コンストン物語 1*小豆

 ぽつんとたたずむ石にとって世界とは、一年で色が入れ替わる草の丘と、月ごとに流れが変わる白い雲と、一日に千変万化する空だった。
 そこに、銀ギツネが加わったのは、つい最近の事だ。
「やあ、おはよう」
「ご機嫌いかがかな」
「今日も平和だね」
銀ギツネと出会ってから、石は風景を眺めることを忘れた。一日中何度も、銀ギツネとの会話を思い出してはにやにやしていた。朝になれば、今日もあの、白と灰と黒の混ざった毛並みの獣がどこかに見えはしないかと、せわしなく周りを見渡すのだった。


 ある日の事だ。
 銀ギツネが石に質問した。
「君達はどうやって生まれるんだい?」
 石は過去の事をキツネに語って聞かせた。地面の下に行けばいくほど暖かくなっていくこと。最後には何もかもがドロドロにとけてしまうくらいに熱くなること。そのドロドロしたものが、ふとした拍子に地上へ飛びだしてくること。ドロドロしたものは飛びだした後、冷えて固まって大きな岩になること。その岩を、雨や風は時間をかけて削っていくこと。
 そして自分は、その岩から削られた破片の一つに過ぎないこと。
 銀ギツネは黙って話を聞いていたが、最後の話を聞くと驚いたように言った。
「君は僕の足裏と同じくらいはあるのに、それでも岩とやらのひと欠片に過ぎないのかい?」
 銀ギツネにとっては考えたこともないような大きさなのだろう。宙をにらみつけながら考えこんでしまった。
 それを眺めながら、ふと、石は不思議に思った。
 何故、銀ギツネと石は、会話をしているのだろうか。
 石にとって、動物とは目の前を通り過ぎていく物体に過ぎない。動物にとっても、石はどこにでもある物体の一つに過ぎないはずだ。何度も蹴飛ばされた事がある石は、強くそう信じていた。
 尋ねると、銀ギツネは首をかしげながら答えた。
「僕は変わり者なのかも知れない。石と話した事は君としかない。他の石は何を言っているのか分からないんだ。でも君の言っている事なら、何となく分かる。不思議な事だ」
 石にとっても、不思議だった。
 どうして彼と自分は通じ合っているのだろうか。
 石はぐるぐると思考を回していたが、そもそも何をかき回しているのかすらも分からなくなってきた。そんな事もあるのだろう、と、とりあえず目の前の事実を受け止める事にした。
「僕もそう思う事にするよ。難しいことを考えるのは苦手なんだ」
 それから二人は、取り留めのないことをいつまでも話していた。



進む




















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最終更新:2012年07月18日 14:10