幽体離脱モノ


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 夢を見た。とてもおかしな、夢だった。

 目を開けると、あたりは暗闇だった。少し目が慣れてくる。カーテンの隙間から月明かりが差し込み、蛍光灯のスイッチがぶらさがっているのが見える。
 俺はゆっくりと身体を起こす。気怠さが全身を包み、瞼が重い。ほぼ目を瞑った状態のまま、部屋を見渡す。
 ベッドから立ち上がる。身体が浮遊する感覚。身体が僅かに宙に浮かんでいる。床に足が着いていない。
 自分の意識を部屋のドアへ向ける。すると身体が勝手にその方向へふらふらと進んでいく。そのままノブを回すことなく、身体はドアをすり抜ける。
 リビングに出ると、奥の台所のほうから黄色い光が漏れている。見ると、妹のサチが冷蔵庫を覗き込んで中を物色している。妹に声をかけようとするが、咄嗟に息を呑む。
 その眼は、いつものサチのものとは程遠い。瞼を限界まで見開き、白目が血走っている。そして、おもむろに中から魚肉ソーセージを取り出すと、ビニールの皮も剥かずにかぶりつく。魚肉をぢゅうぢゅうと吸っているその姿は、まるで腹を空かせた餓鬼のようだ。
 俺は戦慄する。普段の温和なサチとは似ても似つかない光景が目の前で展開されている。俺はたまりかねて、4本目のソーセージを取ろうとしたサチの腕を掴もうとする。
 しかし、手は空を切った。何の感触も残さず、サチの腕をすり抜けるのだ。何回試しても同じだった。思わず掌を見返すが、変わった所はない。そういえば、さっき自室を出たさいにも同様の現象が起こっているのだ。ドアに身体をぶつけることなく、すり抜けるように通り過ぎていた。
 俺はどうにかなってしまったのだ……。死んだのか? それで幽霊に……?。
 ひとまず食糧を貪っているサチをそのままに、リビングへ戻り、今度は両親の寝室へ身体を向ける。閉まったドアを通り過ぎる感覚が気持ち悪い。
 家具を通り過ぎて部屋を覗き見る。真ん中のベッドに両親が眠っているはずだ。
 しかしそこには、一人のシルエットが身体を起こして震えていた。馬乗りになって腕を高々と上げ、勢いよく振り下ろしている。その運動を繰り返す。
 ぢゅっ、っぽっ――ぢゅっ、っぽっ――ぢゅっ、っぽっ――
 鈍い音が部屋中に響く。月の光が窓から差し込む。赤で濡れたナイフを固く握りしめる拳と、悪鬼のような凄まじい形相の女の顔が照らされる。
 まさしくそれは、母だった。
 月の光がベッドに染み込む。黒々とした水溜りの中に、目を見開き口を大きく開けて絶命している父が横たわっている。毛布は大量の血液を吸い、表面には無数の刺し傷が見える。
 俺はたまらず叫び声を上げる。しかし喉は震えず、声にならない。
 呆然としたままドアのそばに突っ立っていると、ドアと俺の身体を、<ナニカ>がすり抜けた。
 全身の筋肉が硬直する。気味の悪い感覚が全身を貫く。
 身体を通り過ぎた何者かが、俺の目の前に宙に浮かんで静止する。
 それは、漆黒の道化師<ピエロ>だった。
「やあ、驚かせてしまって悪かったね」