【オルニトへ】

【オルニトへ】

翔ける脚が大地を鳴らす。
かすかに聞こえる、羽が風を切る囁き。
星を蹴ることで生じる反発力を利用して、高く舞い上がる鳥人の体。
普通の人間なら後は堕ちるだけ。あの高さまで飛び上がれば助からないだろう。
けれど風を掴むことができる彼は違う。
空は自分のモノだと主張するような、そんな疾走が僕の心に確かに届いた。

「翼人なら翼で飛ぶんだろうな。けど俺たち飛べない鳥人は、天と地を駆けるのさ」
翼が無いのにどうして羽を持っているんだい?なんて皮肉に、誇りを持って彼はそう答えた。
やっていることは走って、ジャンプするだけ。
けれど、強靭な脚力で地上を飛翔し、生まれ持った風を掴む本能で空を走る姿は
空に浮かぶ翼人たちより、遥かに自由に見えた。

*


「オルニトにある大図書館に行けば、そういう類の情報も手に入るかもしれないねぇ」
お世話になった胡散臭い占い師の婆さんから得たたった一つの道標。
梅雨が明け、本格的な夏の訪れを感じさせる蝉人の大合唱の中、僕はひとつの目的地を得た。

「浮遊大地に行きたいだぁ?ムリムリ諦めな」
手詰まりとなって泊まった宿の酒飲み場で、
バーテンの格好をした鳥人に、10センチはありそうな嘴をカポカポされながらそう言われた。
占い師の婆さんのトコを出てから一ヶ月、オルニトに到着した。
オルニトの夏はとても暑く、まるで外来者である私を拒んでいるかのようだった。
しかし、うだるような暑さはあるものの中心部は不快では無い。
浮遊大地の影になっているおかげだからだろうか。
もしくは、風神の加護を受ける土地だからなのかもしれない。

バーテンの話によるとオルニトの大図書館は浮遊大地に有るらしく、人の力では浮遊大地にたどり着くことすらままならないようだ。
精霊の力を借りるというのも考えたが、いかんせん彼らは飽きっぽい。
途中で落とされたらそこまでだ。
また、浮遊大地と下層を繋ぐ巨人の縄も、人が登るのには適していない。
そもそも上級層は大空を駆る翼人ばかりなのだから下層との交通の便など無くて同然か。
「最近は翼竜と心通わせる地鳥人も少なくなったからなぁ」
オルニトの侵略国家としての繁栄を支えた一つの要因として、翼竜との絆が上がる。
竜種中では好戦的で野蛮である翼竜は、制空権をめぐって度々オルニトの鳥人たちと交戦していた。
幾つかの戦いを経て、彼らは鳥人と心を通じ合わせていき、翼竜は鳥人のよきパートナーとなった。
しかし、落ちぶれてしまった今では翼竜たちもオルニトを離れていった。
オルニト没落前までは下界からの運搬にはもっぱら翼竜が使用されていたのだが、
今では浮遊大地行きの便は生贄の運搬だけになってしまったらしい。
「元々翼竜たちは上級層に嫌われていたからな。
戦争中は仕方なかったとはいえ、
上級層の翼人たちは、精霊の加護無しじゃ舞えもしない下級層の地鳥人が戦力をつけてしまうことに乗り気じゃなかったのさ」
そんな事情を知っても僕が大図書館に行けないことに変わりわないわけだ。
「名のある翼竜乗りの奴らは新天地に行っちまったよ。
どっかに残ってるかもしれねぇ翼竜を駆る鳥人を見つけるしかねぇな」
落胆の相を見てとったのかバーテン姿の鳥人は素っ気無い素振りでそう言った。
嘴はカポカポ鳴らなかった気がする。
目先の目的目指して、どうやら明日も旅をすることになりそうだ。









読了お疲れ様です。
駄文に付き合っていただきありがとうございます。

翼竜と鳥人の関係性は完全に個人の趣味なんで、
設定や世界観にそぐわない場合は、
主人公が婆さんに嘘を教えられたってことにしてください。


絵かきあきに書いてもらいました。
感謝感激雨霰です

  • 空から地に落ちてみると、意外と青を見上げ続ける生活も悪くは無い。悲観しても前を向いても明日はやってくるのなら前を向いて生きていこうじゃないか。 地上に生きる鳥人からそんな雰囲気を感じた -- (名無しさん) 2012-03-25 21:41:26
  • 乾いた空気感がオルニトらしい。イラストも作品に合ってる。あと翼竜設定は膨らませ甲斐のある設定だと思った。 -- (名無しさん) 2012-03-26 22:41:38
  • 話が飛び飛びじゃない? -- (名無しさん) 2012-03-27 03:48:45
  • 立場の弱い方が割り切って前向きに生きていけるのかなと深く考えてしまいました。挿絵も合わせてそれまでに色々あった国と住民に興味がわいてきました。 -- (名無しさん) 2012-05-05 19:39:57
  • オルニトの壮大な景色が浮かぶのとその下で生活している様々な人に旅の醍醐味を感じました。空に浮かぶ島など多くの歴史などがありそうですね -- (ROM) 2013-02-13 20:17:58
  • 静かに老いていくオルニトと新天地に旅立った飛べない鳥人たちが対照的。長い長い旅物語の序章のようなお話 -- (名無しさん) 2013-03-09 19:48:13
  • 鳥人のどことなく不思議ちゃんな思考と寂れた片田舎の空気が哀愁漂うオルニトという国で絶妙に混ざり合う。過去より多くが去ったのであろうオルニトで今から起こるのは何? -- (名無しさん) 2016-08-17 16:20:12
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最終更新:2013年08月07日 23:52
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