コンストン物語 2*小豆

 またまたある日の事だ。銀ギツネが口の周りを赤く染めて何かを運んできた。それは長い尾を持っていて、茶色の毛並みを血でぬらしていた。顔は醜く歪んでいて、濁った黒い目が恐怖で見開かれていた。
 銀ギツネはそれを、石の目の前に置いた。
「これはネズミというものだ。僕が食べる物の一つだよ」
 石は興味深そうにネズミを見た。ピクリとも動かない。動物は動く物なので、動かないこれは植物なのだろうと石は思った。少なくとも、自分の仲間である岩石ではなかった。
 石がそう言うと、銀色のキツネは真っ赤な舌を見せて笑った。
「このネズミも僕と同じ動物だよ。僕が殺したから死んだのだ。動物は死ぬと動かなくなるんだ」
 石はなるほど、うなずいた。では、昼夜問わず動いている雲はなんなのだろう。そう言うと、銀ギツネは困ったように首をかしげた。
「あぁ、そうか。雲も動物なのかも知れないなぁ。近くで見たことが無いから、今まで考えたこともなかった。今度、雲と出会えるくらい高い所に行ったら聞いてみるよ」
 石は、それはいい、と言った。そしてその時は、自分をくわえて登ってくれ、と頼んだ。頼んでから、これはすごい思い付きのように感じた。ずっとずっと昔からここで、じぃっ、としていたのに。運んでもらうということを考えたことがなかったのが全く不思議だった。
「それは楽しそうだ!」
 銀ギツネも嬉しそうに笑った。
「よしっ、練習がてら、そこの川まで運んでみようじゃないか」
 銀ギツネは鼻で、遠くにあって青い線のように見える川を示した。石も、行こう、早く行こう、と銀ギツネを急かした。
 さっそく銀ギツネは、口で石をくわえ、川の方へと歩き始めた。
 しかし銀ギツネは、運ぶ途中で何度も石を地面に置いて休憩した。川の近くまで来た時には、くわえずに前脚で石を引きずっていた。
 石を川の岸辺に置いてから銀ギツネは申し訳なさそうに言った。
「君は僕には重すぎたよ……。それに長い距離を運んだら、きっと僕は歯を痛めてしまうよ」
 石は諦めるしかなかった。もし銀ギツネが歯を痛めたら、物を食べることができなくなってしまうだろう。そして物を食べることができなくなったら、銀ギツネは──キツネに限らず動物は──死んでしまう。
 それでも石は満足していた。地表に顔を出してからずっと丘の上にいたのだ。遠くからでは青色にしか見えなかった細い線が、今では目の前で、澄んだ水をたたえて流れている。
石は、うなだれている銀キツネに、明日から水で遊んでみよう、と声をかけた。
「それはいい!」
 石と銀ギツネは互いに笑い合ってから、さようならをした。
 空にたちこめる黒い雲のせいで、きれいな夕焼けは見られなかったが、石は新しい居場所が嬉しかったので気にしなかった。




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最終更新:2012年07月18日 14:10