。
手をワキワキさせながら御坂美琴の全身をまさぐる黒子。
手をワキワキさせながら御坂美琴の全身をまさぐる黒子。
黒子「んまぁっ! こんなとこに擦り傷が! あらまぁ! こーんなとこに青痣が!」
御坂の傷を見て目を丸くする黒子。
黒子「もしかして…あーんなところにも怪我があおりではなくて? こうなったときは黒子に全部おまかせですの!」
鼻息を荒くしながら御坂のシャツの中に手を突っ込もうとする黒子。
御坂「ちょ! ダッダメ! やめろーっ!」
ギャアアアという御坂の叫びが重く湿った空気を吹き飛ばしていく。
275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 21:40:46.24 ID:cLOHSFDt0 [40/41]
億泰「…なぁーにやってんだアイツラはぁ?」
億泰「…なぁーにやってんだアイツラはぁ?」
突如目の前で始まった寸劇に呆れる億泰。
アホクサっと呟いた億泰の瞳に映るのは二人の少女。
アホクサっと呟いた億泰の瞳に映るのは二人の少女。
初春「虹村さーん!」
佐天「だいじょぶ? ケガとかしてないの?」
パタパタとこちらに駆け寄ってきたのは佐天と初春。
億泰「よぉ~ オマエラこそ大丈夫なんかぁ~?」
そう言いながら佐天たちのもとに歩みを進める億泰。
だが、戦闘で疲弊していたのは御坂だけではなかった。
だが、戦闘で疲弊していたのは御坂だけではなかった。
億泰「おおっ!?」
ガクンと膝の力が抜ける億泰だったが、倒れる寸前、二つの手により引き起こされる。
佐天「ちょっと!? 全然ダメじゃない!」
初春「怪我とかしてないですか?」
億泰の肩を支えたのは佐天と初春の細く頼りない腕だった。
297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 01:11:03.70 ID:VjAy5Yo/0 [1/13]
自らを支えてくれた二人の少女を見て億泰がフゥと息を吐く。
自らを支えてくれた二人の少女を見て億泰がフゥと息を吐く。
億泰「すまねぇーなぁ~ …ショージキ立ってるのもシンドイからよぉ~ 肩かりるぜぇ~」
両脇に回った佐天と初春の肩に腕をおき、そのまま体を預ける億泰。
だが少女たちの細い腕では億泰の身体を支えるのは些か困難だった。
だが少女たちの細い腕では億泰の身体を支えるのは些か困難だった。
佐天「お、重っ! 重いって! てゆーか全体重かけないでよ!」
初春「に、虹村さーん。 このままじゃ私たちも一緒に潰れちゃいますぅ」
情けない声をあげる佐天と初春。
億泰「おいおーい もぉーちっとしっかりしてくんねぇとよぉ~。 フラフラして落ち着きワリーんだよなぁ~」
ズルズルと土煙をあげながら引き摺られることに文句を言う億泰。
佐天「いやいやいや まじで無理だから」
初春「はっはい! が、頑張りますぅ~…」
気丈にそう言い返す佐天、返事は立派だが既に足元がフラフラの初春。
漢字の山のようにアンバランスな三人の前に木山が立った。
298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 01:15:29.06 ID:VjAy5Yo/0 [2/13]
億泰「……誰だぁ~?」
億泰「……誰だぁ~?」
初対面である木山を見て眉をひそめながら疑問の声をあげる億泰。
しかし木山はそれに答える時間が惜しいとでも言いたげにそれを黙殺。
それどころか逆に億泰に向かって質問を投げかけた。
しかし木山はそれに答える時間が惜しいとでも言いたげにそれを黙殺。
それどころか逆に億泰に向かって質問を投げかけた。
木山「ぶしつけだがひとつ聞かせてもらいたい……あれはいったい何なんだ? 君は能力者なのか?」
億泰「あぁ~? いきなり出てきて何言うかと思えばよぉ~ …質問を質問で返すなって学校の先生に教わらなかったのかぁ~?」
突然あらわれた傷だらけの女性にスタンドのことを問われ、乱暴に突っぱねる億泰。
だが、木山はそれに怯むことなく食い下がった。
だが、木山はそれに怯むことなく食い下がった。
木山「今は学者だが以前は教鞭をとっていた。 名は木山春生という」
億泰「はぁ~ って…あんたセンセーなんかよ!?」
木山「…元教師だ。 それで気分を害したなら謝ろう。 だから教えてくれ。 あの能力はなんだ?」
それは木山にとって新たなる可能性のひとつ。
そんな木山の希望は困ったような億泰のセリフで打ち砕かれた。
そんな木山の希望は困ったような億泰のセリフで打ち砕かれた。
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 01:27:35.14 ID:VjAy5Yo/0 [3/13]
億泰「悪りーんスけど… オレの力についちゃあ迂闊に話すなって言われてんスよねぇ~」
木山のただ事ではない雰囲気を感じ、素直にそう答える億泰。
木山「…そうか」
それを聞いて、木山の顔が地に伏せる。
数十秒の沈黙がその場を支配した。
数十秒の沈黙がその場を支配した。
佐天「あ、あの…?」
初春「木山先生?」
木山の顔にはウェーブの髪がかかり、表情が読めない。
傍目から見ればひどく落ち込んでいるように見え、佐天と初春が心配そうな声をだす。
傍目から見ればひどく落ち込んでいるように見え、佐天と初春が心配そうな声をだす。
その少女たちの問いかけを聞いて木山がゆっくりと顔をあげた。
木山春生の瞳には映るのは諦めの光ではなく、熱意の光だった。
木山春生の瞳には映るのは諦めの光ではなく、熱意の光だった。
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 02:07:07.14 ID:VjAy5Yo/0 [4/13]
木山「…まぁいい。 また最初からやり直すさ」
木山「…まぁいい。 また最初からやり直すさ」
遠くから響いてきた物音の方向に顔を向ける木山。
それはアンチスキルの車輌から響くサイレンの音。
まもなくここに武装した警備員が押し寄せるというのに、木山は静かに笑っていた。
それはアンチスキルの車輌から響くサイレンの音。
まもなくここに武装した警備員が押し寄せるというのに、木山は静かに笑っていた。
木山「どこに行こうと私の頭脳は私と共にある。 私は『あの子達』を救うためならば手段を選ぶつもりはない」
誰にともなくそう呟くと、ゆっくりアンチスキルの方向に歩き出す。
投降するために両手をあげた木山が、ふと何かを思い出したように振り返った。
投降するために両手をあげた木山が、ふと何かを思い出したように振り返った。
木山「…あぁそうだ君。 …そう、そこの大きな君のことだ」
そう億泰に話しかける木山。
それはなんとなくの思いつきだった。
それはなんとなくの思いつきだった。
木山「そういえば先程の戦闘でAIMバーストと戦っていた人の形をした力場。 あれの名前は何と言ったかな?」
億泰「あぁ… まぁ名前くらいなら問題ねぇーだろぉーしなぁ~ アレは『ザ・ハンド』っつー名前だ」
その億泰の答えを聞いてクツクツと笑う木山。
木山「フ…やはり聞き間違えではなかったか。 どうにも皮肉な話だ」
レベルアッパー ザ・ハンド
木山「幻想御手と幻想の御手か。 …まったく。 奇妙な因縁かなにかで君は呼ばれたのかね?」
木山「幻想御手と幻想の御手か。 …まったく。 奇妙な因縁かなにかで君は呼ばれたのかね?」
315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 02:18:58.24 ID:VjAy5Yo/0 [5/13]
そう言葉を残し面白そうに笑いながら去っていく木山。
そう言葉を残し面白そうに笑いながら去っていく木山。
佐天「…おかしな人」
駆けつけたアンチスキルに自ら手を差し出し手錠をかけるようにした木山を見てポツリと呟く佐天。
佐天の視線の先を追いながら初春が静かに返事をする。
佐天の視線の先を追いながら初春が静かに返事をする。
初春「そうですね… でも、また何処かで会う気がします」
一時は誘拐犯とその被害者という関係でもあったが、どこか憎めない木山が護送車に詰め込まれていく。
何とも言えない静まり返った空気が辺りを包む。
何とも言えない静まり返った空気が辺りを包む。
黙りこくった少女たちを現実に引き戻したのは億泰の間延びした声。
億泰「何だか知んねーけどよぉ~ 疲れたしとっとと帰ろーぜぇ~」
その言葉と共にズッシリと少女たちの肩にかかる体重。
だが、そんな億泰の声に返ってきたのは震えた声だった
だが、そんな億泰の声に返ってきたのは震えた声だった
佐天「あーごめん。 …重すぎ。 あたしもう限界」
初春「わ、私もですー あそこのアンチスキルのとこまで辿りつけるかどうか…」
億泰「…おいおいおい」
30秒後、億泰「倒れるんじゃあねえ」と15回言うものの、佐天と初春は転倒。
遅れてやってきた黒子と御坂が泥まみれになった三人を見て大爆笑したのは言うまでもなかった。
遅れてやってきた黒子と御坂が泥まみれになった三人を見て大爆笑したのは言うまでもなかった。
……かくしてレベルアッパー事件はいくつかの疑問の種を巻きながら幕を閉じる。
317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 02:40:36.05 ID:VjAy5Yo/0 [6/13]
■窓のないビル
■窓のないビル
その部屋には窓が無い。ドアも階段もエレベーターも無い。
そんな棺桶のような巨大な空間の中央にあるのは円筒状の装置を睨みつける一人の少年。
そんな棺桶のような巨大な空間の中央にあるのは円筒状の装置を睨みつける一人の少年。
土御門「説明してもらおうか」
その言葉は巨大な円筒に向かい叩きつけられたもの。
――ゴポリと大きな音をたてた水槽の中には『人間』がいた。
――ゴポリと大きな音をたてた水槽の中には『人間』がいた。
「説明…とは?」
うっすらと笑いながら『人間』は逆に土御門に問いかける。
土御門「この学園都市に現れた二人目の『右手の』男のことだ。 …おまえが黒幕だっていうことは言われなくても判っている」
「ふむ。 確かにその件に関しては私が許可をくだしたな。 …それで終わりか?」
笑みを崩さぬままたやすく土御門の問いかけをあっさり肯定し、意地悪く聞き返す『人間』
土御門「…まさかお前が直々に出張ってくるとは思わなくてな。 それほどまでに警戒すべき相手なのかと気になっただけだ」
『人間』のとった行動を皮肉るような土御門の一言は僅かに『人間』の眉を動かした。
「あれの持つ力など…もとより私は興味がないのだが」
土御門「だったら……何故あの男を呼び込んだんだ? 興味も警戒する必要もない男を招き入れたその理由を聞かせてもらおうか」
土御門「どうした? お前と違って俺はすぐに老いるんだ。 答えてもらおうか…『アレイスター・クロウリー』?」
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 02:54:27.00 ID:VjAy5Yo/0 [7/13]
「ふむ。 理由を話すにはまず幾つかの説明をしなければならんな」
「ふむ。 理由を話すにはまず幾つかの説明をしなければならんな」
自らの名を呼び捨てられても気にすることなく口を開くアレイスター。
とはいえ、これは多角スパイである土御門だからこそ。
知らぬものが名を呼び捨てにすれば、いつ気まぐれで殺されるのか判らないほどの暴挙でもあった。
とはいえ、これは多角スパイである土御門だからこそ。
知らぬものが名を呼び捨てにすれば、いつ気まぐれで殺されるのか判らないほどの暴挙でもあった。
ゆらりとカプセルの中で揺れたアレイスターが言葉を紡ぐ。
「この学園都市でようやく能力者を生み出せるようになった頃まで遡る」
それは誰にも話したことのないアレイスターの記憶。
「――私が『彼』と出会ったのは1988年」
部屋の空気が重くなり、気がつけばシャツがじっとりと嫌な汗で濡れていることに気がつく土御門。
ゆっくりと回想にふけるアレイスター。
「『彼』はこう私に問いかけた」
「『天国を信じるかい?』…と」
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/22(金) 02:55:25.45 ID:VjAy5Yo/0 [8/13]
■???
■???
「本当の『幸福』とはなんだと思う?」
――エジプトから来たという男はそう私に問いを投げかけた。
「本当の『幸福』とは『天国』にある…私はそう考えている」
――人でありながら人あらざる者。
「私は勝利者になる。 そして真の勝利者とは『天国を見た者』であるはず」
――若く美しい超越者は言葉を続ける。
「そのためならばどのような犠牲を払おうと…どのような障害が私の前に立ち塞がろうと『勝利し支配』してみせるつもりだ」
――限りなく近い在り方でありながら私とは決定的に違う在り方を体現している男。
326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/22(金) 02:58:42.22 ID:VjAy5Yo/0 [9/13]
「なぁ…君はどう思う? 『アレイスター』?」
「なぁ…君はどう思う? 『アレイスター』?」
――私の答えを聞いてその男は些か残念だったらしい。
「…そうか。 君は私と同じく既に求めるべき『答え』を持っているようだな」
――そう言ってゆらりと音もなく立ち上がる。
「なに、気にすることはないさ。 君の選んだ『答え』もまた人間が更に進むべき『道』だろう」
――妖しい色気を振りまきながら立ち上がった男の瞳の奥に一瞬揺らめいた感情はいまだに不明だ。
「また会おう『友』よ。 次に会うときは私が『あの血統の一族』と『決着』をつけた後だ」
――そう男は別れの言葉を残して暗闇に消えていく。
「…そうそう。 言い忘れていた。 まずないとは思うが覚えていてくれ.。 もしも――」
――私がその男と会話をしたのはそれが最後だ。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/22(金) 03:19:26.91 ID:VjAy5Yo/0 [10/13]
■窓のないビル
■窓のないビル
土御門「それと『あの男』、虹村億泰になんの関係がある?」
アレイスターの記憶を聞く。
ただそれだけの受動的な行動をしただけで極度に緊張していた自分に気がつく土御門。
ただそれだけの受動的な行動をしただけで極度に緊張していた自分に気がつく土御門。
「関係は――あるというほどでもないな」
故に、あっさりとそう言い捨てたアレイスターの言葉は土御門の理解の範疇を超えていた。
土御門「…どういうことだ?」
眉をひそめた土御門に向かって退屈そうに言葉を返すアレイスター。
「強いて言うならば興味が『あった』というまでのことだ」
うっすらと笑うアレイスターは聖人のようで魔人のよう。
「そうだな―――呼び寄せてみるのも一興か」
もはやアレイスターは土御門の存在に興味など持っていなかった。
下唇を噛みながら『人間』に背を向ける土御門。
下唇を噛みながら『人間』に背を向ける土御門。
土御門「ハードラックに気をつけるんだなアレイスター。 おまえの『世界』が壊れないように…だ」
負け惜しみの言葉を吐き捨てた土御門が暗闇に消えて数秒後。
完全な密室の中でアレイスター・クロウリーは『友』の名を呼んだ。
完全な密室の中でアレイスター・クロウリーは『友』の名を呼んだ。
「君の意志はまだこの世に残っているのか? 我が友――『DIO』よ」
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/22(金) 03:33:04.46 ID:VjAy5Yo/0 [11/13]
■学園都市・上空
■学園都市・上空
壁に囲まれた巨大都市に大きな風が吹きこみはじめる。
その風は新しい未来を切り拓く勇気の風。
幾つもの疑問を残し、幾つもの未来を残したまま風は学園都市を駆け巡る。
何が始まり何が終わるか。
誰が出会い誰が別れるか。
それらすべてはいまだ謎のままである。
☞To Be Continued?