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クチートの逆襲


私が家に帰って部屋の扉をあけると、突然上から水が流れ出てきました。
部屋にいたのは…
「くちっ♪」
そう、クチートです。
あざむきポケモンと言う名の通り、人を騙したり悪戯をするのが大好きな、いじっぱりなポケモンです。
そしてその被害に遭うのは、決まって私なのです。



一体どこで覚えて来たのでしょうか。
部屋の扉を開けると、ロケット花火が飛んでくる事などザラです。
公園で木に縛られていると思い、近づいたら自分で緩く結んでいたのか、すぐにほどいてこちらにアカンベーをしてきたこともありました。

いつかクチートにお仕置きをしてやろう。
私はそう心に決めました。



ある日私はロープを買ってきました。
そしてその晩、寝静まったクチートに近づき、上の口をロープで縛り、両手を後ろ手に縛り、天井から吊り下げました。
「クチート!」
私はわざとらしくそう言ってクチートに張り手をお見舞いしてやりました。
「くち?」
と言ってクチートは目を覚ましたようでした。



そしてクチートはすぐに自分が縛られ身動きがとれなくなっていることに気付き、外そうともがくのですが、思うようにいかず、自慢の上の口にも力が入らないようです。
「毎日毎日度の過ぎた悪戯ばかりして。お仕置きよ。」
私はそう言うとライターを取り出し、クチートの足を焙り始めました。
クチートは叫びながらも熱さに耐えているようにも思えました。
勿論これくらいでは済むはずがありません。



私はクチートに私が受けた痛みを思い知らせてやろうと思い、ちょうどクチートが悪戯をするために集めた花火がある場所へと下がりました。
見つけ出して火をつけようとした、まさにその時、ボコッ、と鈍い音がしたかと思うと、だんだん目の前が真っ暗になっていくような感じがしました。
その時私が最後に見たのは、嘲笑うかのように笑みを浮かべたクチートの姿でした。

気がつくと私は先ほどまでクチートを縛っていたはずのロープで縛られ、手は動かせず、口にもロープをかまされ、どうすることもできない状況でした。
そしてクチートは私の腹部に体重をかけて馬乗りになっています。
私はこの状況を理解するのに少し時間がかかりました。



きっとクチートは初めからロープを抜けられるように細工をしていたのだと思います。
そして今までの悪戯のお仕置きといわれて、腹が立ったので私に仕返しをしてやろうと思ったのだと思います。
しかし今原因が分かった所で、私がこの状況を抜け出せる訳ではありません。
私は自分がこうなる状況を作ってしまったことに対して少し悔やみながら、クチートが次に出る行動について想像していました。
というのも、クチートに対して何かを行うときに障害となり、今までお仕置きを躊躇っていた理由でもある、あの牙の剥きだしになった上の口のためです。
それが恐いから、クチートが寝ている時を見計らい、ロープで口を縛ったのです。



あの口に噛まれたら命さえも危ないと言う事は、説明するまでもありません。
以前テレビで飼っているクチートに無残なまでに噛みちぎられた人の事を見た事があります。
そのような恐怖に思いを寄せているときに、ふと気がついてみると、クチートがどこかに消えていました。
すると突然怪しげな物音がし始めました。
体をよじり上を見たその時、



ごふっ
上からクチートが突撃して…いや、落ちてきました。
上から加速する速度、それがちょうど上を向いた私の腹部に直撃し、私は抗うこともできなくなりました。
そこからはクチートの為すがままです。
私はその時最悪の事態を想像し、あまりの恐ろしさに声も出すことが出来ませんでした。
その時の私にできたのは、自分の死を諦観することだけでした。



「では、次のニュースです。
昨夜未明、マサラタウンでトレーナーがポケモンに襲われ死亡するという事件が起きました。
亡くなったトレーナーは、フグリさん10歳で、ポケモンリーグに挑戦しようと、各地のジムを巡っている所だったと言うことで、夢が叶う前に他界してしまった大変悲しい出来事です。
夜中、物音に気付き母親が2階に昇ると、フグリさんが飼っていたクチートに縛られた上に頭を食いちぎらんばかりに噛み付かれ、母親が追い払ったのですが、既に意識はなく、クチートに殺された形となりました。
フグリさんはクチートに抵抗するでもなく、自分の死に何故か納得した表情を浮かべていたそうです。」
最終更新:2011年04月16日 14:21
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