狂気に変わりゆく



それは運命の出会いともいうべき光景であった。
狂い咲いたラフレシアと、若き三つの美しき花。
同じ場所にいる以上、彼──津軽兄と、三人の幼女が顔を合わせるのは必然ともいうべき出来事。
それは悲しい必然と言えた。

人より一回りほど大きな筋肉が、男の服を千切り上半身は露出状態にあった。
そして、その身に浴びた返り血は、彼が何かの死や傷害に関わったことを見せびらかしている。
それが上半身に付着した血液だけならば、彼が直接関わってないといえたかもしれない。襲われたのかもしれないし、あるいは通りすがりにややあって血を浴びたとか。……どういう状況か想像もつかないが。
しかし、とてもそういう事情に見せないのは、血を浴びて尚、こちらを見て何か笑っているように見えるのと、その手に汚れた刀を持っていたからだ。

「な……何なんですの? あの人──」

「……とにかく、普通の人じゃないのは確かね。逃げるわよ」

言われずともそうするつもりだった。沙都子も、アイリスも。
彼女たちの足は走る体勢ではないとはいえ、直立していたし、逃げろと言えば逃げられるかもしれない状態だ。
だが、寄ってくるその男を見ると何もできないらしい。睨まれてから、全ての身体の機能が止まっている。震え以外の全ての機能を停止して、ただ直立する。
彼からうまく逃げ去る自分の姿がイメージできないのも無理はない。沙都子が倒れるようにしりもちをつくと、アイリスもそれと同じになった。ここに立っているのは哀だけ。
この場で動けるような精神を持つのは哀のみ──そういえば、犯罪者を前にした自分の同級生も一人除いてこんな感じだったか。

「この遊園地は本当に楽しいなァァァァァァァァッッ!! 獲物がどんどん沸いてくるぞォォォォォォォォォォォッ!!!」

その声は、確かに全員の耳に聞こえた。遮られることなく。正気をとっくに失っている声。本当の犯罪者の、暴走して壊れはてた心理が響く。哀もそれが本気であることを察する。冗談には到底聞こえない。
霊力とか、あるいはトラップとか。そんな自分の特技も、「殺される」という気持ちに埋もれる。獲物とは、殺されるもののことで、自分たちのことだ。それが幼心にもわかったらしい。本能的に怖がっているだけなら、この言葉でここまで取り乱したりはしないだろう。
だから、二人の目に涙が溜まっているのを哀は見た。

「アイリス、こわいよぉ……」

「ひっ……誰か、助け……」

とても正気には見えない恐れ切った顔で必死にどこかに行こうとしているが、残念ながら彼女はセンチ単位でしか動いていない。それも、足は震えて動かず、腕だけが前に行くような状態だ。本人には一歩でも逃げているつもりと感じているかもしれない。
哀も、仲間のこんな様子に戦慄した。冷や汗も出るし、この二人へのストレスも来る。
まさかこんなことになるとは……という気持ちだ。アイリスのわがまま、そして変質者の隠語連発を怨む。そして、この遊園地に来た自分のミスを哀は怨む。

(仕方ないわね……)

彼女たちをここに放って逃げるわけにもいかず、哀は仕方がなく勇気を振り絞った行動に出る。
仮にも18歳の女性。少し母性が働いて、この少女たちを死なせたくないという気持ちになった。
だいたい、彼女たちにあたるのはお門違い。そもそも、彼女たちだって巻き込まれた一人なのだから。

「こっちよ、こっち!」

手のひらを自分の側に向けて何度も指を引く、扇動の動作に出た。
野球のリードのように、足を細かく右側に寄せていき、相手を挑発する。
追うならばこっちにしろ、という動作だ。少女二人はここで逃げる準備をしていてもらおう。
後でここに戻ってくる、と小声で二人に言ったが、うまく届いたかはわからなかった。

この体格では、おそらく追いつかれるのも時間の問題。
津軽兄は笑いを堪えようともせず、血を舐めながら歩いてくる。哀が出会った中でも最狂クラスの殺人鬼かもしれない。
そのうえ、彼の足音が一歩一歩、確かに踏む音が聞こえるのを感じ、その力強さに哀でさえ血相を変え──一瞬動けなくなった。

「早く来なさい!」

哀はすぐに、ダッシュを始める。
と同時に、津軽兄も走り出した。右手に構えた刀は、思った以上に黒が染み渡っている。
刀の色じゃない。ビターチョコレートのような色だ。誤った使い方をしない限り、刃物がこの色に染まることはない。
おそらく、この刀は時間を待たずして錆だらけになるだろう。

「一人逃げたかァァァァァァァァッッ!!!! まずはそこのパツキンのクソガキからだァァぁぁぁぁぁlっぁじゃkぢあおあいdッ!!!!」

声にならない声を聞いて、哀は身体を止めた。
哀の挑発が全く効いていない? ──いや、むしろ聞いていないのか?
哀の言葉の意図も全く読まず、会話を成立させること自体を放棄したのか?
ともかく、金髪の少女といえば、あの二人だ。おそらくはアイリス。特徴として、黄色のイメージはアイリスの方が強かった。
哀が振り向くと、兄が狙っていたのはやはりアイリス。あのまままっすぐ走ったと仮定して、その軌道上にいるのは間違いなくアイリスだろう。

(どうしてそうなるのよ……っ!?)

狂気を全ての力の源にしたのが、彼なのか。
本当の意味で、バーサーカー。理性はなく、時に会話も通じず、闘争本能に従う魔獣のような男。
ああいう男が、何の意味もない死体を生み出す。
そんな人間を許せるはずがあるだろうか。
哀はアイリスの元へと走っていきたかったが、それが無意味だということ。自分という無駄な犠牲が増えること。そして、もう間に合わないこと──全てを悟った。

彼女は心の中で、二人に一言謝る。
────ごめん
私は、あなたたちを助けられないらしい。

「こっちよ! こっち! こっちに来なさい!」

振り向きもせず、ただそう叫びながら哀はアイリスたちに背を向けて走り出した。
無論、彼女がその後のことを知る由もない。
そこにアイリスと沙都子の死体が転がるのみと、そう思っただろう。

──が、現実は違った。

★ ★ ★ ★ ★

アイリスは、帝国華撃団である。
帝国華撃団は戦う少女の集団だが、何故その中にアイリスというひときわ小さい少女がいたのか。
さくらという少女には剣技があり、すみれという少女には長刀があり、マリアという少女には銃があり、カンナという少女には空手があり、紅蘭という少女には発明がある。
このうち全員に共通した能力において、アイリスは秀でていた。

 ──霊力──

彼女たちの動かす、「霊子甲冑」の原動力で、魔物を倒すために必要な力。
それを最も具体的な形で使うことができるのがアイリスだ。
まだ若さゆえに暴走を起こすし、この力を完全に制御することはできない。
だが、沙都子が目を瞑り、死を覚悟してうつむいているときに、アイリスは願った。

(お願い……どこかに行って!)

その願いは霊力となる。
アイリスの願いは霊力がある限り、現実なのだ。
咄嗟に相手の動きを止めようと前に出された左手が、霊力を発動する。

(アイリスたちを襲わないで……! アイリスたちの前から……消えて!)

手から放たれた光に、兄の笑顔も絶やされる。
その次の瞬間、これはアイリスも知らないうちにだ──

兄の視界から、アイリスと沙都子の姿が消える。
否、アイリスと沙都子の視界から兄が消えたのだ。
それはアイリスが強く願ったゆえの力の暴走だった。

「……あれ?」

アイリスは、なかなか振り下ろされも突き刺されもしない自分が不自然だと感じた。
恐る恐る、目を開けるとそこに兄はいない。四方、八方、十六方位どこを見てもそこに狂人の姿はない。
アイリスはつい翳していた自らの左手を眺めた。

(そっかぁ~。アイリスの霊力があいつをどっかにやったんだ……)

アイリスは笑顔で、「さ~と~こ!」と呼んだ。
ガタガタと振るえ、頭を押さえ、怯えている様子の沙都子を、慰めようとしたのだ。
もう、兄はいない。だから、うまい具合に事は運べたんだと一刻も早く伝えたくて仕方がない様子だった。

「もうアイツはどっかに行っちゃったよ!」

「え……? どうしてですの?」

沙都子は頭で組んだ両腕を解き、アイリスと同じく十六方位を見つめた。
確かに、あいつはいない。
しかし、あれだけの狂人が去ったとは思えないし、まだ警戒心を解くことができないようだった。

「そうだなぁ。突然、フワッて消えちゃったの」

アイリスが悪戯っぽく笑った。本当に、アイリスにとってはそれは悪戯心の笑みだ。まあ、霊力について教えてしまったらマリアたちに怒られるのもある。アイリスは怒られるのが大嫌いだ。
マリアもいないし、こっそり話してもよさそうだが、沙都子の反応はこちらのほうが面白そうだ。
霊力も伏せられるし、彼女にとっては一石二鳥。

──だが、沙都子にとって「人が消える」という事実が、印象深い出来事なのか、アイリスは知らないのだった。

★ ★ ★ ★ ★

「どうしたんだよッッッ!!!! 畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁッッッ!!!」

彼は持ち前の筋肉で、ジェットコースターのレールを支える巨大な柱を一つ、ぶん殴った。
そこには見事な拳の痕と、ボロボロの破片がくっついていた。
彼はこのどうしようもない苛立ちを、この巨大な柱を何度もぶん殴ることで晴らそうとした。
目の前の獲物──それも子供を前に、興奮度もかなり高かった。
心置きなく殺しつくせる。
そんな期待を裏切る、あのテレポート。ここは一応、遊園地の中だが、また鬼ごっことは気分が萎える。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
この遊園地を、全て破壊しろ。壊しつくせ。──最初からあった衝動が、さらに強制的なものへと変わる。

「ぶっ壊れろよやぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁッッッ!!!!!」

この遊園地のために、筋肉強化剤は今、空き瓶となっている。
その空き瓶さえ食いかねない勢いだ。
それだけの苛立ち、その嘆き、その咆哮、その怒り、その巨体、その叫び、そのプライド、その衝動、そのストレス、その病気、その魚、その鏡、その理由、その弟、そのアキカン、そのピンセット、その靴下、その虱、その友人、その白濁液、そのヒップホップ、その品川、その上腕二頭筋。その大麻。そのリンゴ。その僕。そのコード。
──もはや思考が正常に思考してはいない証拠の証である。
つまり、彼の筋肉強化剤で強化された肉体と精神の意味するところを文章に表し、書き表すとこうなる。
その腕。前。柱。殴る。壊れる。へこむ。散らばる。
その足。前。蹴る。柱。壊れる。へこむ。散らばる。

折れる。折れる。壊れる。散らばる。降ってくる。落ちてくる。破片。
つまり。雨。粉。見える。破片。散らばる。落ちる。

────折れる。倒れる。俺。楽しい。俺。笑う。あはは。笑う。壊れる。ジェットーコースターの柱。支える。柱。倒れる。折れる。割れる。ぶっ壊れる。ぶち壊れる。ぶりぶり壊れる。壊れる。壊してる。壊せ。

「ウガガガアァァァァァァァアァッァゲヴァアアエアァアァァァッッッぅ!!」

筋肉強化剤を大量に服用した結果として、発達した筋肉はやがて脳を押しつぶし始めた。
ただ、本能や神経はまだ正常にある。だからこそ恐ろしい。思考も会話もできずとも、武器の使い方や奪い方を本能的にまだ覚えているし、闘争本能は永久に逃げられない。
破壊衝動だって、消えていない。
現実に今、ジェットコースターを支える柱をバラバラにしているのだから。

「ウゲェェァッァァァェウッェウガガガェェェェェッ!!!!! イヒヒヒャヒャヒャハッッッぅ!!!!!!」

笑うことも、できる。
笑う。壊れると。壊させると。壊れさせると。破壊。楽しい。魚。いっぱい。
弟。壊す。姉。壊す。娘。壊す。母。壊す。ともだち。壊す。俺。壊す。父。壊す。犬。壊す。将軍。壊す。
リコーダー。壊す。挨拶。壊す。破壊。壊す。恋。壊す。夢。壊す。トイレ。壊す。アイロン。壊す。東京。壊す。
麻雀。壊す。ケケケ。壊す。鬼。壊す。筋肉。壊す。判断。壊す。アドリブ。壊す。マジンガーZ。壊す。
笑える。全速力の便所。壊す。明日の林道。壊す。北京の寿司職人。壊す。生きろ!生きろ!を壊す。
疾走する壊すを曲げながら壊す魂の壊すを改めて壊す。荷物は全て渡すからさを壊す。細マチ子を壊す。
アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!を壊して、こっちよ!こっち!こっちに来なさい!を埋める。
■■■を■■■■して、■■■■にしてやって、■■■に壊させて、■■■■■に埋めた。
こわすをKOWASUをコワスを壊す。

★ ★ ★ ★ ★

ドシン。
凄い音が鳴ったはずだ。
何故なら、それは遊園地の外では、観覧車の次くらいにはっきり見えるアトラクションが壊れる音だったから。

多くは、何の音だろう、と思うだろう。
誰かが気付くはずもない。異変には気付いても、誰かがそれを確かな形で知りえることはなかった。

「アイリスさん、あの人が消えたって──」

沙都子。彼女もまた、上空から傾き降ちてくる、ジェットコースターのレールに気付かない参加者の一人だった。
何故か、アイリスの話に興味があったからだ。
兄。北条悟史。彼はまた、「消えて」いる。鬼隠しという単語に真実を埋められて。
毎年、一人が死んで一人が消えるという綿流しの言い伝え。その「消えた」もの──。

「消えたって、どういうことですの!!」

沙都子は血相を変えて、アイリスに掴みかかった。
これが鬼隠し? アイリスの笑顔は、まるで何かを知っているようにさえ見える。
何かを知っていて隠している? 何のために?
理由はわからない。だが、何故彼女は笑う?
何故、人が消えたことで何かを知っているのに、彼女は隠して笑うのか。

「アイリス知らないよ! 本当に、アイリス知らないもん! 離してよ、沙都子!」

焦ったアイリスは、先ほどとは違う態度をとった。まさか沙都子がここまで怒るとは思わなかっただろう。
驚き、放心した様子だった。アイリスは喧嘩が嫌いだ。だが、今の流れで何故こうなってしまったのかがわからない。
笑みを崩したアイリスに、自然と安心を感じた沙都子は一度正気に戻る。

「……すみません、つい……」

目の前のアイリスが、先ほどのアイリスとはまるで別人のように見えた沙都子だった。
まあいい。どうやら、少なくとも今ここにいるアイリスはあの鬼隠しについて知らない。
では先ほどのアイリスは何? もうひとつの人格? 何かにのっとられたアイリス?

「いいよ、沙都子。でも、アイリス、ケンカはきらいだよ!」

ムッとしたアイリスに、沙都子は頭を下げた。
それを見て、アイリスも安堵する。沙都子は今のところ、正気を取り戻したような姿だった。
まあ、無理もない。先ほどまで殺されかけていたのだ。アイリスだって、正気とはいえない。

「じゃあ沙都子、哀をここで待ってようよ! あいつはもういないんだし、ここにいても大丈夫だよね?」

「ええ、そのようですわね……それに私、少し休みたいですわ」

「ねえ沙都子。前から思ってたけど、沙都子ってすみれみたいだよね。話し方とかさぁ。哀はマリアみたいな感じかな」

「誰ですの? そのすみれさんやマリアさんって……」

「アイリスの『なかま』だよ! み~んなここにいるの!」

「そ……そうですか」

先ほどまでアイリスを悪いイメージで捉えていた沙都子は、アイリスの『仲間』という言葉が、部活メンバーのような『友情』ではなく、悪事を働く『組織』的な仲間のように聞こえた。
が、こんなに小さな子供が組織? よく考えたら、バカらしい。
自分はさっきまで何を考えていたんだろう……と数分前の自分に赤面した。

「すみれはねぇ……すっごい目立ちたがりなの! でも、アイリスにお化粧教えてくれたりするんだよ! それでねぇ……」

世田話を続けようと、アイリスの言葉に耳を傾けた直後である。
ブォン、という何かが歪むような音がすぐ近くから聞こえた。
何の音か……それを確かめようと、音が聞こえた方を向いたとき──

「え……? うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

彼女たち二人のごく近くに設置されたジェットコースターのレールが、柱の根元からこちら側に倒れてこようとしていた。
距離を見たが、アイリスたちは明らかにレールより手前側にいるはずだ。
だが、そのせいで柱がこちらに倒れてきそうだった。レールにぶつかるかなど関係ない。どちらにせよ、柱が二人の頭上に落ちていく計算だ。
この場を動かなかったのが災いしたのかもしれない。

(大丈夫……さっきと同じように、……アイリスには霊力があるんだから!)

アイリスは自らと沙都子の身体をテレポートさせようと、沙都子の手を握ってテレポートしようとする。
沙都子にしてみれば、なぜ彼女が突然自分の手を握ったのかはわからない。怖くてすがったのかもしれないが、それにしてはアイリスの顔は凛としていた。

(……どうして、霊力が発動できな──)

その凛とした顔も、すぐに崩れていく。
霊力を使い、生きながらえることはもうできなかった。
彼女には「制限」がある。
今の二人は、前方から倒れてくる柱から、逃げる術がなく、ただそれが頭上に降ってくるのを待つのみだった。

★ ★ ★ ★ ★

逃げてきた。
灰原哀は、結構な距離を逃げてきた。
あの狂人から逃げるために。
しかし、後ろにはそんな狂人見当たらない。
あの男に殺されないよう、逃げてきたからだ。
あの場ではああするしかなかった。
そう、小さな少女二人を見捨て、最年少のフリをして逃げることくらいしか。

(情けないわ……こんなことになるなんて!)

二人の少女はおそらく死んだ。
苦しかっただろう。怖かっただろう。痛かっただろう。
それに対して、自分は何か。
足が疲れて、汗が出て。それが彼女たちの苦しみと等価か?
哀はあの場で、少しでも彼女たちを救うべく尽力するべきではなかったのか?

(……あれは!)

酷い自己嫌悪の中、哀が正面を見上げると、遠めに知っている人の姿があった。
あれは、……あの特徴的な格好は──。
どう見ても、ああ、どう見ても。間違いない。
あの身長。あの頭身。あのスーツ。

(工藤くん!?)

江戸川コナンの名で通る少年──いや、哀はその正体を知っている。
高校生探偵、工藤新一……。
ともかく、疲れ果てた体を彼のほうへ持って行こうと必死だった。
彼に全てを話そう。
彼ならば、今の自分を正してくれる。
彼に話せば、彼は相当怒るだろう。
だから、哀は今、それを望んでいるのだ。
走ろうとした。
小学生の身体は、もう息があがっていて限界だった。

その時、向こうで新一が哀の姿を見た。目が合った。
あとは、向こうに足を運ぶだけ。
よろよろとしながらも、向こうに足を運ぶだけ……。

「灰原っ────」

新一の表情は、ひどく険しく、こちらへすぐに走りよろうとしていた。
まるで全てを知っているかのように、険しい形相で……。
いや、彼ならば知っているのだろう。知っていてもおかしくない。頭脳明晰。推理力抜群。彼を前には、全ての謎と隠し事はすぐに真実となって解き明かされてしまう。

「────危ないっ!!」

だが、彼が走りよろうとした意味は哀の思っていたものとは全然違っていた。
その言葉の意味、その言葉の教えたかったこと。いずれもわからない。
しかし、哀は同時に音も聞いていた。何かが崩れる音──そう、上だ。上からだ。


ドシンッ。
上を見て、驚いた表情をした顔も、直後には潰された。
華奢な身体はもうない。

────コナンと北岡が駆け寄ったとき、そこに少女の姿は無く、大量の血液が倒れた柱の下から流れているだけだった。

【灰原哀@名探偵コナン 死亡】
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最終更新:2011年08月10日 23:26