第1話

継がれゆく命


災いを経て人々が集ったここユタトラで
3人の長老を中心とした社会にて人々は裕福では決して無くも
少しずつではあるが世界の復興に臨んでいた

今日はそんなユタトラで娯楽にと 季節ごとに開催されるモンスターバトル
その記念すべき第一回大会の決勝戦が行われる日であった

~ユタトラ島~

モルグ「はい!きょーおは何の日っフッフーゥ!!そう!Sランクソルド大会の日ィ!
    日頃サイフのヒモが固い島民も今日だけは羽振りがいい!
    つまり露店商にとってはまさに書き入れ時っ!うっひょっひょ!」

この男はモルグ 銀髪のヴァシアタ人男性・・・
大きなワームを連れた うすら汚い商人
お金のニオイにつられユタトラまでやってきた守銭奴である
ご親切に独り言で自己紹介をしている彼のところに
バトルを観戦しにきた親子が通りかかった

幼女「お母さん なんか変な人がいるー」
母親「しっ!見ちゃだめ!」
モルグ「やぁ~お嬢ちゃん!紫のウロコ買わないかい?」

そう言うとモルグは糸を通した大量の紫のウロコをジャラッと取り出し見せびらかす

幼女「えー いらなーい」
母親「ほら 早く行かないと席なくなっちゃうよ」

うさんくさい商人を尻目に足早に大会会場へと向かう親子であった

モルグ「せちがれぇのぉ・・・シンムぅ」
シンム「ムシュ」

そんな商人と親子のやり取りを見ていた男がすっと立ち寄り
モルグに話しかけた

シェマ「オホン ちょっといいかな?」
モルグ「ヘイヘイ!紫のウロコは大特価!1枚120spでっせ!」

彼の名前はシェマ 訳あって若くしてシディララマの長老代理になった人物
もちろん彼がモルグに話しかけた理由はウロコを買うためではなかった

シェマ「・・・出店許可証・・・」
モルグ「・・・ホワット?」
シェマ「出店許可証がないと露店を開いちゃいけないんだが・・・」

今日に限らず大会の日は通常 会場の混雑と露店の乱立を防止するため
予め協会を通し許可をもらった者だけが出店を許されるのだが
モルグはそんなもの持っていなかった上
とんでもない思考回路でファイナルアンサーを導き出してしまう

モルグ「むっ!キサマさては私のシマを荒らそうとしてる商売敵だな!
    そんなこと言って私を追い出すつもりか!ミエミエだべ!
    イッチョ前に羽なんかつけやがって!ボコボコにしてやるぁー!」

そういうとクネクネと変なステップを踏みながらシェマに襲い掛かるモルグ
一方のシェマは落ち着いた様子で横にいるディナシーに一声

シェマ「アトロポス 頼んだ」

2秒でボコボコにされたモルグは留置所に連行されたのであった

めでたしめでたし

~大会会場~

所変わってソルド大会開催会場・・・
そこでは実況解説が拡声器越しに鳴り響き
今まさに決勝戦が始まろうとしていた

ブチョー「さぁ会場にお集まりの紳士淑女のみなさん!
     ついにバトルトーナメントの決勝戦が行われます!
     東コーナーはBブロックのベル選手とティタン!
     西コーナーはCブロックのマッカム選手とメギラス!
     両者ともこれまで圧倒的な強さを見せつけ勝ち上がってきた猛者ァ!
     マバタキ厳禁のバトルの火蓋が今!切って落とされます!!
     尚ジャッジは私 ブチョーが勤めさせていただきます!なにとぞーォ!!」

ベル「がんばってね」
ティタン「ゴー」

マッカム「・・・」
メギラス「フシュル・・・」

ベルはシディララマのブリーダーで落ち着いた感じの女性
相棒のティタンも温厚な性格で知られる種族のゴーレム
いぶし銀と言おうか 堅実な戦い方で決勝に駒を進めた
先の災厄以前から活躍しているマスターテイマーだ

片やマッカムは身長180cmはあろう体躯の覆面ブリーダー
漆黒のドラゴン メギラスを率いトントン拍子で決勝戦まで勝ちあがった
ヴァシアタ出身のハイハンドラー・・・

そんな両雄を観客席から見守る一人の男・・・
名前はナイジ シディララマ人の青年・・・
シディララマ襲撃の際家族を亡くし
大海嘯以降 根無し草な生活を送っていた彼も
数少ない娯楽である今回のモンスターバトルに夢中になっていた

ナイジ「やべぇ ABブロックの試合ばっか観てたから
    あのドラゴンはノーマークだった・・・
    すっげぇなぁ でっけぇなぁ ベルさん勝てるかなぁ」

ベルとは同郷ということもあり大会初日からずっと応援し続けてきた
別ブロックの試合に気が回らなかったのだろう
初めて見るドラゴンの迫力に気圧されていた

ナイジ「あぁ でもなんか凄い戦いの予感がするぜぇ
    来てよかったぁぁ~!」

そんな中ついに決勝戦開始のゴングが鳴り響いた・・・
真っ先に声をあげたのは東コーナーのベル

ベル「ティタン タックル!距離をつめて!」

お互いのモンスターは牽制しあうと思いきや
ベルのティタンはメギラスに向かい大きく踏み込んだ
岩の塊が突進する迫力は会場にも伝わりボルテージが上がる

マッカム「(接近戦に持ち込むか・・・常套手段だな)
     メギラス まずは距離をとって様子を見ろ」

ティタン「グォオオォオ!!」

突進してきたティタンを翼を使ったバックステップでかわし
一定の距離を保つメギラス 睨み合いになる2体のモンスター
次に指示を出したのはマッカムだった

マッカム「ファイアブレスだ」
メギラス「ギャォオオ!!」

命令を聞いてすぐさま攻撃動作に入るメギラス
口から灼熱の炎を吐き出し一直線 ティタンに浴びせる

直撃・・・! だが岩の体に炎はあまりダメージがない
ティタンが赤熱する様子もなく ベルは程度の知れた攻撃だと見切っていた

ベル「もう一度近距離に! タックル!」
ティタン「ゴーゴーオ!」

ティタンの雄たけびを聞き すかさずマッカムもメギラスにサインで指示をだす

マッカム「(右前にすれ違って後ろから倒せ)」

命令を確認したメギラスもティタンに向かい走り出す

驀進する2体の巨大モンスターが激突しようとしたその瞬間
メギラスは右方向に体を回転させながらタックルを回避し
その太い尾を大きく振りかぶりティタンめがけて放った

がしかし
その視線の先には上半身を大きく捻りこちらを睨み付けるティタンの姿があった

ベル「そこ!竜巻パンチ!」

あらかじめ計画されていたのか 瞬時にティタンはタックルから身を翻し
丸太にも形容し難い太さの2本の岩の腕で旋風を巻き起こす

マッカム「飛べ!」

危険を察知したマッカムはメギラスにそう命令し
メギラスは攻撃動作をやめ地面を蹴り飛び上がった

ベル「(横に広いこの攻撃を避けるには最も効果的な回避行動・・・でも)
      そのままロケットパンチ!!」

ティタンは回転する体を傾け上空に飛び出したメギラスめがけ
回転の威力を殺すことなくロケットパンチを繰り出した

ドッッ!!

ティタンの左腕は空中で見事にメギラスの腹部を捕らえ
その巨体を空へと吹き飛ばし 会場が驚きの歓声に包まれる
しかし2人のブリーダーは冷静だった

ベル「(あのドラゴンの体重を考えればあんなにも大げさに吹き飛ぶのは・・・
      あしらわれた・・・?)」
マッカム「(2手先を既に読んでいようだが・・・まだ甘い)
      メギラス!その左腕 お返ししろ 丁重にな」
メギラス「グオオオオォア!」

空高く飛ばされたメギラスはその指示と同時に咆哮を上げ
両翼で空気を殴り飛ばすに羽ばたき ティタンめがけ一気に急降下した
その腕にティタンの左腕を抱えたまま・・・

ベル「! ティタン!」
ティタン「ごごっ・・・ごぉ!」

左腕を飛び道具として離脱させた結果 体勢を崩したティタンは
必死に空から猛スピードで迫り来る相手に対し身構えた

そんなティタンにまず一撃・・・
メギラスが降下中に投げた“自らの左腕”が直撃し
轟音と共に地面へ仰向けに倒れこむ

そして二撃目・・・倒れこんだティタンに対し
メギラスはその巨体と 重力を味方につけた攻撃 ふみつけを繰り出す

ボグァォォォッ!!

石畳で出来た会場の床を割り 地面にめり込む岩の巨体・・・
息を飲むような戦いとはまさにこのことなのだろう
ジャッジを任されている男もこの迫力の前にただ唖然としていた

マッカム「おい」
ブチョー「・・・」
マッカム「おい審判 カウントをしろ」
ブチョー「え!?あ!はい!」
ベル「その必要はないわ ギブアップします それに 判定はK.O.よ」
ブチョー「へ!?あ!はい!」
マッカム「賢明だな・・・」

ブチョー「この勝負!メギラス選手のけっ K.O.勝ちです!!
     よって今大会の優勝者はぁ・・・ マッカム選手とメギラーース!!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

割れんばかりの歓声が会場に響き渡り
ナイジもまた ただただ感動するばかりであった

ナイジ「す・・・ すんげぇ・・・」

そんな観客達をよそに ベルはティタンのところに駆け寄り彼の身を案じ
マッカムはメギラスと共に静かに控え室へと帰って行った

そして表彰式も終わり・・・今大会はマッカムの優勝で幕を閉じたのであった

会場を後にする観客の中で一人 興奮冷めやらぬナイジは
さっきまで2体のモンスターが戦っていた場所
ドラゴンの炎で焼けた柱・・・ ゴーレムが走り砕けた石畳・・・
そんな戦いの痕跡を見つめこう呟いた

ナイジ「オレも ブリーダーになってみたいな・・・」

そんなナイジの呟きを聞き 目を輝かせながら近づいてくる少女がいた

エルナ「ねっ!ねねねね!」
ナイジ「っんっ?」
エルナ「キミ!今ブリーダーになりたいって言ったよね!」
ナイジ「え?あ・・・あれ?そんなこと言ったかな?」
エルナ「言った言った!あのね!私こういうものなんだけど!」

そういうと少女はポーチから取り出した紙切れを渡す

ナイジ「ユタトラモンスター協会 ブリーダー認定試験 試験官 の・・・
    エルナ・・・さん?」
エルナ「エルナでいいわ あなたの名前は?」
ナイジ「あ・・・ナイジ・・・です(しゅ・・・宗教の勧誘か?)」
エルナ「そう!ナイジさん!ブリーダーになってみない!?」
アニャムー「みゃみゃー!」
エルナ「あ このコはアニャムー 私の相棒よ」
ナイジ「は・・・ はぁ・・・(腕振り回すのやめてくんねぇかな・・・)」
エルナ「見たところあなたすごく才能ありそうね・・・うん
    これはブリーダーになるべきよ!そうにちがいないわ!」
アニャムー「みゃんみゃみゃーあ!」
ナイジ「いや・・・そんな急に言われても・・・試験受けなきゃだし・・・
    それに・・・モンスターもいないし」
エルナ「試験はキアイでなんとかなるわ!モンスターは協会から派遣されるし
    よかったらぜひぜひ受けてほしいな!
    今日の夜神殿でモンスターの配布があるの!きてくれるかな?」
ナイジ「いいとも!っあ゙ッ!」
エルナ「そういってくれるって信じてた!じゃあまた後でね!」
アニャムー「にゃー!!」

そういい残すとエルナは会場の外へと歩いていった

ナイジ「しまった・・・なぜかいいともと言ってしまった・・・なぜだ・・・
    参ったなぁ・・・しかし・・・」

ナイジはそうボヤくと ガシガシと頭を掻きながらコロシアムに目をやった

ナイジ「いいかもな・・・ブリーダー
    でも才能があるって へへへ・・・オレも隅に置けねぇな へへっ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら会場を後にするとそこには
先ほど悪徳商人に捕まっていた幼女に話しかけるエルナの姿があった

エルナ「ねぇお嬢さん!ブリーダーになってみない!?」
ナイジ「ってだれでもええん かーい!」

大また開きでツッコむナイジであった

~神殿~

そしてその夜 エルナに言われたとおり島にある神殿へと足を運んだナイジ

ナイジ「それでも来てしまうオレ・・・ まぁ暇だし・・・」

エルナ「あっ!ペケジさん!こっちこっち!」
ナイジ「・・・ナイジです」
エルナ「ごっごめんなさい!ナイジさん!でも 来てくれてありがとう!」
アニャムー「みゃっみゃぁあー!」

そんな2人の元にジャラジャラと飾り立てた服を着た青年が歩み寄ってきた

フラセール「お エルナちゃん 彼がさっき言ってたペケジかい?」
ナイジ「・・・ナイジです」
フラセール「おっと それは聞き間違えた ごめんよエルナちゃん」
ナイジ「(そっちかい!)」
エルナ「フラセールさん! ナイジさん紹介するわ この人が神官のフラセールさん」
フラセール「よろしくな!ナイジ!」
ナイジ「はぁ・・・よろしくおねがいします・・・(チャラい・・・)」
フラセール「しっかし他の試験官が連れてきた志願者・・・
      才能ないのかやる気がないのか・・・合格者がまだ2人なんだ・・・」

フラセールが不意にそう呟き それを聞いたナイジが身構える

ナイジ「え?も もう試験が始まってるんですか?」
フラセール「ん?あぁ まぁ そうとも言う かな」
エルナ「まずはモンスターと絆を結ぶの 例外は・・・あるけど・・・
    それが出来ないとモンスターと心を通わせることが出来ないから・・・」
アニャムー「みゃんみゃー!」
フラセール「そうそう やり方は簡単だけど 得手不得手っていうかな・・・」
ナイジ「あぁ なるほど・・・」
フラセール「まぁ順番が回ってきたら説明するからさ!イッパツで決めてくれよ!」

チャラい神官はそう言うとまた神殿中央にある祭壇へと向かっていった

ナイジ「・・・な なんか一気に不安になってきた・・・」
エルナ「ナイジさんならきっと大丈夫!さ!もうすぐ出番よ!がんばって!」
アニャムー「にゃんみゃあんにゃーーーー!!」

志願者達が次々と祭壇に上がり あるときは喜びの声
またあるときは悲しみの声 無言で立ち去る者もいた
そしてナイジの番・・・

エルナ「はい!ナイジさん!この円盤石をどうぞ!」
ナイジ「あれ 前の人たちはなんか選んでたような・・・」
フラセール「すまん・・・ 一応円盤石は高級品で・・・ それしか残ってない・・・」
ナイジ「・・・胃が・・・」

そんなナイジをよそにフラセールはモンスター再生の手順の説明を始めた

フラセール「ほい!じゃあナイジ!この煌石を持ってな?
      祭壇の中央に円盤石と一緒に置いて
      そんで心をこめて生まれろー生まれろー!って念じるんだ!
      分かったかい?」
ナイジ「・・・抽象的すぎて分かりません・・・」
フラセール「詳しく言っても分からないだろ!?神官もラクじゃないんだぜ?」
ナイジ「(ていうかアンタなにもしてないじゃないか・・・)」
エルナ「ええと なんて言えばいいのかな
    生まれてくるコに 会いたい!って気持ちが伝われば・・・
    煌石の力で絆を結んだモンスターが生まれるの!」
ナイジ「・・・う・・・うん・・・(この人も適当か・・・)」
フラセール「そうそう フィーリングだよ フィーリング
      まずはやってみないと始まらないぜ!いったいった!」
ナイジ「ハイハイ・・・」

ナイジは半ば諦めた様子で祭壇の中央へと向かった

ナイジ「えぇと 円盤石を台座に置いて この煌石を添えて
    あいたーい あいたーい・・・」

とその瞬間 円盤石が急に光を帯び 
カッ!と閃光を放つと共に爆発に近い反応を起こしナイジを吹き飛ばした

ナイジ「だな ってうぉわぁぁっ!!ぃでっ!」
エルナ「なになに!?」
フラセール「お・・・ おぉ・・・やるぅ・・・」
ナイジ「な なんだってんだ・・・あ!円盤石がっ!」
フラセール「いや 成功だよ 見てみな」

爆風で吹き飛ばされたナイジが円盤石の方向に目をやるとそこには
生まれたばかりの小さなキキモの姿があった

キキモ「キュ」

ナイジ「・・・」
エルナ「おめでとう ナイジさん!すごいわ!」
フラセール「で こいつに名前をつけてやりな」
キキモ「キュゥーィ」

フワフワと浮かびながらキキモはナイジの元へ擦り寄る

ナイジ「は・・・はは かわいいな・・・そうだな 名前・・・」
キキモ「キキッ」

ナイジ「グルコマンナン伝太郎なんてどうだ」
エルナ「・・・」
フラセール「・・・」
キキモ「(すごくいやそうなかお)」

ナイジ「・・・冗談だ そう・・・チモック・・・
    チモックにしよう」
キキモ「キュ!キー」
ナイジ「チモック はは チモック! よろしくな チモック!」

フラセール「やっぱエルナちゃんの見立ては完璧だな・・・」
エルナ「フフッ・・・何でかは分からないけど この人ならきっと って思ったの」

こうしてナイジとチモックのブリーダーへの道は開けたのであった・・・
最終更新:2011年07月10日 02:29
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