体育祭


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 体育祭の日も近づき、合同練習にも熱が入っていた。
「おらーっ!遅れてるぞーっ!笹本ーっ!」
 クラスリーダーの谷崎の怒声が校庭に響く。拷問ばりの叱咤に鞭打たれて、もはや限界を通り越して感覚がない両脚を無理矢理に動かす。
(はぁっ……はぁっ……しっ……死ぬっ……!)
 前のランナーとの距離は大分離されている。レースもクライマックスに差し掛かっている。最後に一人くらいは抜いておきたいところだ。
「っく、おのれええええぇぇぇぇー!!!」
 運動神経に驚異的なダッシュをかけるよう指示するが、命令無視した手足はオーバーに振り乱しながら空回りするだけだった。おまけに意味も無く叫んだせいで余計に酸素を使った。肺がキリキリと過負荷を訴えている。つか、さっきより離されてないか?
 最終コーナーを駆けて、手足と一緒に頭部も振り回して、ついに感動のゴール!
 やった! 完走した! やれば出来る子じゃん俺! 前の奴を抜かせなかったのは些か悔恨が残るところだが、ここまで頑張った自分にご褒美くらいあってもいいよね! あー疲れた水飲もぐふぉっっっ!!!
 満身創痍汗だくの身体に谷崎の腹パンが深々とめり込んだ。女子に本気の腹パン食らうとか貴重な経験だとか言ってる場合ではない息が。
「おい貴様、クラスを敗北に導いた張本人をこのまま生きて帰すとでも?」
「……っっっ」
 そのまま息も出来ず声も出せず前のめりにぶっ倒れた。おお良い感じに気管が完全封鎖してるし死ぬってマジ。
 やっとこさ肺に充満した二酸化炭素の救助に成功して、俺は這いつくばる形で見上げるとそこには谷崎の冷たい目が待ち構えていた。
「死ぬ前に一言、何か言い残しておくことはあるか?」
「はぁ……はぁ……あのさぁ……俺っちなぁーんでこんな仕打ち受けてるわけさぁー? オラの村じゃ傷病人には男女問わず優しくいたわるって掟があるんでさぁー。あんまり悪いごどしでっどハブに噛まれるさぁー」
 エセ沖縄人を気取ったつもりだが、何やら色々な地方が混じったハイブリッド方言になってる節は否めない。そんな事より谷崎さんの表情が見る見るうちに鬼面さながらに変化してますけどどこの田舎に伝わる妖怪伝承なんでしょうかね。歯軋りの音が聞こえてきそうなくらいギリギリ噛み締める谷崎さんの歪んだ表情マジキュート。
「死ぬがよい」シュッ。「ごがっ……っ…………」
 脳天真ん中に見事なかかと落しが決まり1RKO。ああー空ってこんなに青いんだなーけどなんだろー僕のほっぺに水滴が落っこちてきてあれー今日は一日中秋晴れ予報のはずだけどなーおぶぶぶぶぶぶっぶ!
 仰向けの顔面に思いっきり一番絞りの水道水たっぷりポリバケツをひっくり返しやがった。
「そうだ、貴様にはまだ現世にやり残していることがあるよな? しっかりクラスリレーでトップを獲得してから安心して死んでくれ」
「辛いよー最期の時くらいは安静に逝かせてくれよおっ母あー」
 もはやキャラ設定が自分でもよく分からなくなってきたあたりで、委員長様が毅然とした態度で物申す。
「ダメだ。全ては貴様のお陰でこうなったんだからな。男の責任くらいは果たせ」
 ……ハイハイ。俺があん時、あんな事しなきゃ、こんな事にはならなかったくらいの事は解っている事さ。
 事事コトコトうっさい。いっそじっくり煮込まれたい。



 事実をどう誤認しようが誤解しようが