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Discovery(後編)



 ルリは双眼鏡越しに見えた一つの激闘の終結に言葉を失う。
 十分起き、という指定ゆえにその激闘を最初から見ることはできなかったが、どうやら戦いは体育館で狂気を見せた浅倉威という男が制したらしい。
 人がそれに立ち向かっていく様も、倒れていたもう一人の怪人が戦う様も、その目は収めていた。


「戦闘終結。死者は推定二名」

「……なるほど。少しばかり残念な結果に終わったようですね。浅倉の行方は?」

「山を降りていった模様」

「スミマセン。まだ幼いあなたにこんな光景を見せてしまって……」

「いえ、大したことありません」

「そうですか。それはそれで問題ですが、ともかく触らぬ神に祟りなし。ここに待機をしましょう」


 クーガーはあくまで自分の味方だ。
 死者二名を弔いたい気持ちはあれど、ルリをそこに連れて行くわけにも、ルリを置いていくわけにもいかない。
 それゆえ、この場所で黙っているのが、厳しいが最良なのだとわかっている。
 むしろ、山に登ってこようとした悪鬼を追い払ってくれた彼らに感謝……それが社会というものだ。


「……ルミさん。これからは私が見張りをします」

「ルリです。それに、私は別にこのままで構いません」

「いえ。私がやりたいんですよ。見張りは得意なもので」

「…………わかりました。それじゃあ」


 ルリはすぐに席を譲り渡す。
 クーガーがルリをこの席から外したのは紳士の良心だ。決して、彼女にこれ以上死体を見慣れさせないための。
 何のツミもない幼い少女に、これ以上殺人鬼や死体を何度も見せられるものか。
 クーガーはその席に張り付くと、時計を確認してから再び読書についた。


★ ★ ★ ★ ★


 気絶、全身打撲、疲労、大字。
 あらゆる異常を抱えた人たちだけが、ここにいる。ベッドの上に寝そべる女二人と、床に丁寧に敷かれた掛け布団の上に寝る藤宮。それぞれがどこかしらの痛みに耐えていた。
 誰もが健常者ではない。ただ、それだけが共通であり、思想は細かい部分で統一されていないのかもしれない。
 バラバラともいえるが、それは人として当然のこと。気持ちを一つにするなんて、そう簡単にできることじゃないだろう。


「……すまん、藤宮はん……邪魔してしまって……」

「いや、いいんだ……」


 藤宮は、紅蘭を許すだけの落ち着きを取り戻していた。あれから色々と考えていたのだ。
 自分自身も、一度浅倉を殺害するチャンスに見舞われながらも、それを逃している。その結果として、犠牲が生じてしまったから、藤宮も殺人者の殺害はやむなしと考えていた。だから、紅蘭を責める気持ちもあった。
 だが、その思想を紅蘭が命をかけて止めようとしたのは確かだ。それゆえに、紅蘭を言葉で責めるのは至極失礼なこと。
 薄っぺらい言葉だけかけて、押し黙るしかなかった。


「…………だけど、何であんなことしたのかだけ、教えて欲しい」


 ただでさえ静かだったその場所が、時が止まったように静寂の時間となる。
 問う側は唾を飲む事さえ忘れ、問われる側は固唾を呑んだ。
 紅蘭は、打ち明けるべきか打ち明けないべきかの思いを、思い切り口にする。


「感情に任せて、人を殺したりなんかしたらあかん。たとえ、どんなに悪いヤツでも……」

「……」

「ウチだって、あいつは死んでもいいヤツや、死んで当然のヤツやと思う。……けどな、あんなヤツのために藤宮はんが無茶することはない! あんなヤツのために、藤宮はんみたいな普通の人の人生ムチャクチャにされるのを、見たくなかったんや……」

「俺の人生が……?」

「人を殺したら、相手が誰でも後悔する日が来る。きっと、自分がイヤになる。罪悪感に押しつぶされる」


 紅蘭から返ってきた答えが意外なものだったため、藤宮は驚いた。
 てっきり、どんな悪だって殺しちゃいけないとか、そんな偽善のような考え方が出てくるのかと思った。だが、彼女は自分なりに藤宮の身を案じていたのだ。
 藤宮が思っていた悪い期待を裏切ったというのかもしれない。
 冤罪がない限りは死刑制度にもおおよそ賛成的だった藤宮も、確かに相手が犯罪者とはいえ、殺す側に回ってみると感慨深い。その賛成という考え方も警察たちにしてみれば大きな圧迫だったのだろうか。
 だが、それで浅倉を殺害する形で決着をつけたいという思想は変化しない。──自分の手が汚れようと、まずは自分や周りを守りたいし、その理屈ならば、他人に殺させるよりも自分が殺すのが一番いい気がするのだ。
 警察の人とか、紅蘭とか、君島とか、そんな色んな人たちに任せて殺させるよりもずっといい。
 そんな藤宮の思考を遮るように、紅蘭が続ける。


「……それに、ウチが少し前に、憎しみから無茶をしようとしたことがあってな、そん時に止めてくれはった人がおるねん。ここにもおる人や」

「……」

「藤宮はんも君島はんも、見たやろ? ウチは昔から特殊な力があってな……霊力言うんやけど、その力で人々を守るのが、ウチの使命や。そして、その人の使命でもある。この際やから、二人にはきっちり話しとく」

「いいよ、あまり話して良いことじゃないだろう」

「いや、聞いとけ炎。少なくとも、俺は聞かせてもらいたい」


 押し黙っていた君島が、再び口を開ける。
 まだ会話が未熟で遠慮がちな藤宮と違い、君島は相手の気持ちを汲み取って口に出すことができたのだ。
 紅蘭が何故、自ら話し出したのかもだいたいわかる。誰かのためにその力を使いたいなら、その力で守る相手にも、その力について話したかったのだろう。

「せや。君島はんの言うとおりや。ウチの話も最後まで聞いてほしいわ」

「ごめん、わかった。……ホントは俺も聞きたい、霊力について」

「……霊力を持つ人間が属する、『帝国華撃団』っていう秘密部隊が東京の銀座にある。その隊員のひとりがウチや。ウチの知り合いって言った人たちも実はみんなその華撃団の隊員で、霊力がある」

「銀座にそんなものがあったのかよ……」


 遊園地の地下に秘密の施設があるとか、そんな都市伝説を聞いたことがある。
 こういう話が実在していたとなると、案外都市伝説も捨てたものじゃないのかもしれない。
 霊力を間近で見た藤宮は、霊力を信じたのにそれを信じないといほど頭が固いわけじゃない。元々、オカルトチックなものも否定的なわけじゃないし、だいたい、恐怖しか与えないオカルトに比べればまだ面白味がある。
 地下に秘密吉を置いた、霊力なる力を持った軍人──。少し胸の高鳴りを覚える世界だ。
 そんなロマンの余韻に浸ると、君島が口を開いた。


「紅蘭、ひとつ質問いいか?」

「なんや?」

「その霊力って、アルターとは違うものなのか?」

「……アルター? 何やそれ」


 紅蘭も藤宮も、首をかしげた。
 紅蘭の世界にも、藤宮の世界にも当然そんなものはなく、アルターなんて言葉を聞いたことがない。英語で習ったかもしれないが、それほど印象的な単語ではないし、明らかに英単語を言っている感じじゃなかった。
 しかし、君島はさも「相手も知っていて当然」のようにアルターという単語を使う。
 そして、同時に首をかしげる二人の様子を疑問視しているようでもあった。ただ、紅蘭はともかく、まだ態度が示すのみで言葉でアルターを否定しない藤宮に向けて聞く。もしかしたら、知っているのあもしれないと。


「……アルターとは別物っていうわけか。だけど、アルター能力について知らないってのは、いくら本土の人間でも珍しい話だぜ、なあ、藤宮?」

「いや、俺も聞いたことがないぞ。アルター能力?」


 君島はその時、疎外感を感じる。
 紅蘭も、藤宮も、アルターについて知ってて当然だと思っていた。だから、紅蘭の霊力にも大きな驚きは見せないし、ライダーもただの恐怖の対象で好機の的ではなかった。
 不思議だ。二人の様子を見るに、アルターを知らないというよりも、アルターがないという感じである。少なくとも本土の学生である彼らは、よくも悪くも情報は早いはず。それに、明らかにアルターが関わると思われる秘密部隊がアルターを知らないというのは不思議な話である。
 だから、君島は試しに質問の意図を変えた。話は逸れるが、君島の思考とは繋がるかもしれない内容だ。


「ちょっと常識から進めてみようぜ。なんか知らないけど、俺の知ってる世界の常識と、二人の解釈が違うんだ。紅蘭の話を遮ってすまないけど」

「わかってる。ウチも、なんか変なことが多いように思ってたところや」

「まず藤宮。お前がここへやって来た日付は?」


 試しに日付を聞いてみる。この時点で彼らは、大きいジェネレーションギャップを知ることはなかったので、この質問は偶然だ。もしかしたらうすうすは気づいていたのかもしれないが、世界の情勢を知ることができれば、何でも良かった。たとえば、総理大臣の名前とか、流行っているものとか、何でも構わない。
 しかし、その藤宮の返答で、二人は驚愕することとなった。

「2011年9月7日だ」

「「!!?」」


 二人の驚愕の理由が、藤宮にはわからない。ただ、わき腹が痛むはずの紅蘭が身を起こして、藤宮の顔が冗談めいているのかを確認したのが、印象的だった。
 連れて来られた大きく時間が違うことに、二人は気づいている。君島が確認しようと思っていたことは、確かだったのかもしれない。
 君島の来た年代と半世紀も違わないが、それは──


「その日付は、俺の来た時より少し前のはずだ」

「ウチの来た時代より、百年近く後やで! 君島はんの来た時代がそれより未来ゆうなら、もしかしたらウチは死んでるんやないか!?」

「……それどころか、若くて元気に見えるけど」

「藤宮はん、おだてても何も出えへんで!」

「……なんか、百年前の出身だと思った途端、言葉遣いが年寄りに聞こえる気がするんだけど、……まあいいか」

「前言撤回や。おだてる気ゼロやないか」


 ともかく、それぞれが来た時間の大きな差に互いが驚く。それならば世界情勢や常識の理解度に差分があるのは仕方がないだろう。
 霊力、地下秘密部隊ときて、タイムスリップか──。
 現実問題大変なことなのだが、そんな非現実が続いたせいか、一度会話が真面目な話から、好奇心に移り変わった。
 いや、藤宮よりも先に食いつく人間が一人いたか。好奇心旺盛な少女が、藤宮と君島に聞く。


「なあ! なあ! 21世紀ってどんな感じや!? ウチ気になってしょうがないわ~」

「化粧濃い変なヤツが増えた」

「いや、そんなこと知りたいんやなくて、科学がどう進歩したのかが知りたいんや!」

「ええっと……車があって、カラーテレビがあって、クーラーがあって、パソコンがあって、テレビゲームがあって、だいたい電気で動いてる」


 ともかく、現代の「未来らしい」ところを語る。
 百年前となると、どの程度の進歩だか、咄嗟に判断することはできなかった。パソコンとテレビゲームはさすがにないが、電気で動くものや車は当時からある。
 3Cは昭和からのものだし、藤宮の時代から考えると言い回しも古い。


「蒸気やなくて電気が主体になるのか……なるほどなぁ。でも、それだけの電気はどうやって供給されるんやろう」

「地熱とか、火力とか、水力とか、風力とか、色んな方法で発電されてる。……その結果、とんでもないことが起きたけど」


 彼の来た2011年でも忘れることができない大ニュースがある。
 それは、大地震による津波、津波による原子力発電所の事故、その事故による放射能散布。
 あらゆる災難に見舞われた挙句に、居間は節電がテーマになっている。
 藤宮の部屋は、エアコンがなくとも風を入れれば涼しいのだが、紅蘭たちのいた時代に比べれば、明らかにエアコンを使いすぎているように見えるだろう。
 一応、こういう言い方をすると紅蘭も気になるだろうと、藤宮は震災のことを話し始めた。ちなみに、紅蘭のいた時代も黒之巣会による関東大震災モドキが起こされた少し後だ。守る側か、受ける側かの違いはあれど、大きな震災をリアルタイムで経験した時代の人間であることは確かだ。


「なるほど。地震、津波、放射能、火事……そんな悲惨なことが起きるんかいな」

「ああ。できるなら、紅蘭もそれを多くの人に伝えて欲しい。2011年3月11日、宮城県だ。俺だって、関東出身なのに地震が来たときはこのまま死ぬと思ってたくらいだ……」

「わかった。大神はんやみんなに相談して、できる限りの対策を後の時代に残したる。第一、宮城いうたらさくらはんの出身地や。さくらはんの子孫も危ないかもしれへん」

「それに、1995年にも神戸に巨大地震が起こる。後で百年後までに起こる主な事件を全部メモしておくよ」

「神戸やって……!?」

「……紅蘭の出身地だね。俺がちょうど生まれた頃で、地学のテストに出たから、発生時間やマグニチュードはよく覚えてる。1995年1月17日午前5時46分に発生したマグニチュード7.4の地震だ」


 確かに21世紀という時代は便利になったかもしれない。
 が、その文明を一瞬で滅ぼす力を、自然は持っている。誰もがその時、そう思ったことだろう。
 さらにその後、人々は人々の手で他の人間を追い詰める真似もした。原発や買占めなどもそのひとつだろう。藤宮だって、そうした暴挙と無縁とはいえない。
 紅蘭が血相を変えるのも無理はない。もし百年以内に関東に超巨大地震が起こると聞けば、藤宮だって黙ってはいられなくなる。たとえ、その時自分という人間が死んだとしても。

「それだけわかれば十分や。……ウチらが──帝国華撃団、絶対に時を越えてでも人々を守ってみせるで」


 藤宮と君島は先ほどから気にかかっていたが、帝国華撃団とは具体的に何と戦うのだろうか。
 百年前の秘密部隊となると、やはり敵国と戦うものだとばかり思っていた。……が、そうではないらしいのだ。
 帝国華撃団の隊員の名前で、日本人と思しき名前は少ない。紅蘭だって、中国の出身だ。日本と中国の関係があそれほど良いとは思えない。
 マリア・タチバナ──この名前も、姓名が逆転しており、当時マリアという名前の日本人がいるかというと首をかしげる。同盟国なのかもしれないのだが。
 イリス・シャトーブリアンに至っては、完全に外人ではないか。
 だが、秘密部隊について詮索する気はない。そもそも、彼女の言う帝国華撃団の目的とは、人を守るところにあるという。戦争をそういう名目で正当化することはあれど、彼女の口調はそういう感じを出さない。だいたい、彼女には霊力というものがある。それが本当に実際に第二次世界大戦中に使われたのか。──微妙なところだ。


 君島の疑問はさらに深い。
 2011年という時代は、彼の歴史から照らし合わせると、既に地殻変動は起き、ロスト・グラウンドもアルター能力者も誕生しているはずだ。それらについて一切語らず、ましてやアルターを知らないという。
 逆に、東日本大震災などというものは君島も知らない。
 相互の時代を知らないがゆえに噛みあう二人と比べ、君島の中では全く話がかみ合っていなかったのだ。そこで君島はある結論にたどり着く。

 ────それぞれが、別の歴史を辿っているという可能性だ。


「……なあ、炎に紅蘭。もしかしたら、俺たちは、ここへやって来た時間なんかよりももっと根本的な部分で違うんじゃねえか?」

「え?」

「俺のいた世界に東日本大震災なんか起きてねえし、炎のいた世界にアルターなんてない。つまりそういうこった。俺たちはタイムスリップ以前に、別々の世界の人間なんだよ」

「つまり、あのパラレルワールドとかいう理屈か?」

「それだ。神戸、東京、宮城……地名が出尽くしてる以上、別の惑星のエイリアンでした~……なんて話はあるワケねえし、タイムスリップにしても出来事が違うのはおかしすぎる」

「それはあるかもしれへん。だいたい、こんな一同にあらゆる歴史から人を連れてくる技術があったら、歴史そのものが修正されてまう」

「確かにそうだ。そうすれば簡単に説明もつく」


 ライダー、霊力、時間移動──この場所はクレイジーだ。決して、今までの常識が通用する場所じゃない。だから、藤宮は信じられないことも信じていく覚悟を持つと決めた。
 そもそも、時間移動の話を聞いたときから、この世界の法則は成り立つのか、元の時間に帰れるのか──疑問が多かったのだ。
 と、納得はしたが、広がってしまった世界への不安もある。
 ライダーの力を持ったとはいえ、それを越える力があるかもしれない。だいたい、ライダーの力自体、同じライダーにさえ及ばないレベルなのだ。そういった、「非常識」という見えない不安感が藤宮の精神を押し付けていく。
 死にたくないが、生きていく自信がまるでない。だから、今は霊力を持つ「帝国華撃団」との合流がしたいと思った。その帝国華撃団でだめなら、もっと強い味方を捜して……。


 ──その時、自分が他人を捨て駒にするような考え方をしていたことに気がついた。


 力を持つ人間に依存し、その人間が敵以上の力を持たなければ、もっと強い仲間を捜すというやり方だ。それも、紅蘭の信用できる仲間さえ見捨てるということじゃないか。
 強い者にだけ付くという、明らかに性根腐った生存への執着。
 浅倉との戦いのときから、相手を殺すことで生存確率を上げようとする思考もあった。
 そんな自分の考え方を思うと、藤宮は急に自分が恐ろしくなった。


(……やっぱり、さっきから、俺は倫理観が麻痺してかけている……殺し合いの状況のせいか? いや……もしかすると……)


 藤宮は、殺し合いという異常な状況で生き抜くことを最優先に考えていたため、周囲を犠牲にでも生きて行きたいという人間の本能を少し働かせていただけだったが、これまた彼は深読みした。
 もしや、浅倉という男のようになるのではないか……? ──という恐怖さえ覚える。
 その根拠として挙げられるのが、同じ規格の変身道具を使っていたということだった。この変身道具が、単純に変身だけを補助する道具といえるのか? ドーピングに近い行動ではないのか?


「……紅蘭、あるいは君島。あのさ、今、全然関係ないことだけど気づいた話があるんだ」

「ん? なんだ?」

「俺の持ってるカードケース……あれって、本当は使っちゃいけないものなんじゃないか?」

「どういうことだよ?」


 急にこんなことを言われた君島と紅蘭は混乱する。
 普通はそれぞれの世界の常識についてなど把握して、相手の行動への警戒を高める努力をしたいところだろうが、なぜカードデッキの話を始めたのか、彼の心情を理解できるはずもない。
 まあ、カードデッキへの不満に関して、彼が語ることはなかったから当然だろうが。
 藤宮は続ける。


「俺は、簡単に誰でもあんな力が手に入るとは思えない。麻薬みたいな中毒性があったり、使ったら凶暴化したり、身体が勝手に人を襲ったり、力に溺れたり────そういうことは、ないのかな?」

「なんやて!?」


 自分の中ではあくまで推測だったのだが、ここまで真剣に食いつかれると恐ろしくなった。
 藤宮はいまだかつて、浅倉ほど「ホンモノ」の殺人鬼がいるとは思っていなかった。その人格を形成したのは何か。──藤宮の知らない、彼の世界に起きた「異常」だったのではないか?
 浅倉はライダーに詳しすぎるし、王蛇でないにしても「ライダーのある世界」の出身に感じる。開始時からああして狂気じみていたのは、この力の代償によるものという可能性はないだろうか?


「……ここに来て、倒れてる浅倉さんを一度殺そうとした。でも、そのときはできなかった。……なのに、ライダーに変身したら本当に殺そうとしていた。ライダーの力は、本当は人を狂わせるんじゃないか? 俺もこのまま浅倉さんのようになっていくのかも……」

「バカ言うたらあかん! 藤宮はんがあんなヤツと同じになるなんて……」

「浅倉さんだって、昔はそう言われてたかもしれない」

「……」

「根拠はない。ただ、浅倉さんがライダーで、そのうえこの上なくイカレてたから、気になってるんだ。普通に暮らしてる人間はあんなにイカレない。あんなに軽い気持ちで人間を殺傷できる人間には、そうなれないだろう。だけど、ライダーはそういう非道さを与える力なのかもしれないだろう」


 浅倉という人間への恐怖が、やがて自分が浅倉になっていくような形に代わっていく。
 浅倉に殺されること──それよりも、遥かに恐ろしいことがある。それは、浅倉に成り代わることだ。
 意思や心を支配されてああなるなら、怖くても、死にたくなくても、殺されたほうがマシじゃないか。
 欲望に忠実な人間ほど、藤宮は嫌いだった。


「藤宮はん、安心しなはれ。根拠がないなら、科学の力でウチが見つけたる。……藤宮はんが、あんな人間にならないっていう根拠の方や!」


 紅蘭が言う。そういえば、藤宮はこの女の前では猫を被っていたんだっけ(というより、女の前であまりふざけられない)。
 およそ真面目で純な姿を見せていたことから、まるで怨みもなし。藤宮が浅倉のようになっていくのが微塵も想像できなかったのかもしれない。
 いや、たとえ藤宮がどう彼女に接触しても、彼女はこう言ったのだろうか。
 藤宮は、科学に精通しているという紅蘭に、デッキを渡そうと身体を起こした。咄嗟にでもつかめるよう、枕元においてあるのだ。本当にコレが科学の結晶か、という疑問はさておき、ともかく、一目だけでもしっかり見てもらおうと。
 その時、君島が二人を軽く睨んだ。


「本当に狂うか……俺が実証してやる。デッキ貸せ、炎」

「え? 変身する気かよ!?」

「やってみなきゃわかんねえだろ、コレ使ってどうなるかなんざ。だから俺が教えてやる。イチかバチかに賭けねえと、先には進めねえ道もあんのさ」


 半ば強引に、君島は藤宮の枕元に丁寧に置かれたデッキを奪った。
 変身する──それが最もラクな実証方法だ。カズマなら、きっとこうするだろう。めんどくさいことはヌキだ。
 力に溺れるか、溺れないかのフィフティーフィフティー。そんなのアルターと変わらない。カズマのやつは屈しなかった。
 なら、自分は溺れない。そういう確証がなんとなく備わっていたのだろう。
 カズマのようになりたい。──そんな熱い欲が、君島にはあったのだ。
 何より、今は彼らのもつ不安を取り除くために。


「変身!」


 君島の身体は、窓に反射して仮面ライダーインペラーのものに変わっている。
 ただ、眼前にはその姿が虚しくかがみに映るのみ。決して、そこに敵などいない。
 君島の変身の目的は戦うことじゃないから、当たり前である。


「……ほらよ、何ともないだろ?」

「バカか! 俺だって一回目はなんともなかったよ!」

「だから、一回目が大丈夫なら二回も三回もそう変わりゃしねえって。変身は交代でやれば、万が一藤宮の言うとおり副作用があってもすぐには出ないだろ?」


 インペラーは変身を解き、君島として藤宮に話し出す。
 この力をどうしても使いたかったのは、かなみや藤宮、紅蘭を守りたいからだ。
 だが、その思いも力も共有すべきと考え、君島は巧みに自分の考えに誘導していった。
 変身を交代で行うこと──その方が、自分に不信感を持つこともないし、何より藤宮一人に負担をかけることとならない。
 大きな戦闘能力を持たず、戦闘経験のない彼にとって、これはアドバンテージではなく負担だとわかっていたのだ。しかし、それを負担と感じたままじゃ生き残ることはできないだろうと思う。
 戦うことも、戦わないことも大切と考えるなら、この措置は当然なのではないだろうか?
 君島の考えを完全に把握した藤宮は、それに応ずる。


「わかった。どっちにしろ、それがないと生き残ることも難しい」

「ウチも解析してかったんやけどな……。どうなってるか知りたいねん」

「浅倉の方のカードケースが手に入ったら、そっちを解析しよう。俺はあんなの使いたくない」

「同感」


 気づけば時刻は既に五時を回っている。
 朝飯には早いが、五時間ずっと起きていたのだから腹も減ってきただろう。
 精神面ははっきりとは落ち着かず、腹はへっても食欲のようなものはない。だが、食わなければならなそうだ。
 藤宮のもの、君島のもの、紅蘭のもの、かなみのもの、弧門のもの、九十九のもの。デイパックならいくらでもある。食べ物も、水もだ。
 死者から得たものだと思うと、少し躊躇うが、痛む体を起こして彼らはパンを食べ始めた。

★ ★ ★ ★ ★


「ウガァァァァァアッ!!」


 木々に頭をたたきつけながら、浅倉が叫ぶ。
 既に一度出血した頭から、なお血が出ているが、まるで意に解さない。というのも、彼は痛みがあるのも幸せなのだ。彼が嫌いなのは、あくまで痛めつけることも痛められることもないという状態だ。
 そういうときは頭がムシャクシャし、ただ苛立ちに任せて物に当たるのだ。
 殺すか殺されるかのスリルがあるこの戦場は、そんなイライラも拭い去ると思っていたが、甘かったらしい。

 ただのガキに二度も逃げられた。
 煙幕、増援、変身──あらゆる手段を使い、藤宮も君島も逃げた。
 二人の男性を殺したことなど、とうに記憶にない。あの子供のことも、女のことも。
 ただ、偶然の重なりで二度も逃げてきたあの二人がイライラするのだ。


「……クソッ!」


 藤宮に至っては、二度も浅倉を殺そうとしている(そのうち一度は浅倉自身覚えていないが)。
 殺し、殺し損ねの関係──北岡を彷彿とさせた。まあ、人間の時からのイライラ虫であるあの男に比べれば大したこともないのだろうが、確実に近くにいることがイライラさせるのだ。
 そのうえ、あれから一時間も、他の参加者は目に入らない。


「ウガァァアァァァアッッ!!」


 浅倉もさすがに頭が痛んだのか、今度はバールを持って、木を何度も殴った。
 根っこから強く生えている木はビクともせず、浅倉は手がジンとするのを感じたが、もちろん意に解さない。
 何度も轟音を響かせて、ようやく彼は納まった。
 バールのほうが、折れてしまったのだ。手にはいまだ、変な余韻が残っている。


 彼は苛立った様子で、山を下りていく。
 山の方がスリルがあるし、サバイバルに近い生き方の彼には性に合っていると思ったが、人は施設に集まる傾向があるらしいというのは、温泉に人がいたことや、温泉に向かっていた三人のことを考えると確かだと思える。
 だから、警察もいないことだし街に向かおうと、彼は歩いていた。


 そこに北岡がいれば最高だろう。
 藤宮や君島もそちらに向かっていれば至高だろう。
 バールはもう折れて捨ててしまったが、浅倉にはデッキがある。それを使えば充分戦える。
 そういえば、殺した二人のデイパックを奪うのもできなかったか。
 イライラする要素と、それを解消する期待を乗せながら、街へ歩いていく彼はニヤニヤと笑っていた。


【1日目 早朝/A-8 温泉 二階寝室『023号室』】

【君島邦彦@スクライド】
【状態】右足に蹴りによるダメージ、精神的な疲労、浴衣、インペラーに二時間変身不可
【装備】カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎
【道具】基本支給品一式、蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:打倒主催者。
1:紅蘭、藤宮と一緒に行動する。
2:インペラーのデッキの使用は交代制。一時的に使用したが、次は自分。
3:かなみの保護、カズマとの合流。
※サクラ大戦の参加者の情報を得ました。
※パラレルワールドから参加者が集められていることを理解しました。
※帝国華撃団と霊力に関してもおよそ理解しました。
※ライダーデッキには浅倉のように徐々に狂化するリスクがあると思っています。


【藤宮炎@ヒーローズオペレーションF】
【状態】全身打撲、インペラーに一時間変身不可、強いストレス(解消気味)、浅倉への強いトラウマ、罪悪感、浴衣
【装備】マラカス@現実(サクラ大戦3?)
【道具】基本支給品一式×2(自分、九十九)、ビートイングラム@重甲ビーファイター、サンダーキー&サンダーファイナルキー@魔弾戦記リュウケンドー、コーヒー牛乳の空き瓶×2、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
基本行動方針:死にたくない。
1:紅蘭、君島と行動する。
2:紅蘭が首輪を外す可能性に期待。
3:人を助けるにはマーダーの殺害も仕方ない。
4:浅倉への強い恐怖と怨み。
5:インペラーのデッキは君島と交代で使用する。
※浅倉をバールで殴ったことを思い出しました。
※首輪に盗聴器やビデオカメラ、発信機がついている可能性を想像しているので多少の警戒は示すかもしれません。
※サクラ大戦の参加者とスクライドの参加者(カズマと由詑かなみ)について知りました。
※パラレルワールドから参加者が集められていることを理解しました。
※帝国華撃団と霊力に関してもおよそ理解しました。
※ライダーデッキには浅倉のように徐々に狂化するリスクがあると思っています。


【李紅蘭@サクラ大戦】
【状態】わき腹に大きな痣、浴衣、霊力を二時間使用できない
【装備】紅蘭特製の煙玉(一消費)@サクラ大戦
【道具】基本支給品一式、ロープ
【思考・状況】
基本行動方針:打倒主催者。
1:藤宮と君島が心配
2:首輪の解除。
3:君島、藤宮と一緒に行動する。
4:自律機械(メタルダー勢など)と会いたい。
5:浅倉を警戒。
※ スクライドの参加者(カズマ、由詑かなみ)について知りました。


【由詫かなみ@スクライド】
【状態】疲労(小)、気絶中
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
※気絶中

【023号室内に置いてある不特定支給品・非所持物】
弧門の支給品一式、コルトガバメント(弾数ゼロ)、弧門のランダム支給品0~2、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、君島・藤宮・紅蘭の開始時の衣服


【1日目 早朝/B-7 山】

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【状態】仮面ライダー王蛇に一時間変身不可、頭部の強い打撲で再度流血、全身打撲、腕が一時的に麻痺、イライラ
【装備】王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本行動方針:皆殺し。
1:北岡、君島、バルスキー、藤宮は優先的に殺害(名前は知らない)。
2:街に向かい、参加者がいそうな施設を捜す。
3:城戸や秋山はどうでもいい。あくまで最優先は北岡。


【1日目 早朝/A-9 山頂・コテージ】


【ストレイト・クーガー@スクライド】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~2、本(小屋にあったもの・タイトル不明)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:カズヤと劉鳳を捜す。
2:ルミさんと一緒にここでしばらく過ごす。
3:展望台を使って参加者を監視。
4:なぜアルターが解除されたのか……?
5:マーダーには容赦なし。


【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ】
【状態】健康
【装備】鞭@現実
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:クーガーと一緒にここでしばらく過ごす。
2:自分の仲間や、カズヤさんと劉鳳さんを捜す。
3:浅倉が山を下りたことへの安心。接触する気なし。

078:Discovery(前編) 投下順 079:放送までのTimelimit
078:Discovery(前編) 時系列順 079:放送までのTimelimit
078:Discovery(前編) 君島邦彦
078:Discovery(前編) 藤宮炎
078:Discovery(前編) 李紅蘭
078:Discovery(前編) 由詑かなみ
078:Discovery(前編) 浅倉威
078:Discovery(前編) ホシノ・ルリ
078:Discovery(前編) ストレイト・クーガー
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