【足なし少女と足だけ鎧】

「縛られた悲しみと 子牛が市場へ揺れて行く
ツバメは大空高く スイスイ飛び回る
風は笑っているよ 一日中

夏の夜半に笑っているよ」

私は荷馬車にゆられながら小さい頃に異世界から来たという人から教わった歌を口ずさむ
今の私はまさにこの歌の子牛のごとしである
なにせ今から奴隷として売られにゆくのだから

私が両足を失ったのはひと月ほど前だ
畑を荒らしに来た獣によって大怪我をおい、もうどうにもならないからと切断されてしまった
これでは家の手伝いもままならない
だからと言って村にやってきた商人にあっさりと売ってしまうのはどうかと思いますお母さん
いや、元お母さん

しかし足のなくなった私をよく買ったものだ
私を買った商人はいかにもがめつそうなゴブリンの男だった
相当安く買いたたいたんだろうなぁ…
これからまた別の町に行って荷馬車の中の商品を売るらしい
この商品にはもちろん私も含まれている
いくら街に行くといえ足のない小娘であるところの私なんかを買う人がいるのかはなはだ疑問だ

かなり安くしないと売れないんじゃないかな
元お母さんが受け取った金額も大したことなさそうだった
もしかしたらあの鎧より安いんじゃないかな?
と、この荷馬車の隅っこでほこりをかぶっている大きい鎧に目を向ける
随分大きいが何故か足だけしかない
足しかないから売られたのかな?
私は足がないから売られたが、アレは足しかないから売られたのだ
なんとなく運命的なものを感じる
と、しばらくその鎧を眺めていたが
「…ぁ…」

何か、聞こえた気がした

…オバケって奴ですか?
歌を教えてくれた異世界人から聞いた話を思い出す
死んだはずの人物が死んだことを理解できず夜な夜な歩き回り…
ブルリと震えが来た
いっいやああああれはきっと馬車の揺れによって鎧が震えて変な音が出ただけできっとそういう危ないものがとりついてるとかは

「…ぁあ…」
やっぱり聞こえる!死んでも死にきれないおんねん的な何かがっ!
そしてついにその鎧は私という生物を喰らおうとその身を起こし(足しかないけど
こちらへと歩いて来たのだ!

うわぁ食われる!くそう私はひと月前に足を獣に食われたばかりだってのに!
そんなに美味そうか私は!ありがとよ!
なんて錯乱する私の前でその鎧は膝をつきそのがらんどうの中身を私に見せた
そしてさっきから微かに聞こえていた声で
「あぁ!なんてかわいそうな女の子なの!さぁ私の中に入って!ここから逃げましょう!」
…えっ?

その声は割とはっきりと聞こえた
そしてでかかった
「なにぃ!俺様の商品に手を出すとはどこのどいつでぇ!」
その声が聞こえるや否や馬車は動きを止めた
「あぁ!あの商人がやってきます!さあ早く!」
「えっ? あ えっ?」
わけもわからずその鎧にしがみつく私
そして鎧はすぐに立ち上がり猛烈な勢いで走りだしたのだ
これが私と鎧の出会い
このときのやたらと大きな月と後ろから飛んでくる商人の声
そして足をなくす前ですら感じたことのなかった風を切る感覚を
私はきっと忘れないだろう


オチ

「で?どこに向かってるの?」
しばらく走った後に私は鎧に訊ねてみた
「……」
あぁコイツ
「決めてなかったの?」
「…ごめんなさい」
はぁ
私を売った家には帰りたくはないし、
「前途多難だわ…」

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最終更新:2018年10月07日 19:01