罪と罰
ネロス帝国戦闘ロボット軍団部隊長凱聖バルスキー。
その肩書きの全ては、ネロス帝国という集団に依存したものだ。
彼のその長い名前は、名簿では「バルスキー」とだけ表示されていた。
(……ただの戦闘ロボット、バルスキーか……それも悪くない)
彼は一度、機能を停止したはずだった。
その最期の瞬間、メタルダーのように生きたいと望んで……。
ここに命があるということは、もしかすれば神が与えた第二の命ということだろうか?
(俺は戦闘ロボット、俺がすべき事はメタルダーのように生きることじゃない……命尽きるまで、部下の為に戦うことだ。そう、何度生まれ変わろうと……)
それがバルスキーの悲しい性であった。
トップガンダー、クロスランダーのふたりの部下もここにいた。彼らと戦うのは、部下思いのバルスキーには最大の苦痛となりかねない。
だから、殺し合いに乗るというわけではなかった。仮にもクールギンやチューボも同じ椅子を巡り争ったライバルとはいえ仲間である。
ネロス帝国の仲間がこれだけ参加しているというのに、仲間に刃を向けるような真似を、彼がするわけがなかった。
(俺の標的はおまえだけだ、メタルダー。おまえを倒すために散っていった俺の部下の恨み……俺はそれを晴らさねばならんのだ)
こんな自分を信頼した部下のためにも──。
こんな自分を愛したローテールのためにも──。
彼らはここで蘇ってはいない。これは自分とクロスランダーだけに与えられた最後のチャンスだ。
トップガンダーはおそらくメタルダーと同じ道を進むだろうが、それをとがめる気は無い。
自分は自分の道を行く──
(そう、俺の命が燃え尽きようとも……)
★ ★ ★ ★ ★
「あ……浅倉威ぃっ!?」
君島邦彦を最初に襲った不幸は、それだった。
生粋の殺人鬼・浅倉威。
あの場でも誰より殺し合いの始まりを楽しみにしていた男。
右手にバールのようなものを持ち、暗闇の中、君島を狙って笑みをもらす男。
明らかに、君島を狙っている男。
まだここに来て五分も経っていないというのに、うまくやり過ごせない相手に出会ってしまったようだ。
「覚えてくれて嬉しいぞ、…………誰だか知らんが」
「おいおいおい、どうしていきなりこんなヤツと対面しなきゃならないんだよ……」
君島は武器の確認をするなら、なるべく人のいないところに……と移動する際に浅倉に会ったため、武器を確認していない。
つまるところ、丸腰だ。逃げるしかない。すぐに君島は向きなおし、ダッシュで走り始めた。
だが、浅倉の足は速い。振り向けば、距離が縮まっているような気がした。
君島を追い詰めるのを楽しんでいるように、顔には不適な笑みを浮かべて、バールのようなものを持った浅倉が走って来る。
後ろを向いている暇はなかった。
こいつは真性の××××だ。放送禁止用語なので伏字にするしかないほどにヤバいやつだ。
「あんまりイライラさせるな……」
何もない草ッパラの中、もう声がはっきりと聞こえるほど浅倉との距離が縮まっていた。
こんなことになるなら、もっと早く支給品を確認しておけばよかったかもしれない。
などと考えつつ、火事場のバカ力で君島は加速する。
「ちくしょ~~~~~!!! なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだよ~~~~!!!!」
ドカァンッ!!!
その刹那、君島の背後で爆発が起こったのを感じた。
どこかから爆弾が投げられたのか、或いは浅倉が突然自爆したのか。
もちろん前者だと思うが、そんなことを考える暇もなく、君島はそこからすぐに逃げた。
「こっちや! こっち!」
おそらくそれを投げた主と思われる女性の声が聞こえた。
浅倉から逃げるときより、少し速度を落としてその声のほうに向かっていく。
後ろから、「ゲホッゲホッ」と咳をするような音が聞こえた。煙の匂いが君島にも伝わった。
どうやら、アレは爆弾ではなく煙幕だったらしい。凄い轟音が聞こえたような気がしたが……。
ともかく、君島はその女性の下に走っていくことができた。
★ ★ ★ ★ ★
「あれはウチ特性の煙玉や。ホントはウチが作ったんやけど、なんだかなぁ~。ウチの発明品がこんな殺し合いに使われるなんて……」
君島を作った女性。名は李紅蘭。めがね、そばかす、三つ編み、関西弁、出身中国。なんとも特徴の多い女性である。
それも、彼女の口ぶりだと発明家らしい。どの程度のレベルだかは知らないが。
「まあ、なんだ……俺を助けるのに役立ったんだ。こんな場所で使われてようが、その発明品にはお礼を言いたいくらいだよ」
「それはそうやけど、これがアンタを助けるのに使われたのはほんの偶然や……」
「良いんだよ、偶然だろうがなんだろうが。大事なのは、俺を助けたっていうその事実! その煙玉がなきゃ……アンタがいなきゃ、俺は死んでだかもしれないだろ?」
「……せやな。クヨクヨしてるなんてウチらしくない! でも、発明を悪用するなんて許せん! ウチが絶対この首輪外して、アイツの居場所見つけ出したる!」
すぐに元気になる紅蘭である。
最初の印象とは裏腹に、前向きにものを考えられる人間だというのはよくわかった。
そんなわけで、君島は支給品の確認を始める。
「君島はんの支給品は何だった?」
「俺は、蝶ネクタイだな……」
「は?」
「蝶ネクタイ、あとは……なんだこれ? ラウズアブゾーバー……」
「説明書付きか! なになに……これが仮面ライダーブレイドの強化道具で、こっちの蝶ネクタイは蝶ネクタイ型の変声機……」
紅蘭は興味津々に説明書を読んでいた。
君島は「俺の支給品なのに……」と思いつつ、紅蘭の真剣な表情を見て、仕方ないとばかりに木にもたれた。
紅蘭が言うには、どちらも護身用の武器にもならないという。しかし、蝶ネクタイ型変声機に関しては、面白い発明だとおおはしゃぎをしている。
「まあ、こんなもんウチが持ってもしかたない。もともと君島さんのもんやしな」
「いや、むしろいらないんだが……」
「ええって、ええって。苦手なヤツの声で恥ずかしい台詞を吐いたり、面白いことはいくらでもあるで」
「ああ、そうか。確かに使えるな……」
カズマの声で、ロリコン宣言をしてやる、と心に決めつつ、二つの道具を受け取る。
結局のところ、ラウズアブゾーバーは完全に使い道がないようにも思えるが、まあいいだろう。
一方、紅蘭の支給品は例の煙玉とロープと鉈。わかりやすい殺人道具であった。
もちろん、持つ人間が紅蘭のような人間なら安心だろうが。
「そういえば、あの体育館に自律する機械がいたんやけど、あいつら会ってみたいなぁ」
とりあえず、紅蘭にとって発明というものが何より優先順位であることはよくわかった。
だからこそ、それを悪用する主催者が誰より許せないのだろう。
★ ★ ★ ★ ★
「ウガアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!!!!!!!!」
浅倉は、そんな咆哮とともに、全ての苛立ちを虚空にぶつけた。
ここは何もない草原。どう頑張っても、バールでなぐるようなものはなかった。
……ただ、その時偶然にも通りすがった少年を除いては。
(……な、なんだあれ……)
浅倉は視界に入った少年を前に、笑みを浮かべた。
ぎりぎり視界に入る程度なので、距離はある程度離れている。
君島とは違い、まかれる可能性も否めないだろう。
当然、少年は逃げの体勢に入った。少年の名は藤宮炎。仮にも、陸上をやっていた男である。
「タイムだけ」の短距離走は得意ではなかったが、鬼ごっこのような「逃げる」という目的のある走り方は得意であった。
「イライラさせるな……」
追い詰める楽しみも、今の浅倉にはない。
煙玉なんかでまかれた苛立ちによって、浅倉は追い、殺すことだけを考えていた。
そのプレッシャーからか、藤宮はすぐに草に躓いて転んだ。
焦っていると、転びやすいというのも本当のことらしい。
そんな原理を心の中で罵ったが、そんなことよりも近付いてくる浅倉にどうしようもない恐怖だけがあった。
恐怖で足が動かなくなるというような距離ではない。まだ、逃げ切れるには逃げ切れる距離だった。
しかし、動かなくなるというよりは、バランスが取れない。再び立ち上がっても、すぐにまた足の力が抜けて転んでしまった。どこか疲れているのだろうか。
この僅か一瞬で、自転車で遠くに行った帰りのように足がきつい。
もう、浅倉は眼前でバールのようなものを振り上げていた。
──だが、その時である。
藤宮と浅倉の間に入り込んだ何かがあった。
それは、人間ではないが人間のような頭、腕、足の五角形を描いていた。
そいつが、浅倉の首元を掴み、地面に向けて吹き飛ばした。 地面に身体を打ちつけた浅倉が、バウンドすることもなく気を失う。
「えっ……あの……」
「礼はいらん。やりたいようにやっただけだ」
その男はロボットであった。
おそらく──それの動きが生物的ではなかったからよくわかった。
凱聖バルスキー。
彼の目的は、メタルダーの抹殺のみ。しかし、その生き方に「自由」を求めるのも確かな事実だった。
自由を奪われ、殺されかけているこの男を、一度助けようとしてしまったのは、おそらくそのせいだった。
「その男は気を失っている。その男に何をしようと貴様の自由だ」
そういい残して、バルスキーはメタルダーを捜すために立ち去っていった。 彼はそれ以上を望まない。ただ、自由に行動しただけだった。
彼が一体何だったのか、その目的も藤宮が知る由もない。
一度、倒れた浅倉に目をやる。
すやすやと気持ち良さそうに眠っているのではなく、うなされているように見えた。
呆然とした彼は、浅倉の手元にあったバールを握る。
あまり強い力で握っていたわけではなかった。
──その男に何をしようと貴様の自由だ
その言葉を復唱する。
藤宮も、この男が浅倉威という男なのは知っている。
体育館であれだけ堂々と名前を挙げられた男だ。いきなり会ったのは不幸といわざるをえない。
いつ起き上がるかわからない恐怖。武器が手元にあるとはいえ、この男の姿はトラウマとなっていた。
──それに、この人はまだ人を襲うかもしれない
そんな思いがあった。こんなところで生かしておくのは、究極のエゴではないのか?
ここで見逃せば殺人が起こるかもしれない。
今、バールでこの男を殺してしまえば、次の悲劇は起こらずに済む。
この男を殺すより、生かしたこの男が罪もない人間を殺すほうが、罪悪感が起こるだろう。
それなら──
一度、この男の頭にバールをぶつけてみた。
できる限りの力で。
浅倉は気を失った状態のまま、あまりの痛みに絶叫を始めた。
頭から血が流れている。手が余計に震えた。
震える手で、血のついたバールを放り投げると、すぐにそこから走り去って言った。
浅倉が声をあげて起きたかもしれないこと、人に意図して血を流させたこと……藤宮が逃げたことには色んな理由が考えられる。
とにかく、この場から逃げたかった。すぐにでも……。
【1日目 深夜/A-6 草原】
【凱聖バルスキー@超人機メタルダー】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本行動方針:メタルダーの抹殺。
1:メタルダー抹殺以外に興味はない。
2:自由への憧れ。ただし、仲間のためにメタルダーは倒す。
3:仲間との合流もしたい。
※死亡後からの参戦です。ただし殺人への抵抗などもありません。
※ローテールのデータによって、全戦闘ロボット軍団の能力が使えます。
★ ★ ★ ★ ★
「ん? 誰か倒れてないか?」
「あ! ホンマや」
藤宮は森の中で倒れていた。先ほどの疲労や、精神的ストレスがかなり大きかったのだろう。
もう既に、意識を飛ばしていた。ましてや、山道を歩いていくほどの体力は既に残っていない。
「仕方がねえな。放っておくわけにもいかねえし……」
「せやな。見たところ、ウチや君島はんと同じくらいのトシに見えるけど……変な格好やなあ」
「そうか? 本土の人間はみんなこんな格好だろう?」
「ボンド……? まあええわ。君島はん、この人運べるか?」
「そうだな……。そんなに体重が重いわけじゃなさそうだ」
君島は藤宮をおぶってみたが、さほど体重はない。
身長は170センチに届くか届かない程度だが、体重は60kgもなさそうだ。
筋肉がさほど発達しているような様子がないからだろう。紅蘭のような体躯だ。
「どこまで運びゃあいいんだ?」
「せやなぁ……すぐ近くに温泉があるみたいやから、そこまで運んでいきましょ」
【1日目 深夜/A-7 森】
【李紅蘭@サクラ大戦】
【状態】健康
【装備】紅蘭特製の煙玉(一消費)@サクラ大戦
【道具】基本支給品一式、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、ロープ
【思考・状況】
基本行動方針:打倒主催者。
0:まずはコイツ(藤宮)を温泉まで連れて行く。
1:首輪の解除。
2:君島と一緒に行動する。
3:自律機械(メタルダー勢など)と会いたい。
4:浅倉を警戒。
【君島邦彦@スクライド】
【状態】疲労(小)、藤宮を背負ってます
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:打倒主催者。
0:まずはコイツ(藤宮)を温泉まで連れて行く。
1:紅蘭と一緒に行動する。
2:浅倉を警戒。
【藤宮炎@ヒーローズオペレーションF】
【状態】気絶、疲労(大)、強いストレス、浅倉への強いトラウマ、罪悪感
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本行動方針:死にたくない。
1:浅倉への強い恐怖と、人を傷つけた罪悪感。
2:あのロボットは……。
★ ★ ★ ★ ★
頭に残る強烈な痛み。
やったのは誰だかわからないが、おそらくあの怪物か──あるいはあのガキ。
血を流しているが、この程度、慣れている。たかが鈍器で殴る程度など、甘すぎる。
苛立ち。
殺す。
あのロボットはスクラップに、あのガキどもは猟奇死体に。
彼はその辺りに転げ落ちていた血のついたバールを拾い上げる。
そのバールは、彼の苛立ちを表すように、地面に何度も叩きつけられた。
【1日目 深夜/A-6 草原】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【状態】頭部の強い打撲で流血(傷は結構やばいです)
【装備】王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎、バールのようなもの@現実
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本行動方針:皆殺し。
1:君島、バルスキー、藤宮は優先的に殺害(名前は知らない)。
最終更新:2011年08月21日 19:39