【スラヴィア屋台祭り!】

スラヴィア最古の貴族が一角【守護卿ヤフヌール】の館にある大ゲートは骸骨が象る扉だ。
日頃は南極と繋がってはいるものの、場所柄扉を開けて訪れるのは基地隊員かペンギンか稀にやってくる南極ツアー客くらいなのだが…
こと年に一か月の大ゲート祭期間中は地球のどのゲートとも繋がっているため多くの人々がやってくるのである。
今年のスラヴィアの目玉は、大ゲート祭のために仕立てられた闇夜のベールであり、それが覆う下は一日を通して夜である。
ヤフヌールの館から伸びる道とその先にある都の半分が一か月の間、夜だけの世界となっている。
松明や燈籠の明かりの中でスラヴィアンはじめ、闇を住処とする種族達が気兼ねも不安もなく大いに交流を満喫している。
勿論、普通の種族も都の半分、生者の催す祭事と夜の祭りを楽しんでいる。
そして夜と昼が隣り合う都の大広場にて開催されているのが【大スラヴィア市】である。
祭りの余興として【祭りの一か月の間に最も利益を出した者がサミュラに表彰される】というものが企画されている。
スラヴィアに座する神、【モルテ】からではないのが要であり、そのせいで市にはスラヴィアも生者も我こそはと参じ、他国からも多くの者が参加している。
領の特産を前面に出したり、秘蔵のコレクションを蔵出しし見世物としたり、世界各地の商人に働きかけて珍品稀少品を集めるなど意気込み十二分であり、それ目当てで客足も途絶えることがない。
そんな大広場で夜と昼の両側に跨ぐ坪に菓子売り屋台がある。
リアルタイムで菓子を作ることで甘い香りを一面に流す手法が功を奏し、幾何かの列が出来ている。
「甘い甘い欲しい欲しい」
「甘い聞きました欲しい」
「甘いお菓子好きです欲しい」
「見なさい!スラヴィアにやってくる蟲人は全て私の客となるのよ! あっ、ありがとうございます砂糖と柑菓子を三袋づつですね」
蟲人以外の客もいるのだが、兎に角蟲人が止め処なくやってくる。
それを領主自ら陣頭に立ち、売り場を切り盛りすのは美麗なる金髪をツインテールに揺らすエプロン姿のティータ嬢である。
「さぁ、一気にまくっていくわよ!どんどん作って並べるのよ!」
屋台の半分、夜側に設営されている厨房に向け矢の様に指先を突き差すその先ではいそいそと人影が忙しなく動いている。
「全く、何なのでしょうか?紙である私にぐつぐつ煮え滾る鍋の番をさせる悪魔的所業は。 ちょっとでも火精霊がくしゃみでもすれば火事ですよ火事、私、紙ですから大惨事ですよ」
ヒトガタの紙、何故紙なのかは置いておくとして、カーターはむせ返るような湯気に中てられややふやけているものの存在の危機に直面しているのもあってか機敏に動いている。
作られた食材をエプロン姿の何かの種族の髑髏がせっせと俎板へと運ぶ。
数名の髑髏は【髑髏王】と交渉し貸与されたスラヴィアン従者であり、忠実に確実に延々と割り当てられた仕事をこなしている。
スパーン!スパーン!トントンスパーン!
軽快なリズムに乗せて忍めいた手捌きにより次々と菓子が形作られていく。
「大量仕入れで原材料費は押さえられているから利益率は良いのは分かる。 実際売り上げで見れば先頭集団に混ざるくらいは健闘しているんだが」
棒付き飴玉を口の中で転がしながら高速で作業する清浄の表情は何故かどんよりしている。
「ゼプトさん、言いたいことは分かりますけど今は唯只管に作り続け売り続けなければいけないのですよ」
「いやお前、向い先の店を見ても勝負を続ける気になれるのか?」

【スラヴィア特産 生き人形】
夜側でも一際目立つ大きな屋台。
大きい、それもその筈。 【髑髏王】と【万華卿】の協賛店なのである。
「さぁ!買うがよい!我が愛しき娘の人形を!」
『お父様』『お父様』『お父様』『お父様』
服装も様々な、かの幼き頃のヴィルヘルミナを模した人形が一斉に声を上げる。
「王よ、流石にこの数は多すぎるのでは?ヴィルヘルミナ嬢の人形ばかりを作られては困ります。 ここは売れ筋一番のサミュラ様人形を増産するべきでしょう」
「えぇい!しっかりと生産ノルマはこなしておるではないか!我が娘の人形を少しばかり多く作っても問題なかろう!」
髑髏王の骸骨従者の人海戦術と万華卿領に培われた裁縫技術を合わせたスラヴィア有名人人形屋台。
背中の釦を押せば憑依している声ゴーストが台詞を再生するのである。
手の平サイズから何段階かの大きさの人形は造形の細かさや忠実な再現度もさることながら、全体的に可愛らしいアレンジを加えられていることから子供や女性層を中心に売れに売れまくっている。

「業界No1とNo2が合併したのを相手する中小ってどう考えても太刀打ちできないんじゃないか?」
「あぁっ!ちょっと先っぽが焦げてしまいました!紙なので辛い!紙なのが辛いですね!」
「ほら、清浄!手が遅くなってるじゃない!もっと気合入れなさい!」
「へいへい」
果たして市の売り上げレースに大番狂わせはあるのだろうか?一発逆転劇は起こるのだろうか?ちょっとそれは難しそうだ?

スラヴィアの祭り風景を想像してひとつ

  • モルテの悪行をあんまり知らない地球の人間には神!とか死神というイメージで人気はそれなりにありそうなモルテ -- (名無しさん) 2019-07-02 22:48:35
  • 異世界でも資本主義模様はつらあじ! -- (名無しさん) 2019-07-10 04:10:26
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最終更新:2019年06月26日 01:57