三題噺 映画地雷変化球*雷華


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地雷 映画 変化球

 はじけ飛ぶ世界。抉れた大地。気が付けば僕は目の前で甲高い悲鳴を上げ吹き飛ばされる少女を見つめながら、荒野に立っていた。
 黄土色の土とぬるりと飛沫いた赤い血が鉄の臭いを強烈に、カゲロウのゆらぐ大気に撒き散らす。そのほとりには小さな青いブーゲンビリアの花咲く木。
 しかし僕とその光景の間には不明瞭に一枚の膜が貼られているものだから、こんな描写をしていられるくらいに僕には余裕があった。それはまるで現実のように僕の知覚に訴えかけるけれど、決して現実じゃないと心のどこかで僕は知っていた。それには明確な理由がある。僕には直前の記憶があったから。
 教室の真ん中あたりの席で授業を受けていたという、至ってまともな記憶が。
 地に伏した子どもが、声もあげず、動きもせず、ただその身体から赤い血をどくどくと垂れ流している光景は、リアルに過ぎるけれど、きっとそのうち僕の意識は引き戻される。だからこれはただの、日常を揺るがそうとする変化球。収まる先はキャッチャーのミットの中つまり、ただの代り映えの無い日常。どんな代わり玉だって
 ここから一歩も動かなければそれで。
 あたりに人の姿は無い。と、次の瞬間歓声と、銃声と、それから飛行機のプロペラの音があたりに満ちて、そのうるささに僕は目を細めた。
 見上げると少女の血の色のように染まった空を、羽蟻の群れが飛ぶように戦闘機が蠢いて横切った。
 降り注ぐ爆弾が僕のすぐ近くで弾け、爆風が僕を吹き飛ばせずに口惜しそうに大量の土ぼこりを巻き上げた。
 少女はもういない。
 ブーゲンビリアの花も無い。
 その代わりに沢山の、ただ沢山の死体があたり一面を埋め尽くして、見渡す限りの突き立てられた銃剣を墓標にして死んでいた。
 空の色は雨が降り出してもう真っ黒だ。
 やがて銃剣を絡め取るように、地から伸びた草の芽が天を目指し、小さなコロニーはやがてつながって地面を隠した。成長して、鉄と火薬と血のにおいのする大気を、水と緑のにおいに変え、足の裏に熱い大地はひんやりと露に濡れた草の葉の感触を僕に伝えた。雨が徐々に弱くなっても、植物は成長の速度を緩めることはなく、むしろさらに調子を上げた。
 芽吹き、伸び上がり、そこにツタが這い、僕の膝を、腰を超えて頭上に伸び、ちらちらと揺れながら空を隠した。
 日差しが遮られてからも、まだ新しく植物は伸びあがり、枝のようだった木は太さを増し、低木が茂った。
 それはずいぶんと長い時間だったと思うけど。でも僕は知っている。この幸せに見える光景は続かない。
 ほら、段々と近づいてくる飛行機が、オレンジ色の雨を降らせた。木が生気を失い、枯れた葉がガサガサと舞う、みしりと折れて倒れる。飛び立った鳥と虫の群が力なく遠くへ行くことも無く地に落ちる。一本残ったブーゲンビリアの花を、どこからともなく駆け寄ってきた少女が一輪摘んだ。そしていかにも大事そうに胸に抱えて走りだそうとした瞬間、また地面が轟音とともにはじけ飛んだ。瞬間の少女の何か、困ったような、泣きそうな、どうしようもない表情が絶叫に崩壊して、手足が宙に舞い血が飛沫く。

 きゅるるるるる

 耳障りなまるでテープを巻き戻すような音に、あまりに耳障りな音に僕は耳を思わずふさいだ。一つ瞬きすると、そこはただの教室で、あちらこちらから女子生徒の泣き声が飛ぶ。
 ただの道徳の授業だ。この高校の一部の教室に設置されたホログラムの投影設備で映された映像だ。
 自然によって長い時間をかけてつくられたものが、人間によっていとも簡単に、一瞬にして壊されてしまうという現実を教えるための授業。
 何の意味があるんだろう。なんで泣いているんだろう。ただの映画なのに。

 教師が前で感情的になって何かを言っているけれど、別に何も感じることはない。それは現実にある話で、またただの映像だ。少し珍しい手段で僕らに提示されてはいるけれど、同じような意味の文章を今までに何度も読まされてきたじゃないか。なんで文章ではすぐに忘れるのに、映像はこんなにも泣くほどに感情を揺らすのだろうか。どうせ結論は同じなのに。僕とかかわらない別の国の違う時代の話。