放課後・勉強


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「違う、そこはさっき確認したでしょ。……ったく、何回間違えてんのよ」
 はぁ、と流風(るか)はため息をつく。
「んもぉーわかんねーよぉ。うぐぅぉー」
 かったるそうに弱音を吐くと、一つデカイあくびを決め有輝(ゆき)はぐでーっと突っ伏してしまう。
 机の上には、いつまで経っても終わりそうに無い量の課題の山と赤ペンで埋め尽くされたノートと消しゴムのカスで埋め尽くされている。
「ここまでやってひっとつも分からないってことはだな、お前の教え方に問題があるとしか思えないんですが」
「アンタね、自分の理解度の無さを人のせいにするのは恥ずかしいことだって知ってる?」
「しりませーんいででででで!!!」
 勢い良く手の甲を抓り上げられて有輝が飛び上がる。
「痛いっ!爪食い込んでるって!ちぎれちゃうぅうううー!」
「物分りの悪いアンタの脳みそを痛覚で覚醒させてんのよ。感謝しなさい」
「ひどい!それでも学級委員なんですかアナタ!この暴力スパルタ女ああああいいいでででいでででで!」
 放課後の教室に響く絶叫は、最終下校を告げるチャイムに虚しく消えた。
「さてと、この位にしてそろそろ帰りましょうか。今回やった箇所はちゃんと復習しときなさいよ」
「……へーい」
 敏腕家庭教師と言われても遜色ない流風の命令に、真っ赤な手の甲をさすりながら有輝は肩を落とした。

 現在こうして追試に向けて放課後居残りで猛勉強に勤しんでいるのも、流風から熾烈な愛のムチ(別名:DV)を受けているのも、全ては学年末の試験が散々な結果だったことに起因する。もはや年来の友人のごとく見慣れた大量の赤ペケが並ぶ試験用紙の山を高々と放り投げた有輝は、帰りの一礼を合図に問答無用で委員会室へ引きずり込まれ、無慈悲なお叱りを受けたあと地獄の放課後居残りガリ勉タイムを強いられた。ついでに生徒会の雑務も手伝わされた。理不尽としか言いようがない。
「勉強を見てあげるんだからそれくらいの功労は報いるのが恩返しってモンでしょ」
 もちろん、有輝から勉強の手伝いを頼んだ覚えは無いので、結局は理不尽であることに変わりはないのだが。
 しかし、なぜそこまでして一介の落ちこぼれ生徒でしかない有輝に、多忙極まりない委員長様が救いの手を差し伸べるのか。友人情報網によると、どうやら担任から流風への口添えがあったらしい。「幼馴染のよしみで勉強を見てやってくれ」ということだった。まったくいい迷惑だ、と有輝が言える筋合いでもない。
 とにかく、有輝が他人事のように現実逃避している一方で、周りの方々が東奔西走しているのにはワケがあった。
 それは、有輝が高校生活一年目にして「留年」の危機に瀕しているということである。

「担任から言われたわよ。アンタ、次の追試落っことしたら進級できないって」
「そうかー、そりゃ大変だなー。あーでも高校生活が延長できると思えばそんなに悪くも――」
「その言葉、私にケンカ売ってると判断していいのかしら?」
「いやいやこれは俺の問題であってだなふぐぉおっ!?」
 見事なフックが脇腹に決まった。女の子から腹パンを食らう経験はなかなか無いだろう。
 うずくまる有輝の前に仁王立ちして流風が言い放つ。
「アンタだけの問題じゃないのよ。クラスの委員長である私の沽券にも関わっていることなんだから」
「ゲホッゲホッ……そんなん知らねえよぉ。お前はお前で良い成績残してるんだからそれでいいじゃねえか」
 有輝が投げやりに言い放つと、流風はいつもは見せない動揺を見せる。
「す、すこしは危機感持ちなさいよっ! 進級できないってのがどういうことか分かってんのっ!? 『俺の問題だ』って言うけどさっ、困るのはアンタだけじゃないんだからねっ!」
「お、おう……」
 激昂する流風を物珍しい目で見ていると、とたんにそっぽを向かれた。
 有輝は首をかしげた。どうして不良の俺なんかに流風がここまで目をかけるのか。
 流風は入学当初から学年トップを維持している、まさに超絶エリート階級の立場であり、教師の間でも一目置かれている。いわゆる「出来る子」であり、彼女を学級委員長に推薦したのも教師陣の意向であると噂されている。
「なあ、お前ってさ、」