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運命の切札



始と梨花の歩みは街に向かって続いていた。
彼らの表情は硬い。相手への信頼が欠けている証だろう。
相手の顔や動作をせわしなく見つめ、相手に隙を与えさせまいとしている。
それは暗い森を出たからも同じこと。

「……そんなに俺が信用できないか?」

耐え切れずに、始は訊いた。この年代の女の子が始を恐れるということは──天音もおそらく同じ反応をするということ。そう思うと胸が痛くなる。
だが、梨花はその視線を俯かせたまま答えない。
確かに梨花は常識から一歩踏み出したところにいる少女だが、そこに始のような怪物はいない。
羽入も常識を超えた存在──オヤシロ様ではあるが、怪物ではない。
カリスのあの恐ろしい眼差しは、羽入のどこかいじめがいのある愛らしい目とはまるで違うのだ。
まあ、戦う前の彼の気の抜けない気持ちが、梨花にはただ恐ろしく見えたというだけなのだが。

「まあいい。俺か君の仲間に会うまでの辛抱だ」

始のいう事の一字一句を、甘やかすための言葉として残している。
というのも、梨花はこういうときに慎重な性格をしていたからだ。決して始の言葉に心を許そうとしない。
たとえ、それがどんなに甘い言葉であったとしても……。

「──梨花ちゃん、前に誰かいる」

不意に、始がそんなことを言った。
一瞬、言われるがまま前を向いたが心に後悔が残った。前を向いたということは、始に対する視線をそらさせてしまうからだ。
だが、始は何もしないし、本当に前に人──若い男性だ──がいたので結果としては問題なしだ。しかし油断大敵という言葉を胸に残した。
そんな梨花の様々な不安要素をよそに、始は梨花に訊く。

「剣崎や俺の知り合いじゃない。君は彼のことを知ってるか?」

「知らない人なのですよ」

「わかった。だが、一応会ってみよう。いつまでも俺と一緒では君の身ももたない……」

それは始の自嘲気味な気遣いであった。
一刻も早く誰かに預けたいという気持ちだ。
確かに、梨花のような女の子を狙った愉快犯としての殺人鬼も多くいる。……だが、多くの人が少女に持つのは、心が洗われる様な感覚だろう。
人間の少女によって、人間に近付いた始にもそれはよくわかる。
まずは彼と接触し、梨花を預けられる人間かどうかを判断する。まあ、人間は表面だけではわからない生物だろう。警戒に越したことはない。
ただ、この状況下でもなお、表面だけを良くする殺人鬼などあまりいないだろう。到底、そんなことをしていられる精神状態ではなさそうだ。殺すか殺されるか──そんなことで頭がいっぱいになるだろう。
ともかくは、人当たりが良さそうならば、おそらく性根の良い人間と考えられる。

「おい、そこの君!」

梨花の手を引いて、始はその青年を呼びながら駆け出す。
その青年はあまり興味がなさそうにこちらを見ているが、それは殺気がないということの表しでもある。
彼には不気味な雰囲気も感じられるが、ともかくは突然襲ってくる人間ではないように見える。
彼が信頼できるかをある程度知る事ができたら、剣崎たちに引き渡すように言うか。

「何かな?」

「俺は相川始という。この子は古手梨花だ。君は?」

「東條悟」

「東條、君はここまで誰かに会ったか?」

ともかく、始は剣崎や虎太郎に会ったか否かを問いたかった。
万が一、彼らに会ったならそこまでの案内を頼みたい。
それなら、この人に梨花を預けなくても済むだろう。

「……三人会ったよ」

「名前は?」

「甲斐拓也、切札疾風、それから……名前は知らないけど女の人かな」

「わかった。……ところで、俺たちは先ほど怪物に会っている」

梨花が睨んでいるのを感じる。怪物と聞いて、真先に思い浮かんだのが先ほどからずっと近くで警戒し続けた始だったのだろう。
だが、その突き刺さるような視線を耐え忍んで、始は続ける。

「君も一人で行動するのは危険だ。だから──」

「だから、協力しろって?」

「その通りだ。怪物に出会ったら気をつけて──」

「悪いけど、僕はしばらく一人でいいよ。対抗できる力はあるし」

東條はポケットからカードデッキを取り出す──彼の持つ「タイガのデッキ」だ。
彼には仮面ライダータイガという正体がある。それを隠すつもりはない。ただ、タイガの力で英雄になれれば、それでいい。その道具なのだ。

「それは何だ?」

「カードデッキっていうんだ。これを使えば、仮面ライダーっていう戦士になれる──」

「何!?」

始のいた世界にもあった──仮面ライダーという存在と言葉。
彼がそれをブレイドやギャレン、レンゲルと同種のものと考えても、何もおかしくはなかっただろう。
だから、自らの知ったライダーと同じものだと思い、表情を変えた。
BOARDか、あるいはBOARDとは別に開発されたものなのか。どちらにせよ、カードを使うという点でも同じだし、カードを補完しているケースであるという点も同じだ。
始は驚愕したばかりで、すぐにそれについて聞くのを忘れていた。
入手経路を聞こうとした瞬間である──

「へぇ、そいつを持ってるのか」

女の声が始の耳に響く。
ニヤリと笑ってこちらを見ている赤髪の少女。
手には巨大な槍を持っているように見えた。──いや、確かにそうだ。
あれは槍。確かに槍だ。

「……あんたのお仲間には酷い目に遭わされたよ。そんなもんは、さっさと叩き潰させてもらうぜッ!」

疾走。そのまま、真っ直ぐに槍を構えて少女──魔法少女・佐倉杏子が駆けていく。
目標はただひとり、東條のみであった。──厳密には、東條のカードデッキだ。
先ほど、シザースに襲われた杏子は、本質的にあのカードデッキを持つものは仲間同士で、みんなシザースと同じような怪物使いだと認識している。
まあ、あの怪物さえ使わなければただの人間同然だった。
だから、早々にカードデッキを叩き潰させてもらう──それが今、杏子の思ったことである。シザースのデッキも非常に脆かったのだ。大した仕事じゃない。

まあ、あんな特殊能力者にこんなに早く、また会えるとは思っていなかったし、好都合だ。
殺し合いには乗らずとも、不穏分子は消させてもらおう。ライダーには、戦いが癖になるようなきちがいじみた発想の人間という負のイメージもある。
ライダーにそんなイメージを持つ杏子の槍に、躊躇などなかった。

「危ないっ!」

東條の目の前に、始の姿が重なる。
デッキを突こうとした槍が始の胸に突き刺さった。始は、杏子の槍が東條の体を突こうとしていると勘違いしたのだ。
始の体に突き刺さる槍を、杏子自身も不気味がる。何せ、これが人に刺さったという感覚がないのだ。

なぜなら、杏子の見た眼前の男は、既に始ではなかったからだ。
その姿に杏子は驚愕し、声も出なかった。
先ほどまで人間だったはずの男が、死神を彷彿とさせる悪鬼に変わっている。

──ジョーカー
咄嗟の出来事に、カリスではなくこちらの姿を使ったのだ。
俊敏に変身できるので、こちらの姿のほうが都合が良い。
まあ、結果としてカリス以上に人の恐れと軽蔑を買う姿なのは確かだが。
心臓のある場所から、緑の血がだらだらと流れていた。両手は槍先を握っているが、その動作が遅かったのは確かだ。

「テメェも人間じゃなかったのか!?」

「────俺は、怪物だ」

強い力で槍を突き放すと、逆方向から来た力の波に圧されて、杏子が後方にバランスを崩す。
だが、足に力を込めたので体勢が大きく崩れることはない。ただ、相手を睨んだ顔は大きく歪んでいる。
巨大な槍を前に、ジョーカーは言う。

「……人間の姿をした者は殺したくない。すぐに失せろ」

「なんでこんなヤツばっかりいるんだよ……。まるでバケモンのバーゲンセールじゃねえか」

ジョーカーの言葉をものともせずに杏子は再びその長槍を振り回す。
だが、その一撃一撃を、身体を柔軟に動かして避け、ジョーカーには掠りもしない。そのたびに緑の血が飛び散っていき、自らが人間でないことを証明する事象が見えるのが不愉快だった。
相手のことでわかったのは、説得が通用する相手ではないということだ。
どちらにせよ、殺したくはないのでうまく撤退するしかない。

「……梨花ちゃん、東條! 今は逃げろ!」

ジョーカーは叫ぶ。
梨花の方を見ても、梨花は呆然と目を大きくして緑の血渋きを顔に浴びるのみだ。
こちらも説得でどうにかなりそうな相手ではない。
まあ、こういう反応をする人間も多いというのは事実。栗原晋も逃げ切れなかったのだったな。

──そういえば、東條は?

ジョーカーは気づく。
東條がそこにいないのだ。あるのは、照らされる水たまり。
東條の立っていた場所から数歩の距離に、小さな水たまりができていた。
東條はもう逃げてしまったのだろうか。

──STRIKE VENT──

そんな疑問を掻き消す電子音が響く。
それはあの水たまりを作り、東條が変身した仮面ライダータイガの武器・デストバイザーから発されたものだった。
巨大な爪を両手に、タイガは戦いの準備を終えていた。まるで虎のごとく、獲物を見つめる目も、確かに戦闘の準備が終わっていることを感じさせる。
ただ、その爪を構えるべき相手も、目を向ける相手も間違っていた。
真っ直ぐ、ピンと伸びた腕に力が篭もる。
そう、彼は人の姿をした杏子よりも先に、怪物ことジョーカーを狙ったのだ。
英雄とはどういうものか────まずはモンスターを殺さないと。

「怪物を見たら気をつけて、って───────こういうことだよね?」

ジョーカーの喉元に突き刺さる銀色の爪。そこから滴る緑色の血液は、デストクローを伝って腕に流れ落ちてきた。
そうか、迂闊だったな……とジョーカーは思った。
そういえば、彼は仮面ライダーなんだっけか。
アンデッドを封印するのが職務なのだから、ジョーカーである自分を封印しようというのは当然だった。
ジョーカーが口から吐き出した血が、タイガの顔にかかる。

「……………ァ………」

突き刺された場所のせいで、声さえ出ずにもがく。たぶん、最後のアの音は、ある少女の名前を呟こうとしたのだろう。それだけ人間の心が始に移っているという証だ。
逆に、ジョーカーが見つめるタイガのマスクからは一切の表情が感じられなかった。
せめて、この状況になっても梨花には逃げてほしかったが、それも叶いそうにない。
仮面ライダーに殺され、封印されるのは人間とした生きたジョーカーにとっても本望だったのか──すぐにジョーカーは抵抗をやめた。

──いや、抵抗などできなかったのか。
既にジョーカーに、息などなかった。湧き出てくる血だけが動いて、まるで彼も生きているかのように錯覚させた。

「な……なんだよお前っ!! な、仲間を躊躇いなく殺しやがった!!」

「仲間? 英雄に仲間なんていらないよ。ただ、ビッグバンを倒すには必要かもね」

「だ……だいたいその子はどうするんだよ!? 今のヤツの連れじゃないのか!?」

「違うよ。僕は怪物からこの子を守って、この子の英雄になったんだ」

梨花の方を見る二人だが、その光景はあまりに悲惨だった。
怪物の死体を見る少女──まあ、彼女は死体くらい見慣れていたのだが、怪物の死体というのは初めてだろう。
だから、驚き震えていた。

「そうだ、君はビッグバンについて何か知ってるかな?」

不意に投げかけられた質問に、杏子は驚く。
ここで何を訊くというのだろうか。タイガは杏子を襲う気もないし、何ともいえぬ満足感に満たされていた。
ビッグバンを倒すには遠いが、怪物を一人殺したのだ。何も、人間で、尚且つ殺してもメリットのない杏子を殺す気にはならなかった。
またすぐに槍を向けて襲ってくるなら、排除もやむなしといえるが、杏子は戦意を喪失しているようにも見える。
仲間さえ容赦なく手にかけた目の前のライダーがおそろしいのだ。

「……知らねえよ、あんなヤツ」

「そう……じゃあいいや」

ペットボトルが既に一本空になった自分のデイパックではなく、始が先ほどまで持っていたデイパックを拾い上げると、カードケースをバックルから外して、東條の姿に戻る。
杏子が何故このベルトを持つ者を襲ったのか──彼女の口ぶりからだと、強欲な仮面ライダーに襲われたからだろう。勝手に仲間だと思い込まれていただけ。別に気にすることじゃない。
杏子も、梨花も、ジョーカーの死体も置き去りにして、東條は歩いていく。ただ、当て所なく……。

「……おい、お前」

残された杏子は、もう一人の少女の方に声をかけた。
かつて────幼い妹がいた杏子には、その少女が気にかかって仕方がなかったのだ。
ビクビクと震える梨花を、構わずにはいられない。こんなところに置いていってしまうのも考え物だ。
ジャングルで小鹿が一人震えているようなもの。すぐに食われてしまう。

「大丈夫か? 怪我、なかったか?」

「……」

梨花は一切答えない。
いや、唇が震えて答えられないのだ。
それに、先ほどまでとまるで違う杏子の態度も気になった。
急に態度を変えて、優しくなったようにも見える。──その優しさの裏にある、過去の悲しみなど知る由もない。

「チッ。まあ無理もないか。……仕方ねえ。街まで連れて行ってやる」

強引に手を引いて、杏子は梨花を引きずるように歩き出した。
何としてでもこの子を連れて行く──その行動は、粗暴に見えて彼女なりの優しさと気遣い、そしてこんな死体を見せてしまったことへの償いなのだった。
一緒にいてくれた人の死体を見たときのショックなら、杏子だってよく知っている。

【1日目 黎明/D-7 街付近】
※東條のデイパックは放置されています。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】ダメージ少々、魔法少女姿に2時間変身不可
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×2、ランダム支給品0~2、須藤のランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本行動方針:普段通りやりたいようにやる。
1:殺し合いには乗らない。
2:町に出て食料を調達したい。
3:梨花を街まで連れて行く。
4:カードデッキを見つけたら破壊する。
※参戦時期はさやかと出会う前です。詳しくはお任せします。 
※梨花を自らの妹と重ねています。
※カードデッキを持つ者は危険人物が多いと認識しています。

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
【状態】健康、異形の怪物たちへの恐怖
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らず、仲間を集めて生き残る。
0:杏子に手を引かれるがままに行動。
1:異形の怪物たちへの恐怖で呆然。少ししたら正気に戻ると思われます。
2:部活の仲間を捜すか、始の言う「信用できるヤツ」に会う。
3:何故、杏子の態度が変わった……?

【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【状態】健康、満足感、タイガに二時間変身不可
【装備】タイガのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】始の基本支給品一式、始のランダム支給品0~2
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いを止めて英雄になる。
1:まずはビッグバンに関する情報を集める。
2:ビッグバンについて知る人がいなかったときは、行動未定。
3:もしユリカと再び遭遇したら始末する予定。
4:怪物・異形・非人間の類は基本的に迷わず殺害。ライダーについては不明。
※本編初登場あたりからの参戦です。

★ ★ ★ ★ ★

ただ、限りなく白が続く。
不死である彼は決して立ち入ることを許されない空間だ。
その白は優しく包み込むような感覚を始に与えたが、やがて不安感が始に降りかかった。
自分は、天音の成長を見届けることができなかった。
彼女たちの成長を、あの人の代わりに見届けることこそが始の人間としての生きがいで、約束だったというのに……。
まだ、始はその成長の欠片さえ見てはいない。
彼女が中学に入り、高校に入り、結婚し──そんな人生を見届けて、彼女が失った笑顔を届けていきたいと始は思っていた。
そんな不安定な気持ちの始に、後ろから声がかかる。

「思ったより早かったじゃないか」

振り向けば、始にその約束を頼んだ男が、こちらにシャッターを向けている。
呆然とした始の表情を、男は撮影して笑った。
まるで親しい友人にでも──いや、もっと親密な家族にでも送ったような笑みである。

「君の表情は、人間の顔そのものだよ」

現像された自分の呆然とした顔を手渡されて、始は思わず笑った。
何というマヌケ面だろう! これじゃあこの男が笑うのも無理はない。
そんな始の笑顔に、男も笑う。

「ここで待っていよう……いつか四人で一緒に写真が撮れる日をゆっくりとね。それから……天音を、遥をありがとう……天音がいい子に育ってくれたのも、全て君のおかげだ」

その言葉に頷き、二人はやがて談笑を始めた。
彼らが口にする話題はもちろん、仮面ライダーのことやアンデッドのことじゃない。
それぞれの死因であり、人生でもあった汚い戦いの話など、この場には不適切。
そんな彼らの心がそのまま写し出されたように、真っ白だった空間はやがて、ある喫茶店の姿に変わっていった。
そう、ここで彼らが口にしていい話は

────愛する家族の話であった。

【相川始@仮面ライダー剣 死亡】
残り88人

071:狙われたビーファイター!? 投下順 073:優しき戦士と誇りの戦士
071:狙われたビーファイター!? 時系列順 073:優しき戦士と誇りの戦士
054:なぜだ?!スーパーファイナルギガロ 相川始 死亡
054:なぜだ?!スーパーファイナルギガロ 古手梨花
042:シザースが残したもの 佐倉杏子
059:崩落 の ステージ 東條悟
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