月明かり




(俺には、戦いしかないんだ……)


 スバル・リョーコの支給品は「仮面ライダー」に変身する道具であった。
 カードデッキ。犀の戦士・仮面ライダーガイのものである。
 彼女の世界では仮面ライダーというもの自体、聞いた事のない名称である。説明書を読む限りでは、常識外にある存在だ。
 だが、曲解すれば小型化・鎧化したエステバリスである。戦い方も説明書には書いてあったので、すぐに理解することができた。


(……アキト、俺にはこんな方法でしかおめえたちを守れねえよ。俺は軍人だもんな)


 テンカワ・アキト。ミスマル・ユリカ。ホシノ・ルリ。ウリバタケ・セイヤ。アカツキ・ナガレ。
 ナデシコクルーの仲間を守るには、敵の戦闘機を落としていくしかない。そんな不器用な生き方しかできないのが、リョーコという女性だった。
 それは殺し合いという状況においても同じことだ。死にたくはないし、仲間に死んでほしくもない。
 敵が人間の姿をしているなら躊躇もしただろう。いくら軍に身を置いているとはいえ、リョーコも一人の人間だ。
 ……だが、敵があのような姿だったら?

 闇色で、異形で、邪悪のオーラを持つ魔物──リョーコの目の前にはそんな『魔物』がいた。杖を構え、その顔は表情というものがない。
 あれが『仮面ライダー』なのだろうか?
 わからない。
 とにかく、人とは全くもって違う化け物であるというのは、その様子を見てよくわかる。
 ライダーだったなら、元は人間。……そもそも、元からあんな姿ということはあるのだろうか?
 どちらにせよ、人間の姿をしていなければ、相手が人間でないと思い込むことが出来る。相手が人間でなければ、殺すことに躊躇はいらない。木星トカゲの時と同じだ。
 相手が人間でない……木星トカゲという謎の脅威だと思っていたから、容赦なく撃墜してきた。


「変身!」


 同じこと。このゲームも、それと同じことだ。
 まずは、目の前の敵を……落とす!



★ ★ ★ ★ ★



「小蝿が飛んでいるようだな……」


 ジャークムーンは、背後から襲ってくる犀の戦士のほうへ向きなおした。
 一瞬、奇襲に失敗した犀の戦士が躊躇もした。おそらく、奇襲のみを考えていたと見える。だが、後には引けるはずも無く、その躊躇を無かったことにしてジャークムーンに向かっていく。
 剣士・ジャークムーンは敵の突進を剣で跳ね返した。犀の突進する力はすさまじいものだが、ジャークムーンは、その威力を跳ね返すのに必要な力や剣を入れる角度を直感的に理解していた。
 だから、犀の戦士は後方に吹き飛んでしまう。突進がすさまじかっただけに、それが逆方向に働いたのは痛かったのだろう。すぐに地面に転がった。


「クソッ!」

「その程度か、女……」

「チッ。女だってバレてやがったのか」

「走り方に女が出ている。尚更突進の体勢を崩しやすい」


 相手は生身での戦いのプロである。
 犀の戦士の中身──リョーコはあくまで、エステバリスを用いた戦闘で秀でるのみ。この戦いでは、差は歴然であった。
 むろん、こんなところで引き下がるつもりもない。ランダムに弾いたカードを、バイザーに差し込む。


 ──ADVENT──


 後方のブティックの窓ガラスから、犀の怪物──メタルゲラスが現われる。
 これにはジャークムーンも驚いたが、二対一程度なら、まだ何とかなるだろう。
 おそらくは、女の方を崩せばもう片方も崩れるとすぐに読んだ。召喚した側を崩せば、もう片方も崩れるだろう。


 ジャークムーンはメタルゲラスの攻撃を無視するようにかわしながら、本命であるガイに集中的に攻撃を始めた。
 プロの剣技だ。むろん、リョーコはその攻撃に対抗できるはずもない。メタルゲラスは必死に、ジャークムーンからガイを引き剥がそうとするが、それもまたかわされる。
 そこには次のカードを投入する暇もない。


「貴様などに構っている暇はないのだ……」


 ジャークムーンの目的は他にある。
 たとえば、リュウケンドーの撃退だ。この時点で、ジャークムーンはリュウケンドーの正体を知らない。
 できるなら、この殺し合いを好きな形で切り上げて、元の世界に戻りたかった。
 ここでこの娘一人の死をきっかけに、殺し合いに乗るというのもまた一向。
 まあ、こいつが襲ってきさえしなければ、危害を加えるつもりはなかったが。


「おいおいおい……女に集中攻撃なんて、関心しないな……」


 声が聞こえ、ジャークムーンは一度ガイへの攻撃を中断した。
 隙を見て、メタルゲラスが襲ってきそうになったが、裏拳を使ってそれを防御した。
 ジャークムーンの視界に入ったのは、白いスーツの男であった。キザを絵に描いたような男で、茶髪を男とっしては長く伸ばしていた。
 何故こんなところでジャークムーンたちの戦いに割ってはいるかもわからないような、ただの人間である。


「誰だ、貴様は……」

「俺は一文字隼人。今は、自由気ままな『女性の味方』っていうところだな」

「フンッ。たかが人間に何ができる」

「人間じゃないとしたら……?」


 一文字の腰にベルトが光る。 
 「変身」と呟くと、彼の肉体は別のものに変わった。汚い緑色の身体──人工筋肉が、いくつにも割れた腹筋と胸筋を作っている。
 それは人間の生身の身体とは到底思えなかった。
 リュウケンドーとも違う。身体を直接、別のものに変身させたかのような光景であった。
 傍らのヘルメットを頭に被り、クラッシャーを装着し、仮面の戦士が完成した。


「何者だ?」

「言ったろ、一文字隼人だ。こいつの相手は俺がする。あんたは今のうちに逃げな」

「……すまねえ!」


 リョーコは一応、礼だけ言ってその場を立ち去っていく。
 元々、メタルゲラスの召喚時間は一分だ。長期の戦いをすれば、敗北し、死んでいた可能性が高い。
 ともかく、助けたこなければ自分が死んでいたというのなら、リョーコは一度頭を冷やす必要があるらしい。
 ここには長くはいられまい。もしこの男が負ければ、次はリョーコだ。


「さて、一対一だ。あんたはこっちの方が好きだろ?」


 一文字隼人──ホッパーボーグ2号。
 月蝕仮面ジャークムーン。二つの異形が対峙し、また次の戦いが始まる。


★ ★ ★ ★ ★


(勝てるわけねえ……勝てるわけねえよっ! なんだよアレ、完全にバケモンじゃねえかっ!)


 この殺し合いにおいて、リョーコの常識は通用しそうにない。仮にゲームに乗ったとして、あんな化け物に勝てるかどうか。
 まずは、ああいう相手を倒すためにも仲間を集める必要がある。できるなら、そう──ジャークムーンや仮面ライダーのような人間が望ましい。
 とにかく一度、マーダーというスタンスを崩す必要はありそうだ。


(アキトたちよりもそういうヤツとの合流が先だな……)



【1日目 深夜/G-7 街】

【スバル・リョーコ@機動戦艦ナデシコ】
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(小)、ガイに二時間変身不可
【装備】ガイのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
基本行動方針:とりあえず殺し合いには乗らない。
1:ナデシコクルーを守る(特にアキト)。
2:強者を倒すための仲間を集める。
3:状況によっては殺し合いに乗る。
※テレビ版終盤からの参戦です。

【一文字隼人@仮面ライダーTHE FIRST】
【状態】健康、ホッパー2号に変身中
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:リョーコに代わり、この場を引き受ける。
※「THE NEXT」の開始直後あたりの参戦です。

【ジャークムーン@魔弾戦記リュウケンドー】
【状態】健康、能力発動中
【装備】月蝕剣@魔弾戦記リュウケンドー
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
基本行動方針:リュウケンドー以外に興味なし。
1:リュウケンドー以外の者と戦うかは場の判断による。
2:今は「1」の思考に基づき目の前の敵と戦う。
※少なくともリュウケンドーに敗北する以前からの参戦です。
※リュウケンドーの正体を知りません。そのため、この場にリュウケンドーがいることも知りません。


025:口先の魔術師×プロメテの子×危険な仲間 投下順 027:最強であることを証明するために
025:口先の魔術師×プロメテの子×危険な仲間 時系列順 027:最強であることを証明するために
初登場 スバル・リョーコ 082:怪獣使いとウルトラマン
初登場 一文字隼人 083:剣士の片思い
初登場 ジャークムーン 083:剣士の片思い

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最終更新:2011年09月25日 00:13