鮮烈な色

                   雷華


あれが欲しいの。と彼女は呟いた。
あたしは勿論上げたわ。彼女を愛していたのだもの。
いつだって彼女は貪欲で、おなかをすかせていた。けれど私はいつだって愛を持ってそれに応えたの。
あたしの持っていた玩具もあげたわ。彼女はすぐに飽きて捨ててしまったけど。
私が貰った花束も彼女にあげた。
お金も
愛も
何もかも
喜びも悲しみも。笑顔も涙も全て。私が持っているものは、彼女が欲しがるものは彼女の物になったの

私を好きになった人を彼女は欲しがった。
私を襲った悲劇も彼女が奪い取って行ってしまったわ。

そして彼女は初めて失った。
自分という人間を。

なおそれでも彼女は欲しがる。だから私はあげるのよ。
首筋に突き立てられた彼女の牙はこの上ない快感を与えてくれるわ。
あら、初めて彼女は私に何かをくれたのね。
たとえそれが命と引き換えだとしても私は嬉しかったの。

人の血を吸うものとなった彼女はまずはじめに私を欲しがった。
躊躇いなく私は首を差し出したわ。

あぁ。目の前が霞む。
燃えるほど熱い首が私の意識を覚醒させる。
ただ視界が暗くなっていくのに、彼女の息遣いが耳について。
耳について離れない。
私はおいしいのかしら。と思考が回る
愛してるわ。と囁こうとした口が既に回らない
永遠に彼女とはさよならね。と思考が回る
体は既に動かず、指先がひどく冷たい

私をとらえるあなたの爪がもう解らない
私の舐めるあなたの唇がもう解らない
私の心臓の音がもう解らない

私の心臓の…

もう

解らない



死んだ娘の首には、紅いルージュの痕がついていた。
それは血の気の失せた蝋のように真っ白な肌によく映えて。鮮烈に。

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最終更新:2011年07月13日 09:56