ステラ・プレイヤーズ 20*大町星雨

 その後しばらく、基地全体に暗い雰囲気が漂っていた。他の基地の中にはこの作戦で場所がばれた所もあって、そこからの避難者で基地の人口はむしろ増えていた。でも会話は少なく、みんなが気を紛らわしに行くせいもあって、訓練場の音だけがにぎやかだった。
「青貝市で探してみたけど、やっぱりあの自衛隊基地以外のことはほとんど出てこなかった。基地のパソコンに侵入しようとはしたんだけど、こっちのプログラムが少なすぎて」
 食堂の端に座りながら、大斗がいらついたように机を指先で叩いた。私は落ち込んだのがばれないように、うつむいて食べ物を口に運んだ。
兄貴達が今どうしてるか、知りたかった。私が脱出した後、家族に関する情報は全く手に入らなかった。アラルから何か私の話を聞かされたのか。それとも全然私の事は分からないままでいるのか。私の側から連絡したくても、このクロリア基地の場所を漏らす危険は冒せなかった。通信電波から発信元をつきとめられてしまう。
さすがの大斗でも、私が担いできたパソコン一台じゃどうにもならないみたいだった。アルタたちに協力してもらって、クローゼットの中に古パソコン集めてプログラム作り直してるらしいんだけど。
「くそっ、あの部屋の設備さえあれば、クロリアの情報部も入れない所にだってハッキングしてやるってのに。ハッカーの名折れだよなぁ」
 ……情報部の人が聞いたら怒るよ。
「そうだ、航宙部隊って、訓練生期間終わるのいつなの? 私はあと半月だって言われたけど」
 暗くなった雰囲気を壊そうと、話題を変えることにした。大斗が顔を上げてこっちを見た。
「本当はあと二ヶ月なんだけど、試験早めに受けさせてもらえることになったから。後と十日ちょいかな」
「ハッキングやったの?」
「ここの訓練過程システムは、もっとセキュリティ強化すべきだね」
 大斗がにやりと笑った。何で同じ内容なのにハッキングだと覚えられるの?
「となると、俺のほうが初陣先かな」
 大斗が飲み物をあおりながら言って、私はえっと声を上げた。
「一ヵ月後にアラル軍の輸送船を襲う作戦があるんだ。試験に受かればそれに参加する事になるだろ」
 そう、と私はつぶやいた。大斗のことだから大丈夫だろうけど、やっぱり不安だな……。
「心配すんなって。俺がいなくても、ミラがお前の面倒見てくれるから。ただし無茶するんじゃないぞ」
「ちょっ、子ども扱いするな! 先月で十五になったんだからね! 大斗のほうが三ヶ月も年下じゃない!」
 私が大声を出すと、大斗は面白そうに笑って私の肘打ちをよけた。
 全く、心配して損した!

 当然といえば当然だけど、大斗は普通より一ヵ月半も早く訓練生期間を終えて、実戦に参加する事になった。出撃前に、私は教官に頼んで訓練を抜け、大斗を見送りに行った。
 にぎやかな格納庫を見回すと、戦闘機の横でトレーンさんと話しているのを見つけた。
「ティート君が初出撃だって聞いたから、がんばってぐらい言おうと思って」
 トレーンさんが頭をかきながら言った。
「トレーンさん、里菜の面倒よろしくお願いします」
 大斗が冗談を飛ばした。私がむっとしそうになるのをこらえていると、トレーンさんが笑った。
「平気さ。オルキーランは不死だって伝説もあるぐらいなんだから」
「すげえ、まさにエルフじゃ痛え!」
 調子に乗った大斗のつま先を、私が思いっきり踏みつけた。放っておくとすぐこうなんだから!
「そっちこそ、アルタたちの足引っ張らないようにしなよ」
「大丈夫。心配すんなって」
 出発の時間が来て、私たちはこぶしをぶつけあって別れた。斜めに開いた地上への通路に向かって、銀色の戦闘機が次々と飛び立っていく。
 そしてまた、私は静かな基地に取り残される事になった。ミラはいるけど、大斗はいない。
「男たちがいないとさびしいねぇ」
 夕食後自分たちの部屋に向かいながら、ミラがわざとまのびした口調で言った。私は黙って頷く。
 管制室の前にさしかかると、自然と目線がオルア星を映したスクリーンに向かった。ふっと目を離そうとした時、画面の端がポッと光った。慌てて視線を戻すと、宇宙船を示す黄色い点が表示されていた。見ている間にも、その点は次々と増えていく。私は血がすーっと足元に落ちていくのを感じた。
 航宙部隊がこんなに早く帰ってくるはずない。ってことは。
「アラル軍だ」
 私がつぶやくと同時に、敵機を知らせるサイレンが建物の中に響き渡った。

 ミラと私は荒れた息を落ち着けようとしながら、宇宙船で入り口の脇にうずくまっていた。森は夜の闇に包まれ、暗視装置と星の明かりだけが頼りだ。私は胸に下げた戦闘機迎撃用の銃を持ち上げた。安全装置を確かめる。更に腰のエネルギー拳銃にも触れて、上着の下に隠したクラルをそっと握り締めた。
 手首につけた指令伝達装置を見ると、『待機』という指示の下に敵機到着までの予測時間がカウントダウンで表示されていた。
 大斗、どうも私の方が先に戦う事になっちゃうみたいだ。
 指令装置がピンと音を立て、画面が『敵機接近中 安全装置を解除せよ』に切り替わり、更に3Dの地図が表示された。戦闘機の点の塊が、こっちに近づいてきている。本当なら今頃航宙部隊が迎え撃ってるはずなんだけど、半分以上が出払ってるせいで、脱出する輸送船を守りながら飛ぶのが精一杯だ。だから戦闘機の相手を地上部隊がしなきゃいけない。
 私は胸元の銃を構えると、見えてきた小さな赤い光に狙いをつけた。


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最終更新:2012年01月20日 16:34