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トレーナー虐

作者:虐待犯


「はっ、はっ、はーっ。なんなんだあの化け物は・・・」
カントー北部のある森を、一人の男が駆けている。何者かに怯えるようにしながら
何度も後ろを振り向きつつ、男は素早い動きで森の木々の間を縫っていた。

口の周りを短いひげで覆ったその男は、中年の割には軽い動きで走っている。
そして男が走っている後ろから、巨木の枝がしなる音が響く。その連続した
風切音は、徐々に男へと近付いて、今や頭上に迫ろうとしていた。

「くそっ!」
男は急に進路を変えて逃げようとしたが、すぐに音も方向を転換する。あっと
言う間に音は頭上を越えて、その主らしき者が男の目の前に降り立った。

「ううっ・・・」
男の目の前に降り立ったそれは、まるで筋肉の山のようだった。ゴーリキーを
思わせる太い腕に、オコリザルのような頭髪。薄い黄色に薄茶色のまだら模様の
胴着を着ており、腰には闇よりもなお黒い帯が巻かれている。

「もう諦めろ。お前に逃げ場所はない」

下手な格闘ポケモンよりも厳ついそれは、人間語で口を利いた。しかしもちろん、
その物体は人語を解する新種のポケモンなどではなかった。暗い森に差し込む
僅かな日光は、それに人としての陰影をはっきりと与えていた。

「テメエ一体誰なんだ!俺を付け回しやがってぇ!」
呼吸を多少荒くしながら、脅しつけるように男は叫んだ。目つきの悪さと
明らかに堅気ではないその調子は、男が単なる一般市民では無い事を示していた。



「一体誰か、だと?良いだろう、特別に名乗ってやる。死者の代理人だ」
代理人と名乗った男は、脅しなど全く意に介さずに名乗りを上げた。

「死人の代理?なんだそりゃあ。お前狂ってるのか?」
男が怪訝そうにそう聞くと、代理人は懐から袋を取り出した。そしてその中から、
一枚の写真を出して男に突きつける。

「この写真の双子に、見覚えがあるだろう。5年ほど前には、随分と新聞や
テレビを騒がせたからな」
男には暗くて写真など見えなかったが、代理人の言葉を聞いておののいていた。
口に上った二人の子供の正体に、思い当たる節があったからだ。

「た、確かに見覚えはあるな。俺だってニュースぐらいは見るからな。それが
俺となんの関係がある?」

「しらばっくれるな!お前があの時の放火強盗だという事は、すでに調べてある。
お前が盗みのために放った火で、この二人は焼け死んだ。だから俺は死者の
代理人として、お前の前にやってきた」

男の逃れるような声音を、代理人は裂帛の気合いで掻き消した。表情こそほとんど
ないものの、その声には計り知れない怒りが籠もっていた。


「お、俺に何をしろって言うんだ。墓の前で詫びれば良いのか?自首して裁判に
出ろとでも言うのか?だいたいお前、こいつらの家族なのか」
うろたえた男は、罪を認めつつもまだ逃れようとしていた。しかし代理人は
冷徹な声で返答した。

「俺は家族ではない。ただの代理人だ。お前は何もしなくて良い。ただ怯えながら
苦しんで死ね。それだけがこの子らの、本当の家族が望んだことだ」

そう告げると代理人は、全くの無音で構えを取った。辺りには小石や小枝、音を
立てる物はいくらでもあるのに、完璧な静けさの中にカラテの型を作ったのだ。
左手を前に立て、右手を腰の下にした半身の構えには、まるで仏像のような
雰囲気すら持っている。

だが男は、代理人の放つ空気に気付かなかった。そして腰に付けていたモンスター
ボールを投げつけながら、非道な命令をポケモンに下した。

「お前が死ね!キュウコン、ウィンディ、火炎放射!」
二つの閃光が宙を走り、二条の業火が代理人の周辺を覆うように走り回った。
巨木と下生え燃え上がり、一瞬にして森の闇が消え去るほどの炎が上がる。

「ざまあみろ馬鹿が!お前もガキ共の所に行ってこい!」
男はその紅蓮の渦を見つめながら、薄笑いを浮かべていた。自分を脅かす者が
一瞬で消し炭になったのだと、そう思いながら圧倒的な状況に酔っていたのだ。


しかし次の瞬間、木の上からキュウコンに向かって黒い影が躍りかかった。
「ギャン!」
黒い影と接触した途端、赤光を受けて金に輝くキュウコンの体は、まるで稲穂の
ような軽さで、男の背後にあった木に叩き付けられていた。見ればその顎は
完全に砕けており、歯が抜け落ちて周囲に散らばっていた。

「な、何だ?何が」
男とウインディは、さっきまでキュウコンの居た辺りを見る。するとそこには
焼き殺したはずの代理人が立っていた。

「言い忘れていたが、家族が残したもう一つの言葉がある。『娘達を燃やした
ポケモンも、出来る限り苦しめて殺してくれ。娘が例え喜ばなくとも、苦しみを
与えなければ絶対に許せない』だ」

ごうごうと音を立てる炎を背景に、代理人は静かに佇んでそう告げ、次の瞬間には
ウインディの顔面に爪先蹴りを叩き込んでいた。槍のように足が打ち込まれ、
ひどく耳障りな音と共にウインディの右目が潰れる。

「グォオォォオン!」
怒り狂ったウインディは炎を吐き出そうとするが、それよりも早いかかと落としが
鼻筋と上顎を捉えて打ち砕いた。円弧を描く肌色の刃は、美しさすら感じさせる
素早さでウインディを打ちのめしていた。

「さて、他にお前の手持ちは居るか?そいつらも全部叩きのめして、その後で
お前を叩き潰させて貰う」
どす黒い血にまみれた足先を向けながら、代理人は男に宣言した。

とりあえず品定めをすることにして、固まっている連中をじっくりと見ることにした。
しかしそこで、俺は軽い失望と苦笑を覚えた。どのポケモンにも、明らかに戦う意志が
存在しないのだ。どの瞳もどんよりと曇っているか、怯えに満たされている。

「クズどもが、貴様らも悪党なら悪党らしくしてみやがれ!」

失望が段々と怒りに転化され、俺は思わず絶叫を上げた。俺を、いや『俺達』や
その愛する者や仲間、主人を引き裂いておきながら、自らの番になると全くへこたれて
殺される恐怖に打ち震えている。なんという身勝手さだろう。情けないにもほどがある。

もっとも傲慢な態度をとっていても、さっき殺したベロリンガのように怒りを誘う
だけだから、ある意味では大した違いもない。どうせ目的は、全員一致しているのだ。
-皆殺し、それも、自分たちにされたそれより残虐な手段で-ただそれだけだ。

しかしそいつらの態度が余りに腹立たしかったので、俺はそいつらをまだ生かして
おいてやる事にした。怯えるならば徹底して怯えさせ、その後で殺してやるのだ。
俺はそう決めると、取り敢えず手段を考える事に決めた。

そして俺は、一つの事に気付いた。それはつまり、俺に怯えているのはあくまでも、
こちらを見ていた連中に過ぎないと言うことだ。つまり見ていなければ怯えはしない。
ならば開いていないボールを使えば、生きのいい奴が出てくるという寸法だ。

なかなか良い考えだと思った俺は、すぐに殺した女団員の死体からモンスターボールを
はぎ取る事にした。内臓と乾いた血が案外厄介だったが、やがてその中から一つ見つける
ことができたので、すぐに開いてみる。


血のせいで黒くなったボールから白光が走り、中から額に赤い宝石を付けた大猫が出てきた。
丸い耳と尻尾の先は黒く、毛色は薄黄色い。その姿は猫と言うよりも、もはや豹に近い。

「ペルシアンか。これはなかなか面白い遊びが出来そうだな」
俺はそう呟くと、近くに転がっていたベロリンガの頭を引き寄せた。-こいつはさっき
思いついた、面白い遊びの道具に使うのだ-目玉に指を突っ込んで固定すると、今度は
舌の付け根も掴んで構える。

「せえのっ!」
俺は気合いを入れると、舌と頭を逆方向に引っ張った。するとベロリンガの口許から
ブチブチと紐の裂けるような音が響いてくる。流石に付け根の筋肉は硬いのか、
なかなか引っこ抜けなかった。

思わず力を込めすぎて、眼球ごと脳を少しすりつぶしてしまう。すると事切れている
ベロリンガの眼の穴から、大量の血と脳汁と潰れた脳そのものが溢れてくる。もう
死んではいるものの、これもこいつに対する良い懲罰になるだろう。

そうして思い切り引っ張っている内に、舌はベロリンガの下あごごともぎ取れてしまった。
さっきのブチブチという音は、どうやら顔の筋肉が引きちぎれる音だったらしい。

「さて、準備は整った。たっぷり遊んでやる」
俺が準備をしている間、ボールから出してやったペルシアンは、どうやら主人だった
肉塊にすり寄って啼いていたらしい。薄汚い肉片と固まりかけた血が張り付いて、
美しい毛並みは台無しになっている。


こちらの狙い通り、ペルシアンは状況を認識していない。細い瞳には主人の死に対する
悲しみや怒りの感情が見て取れる。クズどもの使うポケモンに相応しい反応だ。

-そうだ、その目だ。俺達が憎んでやまない、ぶち殺したくて堪らないのは、そういう
自分勝手で腐りきったポケモンだ。憎むに足る悪党としての貴様らなんだ-

俺は憎しみの雄叫びを上げながら、内心では喜びと興奮に胸躍らせてもいた。
「ご主人様を殺しやがって、ってか?ふざけるんじゃねえぞこのバカ猫がぁ!」
怒りと勢いに任せて、俺はベロリンガの舌をペルシアンに見舞ってやった。

死後硬直で固まり始めていた舌は、まるで棒状の鞭のようにペルシアンの腕を打った。
しかしその程度ではこたえないのか、全身の毛を逆立てながら、牙をむきだしにして
唸り声を上げた。

「シャァアァーッ!」
「これしきで痛がるな!怒るな!この野郎!」
こいつの怒った表情を見ると、本当に吐き気がしてくる。といっても俺や仲間はみんな
霊体なのだから、吐き戻せる肉体そのものが存在しないのだが。

このペルシアンが怒っているのは、痛がっているのと、主人を殺したと思われる俺が
憎いからだ。しかしそんな感情は、俺達が生前に感じたそれに比べれば何ともない。
こいつの怒りなど、甘ったれたガキが大して痛くもないのに泣き喚くような物だ。

そう思うと『俺達』の不快感は止まらなくなった。そして俺は高ぶる気分のままに、ただ
ひたすらにペルシアンを打ち据えてやった。


それでもまともに鞭が振るえたのは、俺達の中に
元ポケモンサーカスの団員もいたからだ。ポケモンを強奪され、経営が立ちゆかなくなって
自殺した女らしい。

憎しみの残留思念体(つまりは霊)である俺達は、記憶や感情の一部が融合している。
だから一つの怒りは時に数百の怒りであり、同時に何百もの憎しみがたった一つの
憎しみになることもある。しかし全てが一つと言う訳でもないので、俺は怒り狂いながら、
同時に全く冷静な思考を行い、笑いながら泣けるという存在になってしまった。

そしてこれこそが、俺がロケット団を憎むもう一つの理由だ。なまじ憎しみだけが残っている
奴や、考える力の無い連中と違い、俺には人としての気分が残っている。それでいて幾つもの
凄惨な思い出や、酸鼻を極める記憶が流れ込んでくるのだ。

これに時々、俺は堪らなくなる。粉微塵になった親に泣きすがる子供や、その逆に子のミイラを
抱えながら狂乱する母親の映像が、まるで今見てきたかのように目の前に映るのだ。しかも
補正が掛かっているから、実物の何十倍も凄惨なイメージとして流れ込んできている。

そして四六時中、誰かが呪いの言葉とも絶望の叫びとも付かない「声」を上げるのだ。
つまり俺の意識は、拷問と洗脳と誘導に常に晒されている。そのせいで俺の思考や感情は
支離滅裂で、恐らく生きている人間ならば発狂と診断されているだろう。

俺をこんな存在にしたロケット団は、やはり許せなかった。しかしこの感情が自分のもので
あるのかは、どうにもぼやけている。-怒りははっきりしていると言うのに-

そんなことを考えている間に、舌の鞭はペルシアンを動けなくしていた。全身にはあざや
大きな腫れが出来ており、既に肩で息をしていた。


「よし、これでウォーミングアップは終わったな」

俺はそう言ってみると、ペルシアンの目を見つめた。するとその目の中には、消耗
しながらも、まだこちらへの憎しみや怒りを募らせている様子が確認できる。

絵に直すなら、これは痛めつけてもなお健気に抵抗する、主人思いのポケモンとでも
なるのだろう。状況自体は単なる自業自得なのだから、馬鹿馬鹿しい事この上ないが。
しかしそれでも、この状況が怒りをぶちまけるのにちょうど良い事は確かだった。

-これでこそ、殺しがいがある-俺はそう思うと、ワクワクしながら行動を始めた。
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 代理人の宣言を聞いた瞬間、怯えていた男は顔に嘲笑を浮かべた。
 「ギャロップ、炎の渦!」
 男がモンスターボールを投げると、今度は炎のたてがみを纏った一角獣が現れた。
 そのユニコーンが代理人を囲むように小さな火を吐きかけると、それは一瞬で
巨大な焔の螺旋となり、代理人を覆い隠してしまった。

 「馬鹿が!誰がてめえなんぞに殺されてやるか!」
 渦巻く炎の竜巻を確認した男は、吐き捨てるようにそう言い放つと背を向けた。
そして振り向きもせずにギャロップに命令を下すと走り出した。

 「ギャロップ、突進!」
 大きないななきとひづめの音を背中に聞きながら、男は勝利を確信していた。
今度はさっきのような不意打ちは無い。周りを炎の壁に囲まれて逃げ場は無いし、
上に逃げてもギャロップの角で串刺しに出来る。

 男は代理人の串刺し死体を想像しながら、その場から逃げようとした。疲れと
恐怖のために足が何度かもつれたが、何とか離れようと力を入れた。そして加速に
乗り始めた時、背後から叩き付けるような大きな衝突音が響いた。
 男が思わず振り返ると、そこには男が予想だにしなかった光景が現れていた。

 ギャロップが横倒しになって、代理人のそばに倒れていたのだ。炎の渦は
消し飛んでおり、辺りの木に小さな火が点いている。その光景を見た男は、訳が
分からないまま倒れたギャロップの方に目をやった。



 倒れてけいれんを起こしている体は、遠目にも分かるほど赤くなっている。それは
炎の照り返しのせいだけではない。見れば胸元から腹にかけて、大きな肉の裂け目が
出来ており、盛んに血を吹き出している。こぼれ落ちて砂まみれになっている臓器の
うち、幾つかは一定のリズムで伸縮している。恐らくは心臓か肺だろう。

 「ど、どうやったんだ。こんなめちゃくちゃな」
 男は声を震わせながら視線を戻し、そのまま目を逸らすことが出来なくなった。
全身を焔と返り血の赤に彩られた代理人は、まさに地獄の悪鬼そのものだったからだ。

 怯える男の問いかけともつかない言葉に、代理人は静かに答えた。
 「拳を極めれば風さえも操れる。ただそれだけのことだ」
 そう言うと代理人は拳を払い、腕にまとわりついた血と肉の欠片を振り飛ばした。
 勢いよく撒かれた血液の一部は、男の体にも飛んできて張り付いた。

 男にはなぜ炎の渦が消えたのかは分からなかったが、少なくとも代理人が
ギャロップを拳で打ち抜いたことは理解できた。指先から肩口近くまで血にまみれて
いる事が、何よりの証拠だった。信じたくないが、信じるしか無い現実だった。

 「これで最後か?なら、お前を殺させて貰うぞ」
  代理人の静かな言葉が、死刑を告げる裁判官の声のように響いた。



 やる気だ、こいつは本当に俺を殺す。男は状況をそう認識した。すると恐怖心と
殺意が同時に沸き上がってくる。死にたくない、殺されたくない、殺してやる。
 男は腰にあった最後のボールを手に取ると、代理人に向かって全力で投げつけた。
 「死にさらせぇっ!」

 代理人は当たる寸前で横飛びにボールをかわした。しかしボールからデータが
実体化した瞬間、代理人は腕で体をかばいつつさらに飛び退いた。

 「むうっ」
 後ろに飛びすさった代理人の腕は、表面が赤く膨れていた。高熱に晒された皮膚に
特有の、軽度の火傷に近い症状である。
 代理人がボールの落ちた所に目をやると、そこには高さ1m以上はある火柱が
燃え盛っていた。その火柱が代理人に向かって半回転すると、上部には目と鳥の嘴と
おぼしきものが現れる。

 「そいつの熱で焼き付くされな!糞野郎!」
 男は怒りが歓喜に変わったのか、ゲスな笑い声で代理人を罵った。するとアヒル顔の
火柱は、走って代理人に向かっていった。男はそれを見ながら後ずさり、しかし後方から
指示を出すことは止めない。殺意が恐怖を上回ったのか、その場から離れようとは
しなかった。

 火柱から生えた足は短かったが、その割には速度は速い。普通の小学生男子が疾走する
程度には、スピードが出ていた。代理人はその突撃を紙一重ではなく、数mまで近付かれた
時点で回避する。当然ながら相手にも軌道変更の余地を与えるが、何度と無く移動する
ことで組み付かれる事を防いだ。

 「ちっ、ちょこまかと。ブーバー、捨て身タックル!」
 ブーバーと呼ばれた火柱は、後ろからの指示に反応して全身を光り輝かせた。
ツールボックス

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