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無性生殖と有性生殖
最終更新:
bioota2010
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DATE:2010年05月06日、2011年05月06日
What? 無性生殖とはなにか、有性生殖となにが違うのか。
生物が、自分と同じ種類の個体を作るにあたり、ほかの細胞と合体することなく、体細胞や胞子などから新個体を作る方法を無性生殖(asexual reproduction)といいます。ほかの細胞、配偶子(gamete)と合体することによって新個体を作る方法を有性生殖(sexual reproduction)といいます。
読んで字のごとく、無性生殖においてはオスとメスの区別、つまり性がなく、有性生殖には性があります。私たちは日常、「性」を自明の事柄として受けとめていますが、「性」とは、一部の生物に具わった特殊な細胞分裂の方法が基本となって可能となったものです。
大腸菌は、分裂(division)という方法で倍々と増えます。酵母や海綿は出芽(budding)で増えていきます。この増え方ならオスもメスも関係ありません。このような「無性生殖」が、実は生殖の原形であり、原核生物も菌類も、ほとんどこの方法で増えています。
■無性生殖の利点
・個体数を増加させるのが容易である。
・安定した環境下では速やかに遺伝子を広めることができる。
・個体数を増加させるのが容易である。
・安定した環境下では速やかに遺伝子を広めることができる。
無性生殖の方法は、以下のように大きく4つに分類できます。それぞれの生殖方法をとる生物種とともに、『図録』 とあわせて確認してくだい。
特徴 | 例 | |
分裂 | 親の身体が、ほぼ均等に2つ以上に分裂することで増える | 大腸菌,ゾウリムシ,イソギンチャク |
出芽 | 親の身体が、不均等に2つ以上に分裂することで増える | 酵母菌,ヒドラ,サンゴの群体 |
栄養生殖 | 種子植物の根、茎、葉などの一部から新しい個体が作られる | ジャガイモ,オニユリ,イチゴ |
胞子生殖 | 胞子と呼ばれる無性的な生殖細胞が発芽して個体が作られる | 菌類,コケ植物,シダ植物 |
Why? なぜ無性生殖と有性生殖という異なる方法が、採用されているのか。
無性生殖は有性生殖に比べて生殖の効率が高く、容易に新個体が形成されます。その一方で、有性生殖では、子孫を作るために必ず相手を探さなければなりません。これは、種の繁殖にとっては、かなり不利なことだと言えます。
それにもかかわらず、真核多細胞生物の場合は、「有性生殖」が圧倒的に多く見られます。なぜ、無性生殖をする種よりも、有性生殖をする種の方が優勢であるのか。どこかにその不利を越える有利さがあるはずです。
有性生殖が無性生殖よりも有利な点を考えるうえでヒントとなるのは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)です。酵母は、栄養条件のよいときには一倍体として出芽することによって無性的に増殖します。しかし、条件が変わり、生息環境が厳しいものになると性別を持ち、互いに接合して一時的に有性生殖を行うようになります。「このままクローンを増やし続けていくと、総倒れになる危険性がある状況」になったとき、子のかたちを変えることによって、対処しようとするわけです。
また、ジャガイモを思い出してください。小学校の授業などで種芋(塊茎)から増やしたことがある人がいると思いますが、あれは栄養生殖です。しかし、ジャガイモは同時に花を咲かせ、受粉して、種も作ります。花を咲かせ、種を作るプロセスは、花粉と胚嚢による、有性生殖です。
+ | ミジンコやハカラメの場合 |
酵母にもジャガイモにも、どちらにも共通するのは、生息環境が良好なときは無性生殖を行い、生息環境が悪化すると、有性生殖をより優先的に行うという点です。ここで結論を先取りすると、有性生殖の利点とは、①配偶子が組み合わされることによって、形や'性質の異なる多様な個体が作られ、環境の変化に適応した個体を生じる可能性があること。②種や耐久卵によって、よりよい生息環境へと子孫を拡散させることができること。この二点にまとめられます。
■有性生殖の利点
・配偶子が組み合わされることによって、形や性質の異なる多様な個体が生じる。
・環境が変化しても生き残る可能性が高くなる。
・配偶子が組み合わされることによって、形や性質の異なる多様な個体が生じる。
・環境が変化しても生き残る可能性が高くなる。
いま、無性生殖を行う生物のDNAの中で、生死には無関係の変異が起きた場合を考えます。同じニッチに棲む二つの個体に別々に変異が起きれば、この二つの子孫の間にはなんらかの競合関係が生じることになります。どちらかが勝ちどちらかが負け、負けたほうは淘汰されます。そうなると、負けたほうがたまたま持っていたよい性質は消えて、その集団の中に広まることはありません。集団の構成員の数が少ないときは、これがとくに問題となります。しかし、有性生殖を行えば、問題の二つの個体が合体して両方の性質を持った新しい個体が生まれ、両方の性質が子孫に伝わっていく可能性が生じます。これは長期的な視点に立つと明らかに有利になります。
もう一つ、有性生殖の有利さを示す例をあげます。いま、一つの遺伝子が突然変異をおこして、劣性の致死遺伝子が生じたとします。致死遺伝子を持つ個体が無性生殖をすると、その子孫はすべてこの致死遺伝子を受け継ぐので、その集団内の致死遺伝子の保有率はしだいに高まっていき、あるとき、急激に個体数を減らして絶滅する可能性があります。しかし、有性生殖、つまり、いわゆるかけ合わせがあれば、致死遺伝子をまったく持たない個体や二個とも致死遺伝子である個体が生じることになります。後者は死んで集団から取り除かれることで、致死遺伝子は集団の中にある程度までしか広がらず、急激な個体数の減少を食い止めることができます(致死遺伝子の代わりに、「ある病気に弱い遺伝子」「気温の変化に弱い遺伝子」を考えても、同じことが言えます、つまり、ある病気や気温の変化によって集団が全滅するリスクは、無性生殖のほうが有性生殖よりも高いのです)。
先ほどの酵母やジャガイモの例に戻ると、これらは、生息条件の良好なときにはムダを省いて無性生殖でどんどん個体数を増やし、生息条件が悪化したときには有性生殖の利点を活かして集団が絶滅するリスクを減らす、というストラテジー(戦略) をとっていることがわかります。酵母の場合、遺伝的にはどちらの性にもなり得るしくみを持っていて、それが数代ごとに切り替わります。真核生物であっても、単細胞生物であるためにこのようなしくみを次第に洗練させてきたとも言えますが、有性生殖を行う多細胞生物の原型は、このようなものだったのかもしれません。
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