nobel620 @ ウィキ
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nobel620 @ ウィキ
ja
2011-06-02T17:50:25+09:00
1307004625
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Never Give Up
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/14.html
長年住んでいる四畳一間のワンルームは風通しが悪く、窓を全開にしてもカーテンは微動だにしない。そのせいで、空気を入れ替えるどころの話ではなく室内は埃っぽく濁る一方だ。そのくせ日差しだけは強く差し込むため、時おりカーテンから漏れる直射が眩しくて俺は目をしかめた。
そろそろ夏季に片足を突っ込み、路地を歩く人々の肌の露出も目立ってきた。俺は二階の物干し台兼べランダから下校途中の夏服セーラーをぼんやり眺めていたが、気が抜けたように窓際のベッドにぐでーっと寝そべった。
「だりぃ……ねみぃ……」
怠慢な脳髄が日々身体に送り続けている応答を、わざわざ発声して堕落加減を再確認してみる。おかげでやる気の片鱗も沸いてこない。ついでに今日三度目の眠気も来日したようだ。
天井裏から染み込んだ雨漏りでスス汚れた天井をぼーっと眺めるのにも飽きて、ぐるりと寝返りを打ったせいで世界が半回転した。
ちゃぶ台の上に無造作に置かれたノートPCのファン音がいやにうるさい。書きかけのワード画面のポインタをぼんやり眺めていると、歩行者信号の青色点滅人間が早く渡れと急かしているようだ。いや、俺の場合は「早くレポートを終わらせろ」か。
無言の圧力を訴えるPC画面から逃げるように、大きく脚を振り上げて勢いよく上半身を起こした。
「っっっいっづぅっ!」
勢い余りすぎて腰を痛めた。最近動かしていない筋肉を急に動かしたからか。背骨がキリキリ軋む音さえ聞こえてきそうだ。その刺激に反応したかのように、腹の虫が一斉に羽音を鳴らし始めた。そういえば朝から何も食べていない。
「そういえば朝から何も食べていないー」
語尾に向かって上ずるエセ訛りで心中の言葉をそのまま口に出してみる。さっきから心と口が直通状態だ。このまま飯をかき込んだ暁には心房に思いっきり残飯が溜まって破裂するかも。
「何か食うっぺー」
腹虫に冒された脳が反射的に身体をスタンディングさせる。そして部屋隅の冷蔵庫の方へウォーキング。しゃがみングでオープニング。何もナッシング。
進行形の予定表が全て片付いたあとは、腹虫の脅迫じみた鳴声が体内でこだまするだけだった。
「………………………………………………」
現状を反芻する作業を長らく怠ってきたが、生理的な欲求の前に人間は屈する他にない。何にしても、今、腹が減りすぎている。一旦この事に思考が費やされた途端、急に発作を起こしたかのように腹部からのサイレン音が強くなった。
「いやーマジで、まずいんじゃあ、ないですかねー、これ」
文節を意識して思考を冷静に保つ。考えてみると正直笑ってられない状況であるのをひしひしと感じた。
平均的な大学生が大量に保有する「時間の暇」を持て余しているにもかかわらず、労働活動に勤しむことなく無為に貯金を削り続けた結果、お財布もおサイフケータイも国機関のサイフの中にも無けなしの金しか残っていない現状が、そこにあった。
つまり、メシを食う金が、無い。
「……餓死のよかーん」
腹奥より発せられし緊急信号が危機感を成長させていく。このままいくと順調に生命活動を停止させ、高温多湿な部屋の中で取り残されて誰にも発見されぬまま、晴れて腐乱死体デビューを果たすことになりかねない。夏を先取り最新ライフスタイルにしては少々ライフを犠牲にしすぎだろ。
ぐらぁ。
突然去来した目眩に急襲されて、四畳半の畳張りに沈没する。まだ地獄ルート一直線のライフスタイルを受け入れたつもりはないぞ。しかし不服を訴えた身体は強制的にスタイル変更指令を細部に下しているらしい。抗えない四肢はついに、体力の温存を図って大々的な節電モードの実施を決定したようだ。足腰を稼動させるに足る電力が行き渡ってないから、干物みたいな格好で床に突っ伏すほかはなかった。
あつい。のどかわいた。はらへった。
原初的な欲求が脳内を渦巻いてぐちゃぐちゃのペースト状に仕立てる。
と、
「おぉ?」
冷蔵庫の一番下の死角段の奥に何か緑色の塊が見えたような気がして、手を伸ばす。むにっとした感触。まるで蛾みたい。触ったことないけど。
そろそろと引き出してみる。それは、
「カエ、ル?」
両生類と昆虫類が
________________________________
•カエルの鳴声が、腹虫の音に似ている。
•後輩の女の子が家に来る。突然冷蔵庫の中で鳴き始めるカエル。
•後輩の女の子に、カエルを食用としている男だと思われたくない。
2011-06-02T17:50:25+09:00
1307004625
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非常階段
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/22.html
カンカンカンカンカンカンカン――カンカンカンカンカンカンカン――
外の非常階段を駆け下りる音が耳奥に鋭く響く。
普段、慣れ親しんでいない音。経験したことのない音。
まるで、日常から追い立てられるように。自分の席を強引に奪われるように。
逃げても逃げても、両脚からへばりついて離れない。
早くこの音から脱したい。地に足をつけたい。日常に戻りたい。
だからもっと早く降りなきゃ。
薄く残る夕陽の欠片は、この場所まで手を伸ばしてはくれない。
足元がおぼろげになり、まるで目の前の闇を蹴り飛ばしているようだ。
たぶん頭に血が回っていないんだろう。いきなり激しく運動したせいだ。私、貧血気味なのに。残業忙しくて夕御飯もロクに食べてないし。
場違いなほど的外れな思考は、混乱を紛らわすための本能的な処置だろう。ある意味、現実逃避のそれと等しい。
そんなことはわかっている。だけど――
こんな現実、信じられるわけがない。認められるわけがない。理解できるわけがない。
つい先ほど録画した脳内映像を再生する。
床に散らばる書類。机に埋まる上司の頭。血。アーミーナイフ。セーラー服。そして、天狗。
全ての情景がフィクション性を帯びている。言わば、非現実。非常階段。異常現象。非日常。
アレは、誰だ? 急激な運動によって空白に満たされかけた頭が、自らに疑問を投げかける。セーラー服を着ているってことは、学生? しかし、一般的普遍的な女学生は屈強な男でも手に余る大きさのアーミーナイフを軽々しくぶん回すものか? あんな華奢な手が、成人男性の首根っ子を真っ二つに弾き飛ばすことができるか? そもそもアレは、こんな高層階のビルに一体どうやって侵入した?
一つだけ、解ったことがある。
ここは、私がさっきまで生きていた世界とは、違う場所だ。
ランチタイムの一時に同僚と休日の予定を話し合ったり、使えない上司から残業のおこぼれをもらって一人愚痴ったり、仕事が終わって自宅に帰ったあとのビールの味を夢想しながら夕暮れ時のオフィスで一人残業に励んだり、そんな日常とはかけ離れたところで、私は階段を駆け下りている。
2011-05-30T01:31:15+09:00
1306686675
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放課後・勉強
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/21.html
「違う、そこはさっき確認したでしょ。……ったく、何回間違えてんのよ」
はぁ、と流風(るか)はため息をつく。
「んもぉーわかんねーよぉ。うぐぅぉー」
かったるそうに弱音を吐くと、一つデカイあくびを決め有輝(ゆき)はぐでーっと突っ伏してしまう。
机の上には、いつまで経っても終わりそうに無い量の課題の山と赤ペンで埋め尽くされたノートと消しゴムのカスで埋め尽くされている。
「ここまでやってひっとつも分からないってことはだな、お前の教え方に問題があるとしか思えないんですが」
「アンタね、自分の理解度の無さを人のせいにするのは恥ずかしいことだって知ってる?」
「しりませーんいででででで!!!」
勢い良く手の甲を抓り上げられて有輝が飛び上がる。
「痛いっ!爪食い込んでるって!ちぎれちゃうぅうううー!」
「物分りの悪いアンタの脳みそを痛覚で覚醒させてんのよ。感謝しなさい」
「ひどい!それでも学級委員なんですかアナタ!この暴力スパルタ女ああああいいいでででいでででで!」
放課後の教室に響く絶叫は、最終下校を告げるチャイムに虚しく消えた。
「さてと、この位にしてそろそろ帰りましょうか。今回やった箇所はちゃんと復習しときなさいよ」
「……へーい」
敏腕家庭教師と言われても遜色ない流風の命令に、真っ赤な手の甲をさすりながら有輝は肩を落とした。
現在こうして追試に向けて放課後居残りで猛勉強に勤しんでいるのも、流風から熾烈な愛のムチ(別名:DV)を受けているのも、全ては学年末の試験が散々な結果だったことに起因する。もはや年来の友人のごとく見慣れた大量の赤ペケが並ぶ試験用紙の山を高々と放り投げた有輝は、帰りの一礼を合図に問答無用で委員会室へ引きずり込まれ、無慈悲なお叱りを受けたあと地獄の放課後居残りガリ勉タイムを強いられた。ついでに生徒会の雑務も手伝わされた。理不尽としか言いようがない。
「勉強を見てあげるんだからそれくらいの功労は報いるのが恩返しってモンでしょ」
もちろん、有輝から勉強の手伝いを頼んだ覚えは無いので、結局は理不尽であることに変わりはないのだが。
しかし、なぜそこまでして一介の落ちこぼれ生徒でしかない有輝に、多忙極まりない委員長様が救いの手を差し伸べるのか。友人情報網によると、どうやら担任から流風への口添えがあったらしい。「幼馴染のよしみで勉強を見てやってくれ」ということだった。まったくいい迷惑だ、と有輝が言える筋合いでもない。
とにかく、有輝が他人事のように現実逃避している一方で、周りの方々が東奔西走しているのにはワケがあった。
それは、有輝が高校生活一年目にして「留年」の危機に瀕しているということである。
「担任から言われたわよ。アンタ、次の追試落っことしたら進級できないって」
「そうかー、そりゃ大変だなー。あーでも高校生活が延長できると思えばそんなに悪くも――」
「その言葉、私にケンカ売ってると判断していいのかしら?」
「いやいやこれは俺の問題であってだなふぐぉおっ!?」
見事なフックが脇腹に決まった。女の子から腹パンを食らう経験はなかなか無いだろう。
うずくまる有輝の前に仁王立ちして流風が言い放つ。
「アンタだけの問題じゃないのよ。クラスの委員長である私の沽券にも関わっていることなんだから」
「ゲホッゲホッ……そんなん知らねえよぉ。お前はお前で良い成績残してるんだからそれでいいじゃねえか」
有輝が投げやりに言い放つと、流風はいつもは見せない動揺を見せる。
「す、すこしは危機感持ちなさいよっ! 進級できないってのがどういうことか分かってんのっ!? 『俺の問題だ』って言うけどさっ、困るのはアンタだけじゃないんだからねっ!」
「お、おう……」
激昂する流風を物珍しい目で見ていると、とたんにそっぽを向かれた。
有輝は首をかしげた。どうして不良の俺なんかに流風がここまで目をかけるのか。
流風は入学当初から学年トップを維持している、まさに超絶エリート階級の立場であり、教師の間でも一目置かれている。いわゆる「出来る子」であり、彼女を学級委員長に推薦したのも教師陣の意向であると噂されている。
「なあ、お前ってさ、」
2011-05-30T01:31:05+09:00
1306686665
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2011-05-30T01:30:59+09:00
1306686659
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幽体離脱モノ
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/20.html
夢を見た。とてもおかしな、夢だった。
目を開けると、あたりは暗闇だった。少し目が慣れてくる。カーテンの隙間から月明かりが差し込み、蛍光灯のスイッチがぶらさがっているのが見える。
俺はゆっくりと身体を起こす。気怠さが全身を包み、瞼が重い。ほぼ目を瞑った状態のまま、部屋を見渡す。
ベッドから立ち上がる。身体が浮遊する感覚。身体が僅かに宙に浮かんでいる。床に足が着いていない。
自分の意識を部屋のドアへ向ける。すると身体が勝手にその方向へふらふらと進んでいく。そのままノブを回すことなく、身体はドアをすり抜ける。
リビングに出ると、奥の台所のほうから黄色い光が漏れている。見ると、妹のサチが冷蔵庫を覗き込んで中を物色している。妹に声をかけようとするが、咄嗟に息を呑む。
その眼は、いつものサチのものとは程遠い。瞼を限界まで見開き、白目が血走っている。そして、おもむろに中から魚肉ソーセージを取り出すと、ビニールの皮も剥かずにかぶりつく。魚肉をぢゅうぢゅうと吸っているその姿は、まるで腹を空かせた餓鬼のようだ。
俺は戦慄する。普段の温和なサチとは似ても似つかない光景が目の前で展開されている。俺はたまりかねて、4本目のソーセージを取ろうとしたサチの腕を掴もうとする。
しかし、手は空を切った。何の感触も残さず、サチの腕をすり抜けるのだ。何回試しても同じだった。思わず掌を見返すが、変わった所はない。そういえば、さっき自室を出たさいにも同様の現象が起こっているのだ。ドアに身体をぶつけることなく、すり抜けるように通り過ぎていた。
俺はどうにかなってしまったのだ……。死んだのか? それで幽霊に……?。
ひとまず食糧を貪っているサチをそのままに、リビングへ戻り、今度は両親の寝室へ身体を向ける。閉まったドアを通り過ぎる感覚が気持ち悪い。
家具を通り過ぎて部屋を覗き見る。真ん中のベッドに両親が眠っているはずだ。
しかしそこには、一人のシルエットが身体を起こして震えていた。馬乗りになって腕を高々と上げ、勢いよく振り下ろしている。その運動を繰り返す。
ぢゅっ、っぽっ――ぢゅっ、っぽっ――ぢゅっ、っぽっ――
鈍い音が部屋中に響く。月の光が窓から差し込む。赤で濡れたナイフを固く握りしめる拳と、悪鬼のような凄まじい形相の女の顔が照らされる。
まさしくそれは、母だった。
月の光がベッドに染み込む。黒々とした水溜りの中に、目を見開き口を大きく開けて絶命している父が横たわっている。毛布は大量の血液を吸い、表面には無数の刺し傷が見える。
俺はたまらず叫び声を上げる。しかし喉は震えず、声にならない。
呆然としたままドアのそばに突っ立っていると、ドアと俺の身体を、<ナニカ>がすり抜けた。
全身の筋肉が硬直する。気味の悪い感覚が全身を貫く。
身体を通り過ぎた何者かが、俺の目の前に宙に浮かんで静止する。
それは、漆黒の道化師<ピエロ>だった。
「やあ、驚かせてしまって悪かったね」
2011-05-30T01:29:46+09:00
1306686586
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公園カメラ
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/19.html
公園を囲む金網の向こうから、女がビデオカメラを構えていた。
巨大な黒目のようなレンズがこちらを凝視している。歩く俺に合わせてゆっくり黒目をストーキングさせる。
「……おい」
ドスを利かせて威嚇すると、女がビクッと肩をすくませた。
「ななななんでしょうかかか」
「そこで何をしている」
「……人間観察」
そーっとスコープから顔を離すと、怯えた少女の表情が覗いた。
「なるほど、それじゃ観察と盗撮の違いを分かりやすく教えてくれ」 というか全然隠れてないだろ。
瞬間、汗がどっと吹き出して両目がキョロキョロし始めた。コイツ、言い訳考えてやがるな。
「あ、あ、あなたのお肌の状態を診ているのですよダンナぁ!」
「必死に見繕った言い訳がその程度か!」
それに美容外科医と寿司屋の大将の区別もはっきりさせて欲しい。
「いやー鮮明な映像で毛穴までクッキリですなーさすが新しいカメラは違いますなぁー」
胡散臭い口調でカメラの売り込みをおっ始めた。金網の向こうなので一発蹴りを入れられないのが残念だ。
「よし、ひとまずこっちに出てこい。そしてカメラのメモリーカードをこっちによこせ」
「えっとー、そのメモカ……っていうのは新製品の名前ですのかね?」
「しっかり略称知ってるだろうがお前! それで無知を装ったつもりなのか!」
痺れを切らした俺は、数m先の公園の入口に足を向けた。
「あ、ちょっちょちょっとどこ行くんですダンナぁー!?」
「今からお前のところへ向かう。そこで大人しく待っていろ」
「いやあのちょっとそれはやめておいた方がよろしいかとぉー」
「卑劣な盗撮魔をケーサツの前に突き出すまでは俺の気が静まらん!」
「あいやだからそういう意味ではなくてですねぇー」
女を無視して公園の入口に近づく。足を庭内へ踏み込もうとしたその時――
バチィッッ
「あだあぁっ!!!???」
痛みと驚きと疑問が同時に身体を襲った。思わずバランスを崩して尻もちをつく。
一瞬、何が起こったか、分からなかった。
公園の入口に差し掛かる境界線、そこから<電撃>が発せられた。
「……は?」
しばらく口を塞ぐことを忘れていた。はっとして今の現象を反芻する。右脚を喰らったはずだが、なぜか左手に痺れを感じる。これはあれか、身体の左側の部位の運動を繰り返すと右脳が鍛えられるとかいう胡散嘘臭い学説と少しは関係あったりするのか? なんてしょうもない他愛ない事を一瞬考えてしまったくらいに混乱していた。
「ほらぁーだから言ったじゃないっスかーやめとけってぇー」
少女の頓狂な声が耳に障る。俺は身体を起こして少女を睨んだ。
「おい、何が起こってる、説明しろ」
「いやーそれはこっちがむしろ聞きたい事情なんですよねー困ったことにぃー」
本当に困ったような顔をしていないのでこれはウソ決定事項だ、と俺は勝手に決め付け、内ポケットからケータイを取り出した。
「ここに電話がある。なので俺は今すぐケーサツに連絡することができる。さて、お前の回答は?」
「早まったことはやめてください准将ぉ!」
寿司屋の大将からずいぶんジャンル違いの昇進を果たした。しかも准将てまたマニアックな。
「……わかった……わかった。説明するのでそのトカレフを下ろして冷静になりましょうねぇー……」
「どこの高校生がそんなイカツイ銃持ってるんだ!」
若干ツッコミ所を間違えてるけど気にしたら負けだ。
まあとにかくも交渉に応じたので携帯をポケットにしまった。ここまで来るのに大分体力を使った気がする。
「あのですねー、私、出られなくなっちゃったんですよぉー」
「それは……この公園からってことか?」
「はいそのとおりですぅー」
への字に歪むまゆ毛。何回見てもワザとらしい仕草にしか見えない。
「お前はいつから中に居るんだ」
「えっとー、お日様を5回くらい見ましたかねぇー」
つまり、この少女は5日間近くをこの公園で過ごしたことになる。にしては空腹で苦しんでいる感じでもない。食事処があるような公園でもないし。ますます怪しい。
「」
2011-05-30T01:21:16+09:00
1306686076
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先輩・殺人
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/18.html
先輩が笑っているところなんて、今まで一度も見たことがなかった。
だけど確かにあの日、僕は先輩の笑顔を窓の向こうに、見たんだ。
時がその歩みを緩めたように、ゆっくりと地面に堕ちて行く先輩を、僕は見たんだ。
その顔は、とてもとても嬉しそうな、哀しそうな、笑顔だった。
「ねえ、君、人を殺したいと思った事、あるかい?」
秋が深まり葉は色を染め、夕焼けが美しく紅く放課後の屋上を染めている。そんな風景に似つかわしくない会話だった。
僕は答えに窮した。先輩の笑顔に見とれていたのと、その笑顔から発せられる質問のギャップに驚いたからである。
「さあ……そこまで人を恨んだこと、無いですから」
「ふうん、君は優しいんだね」「……そうですか?」「そうさ、私なんか毎日殺しているよ、頭の中で」
先輩は、よく解らない人だった。
決して残酷な性格というわけでもない。クラスでは温和な表情を見せ誰に対しても等しく優しい、そう先輩自身から聞いている。しかし、僕と二人っきりで会話する時だけは、冗談とも本心ともつかない毒を吐くことがあった。
彼女は、本当に人を殺したことが、あるのだろうか。
「ねえ、先輩」「うん?」「事件……知ってますよね?」「うん、あれは私がやった」
思わず先輩を見ると、水平線の遠くを見やりながら儚げな表情を浮かべていた。
「嘘、ですよね……?」
「嘘、ね。この世界で、いったい何が本当だと、いったい何が嘘だと、そう決められるだろうか。君は考えたことはあるかい?」
先輩が一瞬、哀しそうな表情を見せた。僕にはそれが、最近世間を賑わせている連続殺人犯に向けているように思えた。
「よく、わからないです」
「じゃあ、こう言い換えよう。物事が本当か、嘘か、は何を基準として判断するのだろう。これでどうだい?」
どうしてこんな事を訊くのだろう。意地悪そうに口元を歪めて笑う先輩を見ながら思う。
「目の前で起こる物事が全て、じゃないですかね」
「ふうん……すると君は、他人の目を介して伝わる情報は嘘である、とも言っているわけだね」
先輩は、僕に対しては、全然優しくない。それは、愛情の裏返しなのかもしれないけど。
「君、そんな目をしていると他人に嫌われるよ」
「からかってるのは先輩の方じゃないですか」
「そんなことないさ、私は本当の事しか言っていない」
そう言ってふふっと口元を吊り上げる。
「実際、私も嘘だと思いたいね」
2011-05-30T01:20:05+09:00
1306686005
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体育祭
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/17.html
体育祭の日も近づき、合同練習にも熱が入っていた。
「おらーっ!遅れてるぞーっ!笹本ーっ!」
クラスリーダーの谷崎の怒声が校庭に響く。拷問ばりの叱咤に鞭打たれて、もはや限界を通り越して感覚がない両脚を無理矢理に動かす。
(はぁっ……はぁっ……しっ……死ぬっ……!)
前のランナーとの距離は大分離されている。レースもクライマックスに差し掛かっている。最後に一人くらいは抜いておきたいところだ。
「っく、おのれええええぇぇぇぇー!!!」
運動神経に驚異的なダッシュをかけるよう指示するが、命令無視した手足はオーバーに振り乱しながら空回りするだけだった。おまけに意味も無く叫んだせいで余計に酸素を使った。肺がキリキリと過負荷を訴えている。つか、さっきより離されてないか?
最終コーナーを駆けて、手足と一緒に頭部も振り回して、ついに感動のゴール!
やった! 完走した! やれば出来る子じゃん俺! 前の奴を抜かせなかったのは些か悔恨が残るところだが、ここまで頑張った自分にご褒美くらいあってもいいよね! あー疲れた水飲もぐふぉっっっ!!!
満身創痍汗だくの身体に谷崎の腹パンが深々とめり込んだ。女子に本気の腹パン食らうとか貴重な経験だとか言ってる場合ではない息が。
「おい貴様、クラスを敗北に導いた張本人をこのまま生きて帰すとでも?」
「……っっっ」
そのまま息も出来ず声も出せず前のめりにぶっ倒れた。おお良い感じに気管が完全封鎖してるし死ぬってマジ。
やっとこさ肺に充満した二酸化炭素の救助に成功して、俺は這いつくばる形で見上げるとそこには谷崎の冷たい目が待ち構えていた。
「死ぬ前に一言、何か言い残しておくことはあるか?」
「はぁ……はぁ……あのさぁ……俺っちなぁーんでこんな仕打ち受けてるわけさぁー? オラの村じゃ傷病人には男女問わず優しくいたわるって掟があるんでさぁー。あんまり悪いごどしでっどハブに噛まれるさぁー」
エセ沖縄人を気取ったつもりだが、何やら色々な地方が混じったハイブリッド方言になってる節は否めない。そんな事より谷崎さんの表情が見る見るうちに鬼面さながらに変化してますけどどこの田舎に伝わる妖怪伝承なんでしょうかね。歯軋りの音が聞こえてきそうなくらいギリギリ噛み締める谷崎さんの歪んだ表情マジキュート。
「死ぬがよい」シュッ。「ごがっ……っ…………」
脳天真ん中に見事なかかと落しが決まり1RKO。ああー空ってこんなに青いんだなーけどなんだろー僕のほっぺに水滴が落っこちてきてあれー今日は一日中秋晴れ予報のはずだけどなーおぶぶぶぶぶぶっぶ!
仰向けの顔面に思いっきり一番絞りの水道水たっぷりポリバケツをひっくり返しやがった。
「そうだ、貴様にはまだ現世にやり残していることがあるよな? しっかりクラスリレーでトップを獲得してから安心して死んでくれ」
「辛いよー最期の時くらいは安静に逝かせてくれよおっ母あー」
もはやキャラ設定が自分でもよく分からなくなってきたあたりで、委員長様が毅然とした態度で物申す。
「ダメだ。全ては貴様のお陰でこうなったんだからな。男の責任くらいは果たせ」
……ハイハイ。俺があん時、あんな事しなきゃ、こんな事にはならなかったくらいの事は解っている事さ。
事事コトコトうっさい。いっそじっくり煮込まれたい。
事実をどう誤認しようが誤解しようが
2011-05-30T01:18:36+09:00
1306685916
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ゾンビカップル
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/16.html
「ちゃっちゃと死んで詫びなさい。この蛆虫」
その言葉と同時に炸裂する右フック、もとい右ナイフ。
深々と基生(もとお)の左頬に突き刺さり、右顎を貫通、吹き出す鮮血。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
絶叫。
來里(きたり)は口元を醜く歪め、壮絶な痛覚の体験ツアーを満喫中の基生を、尻から湧き出たギョウ虫でも見る様に眺める。
「アンタ、私が大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事に大事にとって置いたカスタードプリン、食べたわね? その行動が如何なる結果を及ぼすか、蛆虫並の極小脳でも理解できるわね?」
グリグリ、グチャグチャ、ギャリギャリ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
手首を時計回り・逆時計回りに捻りなおかつ上下運動を追加。頬にぽっかりと開いた穴がさらに巨大に巨大に成長する。
「どう? とおっっても痛いでしょ? でもね、私の心はもっと痛いのよ。」
ズシャァッッ!
残酷なまでの切れ味を誇るナイフの切っ先に両頬の肉が耐えきれず、ついに顎もろとも引き裂かれる。
「あ゙あ゙あ゙ひゅあ゙ひゅあ゙あ゙あ゙ひゅあ゙あ゙あ゙ひゅあ゙ひゅあ゙あ゙あ゙あ゙ひゅ」
貫通した頬から息が漏れて上手く断末魔を叫べない。基夫は膝から崩れ落ちて、鄂部から吹き出す大量の血液を両手で抑える。さながら悪鬼のような姿だ。
ナイフを一振りして血を払うと、來里は基夫の前にしゃがむ。行動とは裏腹の穏やかな微笑に背筋が凍る。
「基夫、許してほしい?」
太腿に深々とナイフが呑み込まれる。基夫の目がぐるんぐるんと激しく動き回る。
「ゅ、ゅひゅしひぇくひゃはぃぃ……」
「そう、なら一刻も早く死んで頂戴」
太腿の中心部に刺さったナイフを勢いよく引き抜き、その勢いのまま基夫の側頭部に刃を突き立てた。
カコンッ
小気味な音を発したと同時に、頭が痙攣したように真横に揺れる。刃体の半分以上が見事にめり込み、傷口から赤黒い血と灰色が流れ出る。
「かっ……」
基夫が白目をひん剥く。そのまま後ろにゆっくりと傾き、後頭部から不時着。
「いいザマね。己の血溜まりの中で溺れるように反省しなさい」
2011-05-30T01:16:51+09:00
1306685811
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メモ
https://w.atwiki.jp/nobel620/pages/15.html
一人のダメ探偵と、一人の拾われ少女
御麓知史(ミロク)× 京堂斧(ヨキ)
20~ 14歳
ギンコ(蟲師)の本名→ヨキ!
木の生育をつかさどる地・水・陽・風を表しこれを四つの気「ヨキ」と言う説。
木の根元に斧を立て地水陽風に敬意を表し、山ノ神にお神酒を捧げ、木の生命を絶つことへのお伺いをたてていた。
木元知樹……ヨキのいじられ役(木の元を刈る斧)
インターネット・携帯(SNS)
金縛り・幽体離脱
【登場人物】
御麓智史(ミロク)
冴えない探偵事務所の主。要領が悪いダメ探偵。前の助手がいたころは、調査の段取りなど全てを任せっきりだった。
京堂斧(ヨキ)
男の子みたいな言葉を使うボーイッシュな女の子。強大な敵に追われ、命からがら逃げてきた。ある大雨の日、事務所の前で倒れているところをミロクに拾われる。
【舞台】
【あらすじ】
ある大雨の日。ミロクは事務所の前に倒れていた少女を拾う。
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「僕の名前は御麓知史。名字はおんふもとと書くんだけど、いつもミロクと呼ばれるんだ。確かにそう読めるけどね」
「あたしは京堂斧。ヨキだからな。オノって呼んだら首根っこ刈るからな」
「了承したよ。よろしく、ヨキ君」
「くっ君ってなんだ君って。あたしは女だぞっ!」
「あー、助手に対する呼称として使ったつもりなんだが……気に入らないかい?」
「あたしを呼ぶ時はさん付けか、あなたの方が年上だしヨキって呼び捨て、どっちかにして欲しいんだけど」
「敬称はさして意味を為さない感じだね、それ……」
「とーにーかーくー、男みたいな呼び方はやめてほしいんだよっ!」
「了承したよ。じゃあ、ヨキ、と呼ばせてもらおう。」
「しかし、君の言動はいつも男の子らしい振る舞いに見えるからね。というより姿形も実にボーイッシュだ。そのうえ胸も――」
ドゴォッ。
「ぐっ……いつもながら力強いパンチだ……」」
「裁縫針で口を縫い合わされれば文句は言えないよなぁっ!?」
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キャラクター
ルキヨ
コンビニでバイトする高校生(♀)。夜勤(年齢詐称)。
アキル
ルキヨの同級生(♂)。金欠。たまに店に来る。
店長
常連客たち
酔っぱらいで家族(妄想)に疎まれ課長さん。
小太りのドM半露出狂男(シャツから透ける乳首的な意味で)。
転職したがりOL(栄養ドリンクマイスター)。反抗期夜遊びJK(実は真面目)。
超絶バカップル()。
純真な青年(ルキヨを片思い)。
舞台
コンビニ……立地が悪いため、常連客くらいしか来ない。溜まり場になっている。
ストーリー
人気のない寂れたコンビニで繰り広げる、ある女子高生店員と奇妙な常連客たちとの物語。
「る~らるぅる~ら~ららる~るぅ~っっっとぉ」
一つ揚げては客のため、一つ揚げては客のため、一つ揚げては自分の分
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幽体離脱
幻が見える(本当は主人公の想像力で作り出されたもの。想像しなければ幻は消える。)
想像次第では、世界を自由に作り替えることができる。
鏡の中の虚像(相手もそう思っているかも?)
男子高校生
少女(謎の少女の正体とは?)
(この前に日常パートで状況説明するべき?)
休み時間のチャイムで目覚める。白紙でくしゃくしゃになっているノートのページが見える。
友達に話しかける。しかし会話に脈絡がない。疑問を覚えるが、特に気にせず次の体育へ。
廊下でみかける知人の様子が皆おかしい(いじめっ子♀が泣いている、片思いの女の子がやたらくっついてくる、いつもは怖い先生が優しい……など。)(主人公の無意識の願望が表れているため。)(あまり変化がない人もいる、国木田みたいな飄々としたキャラ)
体育の授業で、驚異的な足の速さを見せる(普段はかなり遅い。)。なのに周りの連中は、それがさも当たり前のようなリアクションをとる。疑問がさらに深まる(夢ではないか?と思い始める)。
帰宅したあとも異変は続く。
次の日に突然転校生が現れる(謎の少女、白いワンピース姿なのに誰も気にしない)。そして俺にこの世界の真相を打ち明ける……。「ここは、あなたの夢の中よ。厳密には「幽体離脱空間」と言った方がいいわね」
2011-05-30T01:14:26+09:00
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