【赤い供物を求めて】

前回【冒険者になった日】
 ── 前回までのあらすじ
 異世界で冒険者すると出ていった叔父を探してミズハミシマに渡る。情報を元にオルニトまで辿り着いた、が。


「冒険者の方、何か御用ですか?依頼探しですか?」
「あ、いえ人を探していまして…」
カウンターに叔父の写真を出し見てもらう。 思いの外くいつく様に凝視する支部長と呼ばれていた燕の様な鳥人。
「しぶちょー、これは写真というものです」
「私には分かります。そして貴方に応えましょう。 助手、この写真の冒険者がやってきたのは?」
「しぶちょー、一週間くらい前です」
「そしてこの冒険者が受けた依頼は?」
「しぶちょー、雛鳥さんに配る赤い供物の採取です」
「と、いうことです」
何故に支部長さんが自慢気に反り返っているのかは兎も角として、決定的な情報を得たのである。
「それで!何処に向かったのかまで分かりますか?」
「支部の外に出たあとまでは分かりませんが…助手、何か思い出せますか?」
「しぶちょー、その人は港町で聞き込みをすると言ってました」
「と、いうことです。 ところで貴方も同じ依頼を受けますか?雛鳥への供物は常に需要があります」
どうせなら叔父と同じ依頼を受けた方が足取りを追い易いかも知れない。更に依頼も完遂すれば報酬も得られるんじゃないか?
「分かりました受けます」
「受領受付しました。では赤い供物を入手したら持ってきて下さい」
「あまり欲張りすぎるとたいへんなことになるのよ。できるだけ早くもってきた方がいいよ」
「「では良き冒険を」」


叔父もそう異世界には詳しくはないだろうし、町で情報を集めた可能性は高い。
情報と言えば酒場とかだろうかと思案しながら通りを歩いていると視界の片隅に一際目立つ「赤色」が目についたのである。
思わず駆け寄ってみるとそこは八百屋の店先の様に様々な野菜などが並んでいる…とよく見ると丸い、丸いものばかり。というか豆だらけである。
目を丸くしていると椅子に座っていた店主らしき鳥人が立ち上がり軒下までやってきた。小奇麗に整えられた革服と白布のシャツを着た鳩人である。
「何か入用かい?今朝仕入れたものばかりで新鮮だよ」
「あ、えっとこの店は豆専門店ですか?」
フゥーと眉を潜めた鳩人の表情のなんと哀愁であることか。
「初めてうちにきた人は皆そう言うんだよ。 まぁ並べてあるのが豆ばかりなので仕方がないんだがね。一応青果全般の店だよ」
店主曰く、豆が豊作だった年に他で買い取られなかった豆を一手に買い取った結果、翌年から豆農家がこぞって持ってくるようになったのだと言う。
そうこうしている内に豆の目利きが鍛えられ多くの在庫を捌くために様々な豆の活用法を考え出し実践しているのだとも。
農作物を買い取る店自体が少ない町なので今や豆と言えば「この店」とまでになったのである。
なお、看板はまだ青果販売なので他の野菜も買い取りは受け付けている。
「よく見ると隅っこの方に萎びた大根のようなものが少しある。信長書店で売れずにずっと残っている普通の映画ビデオみたいだ」
「おいおい萎びたとはひどい言い様じゃないか。これは細く見えるが痩せた土地で得た栄養を濃密に蓄えるために細く捻じれたまま育つ螺根(らこん)だよ。
気付けや精力剤としては古くから人気の一品だよ。 ちなみに風の強い山肌でしかこうは育たないぞ」
店主の野菜蘊蓄に聞き入って小一時間、はっと我に返る。
「っと忘れるところでした。この赤い豆は「雛鳥の供物」ではないのですか?」
「それもよく聞かれるね。残念だけど供物とは関係ないよ。 …そう言えば先週もそんな質問をしてきた人間がいたぞ?」
「!それはこの人ですか?」
写真を見て店主はカップをぐいっとひと飲みして頷く。 叔父の足取りを掴んだのである。
「その人も供物を探していると言っていたので分かる範囲で色々教えたよ。
謎の多い赤い供物の数々ではあるが、今の季節に採取できる可能性が高いのは「大鳥巣の浮遊島」に咲くという赤い花だとね」
何と一気に暗闇に道が開けたのだ。 急げば二日で着ける場所だと言う。
「ありがとうございます!では私はこれで!」
「おっと話ついでにこれを飲み試して感想をもらえないだろうか?今年余り気味の青長豆を乾燥させて挽いたものを煎じた茶なんだが」
「はい。一杯いただかせてもらいます。 ごくっ …あまぁーーーい!とてつもなく甘いですよこれ。そのまま飲むにはちょっと厳しいかもですね」
「やはり甘すぎるかぁ。蟲人は喜んで飲んでくれるんだが、そっち方面のお土産にしてみるか」

口の中の甘さが引くよりも早く件の島への道程を模索するために町はずれへと向かうのであった。

スレでよく見かける鳩人をシェアして八百屋を想像しました

  • 豆のエキスパートの鳩人!牧歌的な雰囲気がわむ -- (名無しさん) 2017-05-22 19:04:48
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最終更新:2017年05月31日 11:19
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