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小説

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wanuwan

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だれでも歓迎! 編集
ネタがない時の朗読ネタとかになるんじゃないかな。読むといい。
みんなも連続謎小説とか、書けばいいと思うよ!?

+ 「2012年愛とスープ」-羽濡湾派示
「2012年愛とスープ」-羽濡湾派示
+ 1「12-12-5~12-12-17」

「プレゼントくれ!」
と、ミーコは言った。ミーコの家族は側にはいない、ミーコの側には相棒の一匹の猫がいつも側にいる。
猫の名前はまだない。ミーコはそろそろ猫の名前を決めようと思っていた。ミーコは群馬県出身、家出を
していてここは寒空の夜の東京の公園。もうすぐ12月の大寒波もくる。ミーコは担いでいるバックのチャ
ックを開け、バックいっぱいに詰まっているカップヌードルのゴミをかき回した。シーフード味を探した
が、見つからなく、苦手なしょうゆ味も、相棒の猫のご飯になる、缶詰すらなかった。
「何やねん」
ミーコのお腹が鳴った。三日もコーヒーショップのガムシロップと水道水で我慢していた。相棒の猫が
ミーコの音に気づき、心配そうにミーコの股をくぐった。相棒の猫の不思議なぬくもりがミーコを暖め
てくれた。
「何やねん・・・」
ミーコは手が寒くなり、服をぐっと握りしめた。ミーコの服はもう一ヶ月も洗っていない。ミーコは臭って
いた。
「ミーコ、遊ぼ」
相棒の猫は次第にぐんぐん、ぐんぐん大きくなってき、倒れるようにミーコに追いかぶさりミーコを包
んだ。
「プレゼントくれ」
ミーコはつぶやいた。しかし次第に空気が薄くなりミーコは苦しくなった。ミーコは何度も足を伸ばし、
脱出した。
「飲み物くれ」
ミーコは猫アレルギーだった。軽く喘息を起こしてしまった。辛さ相まって外気の空気が心地よかっ
た。
「何で?」
ミーコはふと気が付いた。ミーコは見覚えのない青々とした、美しい森の中にいた。ミーコはふと足元
を手で叩いた。
ない、ない、バックがなかった。バッグの中には万が一の時の携帯などの貴重品が入っていた。・・・
ない。
ミーコはわけもわからず歩き始めた。それからミーコは2時間ぐらいは彷徨った。ミーコは進むにつれて
下へ下へと向かっていく感覚に襲われた。
「飲み物くれ」
ミーコは喉が渇いた。この場所はやたら乾燥していた。ミーコは喉が不快になり、一度立ち止まり、口
に手を当て、唾を飲んだ。
「スープ飲みたい」
ミーコはしょっぱいものが食べたくなった。食べたくて食べたくて自分の手の平を舐めた。
「何で!?」
ミーコの手の平にべっとり血がついた。ミーコはなにか嫌な予感がした。ミーコは自分の服の胸の当
たりをぐっと掴み、
血を拭き取った。血なんて夢の中ぐらいでしか吐いた事がなかった。
「ラーメン!」
ミーコは荒げなから叫んだ。
「ラーメン!」
ミーコは走った。ふたたびミーコは進むにつれ、再び下へ下へと向かっていく感覚に襲われた。ミーコ
の体にはものすごい
スピードがかかっていた。今までこんなに早く走れたことがない。一度だけあったかもしれない。あれ
は保育園の運動会の、
リレーの時のカーブに差し掛かったときだった。緊張高まり、潜在能力が働き、一気に5人抜きをし
た。
今のミーコには何かが宿っていた。何度か止まろうとしたが、まるで生まれたての子馬のように足が
暴走していた。
「飲み物くれ」
ミーコはなんとか立ち止まれた。息を整えながら足を見た。何箇所か切っていた。落ち着いてきたこ
ろ、
ミーコは何かに気づいた。鼻で息を吸うと、まるで滝の近くのような心地の良いものが漂っていた。
「何やねん」
ミーコは周りを確認しようとした。しかし、ミーコの体に不気味な異変が襲っていた。妙に視界が悪く、
首を左右に動かすと、
視線がどんどん正面にずれていき、周りを確認しようにも一瞬しか見えない。ミーコはなんとか周りを
確認を見ようと、勢いをつけて左から右へ首をぐるんと回した。
ジャリジャリジャリ!
まるでカリカリ梅の種を噛み砕いた時の音が全身を駆け巡った。同時に音の振動で、胸の辺りが強く
咳をしたように酷く痛んだ。
ミーコは倒れこみ、悶えた。
「何やねん!」
ミーコは苦しそうに声をあげ、手を振り上げたその時、何かを突き飛ばした。
「え、何て?」
ミーコは何かの声を聞いた。老人のような声だった。ミーコは気がつくと体の異変が取れて、非常に
気分が良くなっていた。
そして次第に回りの視界がだんだん明るく晴れていった。ふとミーコは右手に違和感を感じた。恐る
恐る確認すると、入れ歯のようなものがガッシリと食い込んでいた。ミーコは入れ歯をスババっと払っ
た。
「腹減ってんのか」
ミーコの目の前から突然の謎の老人がよたよた近づいてきた。ミーコはびっくりして息をくっと溜め
た。
「腹減ってんのか」
老人は、ミーコによたよたよたよたよたよたゆっくりと…近づいてきた。ミーコは腰が抜けた。心は落
ち着いている
はずなのに、足が笑ってまともに動けない。バイクに突っ込まれた時のようだった。
「とん汁飯」
老人はミーコの足元にあった入れ歯に手を伸ばした。ミーコは思わず足に力が入り、入れ歯をポーン
と飛ばしてしまった。
老人は飛んでいく入れ歯に視線を合わせ、茂みに落ちたのを確認した。
「ばらすな!!!」
老人はミーコに向かって怒鳴りつけた。老人は入れ歯のほうへ、よたよたよたよたよたよたよたよた
よたよたよたゆっくりと…
移動し、入れ歯を手に入れ、口の中に挿入した。

「お嬢さん、森の毒気にやられたんだ、私の調合薬をお嬢さんに打ったが効果は5分、私の後につい
てくるといい」
老人は、ミーコにそう伝えると、森の奥へ去っていった。ミーコはついていこうとしたが、足が先ほどの
ショックでうまく動けなかった。
「何やねん」
ミーコはすでにへとへとだった。何とか立ち上がり、足の軸をうまくコントロールしながら、老人の後を
ついていったが、
完全に見失った。ふとミーコはかすかな光を感じ、右へ視線を移した。そうするとテレビの砂嵐のよう
な耳障りの力強い音を出す滝が現れた。流れる水はキラキラキラリと虹色に光っている。ミーコは滝
の美しさに目を奪われそうになり、滝つぼの音に
耳を澄ますと吸い込まれそうになった。
「どうだ、お嬢さん。美しいだろう?しかし、私がお嬢さんに打った調合薬がないかぎり、遠くで滝の音
を聞きにくることすら許されない。それはまるで、滝つぼに起きる巨大な渦巻きのごとく、あっという間
に取り込まれてしまうぞ」
ミーコのそばには先ほどの老人がいた。ミーコは老人を睨むと、老人はそっぽを向いて、微笑した。
「全て薬はおしっこになって、体から抜けてゆく、少しばかりか副作用が出てきて背中に蕁麻疹のよう
な発疹が出来るかもしれないが」
老人は、さぁはやくとミーコの服を強く引いた。そのまま老人に引かれ、黒い三角形の奇妙なオブジェ
の前についた。
「タローが寝ているから静かにしておくれ」
老人はするりとオブジェの中に吸い込まれていった。そして、ミーコと老人をつなぐ手の先からズルズ
ルとミーコも吸い込まれて
いった。ミーコはオブジェの中についた。オブジェの中は、日本の和室に洋風を足したような内装に
なっていた。しかし、天井からは
血管ような大きな管がたくさん敷詰められ、下へぶらりと垂れていた。ミーコが動くと、あちらも反応し
てぐにゃありとミーコの方へ動く。ミーコはお腹が減ってラーメンが食べたくて、さらに疲れていた。他
人の家関わらず、遠慮なく部屋の赤いイスに
ドスン!と音を立て腰を下ろした、なにが詰まっているかわからないが、優れたクッション性を持つイ
スだった。ミーコは、一息をついた。
「ラーメン!!」
部屋の奥から片手鍋を持ち、ゆっくりとミーコに近づいた。
「ポケットティッシュしゃぶしゃぶ」
ゴトリと、ミーコの前の、丸く広々とした白いテーブルの中心に片手鍋を置いた。片手鍋からは美味し
そうな匂いが湧き出て、部屋中が匂いで立ち込めた。不思議なことに、その片手鍋から湧き出る匂い
はミーコの不調を全て取り除いてくれた。
「若い頃、天狗の国に行ったとき、天狗のみんなは食べたいときに食べて、寝たいときに寝るって天
狗に教えてもらって、その時、こっそり天狗の国にたくさん生えている天狗草を内緒で持ってきて、天
狗の生態についてなにかわかるものはないかと自宅栽培を決行して調べた。天狗草から出る不思議
な成分が生命体を隅々から潤してくれる」
ミーコはあっという間にラーメンが食べたくなくなった。老人が座るイスの影から、スルリと猫が出てき
た。
「何やねん!!」
ミーコは勢いよく声をあげた。手の平を上にして猫を誘うとにゃあんと猫がミーコの腕に飛び掛り、す
るりとミーコの膝の上にお尻を置いた。
「そ、そんな、あの人になつかないタローが…タローが」
老人の入れ歯が外れた。ミーコは猫の頭を撫でた。
「何やねん」
と猫は鳴くと、ミーコの膝の上へおしっこを垂らした。この泣き声にしょんべん癖、間違いなくミーコの
相棒だと思った。しかしミーコは猫の異変に気づいた。
「おかしい!」
ミーコは猫を持ち上げた。猫のふぐりがにゃあぺろんと下に垂れ下がった。ミーコは、ゆっくり、猫を膝
に下ろした。
「何やねん」
タローは男の子だった。ミーコの相棒の猫は、女の子だったのだ。ミーコは手をスっと離すと、猫は
ミーコの膝から勢いよく
跳ねて、置いてあるどでかいスリッパに頭を突っ込んだ。ミーコは少しうつむき、老人を見た。老人は
うつらうつらと夢心地のようにだった。
「ミーコ、何やねん何やねん」
タローはもごもごと鳴きながら、スリッパから頭が抜けなくなっていた。ミーコはイスから起き上がり、
老人に近づき、 肩を力強く掴んでゆっさゆっさ揺らした!
「ここは一体何処です!」
突然ミーコに天井から垂れる管がミーコをぎゅうと包みこみオブジェの外へ勢いよくポーンと吹っ飛ば
した。ミーコは凄い勢いでゴロゴロと地面に叩きつけられ、そのまま巨木に強く頭を打ちつけた。ミー
コは死んだ。

ミーコ よ しんでしまうとは なさけない !!

ミーコは布団の中のような、どこか真っ暗の場所に付いた。小さな明かりに気づき、目を凝らすと、子
供の頃のミーコの後ろ姿を見た。6歳か7歳、よく熱を出す子だった。子供のミーコの側にはスーパー
アーミコン。テレビにはボヤゴンクエストワン・ツーが
映し出されていた。ボヤゴンクエストワン・ツーはチュンソフ党製作の名作ボヤゴンクエストのシリー
ズ、ワンとツーが二作品セットで入っている。ミーコはワンをクリアしたらツーをプレイして、ツーをクリ
アしたらまたワンをプレイして、永遠とボヤゴンクエストをプレイした。ワンは1プレイ二時間ぐらいでク
リアできる。非常にテンポもよくサクサク進み、ミーコはツーよりワンが
好きだった。加えてツーのほうは難易度が高く、ワンの二倍ほど時間を要してしまう。しかし、ツーに
はワンの付箋が多く絡み、ワンを読み解くためにツーのプレイが必要でもあった。ミーコはボヤゴンク
エストのストーリーが好きだった。勇者に封印されて
しまった魔王アゲポヨが封印中に意識の回路を別のものに移すことに成功していた。封印を解く魔術
の勉強をそちらで行っていた。一方平和を取り戻した勇者達も、魔王アゲポヨにかけた封印は強力
だ。2万年ぐらいは効果があるから大丈夫だろう。後の時代の人たちのことなんかどうでもよこざんす
と平和ボケに満ち足りていたが、僅か2年で封印が解け、魔王アゲポヨが復活した。全然大丈夫じゃ
ない。勇者が住む、やびゃあ城では、夜の宴会が賑やかに行われていた。魔王アゲポヨはその機を
狙い一気に魔王軍は押しかけた!カンの鋭い勇者はいち早く異変に気づき、伝説の剣ロトシックスを
構え、兵士に呼びかけ城を飛び出した。しかし全員酒が
入っており、まともに戦闘に参加できる状態ではなかった。魔王軍の奇襲になすすべもなく、勇者達
は全滅。それから凄い勢いで世界は
魔王に制圧されていき、後2万年ぐらいは魔王による暗黒時代が続くのでした。

さらに魔王は勇者を自分がされたように封印を施したのでした。魔王はその封印に特殊な仕掛けを
かけた。まず勇者に意識を持たせておきました。さらに女性の胎盤の様に取り込まれている物に対し
て栄養を送り続ける生命維持装置のような物を細工したのです。勇者は天空に吊り上げられ、地上
の変化をただ見守るのでした。そして勇者はある事に気づきました。遠くにいたせいか、だんだんと
目が良くなり、世界の事がよくわかりました。勇者は封印された日から世界の文化はひとつも成長し
ていないのです。嬉しいことに人類はなかなか滅亡せず、普段どおりに生活していたのでした。勇者
はテレパシーを送り続けました。生命エネルギーを使うので、日を置きつつゆっくりとゆっくりと送り続
けました。そして千年に一度だけ非科学的な要因で特殊な力を持った人が生まれることがある。この
世に舞い降りた、プレイヤーである。名前はみいこ。みいこは男の子。
そしてみいこは何度も勇者のテレパシーをキャッチして、物心が早くついた。
「ここから出してくれよんしんちゃんうっちゃんなんちゃんさねよしいさこ」
勇者のテレパシーはみいこの本能に刷り込まれ、自然の力で鍛え抜かれた身と技で、勇者を救うべ
く、世界を放浪するのだった。
ここからツーの話。ツーはみいこの気持ちをかき乱した。ワンではみいこは魔王アゲポヨの封印に成
功したのだった。散々な目にあった勇者はみいこが修得するのが難しい封印解除呪文を修業を重ねて
なんとか覚えたので、勇者にかかっていた封印の解除に成功したが、
すでに自決していた。そしてこの時、二万年に一度、非科学的な要因で新たな魔王、サゲポヨが生ま
れた。そして、二年後に魔王サゲポヨは封印された魔王アゲポヨを見つけ出した。そしてあっという間
に魔王サゲポヨの力で魔王アゲポヨの封印が解かれてしまったのだ。魔王サゲポヨは、この歴史上
見たこともないまれケースであり、頭が切れていて非常に強い魔王だったのだ。そして、魔王二人に
よる恐ろしい世界征服が始まろうとしていた。このツーでは、ワンとセットになっているが、ワンをクリ
アすると、そのデータを全て引き継ぐことが可能になる。さらに、魔王が潜む魔王城の拠点がスタート
地点の目の前にあり、すぐにでも魔王と戦うことが出来るのだ。しかし、ゲーム
を二週、三週とすると、魔王アゲポヨと魔王サゲポヨはパラレルワールドで鍛え抜かれるので、どん
どん強くなって出現する。二百五十六週まである。プレイヤーのみいこは生きることに対する意識度
が信じられないほど高い。どんどん一人で突き進んで
戦っていく。魔王が現れると世界各地の伝説のほこらに、人ならば善悪関係なく身に着けることが出
来る、ロトシックスシリーズが出現する。プレイヤーのみいこはこれを集めなければいけない。チュン
ソフ党の開発スタッフによると電源投入時にシステム変数が
ランダムでセットされ、ニューゲームをした際に様々な情報が決定されるそうだ。やるたびに細かな多
くのイベントなどが、別のイベントに置き換えられるので正直千五百回は遊べる。そして、時々現れる
キャラクターには、時折クリアした周回で変わるものもあり、
二百五十六週のプレイ時に、一度だけ魔王が潜む魔王城にチュンソフ党の社員が登場する。彼はプ
レイヤーに近づいていく。一度プレイヤーの背後にピッタリとくっつくと取れない。一度マップから出る
と、彼はいなくなる。そして、彼に話かけてみると画面は演出用のフェードアウトもせず、音も立てず、
すぐさま真っ暗になる。少しするとテロップがゆっくりと流れ始める。

おれはちゅんそふとうの しゃいんだ
まちがいなくせかいは こんとんを むかえる。
ちゅんそふとうに なぞのそしき せかいとうのやつらが ちゅんそふとうにのりこみ
やくざいか のやつらと きょうどうかいはつで なぞのけしょうひんを かいはつした。
のちにそのけしょうひんは せかいじゅうに まんえいすることに なる
だろう。 けしょうひんの なまえは スハダツヤール。 じょせいならば きいたこと
があるのでは ないだろうか。おそらくいまでも しはんの しょっぷでも 
よくみかけるのでは ないだろうか。 スハダツヤールを はだにぬると あかちゃんの
すはだのように スハダツヤール だろう。 のびの よさと こまかな ケア を
かのうと している。 いずれけしょうひん うりあげしじょうを どくせん する。
しかし この スハダツヤール には おそろしい しかけが しこまれているのだ。
ひとの はだにたいして つかうたび つかうたび に ある いでんしそうさを
すりこまれてゆき ひとの いでんしを アリ のような いでんしにつくりかえて
しまう おそろしいものなのだ ! ! !
さらに ひとの うまれゆくあらたな とうとい しそんを ねらった おそろしい
はんこう なのだ。じかくしょうじょうもない。しょうじょうがみられる たいみんぐは
ねているとき あしをむやみにばたばたと ゆらす ひとこきゅうをおいて ないーぶと
いうたならば おそらく それが そうだ。スハダツヤール を じゅっかいほど 
つかってしまってと すでに スハダツヤール の しんこうは すくなくとも 5わり
いでんしのそうさが しんこうされて いるだろう。2わり でも たいへん きけんだ
アリ のようないでんしを すりこまれた ひとは のちに せかいとうが きょだいな
でんぱを とばし りせいがきかなくなる いわれたとおりにふくじゅう され 
せかいとうのおもうまま となろう。ちゅんそふとうも せかいとうもいまいち 
やつらのたくらみは わからない。いまは くわしくはなすことが ままならない
なんとか メモりチェックを とおしても ひっかからないように げえむ の 
きゃらくたーの せりフを この ぶんしょうに もじって うつしているのだ。
いいか ちゅんそふとう から でる スダハツヤール だけは かうな ! ! !
いじょう

テロップが終えると、画面には魔王城が映し出され、チュンソフ党の社員はロトシックスシリーズをプ
レイヤーのみいこに全て与え、マップから消えた。ともかくミーコはかなしくなった。
ミーコは子供のミーコの側に近づき、隣に座った。どうやら子供のミーコはゲームに夢中で気づいて
いないようだった。子供のみいこはあっという間に二百五十六週目を終えた。エンディングが流れ始
める。テレビからは、ボヤゴンクエストのワンと、ツーのエンディングのみ担当のギヤマンコーイチ作
曲のエンディングのバックグラウンドミュージックが流れていた。曲名は”マイメロディ口ずさんで”
ミーコが生きていた中でこれほどまでに素晴らしい曲はなかった。テレビのスピーカー部分にテープ
レコードを置いて録音をして、寝ながらもよく聞いた。自前の歌詞もつけた。世界にはいろんな曲が溢
れている、ミーコはこの”マイメロディ口ずさんで”がミーコのその後の人生に強く影響した。ギヤマン
コーイチ先生にファンレターを出すと、なぜか楽譜付きでちゃんと返事が返ってくる。そういう
経験を伴い、ミーコは、ギヤマンコーイチ先生のおかげで音楽に対する強い関心がついた。しかしあ
る時、ギヤマンコーイチ先生は私にある物を郵便で送ったのでした。それはギヤマンコーイチ音楽全
集。内容二千ページ以上にも及ぶ本と、ギヤマンコーイチ先生による即興演奏による物、ギヤマン
コーイチ先生が影響を受けた方々の音楽、使うだけで為になるサンプリング素材のCDな
ど、その他を合わせミーコはワクワクして、私は感謝の手紙を出すことすら忘れてしまい、次へ、次へ
と全集を読み進めていった。一ヶ月ぐらいで全て読み終わった。そして私はなんとなく
探究心でギヤマンコーイチ全集の本の表紙を外すと。白い封筒があった。そこにはミーコへと縦書き
で綴られてあった。ミーコはびっくりして急いで封を切った。

「この手紙も無事ミーコ君に届くかどうか、読んでもらえるかもどうかわからない。発見してくれる事を
祈りつつ、私が出したギヤマンコーイチ全集の表紙の裏にこの手紙を加えたが、ここで申しても仕方
がない。ミーコ君、今すぐチュンソフ党はすでに以前にチュンソフ党ではない、強いて言うなら悪魔ど
もに魂を売り渡した勇者御一行のようなものだ。すでにやつらは動いている。恐ろしいことに今巷で
話題になっている人攫いの事件は、ほとんどチュンソフ党が起こしているものだ。しかしトラブルが多
く、なかなか思うようにうまく物事が進まないらしい。そんな中で彼らの悪行を、なんとかメディアに伝
えることはできないかと、私はツーのコンポーザーから外されていたが、なんとか頼み込んで、ボヤ
ゴンクエストツーの楽曲”マイメロディ口ずさんで”を作曲し、入れることが出来た。スーパーアーミコ
ンは低音質だが、サンプリング音源なので、なんとかサブミリナルという形でソフトにメッセージを入
れることが出来たのだ。しかし効果はあまり見込まれないようだ。そして、やつらは何か私に怪しい疑
いを持ち始め出している。私は仕方なく親交のある方々の手紙や、申し訳ないが、周りに及ぶ危害
のためを考えたなら、情報の媒体となるものを処分せざるを得なくなってしまった。ミーコ君、
やつらの開発したものは、大変危険なものである。様が済んだならばすぐに処分しなさい。手紙は、
このまま送らないで読んだら燃やせ」

普段ミーコの為に振り仮名付きで丁寧に執筆するギヤマンコーイチ先生。しかし、この手紙は、振り
仮名もなく、紙の幅がギリギリ足りるかわからないくらいの大きな文字で荒々しく書かれていた。ミー
コはギヤマンコーイチ先生はもちろんチュンソフ党のなにかやばそうな研究について、酷く心配した。
子供ミーコは二百五十六週目を終えた。そうすると、零週目が始まるのでした。ミーコはびっくりした、
これ以上先に進んだことがない。しかし微妙に心当たりがあった。
「プレゼントくれ」
ミーコは思い出した。ミーコが子供のミーコの頃、そろそろ新しいスーパーアーミコンのソフトが欲し
かった。しかし、ソフトを完全にクリアするまで次のソフトを親に買ってもらえなかった。ミーコはボヤゴ
ンクエストのバカの壁にぶち当たっていたのだ。
「ラーメン」
子供ミーコはぽつりとつぶやくと、それからただ黙々とボヤゴンクエストをプレイし、零週目のロトシッ
クスシリーズを集め終わった。子供ミーコはみいこにすべてロトシックスシリーズを装備させた。そうし
てメニューからステータス画面を開くと、うっとりした表情を見せて、ぐぐーっと猫背を伸ばしてコント
ローラーをコトリと置いた。子供ミーコはそのまま床に倒れこんでススヤスヤと寝てしまった。
「何なん自分」
ミーコはこの先に、子供ミーコがスーパーアーミコンを蹴飛ばしてしまうのを知っていた。とにかく電源
を落とさなければ!スーパーアーミコンに強い衝撃が加わればショックでバッテリーバックアップに過
電流が起こってデータなんかあっという間に消えてしまう。ミーコはとにかく急いで子供ミーコをどかそ
うとした。驚くことに子供ミーコは信じられないほどズッシリと重くなっていた。子供ミーコはミーコの
半分ぐらいしかないはずだったのに、動かそうにもびくともせず、子供ミーコを揺さぶることしか出来な
かった。
「何やねん」
子供ミーコは右腕をぐらぁりと天井に向けて伸ばし、勢いよく床へ振り下ろした。
「ゲェッ」
ミーコの喉が唸った。子供ミーコの右腕がミーコの首をギロチンのように挟み、そのまま床にべたぁん
と顔についた。ミーコは息ができなかった。しかし不思議なこと事に息をしなくても苦しくはなかった。
しかしなんとも身動きが取れないので、横へ這い蹲るようになんとか移動を試みた。そうするとスッポ
リミーコの首が取れた。ミーコの意識は首だけになった。
「何で?」
ミーコの首がふわぁっと宙に浮いた、ミーコはなんとかバランスを取った。そしてミーコはスーパー
アーミコンの位置を確認し、口の中にプクリと空気を溜めてギァン!とスーパーアーミコンに飛びか
かった。ミーコの首はスーパーアーミコンにズンとぶつかった。なんとなくミーコはわかっていた。スー
パーアーミコンはびくともしない。とにかくミーコは無我夢中でスーパーファミコンを子供ミーコから引
き離そうとした。そうすると、ミーコの体がビクンと振動し、腕をリズムをつけてダンダダンと叩き始め
た。するとミーコの腕が
コントローラーにバンババンと何度もぶつかった。ボヤゴンクエストのテレビの画面を見ると、ぽろり
んとメニュー画面を開いてはぴろりとメニュー画面を閉じてそしてまたぽろりんと幾度もメニューの開閉
を繰り返していた。すると、ミーコの体は突然、ふぁんと光始め、ズババババと閃光を放ち、スパン
スパァンと音を立て、ずりゅずりゅとコントローラーの中へ吸い込まれていく。首だけになったミーコは
驚き、スーパーアーミコンを放し、ミーコのふとももの辺りをしがみつくように強く噛みついた。そのま
まミーコの体と首は徐々にコントローラーの中へと吸い込まれていった。ミーコはテレビの砂嵐のよう
な場所に出た。すると、どこからかダダダダダとホワイトノイズが鳴り響き、突然ミーコに衝撃波の波
が襲い掛かかった。ミーコは非常に耳障りで、思わずミーコのふとももを口から放してしまい、ミーコの
首は体と切り離され、吹き飛ばされてしまった。ミーコは体の位置を確認すると、急いで体の元へ
と移動した。するとまたホワイトノイズがダダダダダと鳴り響いてミーコを襲う。なんとかふわぁりふ
わぁりとミーコは体の元へ辿りつき、首の断面図へ頭をうまく合わせて、ぐぐっと押し込んだ。そうする
とうまい具合にミーコの頭と体はガッシリと繋がった。喜ぶのもつかの間、ミーコの体の感覚が元に
戻らない。するとホワイトノイズがしつこく鳴り響く。ミーコは耳を塞ぎたくて塞ぎたくてたまらなかっ
た。しかし、ミーコはホワイトノイズに耳を澄ますと、あれほど耳障りなホワイトノイズの音がだんだん
と耳に馴染んで辛くもなんともなくなった。むしろそれは美しい音楽のようにも聞こえてきました。以前
ギヤマンコーイチ先生が、楽典的ではないけれど、そういう音が音楽に感じてしまうことがあるという
ことを教えてくれたことがあった。さらにミーコはホワイトノイズに耳を研ぎ澄ました。すると、ラジオの
周波数がズズッと番組に重なるように、ミーコはホワイトノイズの部屋から抜け出した。ミーコは天井
を見上げていた。
「何やねん」
ミーコはとつぶやき、体をぐぐっと持ち上げたが、肉離れのような痛み全身を走り、ミーコは途中まで
持ち上げた体をくくくくくくくっと床へ下ろした。首をゆっくり左から右へとずらし周りを確認した。どうや
らここはあのタローがいる謎の老人の変なオブジェの中のようだ。
ミーコは部屋の柱と柱にかけられたハンモックに横になり、体には毛布がかかっていた。ミーコはとり
あえずどうしようかと考えたが、身動き取れそうもないので良い機をうかがうようにして、そのまま目
を閉じて眠りについた。ミーコは家を出てから同じような夢ばかりを見ていた。夢の内容は時間が経
つたび鮮明になり、エスカレートしていくのだった。夢の中ではミーコはボヤゴンクエストをプレイして
いた。視界には画面しか移らず、てくてくとマップを歩いていると敵が出現し、ひたすら敵を倒し、
またてくてくとマップを歩くのだった。敵を倒しても敵が何かアイテムを落としたり、お金や経験地のよ
うな表示などはまったく出ない。すると突然ポッカリと浮かぶ島が出てきた。その島に吸い込まれるよ
うに島の中の町の中へ入る。そうすると今までゲームの画面だった視界が現実味を帯び始め、町の
中には工場がたくさんあり、中にボロクソな宿屋が存在し、ボロクソの宿屋に視線を合わせると視界
がホワイトアウトしていき、何かそこら中にチューブのようなものが垂れていて、部屋全体が赤黒い。
たくさんのチューブがくっついている機械と、目の前には試験管が存在する。試験管の中には全裸の
状態で頭が下を向くように人が入れられている。大変苦しそうだ。するとぶびゅうぶびゅうとたくさん
の機材が何かを吸い取るように唸り始め、試験管の中に夥しい量の蛇が投入され、中にいる人に食
いかかる。試験管の中の人は、ダンダダンと試験管の壁を殴り、蛇だらけになった試験管の中の様
子はよくわからず、中の人が必死にもがいている手だけがよく見えた。そして夢が覚める。
もう一枚布団が欲しくてミーコは体を揺すぶった。ミーコはいつものように目が覚めてからしばらく考
え事をはじめ、むくりと体を起こした。動き出すとミーコは全て考え事を忘れる。ミーコの体の中には
ある余分な物がスルリと取れる。そうするとミーコの気分は非常に楽になるのであった。ミーコは部屋
を見渡し、あの老人を探すと、老人はさっき目が覚めたときと別の場所で寝ていた。

突然、ミーコが乗っているハンモックが揺れ始める。ミーコは小さな地響きに気づいた。すると老人が
むくりと起きて、手元にあった刀のようなを物を腰に刺した。
「出たな」
老人がそう呟くと、部屋の壁ににゅるりと穴が開き、ドタバタと老人が外に飛び出した。老人の後をつ
けるようにタローも駆け抜けて外に飛び出した。
「何なん」
ミーコもオブジェから飛び出し、老人の後を追った。外は早起きした時のような明るみを帯びていた。
ミーコは後ろをちらりと振り返ると出口になったオブジェの穴は埋まっていた。森の奥へと駆け足で進
む老人はだんだんと減速しはじめ、ついにはよたよたよたよたと進み始めた。そしてミーコはすぐに
追いついた。そしてミーコは老人のペースに合わせる様に、よたよたよたよたよたと自然豊かな地面
をくしゃりくしゃりと歩いていく。その間、小さな地響きが幾度も唸っていた。そして、どうやら老人の目
的地についた。ミーコは辺りを見回した。根っこをほっくり返したように、そこら中に木々が倒れてい
る。
「何という」
老人はガクリと膝を地面に下ろし、右手の親指と人差し指で目頭を摘んだ。何か相当ショックのよう
だ。
「何やねん」
とミーコはつぶやいた。そうすると老人は頭を少し上へ向け、呼吸の様子も見られずフーと息を吐い
た。ミーコに右手を返事をするかのようにふらありと伸ばしてすっと下ろした。老人はゆっくりとミーコ
の方へ向き始める。
「きょだいもぐらの群れだ、きょだいもぐらが私の梅林をこんな姿にしくさった」
と老人は言い切ると、くっと歯を食いしばり、頭を横にひねった。すると老人は突然、ハハッと笑った。
ミーコは驚いて、思わず声をあげた。
「何やねん!」
そうすると老人はフッと老人は息を漏らすと、頭を少し下に向けて、腕を組んだ。
「お嬢さんはあんな場所にいたんだ、あの日本を目指しているんだろう?みよ、この有様を」
老人はミーコに問いかける。老人はゆっくりと顔を上げ、ミーコの表情を確認するようにまじまじと見
つめた。ミーコは日本なんて目指してもいない。そもそもミーコはここに来る前は、日本にいたのだ。
ミーコも老人の顔を見つめた。ガサガサガサッ、どこかで草を掻き分けるような音が響いた。老人は
ムッと口を閉め、周りを確認した。ミーコも同じく周りを確認したが、何者もいない。
「きょだいもぐらか?また懲りずに私の梅林に戻ってきたのか?許さん」
老人は腰に刺していた刀のような物を取り出し、チュラリと鞘を抜いた。刀の剣先に辺りに広がる光
が反射する。
「何なん」
とミーコは言い、腰が抜け、足が笑った。なんとか体を引きずるように老人から離れた。老人はズズリ
と右足を前へ出し、ゆっくりと構えを取っている。
「お嬢さん、あのオブジェの前へ行きなさい、あれは私が長い年月をかけて作った人工生命、中に入
れる者ならばオブジェは味方として判断する。何かお嬢さんに危機が迫ったら助けてくれるだろう」
老人はミーコに命令をすると、瞼をゆっくりと閉じた。どうやら老人はきょだいもぐらと戦うようだ。ミー
コは体を無理に起こすと、ズルっとこけた。ミーコをちらりとみた老人はミーコにしびれを切らし、怒
鳴った。
「そんなところにいるときょだいもぐらに跳ね飛ばされるぞ!」
すると、老人の声を待っていたかのように、前からガサガサガサと伸びた草を分けながら何かが老人
に擦り寄ってきた!それは突然奇妙な泣き声をあげた。
「何やねん」
タローの声だった。タローがふるんと草の中から顔を出した。老人はタローを確認すると、肩を下ろ
し、構えを解いた。それからミーコと老人はオブジェの中に戻り、ミーコと老人は朝ごはんの準備を
始めた。ミーコはラーメンが食べたいと老人に伝えると、心配そうな顔をした。老人はリビングの棚
からゴソリと様々なカップラーメンを腕いっぱいに抱え、ミーコのテーブルの上に置いた。ミーコは
カップラーメンを、確認するように何度も手に取った。ミーコが知るカップラーメンの銘柄はない。
しかし、それらはどことなくミーコの知っているカップラーメンに似ている気がした。老人も自分の
カップラーメンを選ぶと、迷わずシーフード味のカップラーメンを選んだ。
「なんでなん」
ミーコは老人の顔を見て、腕を掴んだ。やめてくれと首で横に振り、否定する。老人は仕方なくシー
フード味のカップラーメンをテーブルの上に戻し、シーフードカレー味のカップラーメンを手に取った。
ミーコは老人が手に持つシーフードカレーに視線を移す。ミーコはシーフード味のカップラーメンも食
べたくなってきてしまった。ミーコは気を紛らわそうと、食器棚の前にあるポットがかかるストーブの前
へと移動した。すでにポットのお湯は沸いていて、シンバルを震わすように蓋の部分小刻みにカタタ
タと音が鳴っていた。ミーコは食器棚を見ると、あやしい調味料からそれっぽい感じの調味料がたくさ
ん並んでいるのを確認した。ミーコは人一倍、味覚が良いと自分で思っている。ミーコはのおすすめ
はタバスコだった。ミーコはガラリと食器棚の扉を横にスライドして、一番下に置いてあるタバスコの
ようなものに手を伸ばして取ると、服の上着のポケットに入れた。右手でポットの取っ手を掴んで持ち
上げた。ミーコはポットの重さに体が揺さぶられながら、リビングのテーブルへと戻った。老人はテー
ブルを顔に向け、何か悩んでいるようだっだ。ミーコはおそらく老人が剥いたのである蓋が空いてい
るカップラーメンにお湯を注いだ。
「お嬢さん待ちたまえ」
と、老人はミーコに伝えると食器棚の前へと移動した。なにやら調味料を調合してスプーンか何かで
ゴリゴリゴリゴリと音を立てていた。
「待ちたまえ――」
老人は続け様に呟いた。ミーコは老人から聞こえてくる音に合わせて、テーブルの上の箸を取り、
テーブルに箸を打ちつけ16ビートを刻んだ。ミーコはおそらく三分は経ったと判断し、カップラーメンの
前でいただきますと合掌し、カップラーメンの麺を口に運んだ。
「ホグッ」
ミーコは口にした麺を一度左手の平に戻した。ほっぺたを膨らませ、右手で口を押さえた。ミーコの食
べたシーフード味のカップラーメンは麺はまるでゴムを噛んでいるような食感。口の中はカプセル剤
を溶かしたような苦さが広がり、舌が溶けそうになった。死んでしまう、死んでしまう!ミーコはパニッ
クになった。ミーコはすぐに台所へ向かい、左手に持っていた麺を流し台に落として、蛇口をぎゅっと
ひねり、手でコップを作り急いで口の中を漱いだ。なんどか濯いでいる内に口の中の苦さは取れて、
ミーコはパニックから正気を取り戻した。しかし、ミーコはしばらく蛇口に手をかけて、しばらく蛇口の
水を閉めずにそのまま流していた。老人は用事を終えた。するとミーコの異変に気づき、キッチンに
移動した。ミーコの状態を確認すると、老人は手に持っている紙袋をがっさりとミーコにかざした。
「お嬢さん、あなたは一度死んでいる。おそらく臨死体験しただろうが、そのためにこれを」
老人はズボンのポケットの中から赤い色の液体が入った瓶を取り出した。ミーコは瓶を見つめる。
ミーコはいまいち口の締まりが悪い。「これはゾーマという花の蜜だ。これを口へ一滴垂らしこむ。そう
すると、すでに絶命した者は忽ち息を吹き返す。しかしそれなりの稀少価値がついている、とても大
事なものだ」
老人はミーコの不安そうな顔を見ると、いつのまにか力んでしまった喉を緩めて、ンッンと咳払いをし
た。
「ゾーマの蜜の効力は強く、副作用も強い。しばらくは味覚が元に戻らないだろう。お嬢さんの気持ち
も考えずにゾーマの蜜を使ってしまった。しかし!」
老人はミーコの胸元にぐいっと紙袋を突き出した。思わずミーコは紙袋をガシリと掴んだ。
「何なん」
老人はスッと紙袋を離した。老人は頭をうなずいて開けてみなさいと身ぶりした。ミーコは紙袋をそ
うっと開けると、老人が乱暴にミーコに紙袋を渡したせいで、中に入っていた粉が舞い、ミーコの顔に
かかる。ミーコは咳き込んだ。
「何やねん!」
すると、ミーコはかすかに口の中からシーフード味のカップラーメンの匂いを感じた。老人は嬉しそう
に語り始めた。
「さっき思いついた味覚を戻す調合薬だ。ゾーマの神経作用をガマの油をベースに、きょだいもぐらの
歯と、天日干しした梅の種の中身と、バナナの皮を粉末にして混ぜた。するとこれはうまくいった。無
事に調和したのだ!」
ミーコは紙袋の中の匂いをすすっと嗅ぐと、菌類のような匂いがしたので、少し怖くなり敬遠した。老
人はハハッと笑うとリビングのイスに腰掛けた。老人は呼吸を整えてカップラーメンに手をつけた。

ズッズズーと老人はカップラーメンをすする音が聞こえる。ミーコはコップをキッチンの窓に口を上に
してあるコップを一つ取り、コップをくるりくるりと回して汚れを確認して、リビングのテーブルに向かっ
た。ミーコはテーブルの上にあるポットに手を伸ばし、持ち上げる。取っ手の部分を掴むとほんのり
あったかい。ミーコはコップにお湯を注ぎ、ポットを右手にもちつつ、左手でコップを掴んでお湯を口に
入れた。ミーコは味覚を確認したかった。ミーコの舌はこれなら大丈夫のようだった。タローが老人の
足元からにゅるりと出てきてテーブルの上にガジガジと爪を立て、よじ登る。
「ミーコ、シーキチンくれ」
タローはテーブルの上にすららっと登り切り、ミーコのカップラーメンを蹴飛ばした。ミーコは相棒に会
いたくなった。老人はこぼれたカップヌードルに注意が引き、老人の隣にあったティッシュの箱のよう
なものからシュッシュと7、8枚紙を取り出しミーコに渡した。老人の目から拭いて欲しいとミーコにアイ
コンタクトで伝わる。ミーコは了解し、ティッシュを受け取る。ミーコはこぼれたカップラーメンの麺を容
器に戻し、こぼれた汁をティッシュで拭き取る。老人はカチンと箸を置く。それから老人は深く息を吸
い、胃を休めた。
「きょだいもぐらの事は本当に残念だった」
ミーコはテーブルを拭きつつ、老人を見る。
「何なん」
ミーコはぽつりと呟いた。老人はミーコの方を向いて首を横へ傾げた。
「お嬢さんは何も知らないのか」
老人はミーコに問いかけた。ミーコは問いには答えずテーブルをティッシュで拭き取る。ティッシュはも
うぼろぼろになり、テーブルに残るスープを拭くとさらにティッシュからスープがこぼれ、ちゃんと拭き
取れていない。
「お嬢さんは記憶障害か、名前は言えるのか?」
「ミーコ」
と、ミーコはつぶやいて、ティッシュをテーブルの上に置いた。ミーコは老人に問いかけられてミーコ
の中にあった不安が悪化した。今この時にだって、ミーコの記憶はちゃんとあるし、わかっている。家
を出た時のままの、この汚れた服装だって、ミーコはわかっている。ミーコは何が悩ましいかって、こ
んなところにきた動機なんてものはないのだ。もしかしたら、チュンソフ党の仕業で、ミーコは電波か
何がに侵されて、ミーコの精神はおかしくなってしまったのか。ミーコの目にテーブルの上で小便をし
ているタローが映る。
「ラーメン!」
ミーコは声を上げた。老人は驚いて顎が少しずれた。
「はあはあ、お腹が減っているのかねミーコ君」
老人はあたふたして、ミーコを心配した。ミーコは、少しの間口が閉まらなかった。ミーコは、思い出し
た。ミーコの相棒だ!ミーコの相棒がここへ連れてきたのだ。ミーコは何かワナワナと体に力がこみ
上げた。
「何でやねん」
タローの鳴き声がした。タローはあまりにもミーコの相棒に似すぎていたのだ。タローはテーブルの上
から、ミーコを見つめている。タローはテーブルの上からとろんと床に降りて猫背を伸ばした。タロー
は部屋の柱の影へと移動し、ミーコの視界から外れた。ミーコはふと、ここから出ようと決心し、立ち
上がった。
「ミーコ君」
老人が手を上げ、ミーコを呼んだ。ちょうどミーコにも、老人に用事があった。ミーコは老人に話しか
けようとすると、老人から先に話を割り出した。
「ミーコ君、行くところがないならば、ここにいると良いだろう。ここならばそこらで野宿するよりも安全
だろうし、出来れば手伝って欲しいことも、ある」
老人は、すぅっと一息を入れて、スっと表情を曇らせた。
「なによりも、私はもうある程度はボケている」
ミーコは老人のほうを向き、少しの間老人を見つめて、老人の返事にこくりと遅めにうなづいて了解し
た。そうすると老人の表情には安心したようにニコリと微笑んで、ゆっくりと立ち上がった。老人はよ
たよたよたよたよたよたとしながら部屋を移動し、タンスの引き出し、キッチンの引き出し、とにかくそ
れらを引っ掻き回したら、ずぅどんっ!と勢いよく引き出しを閉めた。老人は用事を終えて、ミーコの前
にたくさんの袋をごっそりとミーコの前に置いた。ほこりがふわぁりと空中に舞う。ミーコはむせた。老
人はふたたびよたりとイスに腰掛けた
「何なん」
ミーコは袋を指でちょいちょいと突いて、袋の中身は何かと問いかけた。老人はうなずいて、ミーコの
質問に答える。
「中には私が作った薬とここ一帯で使えるお金が少し入っている」
ミーコは何度も頭を下げて相槌をする。老人はくるりと後ろを振り向いて、刀を取り出した。ミーコの気
が恐怖で引き締まる。老人は鞘をチュラリと抜いた。
「外には危険がいっぱいだ。草木など、足場の悪い所や、奇怪な生き物。あの、忌々しいきょだいもぐ
らもいる。それだけに留まらず人身売買目的の人攫いがいる。このリアル斬鉄剣をミーコ君に渡すか
ら、自分の身は自分で守るがよい」
老人は刀を鞘にしまい、ミーコに渡した。ミーコは腰に刀を差すと、老人に新しい替えの服はない
か!と老人に伝える。ミーコの服は酷く汚れていた。老人は困った表情をしてよたよたよたよたとまた
タンスへ移動し、中身を確認した。ミーコは壁に掛かっていたポッケの大きいエプロンを見つけた。
何かを入れるにはちょうどいいだろうと、エプロンを取った。老人は女性物の民族衣装をたくさん持っ
てきた。老人はふぅとため息をついた。少し疲れているようだった。ミーコは気に入った服を選んで腕
に抱えた。そしてミーコは老人に近寄り、注意を引く。老人は気づき、ミーコを見る。ミーコはもじりと
視線をずらし、恥じらった。
「私は、トイレに行くよ」
老人はよたよたよたよたよたよたよたよたよたよたとトイレに移動した。ミーコはいそいそと着替えて
すぐに用意を済ました。ミーコはそこら中部屋の壁を、だだんだんだと敲きまわった。
「何で!」
ミーコは壁に寄りかかり言葉を漏らすと、すらぁりと壁は消えてドテーン!と勢いよくミーコは外へと転
げ出た。



+ 2「12-12-17~」

ミーコは前に来た梅林に出る。きょろきょろと見渡すと、ミーコからずっと向こうの方に林道が存在して
いるのがわかった。ミーコはそちらを通ることにした。ミーコは折れた木をスルリと避けつつ、林道に
入っていく。
「おい」
ミーコは誰かに突然呼び止められた。ミーコは振り返らず林道の中を勢いよく走った。この林道は湿
地体なのか、砂利が多く足場が悪いので、ミーコは地面を踏み込みづらかった。
「おい!」
ミーコの後ろから声が響くとミーコはさらに地面を強く蹴飛ばして走る。
っどどぉ!ミーコはおそらくバイク750ccほどはあるバイクのようなものに後ろから勢いよく跳ね飛ばさ
れた。ずっしゃぁとミーコは勢いよく地面へと叩きつけられた。ミーコは普段からぼーっとしているの
で、交通ルールが苦手だった。ミーコは車やバイクに跳ねられるのは慣れっこだった。ミーコはその
まま地面に伏せて、死んだふりを続け、様子を伺った。
「おい!おい!死んでいるのか!おい!おい!おい!靴!おい!靴!」
ミーコは何かに自分の靴を脱がされ、ぞぉっと身震いをして思わず飛び起きてしまった。ミーコの目の
前には、きょだいなもぐらのような物が立っていた。それはもうとにかく大きかった。ミーコは震える手
できょだいなもぐらのような物に指を差して、唇を震わし言った。
「きょだいもぐらだ」
きょだいなもぐらのような物はにゃぁりと笑った。おそらく目がないのか、きょだいなもぐらはスンスン
と鼻を使い、ミーコの位置を確認してゆっくりと近づく。はぁはぁっと鼻息が荒い。
「俺はな、おい!きょだいもぐらベスなんだよ」
きょだいもぐらベスの鼻がミーコのおでこをガッツンと跳ねた。ミーコは脳震盪で死んだ。
ミーコは青い空にふかふかと浮いている。ミーコは周りを見渡すと、景色はまるで航空写真のようだ。
すると、ミーコの足元からどぉんとサッカーボールがミーコのすぐ側まで飛んでくる。サッカーボール
はミーコの目の玉ぎりぎりぐらいまで空へと伸びると、ゆっくりと地面へと落ちていく。ミーコはその
落ちていく様を見つめている。ぼぼぉんと重い音を立ててサッカーボールは地面へと叩きつけられ
た。落ちたサッカーボールのすぐ側に人がいる。どぁん!サッカーボールがまた打ち上げられて、
ミーコにどんどんどんどんどんどんどんどんどんと向かってくる。ミーコはなんとか避けようとするが、
ミーコの視線がサッカーボールを酷く凝視し、体が思うように動かない。だあんっ!ミーコの顎を跳ね
飛ばした。ミーコは危うく目の玉が飛びそうになったがどうやら無事だった。ガシンパリパリィン、何か
が割れた。ミーコは、はぁっと息を呑んだ。足元から腰の辺りを辿っていくように嫌な汗が上がってき
た。ミーコは顎をカクカクと動かしストレッチをする。ゴツン!ミーコの頭に何かがぶつかる。ミーコの
目の玉が片方ポロリと取れた。ミーコの頭からコロリと何かが降りてくる。ミーコは手に取る。
「何なん」
サッカーボールだ。ミーコはサッカーボールの重みでゆっくりゆっくりと地面へと下降していく。ストンと
ミーコは着地すると、周りを確認する。ミーコは見覚えがある。おそらくここはマントヒ広場。ミーコは
掴んでいたサッカーボールを離し、マントヒ広場の周りを見回す。ミーコは十年振りぐらいかもわから
ないけれども、懐かしい。男の子がダッダッダと走ってきてミーコが掴んでいたサッカーボールを
ぎゅっと掴む、そしてマントヒ広場の周りをきょ、きょろ、きょろりと確認をした。ミーコは、この挙動不
審の男の子に見覚えがあった。学校の同じクラスに通う、神経質のガキ大将、田中だ。良いやつだっ
た。田中はものすごい勢いで公園のトイレへと走る。するとサッカーボールをトイレの窓ガラスに思い
切り振りかぶって、投げた。ガッシャン!トイレの窓ガラスは粉々になった。
「オラー!」
トイレの中から怒鳴り声が響いた。田中はトイレの入り口の前に移動し、突っ立っている。しばらくす
ると入り口から黒いスーツ姿の男が出てきて田中に飛び掛かった。
「ぶち○すぞゴラッ」
おっさんは物騒な言葉を漏らして田中のマウントを取り、拳で田中の頬を五、六回繰り返して殴った。
スーツの男は拳を止めて、フーフーと息を整える。
田中は動かない。スーツの男は田中のマウントを解くと、これでも食らえと田中の腹にどすぅんと一発
蹴りをかましてマントヒ広場から出て行った。田中は動かない。もしかしたら死んでしまったのかもし
れない。ミーコは田中に近寄ると、田中は呼吸をしていたので、ミーコは安心した。するとトイレの裏
からもじりもじりと女の子が現れた。女の子は子供ミーコだった。ミーコはなんとなくこの頃の事を思
い出してきた。子供ミーコは田中の側により、田中の安否を確認した。田中は口に溜まった血をぶ
ぶぅと吐き出した。田中の顔はスプラッターの如く真っ赤になった。田中は目を開いてくるりと子供ミー
コの方を向いた。
「死んだふりだよ、どやっ見事だろうが。あいつびびってたぜ」
田中は誇らしげに笑うと、真っ赤な顔が笑みを乗算するように不気味さを増した。田中は口をもごりと
動かして、ぷぇっと地面に何かを吐き出した。乳歯だった。子供ミーコは田中が吐き出した拾って手に
取る。すると田中はわぁっと体を起こした。
「おい!そんなもん拾わんでもええから、どうせまた生えるんだろうがってな、母ちゃんが教えてくれ
た」
ウウッと田中は唸る。れろぉっと田中はまた何かを吐き出した。
「大人の歯だ、しょーもない」
田中は、ぐっと笑ってよたよたと立ち上がり、ぶはぁと息を吐いて、子供ミーコを見下ろした。子供ミ
ーコは申し訳なさそうな顔をしている。田中は唇をぷるるっと震わせて血を飛ばした。
「やめえや、そういうのはもうええもん。お前は引っ込んだほうが良かったよ」
そうか、そうかと田中と子供ミーコを見ていたミーコは思い出す。あの時のミーコはサッカーボールで
遊んでいた。宇宙を目指していてボールを蹴飛ばしていた。そのうち届くような気がしていたのだ。そ
の窓を割ってしまって、中にいた人に怒鳴られたんだ。そこで待ってろと怒鳴り声を浴びた私は恐怖で
立ちすくんだが、偶然通りかかった田中がミーコに隠れろってトイレの裏へ引っ張っていったんだ。
「おいらはお前が殴られるのは、嫌だった。女性は顔をやられるのは、屈辱だって言ってたわ。母ちゃ
んはよう知っておる」
田中はそういうと、トイレの水道に向かった。田中は勢いよく蛇口をまわし、ジャーッと気持ちの良い
音を立て、顔をじゃがじゃがと洗う。田中はキュッキュと蛇口を閉めると、ミーコに向かって大きな声
で言った。
「おいらがぼこぼこにされて、いい勉強になったやろ?他人の不幸は、蜜の味ってやつだよ。幸いおい
らは一度、殴られてみたかってん。Win-Winみたいなもんやで」
水で濡れて光る田中の顔は、1年間、学校教室の為に尽くしてきたぞうきんのようで、ズタボロだった
が、ミーコは田中の顔を気に入った。
それからミーコは田中が愛しくなり、学校の教室ではわざと田中の前を通ったりもした。しかし、ミーコ
は田中と話す機会は出来ず、田中からの連絡はミーコが家を出てから一年後だった。その連絡を聞
いたのは、ミーコは東京の飲食店で水をいただいてた時のことだった。ミーコは古びたラジオから流
れる芸術家田中としてのアートの世界という特番が開いていた。あの田中の事だった。田中は芸術
家として活動していた。若い頃から成功した田中は京都万博のオブジェを作る仕事を任された。そし
て完成したオブジェの前で突然の切腹自決!それからというものの、芸術家田中を世間はその若さ
故、将来性で例えて高く評価をした。彼は様々な悩みを抱えていたと、報道をされていたが、ミーコに
はどれも的外れなような気がした。ミーコはなんとなく、田中の側にいなくても、田中を追い詰めてい
たものがわかっていた。ミーコはぎゅうと歯を食い縛った。
「何やねん」
ミーコは目覚める。あの林道のような場所に顔をぎゅうと押し付けて地面に横たわっていた。ミーコは
顎が痛くて、くっくくと顎をを動かしてストレッチをした。ミーコは奥歯にゾーマの汁を詰めていたもの
が割れていて、口の中へと流れていた。ミーコはそのおかげで助かったのかもしれないと、ぶるりと
身震いをして、周りを確認した。あの、きょだいもぐらベスは、ここにはいない。ミーコは呼吸を整え、
ふらぁりと起き上がった。辺りはすでに夕焼け色に染まっていた。ミーコは足元を見る。何か新しい足
跡がつららと林道の奥へと続いている。ミーコは歩くペースを次第に強めて、ダダダっと走りだした。
ズルルル!ミーコは崖へと飛び出した。ミーコは何が起きたか把握できず、そのまま下へと落ちてゆ
く。ゴロンガランドッシャア!音が鳴り響く。ミーコは二十メートルは落ちただろうが、なんとか生きてい
た。ミーコは周りを見回した。どうやらもみがらの中にいるようで、体全身が包まれてほんのり暖か
い。ミーコは口に入ったもみがらをペッペッペと吐きつつ、もみがらをかき分けて前へ進む。
するとザックリとミーコの手が、外に出たようだった。
「まぁっ」
何か跳ねるような声がすると、ミーコの手はぐぐっと外へと引っ張られて、もみがらの外へと引っ張り
出された。ミーコは鼻にもみがらが入ったので、うへぇと唸った。ぐるりとミーコは周りを見渡す。どう
やらここは村のようだ。村を照らしている日の光が大分落ちて、赤い色のコントラストが美しかった。
なにか、この辺りは、湿気が強い。目の前には眉毛の太い女性がミーコの前に立ち、ミーコを強く睨
む。酷く憤っているようだ。女性の服は民族柄で、どうやら私の服と同じのようだ。まゆの太い女性は
ミーコをなめるように下から上へとじろぉりと見て、ため息をついた。まゆの太い女性は頭をふるる
るっと振ってから、ギギンっとミーコを睨んだ。それからまゆの太い女性はミーコの頭をベベンっと叩
いて、顎を上へとクイっと上げる。まゆの太い女性の顔がミーコの顔にほど近い。
「わかっているのよね、そこは空中クラゲを補完しておくための場所だよ」
まゆの太い女性は、ミーコの顔からくっと離れると、はぁとため息をついた。すると、ミーコの無事を確
認するように眉毛の太い女性は上から下へとべべぇんべぇんべぇんとミーコの全身を叩いていく。女
性はしゃがんでミーコの足をはたこうとすると、ビクリと身体を停止させた。
「足、足、あしぃ」
女性はとんとんとんと言うと、突然あたふたし始めて、ミーコに向かって、おぉいと怒鳴る。
「何やねん」
ミーコは足をたんたぁんと足踏みすると、ミーコの足からビー玉のような穴が開いていて、ゴボリと血
が流れ出す。ミーコの足に重い痛みが襲った。ミーコは驚いて、足をくんっともみがらがある場所の反
対側へと引くと、見えるか見えないかほどに透き通るロープのようなものがミーコの足へと繋がって
いた。ミーコはしゃがんで足に付いた透明なロープを引きぬこうとする。透明なロープはくくんと伸び
る。するとまゆの太い女性が慌てた様子でミーコの手首を抑えた。
「待って」
ミーコの足からたらぁりと血が垂れた。ミーコは少し気だるくなっていった。女性はミーコの様子を顔色
を確認すると平手でミーコの頬をぱぁんぱぁんと二度叩いた。ミーコはまゆの太い女性を凝視する。
彼女は二コリと笑った。
「待って、今空中クラゲの触手を外すから、むやみに引っ張ると、そのままそいつに身体中の血液全部
抜かれちゃうよ」
まゆの太い女性はミーコの腰を支えてゆっくりと地面へと腰を下ろした。まゆの太い女性はミーコの
足をちろりと見てから、むぅと表情を曇らせて、上着のポケットから、先っぽに何かを引っ掛けるような
物がついている銀色の器具を二つほどだして、少しミーコの足をくぅと伸ばした。すると、村の皆が
ミーコ達の異変に気付いたのか、ぞくぞくとミーコの周りに集まってきた。ミーコはここにきて、こんな
にも人がいるので、何か気持ちが楽になった。集まりの中から下着に手を入れた若いお兄さんが
ひょいと顔を出して、しゃしゃぁりと出てきた。ミーコの足に顔を近づけてじろぉりと見る。
「痛まんよぉにな、かわぁいそうに」
若いお兄さんはそう言いきると、へっと吐くように笑った。まゆの太い女性は、るさい!と怒鳴る。ミー
コはなんだかだんだんと意識が遠のいていき、次第に気を失った。一体どれほどミーコは気を失ったのだろうか。
ミーコは気がついた。しかし、ミーコはもうだめかもしれない。意識はあるし、考える余裕があるみたいだ
けれども、かったるくて目蓋は重く開かず、少し動こうにも喧嘩疲れのぐわぁっとした頭痛がミー
コを襲い、身動きが取れなかった。しかし、ふかいまどろみに身を任せるのは気持ちが良かった。家
を出て以来、非常に弱気になっていた。すると横からガタンとコップを倒すような音が聞こえた。
「何やねん」
ミーコは右腕を何かを捜すように、ぷかぁりと水平に伸ばす。ミーコの手に、さわぁりと何か布のような
ものに触れた。ミーコはくくっと歯を食いしばって、手に触れた布を力の限り、ぐぅと握って上へ下へと
ぶるりぶるりと引っ張った。パタンタァンタァン!カーテンの根元を引っこ抜くような音が響き、ミーコの
腕から、つらぁりと力が抜けた。何かがカーテンを被ったようで、カーテンは床に付かずに微妙なとこ
ろでひっかかる。
「おぉい」
籠った声が響く。まゆの太い女性がいるようだった。
「スープくれ」
と、ミーコはつぶやいた。すると、ミーコの手から被ったカーテンをスルリ抜けていくような感覚が伝わ
る。ミーコの手からスルリとカーテンが抜け落ちる。それからは反応もなく、ミーコは憤ると頭痛がガツ
ンガツンと釘を打ち込むように響いた。同時に胸元が少し痛苦しい。ミーコはゆらぁりと足を振り上
げ、勢いよく床へ振り落とした。ガタタタタンタン、ミーコの全身は振動で揺れた。ミーコの頭痛に追い
打ちをかける。ミーコは思わず息を漏らした。するとミーコのおでこにひんやりとした冷たいタオルの
ようなものが、ンベタァと張られた。ミーコは実に気持ちが良いが、憤る気持ちは収まらず拳に力を
ぐぅと込めた。しかし、次第にミーコは拳の力をゆっくりと抜いて、悟った。
「いるかぁい」
と、男のゆるぅい声が響く。コッツリ、コツリと足音がミーコの方に近づいてきた。コツリ、ミーコの所で
足音が立ち止まる。すると、ミーコの足の指先をを何かがぎゅうと体重を乗せるように踏む。すると、
ベットのバネを縮めるような音が聞こえてくる。
「いるかぁい」
「いるよ!」
突然大きな声が響く。声と周りの音の差に、しぃんとミーコの耳が痛む。どうやら大きな声の正体は、
大きなまゆげの女性の声だった。
「いるならいいです」
ミーコの指先から、んぎゅうと重みが取れた。コツリと、足を一歩踏み込む音が聞こえ、紙を纏めるよ
うに、パキリパキリと折るような音が聞こえた。それから、へっと吐くような笑い声が聞こえ、しゃらりと
書類を机の上に並べるような音が聞こえた。
「これ、こことこれこれ、それにこれ、三つがついて、そことこれ」
男は歌うようにつぶやくと、じゃあねぇと言う。コッツリコツリ、コッツリツ。足音がミーコから離れてい
く。するとダダンダと空のバケツをひっくり返した音が聞こえた。ズーズーズーズーコッツリツ。ズー
ズーズーズーコッツリツ。何か床をひっかくように引きずる音が、ベースの音になり、足音の音がリズ
ムを刻む。ミーコの右手の方からは、シャラシャラシャラリと紙をめくるような音が聞こえ、なんだか
ミーコは少し愉快になる。
「ンーッ!ンーッ!ンーッ!ンーッ!」
ダダダン!ダン!そこに窓があるのだろうか、ミーコの横から奇妙な音が鳴る。また、一時置くと、力
強く、ダン!煩く音が鳴る。ミーコは頭痛と共に耳がズキンズキンしていて、頭がおかしくなりそう
だった。
「冷めちゃうよぉ、ご飯とあの子の輸血のパック」
ダン!再び煩く音が鳴る。すると、ミーコの手の指先をぎゅうと何かが踏んだ。ガラリと窓を開けるような音が
聞こえ、ビリリリンと虫の鳴き声のような気持ちの良い音が聞こえた。
「はいはいはいはいはぁいはぁい」
突然子供の声が蛙の合唱のごとくなだれ込んでくる。その子供の声に間切れてかすかに、あぁっ痛
い痛い!と低い声がきれぎれと聞こえる。
「本田先生」
まゆの太い女性の声がする。心なしか、まゆの太い女性の声は太く重く感じた。
「いいですか」
「いいですよ」
互いに頷き合う声が聞こえると、ぎゅうんみしっりと、ゴム靴の裏でタバコを踏みひねる音が聞こえ
る。男の声で、おおぅと焦るような声がすると、ぐりりぃんとミーコの手の甲が何かに踏まれる。ミーコ
は怒った。
「何やねん!」
反応はない。ミーコは憤ったせいでつつりと頭が痛い。
「ほぉほぉふんふんはぁはぁそうですか…はぁはぁそれはまた…どうしてまたそれを…それでいいの
かこれでいいのか…そうしたらこれでどうでしょうか…へぇへぇへぇへぇ…はぁはぁそうですか」
ミーコは早口で何言っているのか聞き取れない、疲れて眠くなる。ミーコは、いつも通りのボヤゴンク
エストから始まる夢を見る。空飛ぶ島に吸いこまれ、視界には試験管の映像が流れる。ミーコは夢だ
と気づいて、ウウッウウウと強く唸った。ミーコは体になかなか入らない力を込めて、なんとか夢から
覚めた。ウウウウッ!!ミーコは夢から覚めても力が抜けきれず、一度唸ってしまった。かぁはぁと
ミーコは辛く息を吐いた。
「何やねん」
ミーコはつぶやいた。何も反応がない。ミーコの目蓋の重みが取れているので、すわぁと目を開くと、
ミーコはミーコの身長ぎりぎりぐらいかのベットに横になっている。右腕の前腕の辺りから、輸血用の
パックから伸びる真っ赤な色に帯びたチューブがちょろんちょろんとつながっていた。輸血はすでに
空っぽでべこんべこんのちょろんちょろんになり、前腕の根元についているチューブの針をつる
りと抜いて、むくぅりと体を起こした。ミーコは床に足を付けてくるりと回りを見渡す。ここは何かの研究
室なのか、壁には三つほど模様違いの羅針盤が描いてある、掛け軸のようなものが垂れていて、本
棚に古書のようなものと別に、ぎっしりと袋のようなものがずらりと並んでいる。机も掛け軸の数と同
じ三台ほど部屋の中心に置くようにしてある。何か不気味な配置だ。この部屋には、なにやら人の気
配はないので、ミーコは使えそうなものを服のポケットに、食料のようなものから、いびつなものまで、
どんどこどんどこよっこいしょと、いっぱいに詰め込む。服のポケットがふっくらと膨らむと、ミーコは嬉
しくなった。ミーコは再度部屋の中を確認して、部屋の窓から忍者のようにぴょろんと外へ出た。外は
田舎の町のように、信じられないほど真っ暗だった。もそりもそりもそり、遠くの方で声がする。ミーコ
は声のする方に感覚を集中して、見る。ちょちょんちょんと小さな光の粒が点々としている。ミーコは
目を凝らして確認する。闇に眼が慣れて、だんだんその姿がつぁりつぁりと浮き出てきた。ぺたんりん
べぇた。ぺたんりんべぇた。ミーコの背後から下駄と足をんべぇたと弾くような音が近づいてくる。ミー
コは背後へと振り返る。ミーコの前に下着に手を突っ込んだ男が現れた。男は驚いたように、おおぅと
声を上げると、下着から手をぺろりと取りだした。
「何なん」
ミーコは男に気を止めず、闇の中をぷいぷいと前に進む。すると、ずるぐるりと砂を強く踏み込み音が
聞こえた。
「今は、行かない方が良いと思うけれどもね」
ミーコは、男がやけに丁寧そうに言うものだから、気味が悪くて立ち止まる。ミーコの前の地面へと、
ふわんと円型の明かりがふわぁりと差す。白熱灯のように、優しい明かりだ。
「何やねん」
ミーコはつぶやいた。すると、男はどやっどやっどやぁとへらへらり嬉しそうに言う。ミーコは地面の円
型に照らされる部分を見てみると、ショベルカーか何かで地面を掘り越したような状態になっている。
ミーコの脳裏にきょだいもぐらが浮かぶ。カチリと後ろから音がすると、地面を照らしていた明かりは
ンチャっと消えた。ミーコは男の方を見た。男はウワハと不謹慎そうに笑った。
「ほんのさっき、ずうんとここ一帯にきょだいもぐらが群れて入り込んでごっそり根っこ掘り起こされて、
埋めてた作物はすべて全滅」
男はンフフッフフッフフッと細かく笑うと、少しかがみこんで、足の膝をたんたぁんと叩いて、地面にぷ
るりと指を差す。
「きゃつらこの大切な土の中んで毒交じりの糞する屁の河童よ」
男はイヒイッと刺すように笑って、腹を押さえて縮まった。この男はうんことか屁とやらがどうやら好きな
ようだった。ミーコは苦笑した。
ミーコ達に、先ほどのちょんちょんとした光の粒が、ゆくぅりゆくぅりと近づいてきた。ここに住む村人か
何かだろうか、あの光の粒の五、六倍はいるだろう、ぞろぉりと集団の列を成す。
「本田先生ぇ、いるかぁ」
ミーコの横にいたうんこ好きそうな男が、集団に向かい大きく叫ぶ。すると、向こうからおぉぉういと返事が
返ってくる。ミーコの前に、大勢の人がずらっと集まった。ミーコは、むぅと顔を濁らせた。これらは村人だ
ろうか、村人は何か浮かない表情をしている。
「太木先生、たまりませんな」
村人達から一人、いよっいよっっと人を掻き分けてミーコ達の前に出てきた。ミーコの横にいた男は、はぁ
はぁと二度頷いた。この男は、どうやら太木と呼ばれるようだ。
「どうやら今度のやつは強敵のようですよ。もう女子供四人はぶっ○されてしまいました。私は悲しい」
何か物騒なことが起きているようだ。太木は、本田先生ぇと小さく呟くと、ンフフフと笑う。ミーコは、本
田と呼ばれる男をキキっと睨む。おそらく、ミーコの手をぐぬりと踏んだやつだろうが。ミーコは憤った。
太木は両手を胸の位置に合わせて、合掌と怒鳴った。ミーコの周りの人々も太木のように合掌をした。
太木はぶらんと手を下ろして、んはぁと息を吐いた。
「太木先生、今度のきょだいもぐらの糞は、一体何型でしょうか」
本田が太木に向かって質問をした。太木は上着のポケットからビニール皮の試験管をぬらりと取り出す。
試験管の中に、青色の泥のような物が入っており、太木は見せ付けるようにくるりんくるりと振るわせた。
「ファーブルK型の糞のようだぁ」
太木は本田にそう伝えると、本田の顔はやんわりと安堵の表情になっていった。
「…しかし!」
太木は突然大声を上げると、暗闇の中をてこてこと歩いて、柔らかそうな土の上を、んぎゅうと踏んだ。
「迂闊だった、どうやらこれは土が酸性に近かったんだ、これではファーブルK型の糞とは非常に相性が
悪い」
本田は、はぁと頷く。周りはざわぁりざわりと静かに騒ぎ出す。太木は村人側に戻っていく。
「時期を見て村ごと捨てたほうがぁ良い」
太木は俯きながら言う。はぁはぁはぁはぁはぁーっ!村人達は大変声を荒げた。するとよたよたよたよ
たよたよたよたよたぁりと村人達を掻き分けるように老人が現れた。太木は村長ぉと呟くと、そうぢゃ!と
老人は苦しそうに怒鳴る。
「太、木よっ!そんな、バカげた話を行動に移すことはどは、我々にはとても出来まぁい、あぁあぁ」
村長らしき人物は気を失って倒れ、そのまま息を引き取った。村人達は、酷く困惑した。
「足塚先生が、いればなぁ」
太木はぽっつりと呟く。すると、山彦のように村人達から、足塚先生、足塚先生、足塚先生ぇと聞こ
えた。ミーコは歩いて村人達の顔ぶれを見回すと、あのまゆの太い女性の姿が見当たらなかった。こん
な状態では、もしや彼女は死んでしまったろうか。遠くで微かにふあんふあんふあんふあんふあんふあん
ふあんふあんとサイレンの音が聞こえ、だんだんと近づいてきた。ミーコはくぅんと空を見上げる。赤いレー
ザーが空に手を伸ばすように、ずぁんと伸びている。村人達も次第に何かの存在に気づいてぼやぼやぁ
とざわめき始める。暗闇の中、肉眼でしっかりその姿を確認できるほどになると、ミーコには見覚えがあった。
あの、お世話になった謎の老人の不思議なオブジェだった。本田が高らかに声を上げた。
「あれは足塚先生の不安タスティックプラスチックマシーンじゃないか」
村人は、おおぅと唸ると本田の声を理解したのか、一時置いて、うぉーっ!うぉーっ!うぉーっ!うぉぉぉ
ん!足塚先生ぇーと叫び始めた。オブジェはサイレンを止めて、ブレーキをかけるようにうぉぉぉんと!音
を発し勢いよく下降していく。すると、オブジェはずずんと、どこか村の民家の屋根に着陸した。続け様
にツダァンと激しい音を立てて真っ赤な大爆発を起こすと、足塚先生ぇーと村人が村の一揆の勢いで
オブジェに駆け寄った。オブジェはめらりめらりと燃えて村を明るく照らしていた。ミーコの脳裏に相棒が
過ぎり、心臓が、バクリと疼いた。気がつくと、ミーコも村の一揆の勢いでオブジェへと走り出していた。
オブジェの周りの地面は、ミーコの足の裏がほんのりと暖まるほどになっている。オブジェは噴出すように
破片をだぁんと飛ばすと、ミーコの頭に直撃した。ミーコの頭が破片で傷つき、血がたらりたらりと滴れ
た。だぁんだぁんんだだぁんとオブジェは刻むように音を上げ、最後っ屁に噴火の如く大爆発を起こす。オ
ブジェは粉々になった。オブジェが発した爆発音のエコーは徐々に薄れていき、村は静寂の空気に包
まれる。ミーコに祭り後のような現実感が、乾いた雑巾をしぼるように、んぎゅうと襲って、暫し無感情に
なった。




糸冬




+ 「イス」-クシーマンド太郎
「イス」-クシーマンド太郎
2012年9月9日 らなもとそのさんで朗読させていただいた、未完の小説の原稿です。

                               ワヌワンバジ

イスになりたかった。日本人は痔が多すぎる。痔にもいろいろあるが、とにかく長く座る上でのイスに対して
嫌悪感を抱いている。だから私はイスになりたい。人をいじめぬく事に対してはあまりすきではない。好きで
はないが、この使用者をいじめ続けるイスに対しての憧れがある。なくてはならない、体を重心に置くこの行
為はなにか、普段から迷惑をかけられるイスに迷惑をかけるというギブアンドテイクで使用者イスはまるで世
の真理で動かされているソウルメイトのように感じられたからだ。

10年前、デスク用にDIYショップで買ったこのイスをとうとう寄付することになった。まだ使えることは使える
が、下のねじ止めをおそらく我が家で買っているシャム猫のちーちゃんが遊んで取ってしまったのだろう。ち
ぃちゃんは分解するのが得意だ。この前なんかはラジオセットを跡形もなくみじんにしてしまった。
私の10歳の誕生日に買ってもらった大切なラジオカセット。私は酷くうんざりした。他にもエサを食べないの
にちらかす文鳥のぴぃちゃん。はねて脱走を目論むメダカのめっちゃん。始末が大変なのでこれ以上衝動的に
ペットを飼うのは止めることにする。

二週間ぶりのデスク周りの整頓を終えて、イスを抱え持つ。重さのせいか息がしにくい。二階の自室から一階
の仏閣を通り、玄関へ向かう。そのとき、イスを抱えていたせいか、つい玄関の前の小さな段差に思わずつま
づいてしまい、つるりと私の手からイスが抜け、ガンッドシャアと音を立て、玄関の床へグラリと横になった。

「うわぁ!」

私は声を上げた、とたんにイスから血がこぽこぽと流れ出て広がっていく。これは…私の血だ!私にも痔の気
があり、イスが変色するほど酷く、そのため座布団をイスの上へ置いて、疲れや汚れを座布団でカバーをして
いた。おそらく私の痔が座布団を通り越して、血をスポンジの原理で貯水していたのだろう。私は乱れた。
とにかくこぼした血の処理を行わなければいけない。タオルを取りに脱衣所に移動した。朝6時に起きて顔を
拭いたタオルを手に持ち、玄関へ向かった。しかし、なにか話し声が玄関からコソコソ聞こえてくる。誰か
いるのか?私は警戒を強め、話し声のする方向へ、にじり詰め寄った。どういう風に対処しようか妄想しなが
らタオルを握っていると、そういえば私の武器はタオルしかないではないか。冷静になる。もし相手がドスや
らなにやら光物を持っていたらどうしたものか。相手の手をタオルで絡みとり、動きを封じ込めるか。そもそ
も私にはそんな技術はない。止血程度にしかならないだろう。私はこのままでは危険だと判断し、玄関ではな
く進路を台所へと変え、音を立てぬよう移動した。

まな板と一緒に立ててあった包丁を手に取った。昔の記憶がふと頭に過ぎる。生まれて初めて暴力を振るい、
カッターナイフで人を切りつけた。9歳だった。図画工作質で創作活動を楽しんでいるアンバランスな私は、
前から私にちょっかいを出していた尾田君が私の手元にある製作途中の切り絵をぶんどり、だせぇと罵声を浴
びせたあと突然私の切り絵はビリビリと音を立て、チリチリと床に舞い踊った。その切り絵はは二週間かかっ
て下絵を完成させて、ようやくカッターナイフで切る作業へ移っていた時だった。私は言葉よりも先に体が
動いた。不運だった。気持ちが高ぶり、ついカッとなってしまい右手に備えていたカッターナイフで尾田君の
右唇からそのまま耳まで切りつけてベロンベロンになってしまった。今だったら学校を取り上げた問題になっ
ていたのだろう。しばらく尾田君は顔を見せず、やっと学校に来たと思ったら顔面包帯だらけで顔は確認でき
なかった。あれから尾田君は私にはちょっかいを出さなくなった。ざまあ味噌漬けとその時は内心スッキリし
ていたが、未だ刃物を見るたびに思い出してしまう。今更になり内心尾田君に会える機会があったら、若気の
至りだったんだ、許してくれと謝りたくても状況が生まれないからそういう罪を背負ってこれからも生きてい
くのだろう。実に、実にスッキリしない。

包丁を手に抱えながら、ひと時が過ぎていた。私は今の状況を再度確認し、包丁を腰の辺りに構え、玄関へと
向かった。話し声は聞こえず、静かになっていた。私の気配に気づき、去ったのか?私はため息をつき構えを
解き、安堵した。途端にすごい力で上着を下へと引っ張られ、床へ叩き付けれた。頭とひじを強く打った。こ
んなにグワングワンするのは初めてだ。畜生め、すでに家に入り込んでいやがったのか。酷い血の香りがした。
そんなに強く打ち付けたのか?私は息を荒げながら、とっさに手を振り上げたが握っていた包丁は確認できな
かった。最悪だ。

(ぶたないで!)

直接私の心に語りかけるよう何者かが私に話しかけた。テレパシーというよくある超能力だろうか。今までに
ない感覚に私は驚いたというより、恐怖に陥り、身動きが取れなくなってしまった。しばらくしてからまた私
の心に繰り返し、語りかけるように何者かが言い続けた。

(私は痔のようせいです…私は痔のようせいです…私は痔のようせいです…)

痔のようせいだと、バカな…
意識を取り戻し、気がつくと玄関に集めのタオルケットに、やわらかなシーツを敷いた上に私は横になってい
た。頭をゆっくり起こし、耳を澄ますと台所からコツコツと何かを煮るような音が聞こえる。私は、少しため
らい、考え事をしながら台所へと向かった。真っ赤なドレスを着た若い女性が我が家のガスを勝手に使い、す
でに二品とも出来上がっていた。私が想像していたビジョンとは異なった。今このいる場所から移動せず、目
の前にいる女性に語りかける。
「あなたは一体何者なのだ」
真っ赤なドレスをふわぁりと靡かせ、こちらを振り向いた。私は女性を見つめた。美しい人だ、この世にこれ
ほどまで研ぎ澄まされた女性はいるのだろうか。私は静かに女性に近づきそっと右手を手を取る。
「私には金がない、おかげで唯一の同居人だったペットもみんな餓死していなくなった。ここにはガスも電気
も何も通ってないはずなんだ、何故ここにいて普段どおりの生活が出来ているんだ、それもこんなにも短時間
で」
彼女は私の手を見つめ、何も切り出そうとしない。一時が流れ、私はもう一度彼女に問いかけようとした時、
彼女はこちらをスっと見上げ、左手を握り締めて差し出した。ゆっくりと拳が解けていき、赤い真珠のような
ものが出てきた。
「これは、この世界の核となるものです。アイデイアセフイロスといいます。この世界の生活に飽きたら噛み
砕いてもらっても構いません。その時この世界は消滅します。」
私は表情を濁らせる。そもそも情報が少なすぎるし、アイデイアセフイロスとはなんなのだ、ここは夢なのか。
夢にしては現実味があるし、なんでそんなところに私はいるのか。家からも出ていないし、なにもわからない。
ただの強盗じゃないのか、この人は。今この状況に私はうまく把握できない。しかし周りを見渡すと、一部ペ
ンキのようなもので、壁が抜けていたり、この辺は都会であるはずなのに、こんなにも静かである。何かずれ
ていることはわかってはいた。
「今まで住んでいた世界とは違うのか、どういう事か、詳しく教えてほしい」
女性は静かに声を荒げる私の顔の様子を伺う。だんだん顔が近づいてきたので、噴出しそうになった。
「あんたは一体なにものなんだ」
女性は足を交差させ後退し、キッチンのほうへ顔を向け、たんたんと語り始めた。
「私は血の妖精です。あなたのイスから生まれました。染み込んだ血が日々プレスされる事によって質量とし
ての科学変化が起きて思考能力を持つ形として変化することが出来ました。しかしこの段階では私はまだ生物
としてミジウンコ程度の力しか発揮できていませんでした。この段階でも奇跡だったのです。しかし、あなた
は働きすぎで、尻から出る血の量が半端ではなかった。そうしたら、イスを寄付すると決めたあの晩を境に、
あなたは仕事を終えるとそのまま一息ついて倒れこんでしまいました。そしてそのまま、死んでしまいました。
その時、私はこのままではいけない。そう強く願った瞬間、不思議な力に目覚めたのです。イスから今の私が
誕生したのです。」

彼女は赤い調味料を、ぐつぐつと音を立てる煮付けのなべにスッスと振りかざて、話を続けた。
「アイデイアセフイロスは、あなたが住んでいた現現世でもう浮世でもない。移動手段となるターミナルが各
次元に存在しているだけ。この世界はあなたが存在していた次元とは表裏一体ではなく、ただ行きたい次元が
紐を伸ばすように作られていく」
女性は一息をいれ、ガスを止め、右手にある食器棚の器を選び始めた。そういう次元はともかく、私は死んで
いるのか。近々、私は死ぬだろうと薄々は感じづいていたのだが、しかし、あまりにも突然すぎる。本当に死
んでしまうだなんて、私は死んでから納得してしまった。
「それにしても、なぜアイデイアセフイロスなんだい?何故ここに飛ばされたんだい?」
女性は再びなべを使い、水を沸かしはじめた。ゆっくりと水はお湯へと沸騰する間も返事することなく時間だ
けが過ぎる。ダンマリか畜生め。何もしないのでは時間がもったいない。これからどうするか、台所から居間
へと続くドアを開け、受話器が置いてあるところにメモ用紙があったので、とにかく家の中を観察し何かをま
とめようとした。



私は自室へ戻った。今までの研究の成果を確認しに行った。しかし、机の横の道具箱の一番下の中にしまってお
いた研究の成果が、手で確認したのにどこにもなかった。ふと視線を感じ振り向くと、赤い服の女性が立ってい
た。彼女の目からはポロポロと涙が流れている。

「もうちょっとでした」

赤い服の女性はそうつぶやき終えると、頭をカクっと下に俯いた。私は彼女に近づこうと思ったその時、床に置
いてあったゴミ箱をボンっと蹴飛ばした。幸いゴミ箱の中には何も入ってはいなかった。私はゴミ箱を元の位置
に戻し、彼女に近づき顔を下から覗いた。彼女は私の顔を確認するとさらに涙の勢いが強くなった。私は顔を引
っ込め、彼女が落ちつくまで周りの整理を始めた。私の机の手あたり次第確認すると、過去の研究の記録などが
ごっそりと出てきた。しかし、目当てのものではなかった。私はこれから百年後の世界の危機の為の新薬の研究
をしていた。百年後、この地球にエネルギー弾"HGL砲"が飛んできて地球を包み込む。植物がその光に当たるとメ
キメキと止まらぬ成長を始め、最後には爆発をしてしまう。昔、海外で西瓜が突然謎の爆発を遂げたニュースが
あった。生物学者の間では光のせいではないかと言われている。さらに六万年前、ネアンデールタール人がまだ
絶滅していなく、人が自然の上を求め文化のレベルを構築最中の在りし時。いびつな成長を遂げた人骨と石板が
シベリア当たりで発見された。石板には遠くの山に天から光が落ちて山を包み込み、みるみるうちに天を目指す
ように上へ上へと伸びていくのを確認した。だんだん山が落ちつきを取り戻していた頃に、様子を見に行った猟
師たちが異様な光景を目にした。頭がぼんぼんに膨れ上がりうずくまって頭を抱え込んでいる人達を確認したら
しい。我々は常に危険に晒されていると悟った人々は天と地の宗教性の記録を書き継いでいた。その記録は公には
公開されていない。私はあるきっかけで学者になっていたが、石板の発表を聞いた学者たちは縮みあがっていた。
しかし私は安堵していた。すでに私はこの"HGL砲"を全身で浴びていたからだ。
当時八歳だった私はお笑いブームに乗っかり頭をバリカンで剃り、丸坊主にした。帽子をかぶり学校へ登校した。
八時半の出席時間まで私は鏡に向かい、帽子を外し頭を確認していた。時には頭をなでなで触ったりして、床屋で
今まで浪費したお金のことを考えると胸が苦しくなった。トイレには洋式があり、ズボンを履いたまま便座の上に
腰を置いて、深く息をついてリラックスした。しかし一服しようし始めてからすャイムが鳴り始めた。急いで私は
帽子を取り、再度鏡の前に立ち、確認をした。そのまま帽子をかぶらず、教室までゆっくり歩いていき、ぬらりと入
室した。朝礼が行われ、学校としての一日が普段通りに終わった。坊主は期待はずれだった。私はいつも帰る道上
周りの道ではなく、遠回りの下回りを辿っていく。水田に辿りつくと、水路がやたらと目に入ってうざったく感じ
た。水路の上の水田からニョキニョキとツタのようなものが生えており、まるでお風呂に浸かるようにどっぷりと
水路に気持ち良さそうに根っこを伸ばしている。私はむなくそ悪くなり、感情のままに水路に浸かる根っこをグッ
とわし掴んだ。掴んだ後から、さぁどうしてくれようかと私は嫌がる方法をすぐさま6つぐらい頭に浮かべた。
その時、横のカーミラーがだんだん強く光り始め、車が何がかと確認しようとした時、私の全身は光につつまれた。
まばゆい光に包まれ、私はしばらく目が開けることができなかった。ようやく目が瞼と馴染み、ゆっくりと目を開
けて周りを確認すると自分の背より高い植物の存在に気付いた。私はしょっていたカバンを開け、筆箱からカッタ
―を取りだし、出来るだけ成長した部分を切り取って家に帰った。そしてこのツタこそが私の最後の研究となった
。私はひらめきにはすぐれているが、寝ると病気なほど忘れてしまう。ノートは記録を取ることができる。私にと
って第二の脳のような物であった。しかし、今ここにはない。私は、もう一度、確認したかった。いつのまにか私
は尻もちをついて俯いていた。私を上から覗きこむようにして赤い服の女性は立っていた。

「この空間には不完全のものは持ちこむことができないんです」

私は聞こえぬふりをした。私には答えが必要だった。彼女は私の様子を伺っている。何かを期待しているのだろうか。
ふと生前の頃を思い出した。そうすると、私の中から気というものが抜けていくのがわかった。

「これから本当は、天国に行く必要が貴方にはあるかもしれません。それには一度、現実に帰らなければいけないのです。
このままでは、人類の歴史というものが貴方という存在が輪廻転生を経て、一体いくつもの年月が流れていくのかも想像できないのです。
貴方と言う存在に対して、実は人類の発展というものに対して重すぎるのです」


                     人
                   ノ⌒ 丿
                _/   ::(
               /     :::::::\
               (     :::::::;;;;;;;) すべての生き物は そういう風に出来ているのだ
               \_―― ̄ ̄::::::::::\      かつてあなたは私だったのかもしれぬ・・・
               ノ ̄     ::::::::::::::::::::::)
              (     ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;人
             / ̄――――― ̄ ̄::::::::\
            (        :::::::::::::::::::::::::::::::::)
            \__::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ


彼女は私の自室を抜け、一階に向かっていった。私はしばらく自室で一人、横になった。


糸冬
(6572文字ほどお借りしました)

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