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三銃使」(2011/08/10 (水) 23:27:27) の最新版変更点

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*三銃使 ---- 橘とシン──二人の前方に見えたのは信じがたい光景であった。 ただの人間……とも思いがたいな──人間と思しき生物が奇声を発しながら壊れたジェットコースターのレールを破壊していく。既に支柱が倒れ、レールが地面に落ちているという状況も信じがたいものだ。これも全て彼がやったと見える。他にここには誰もいないし、実際彼は大破したレールを、更に壊すことができている。おそらくは同じ材質だし、先ほどまでもこれと同じものを壊せたのでは? だいたい、あれが人間であるというのなら、筋肉の比率がおかしい。発達しすぎた筋肉が人の身の丈の倍の大きさを構成している。 どちらにせよ、あれは止めなければならない。 最悪の暴挙だ。誰かが怪我をするかもしれないし、或いは死んでしまうかもしれない。 だが、生身での戦いで勝てるような相手には見えないし、今はハヤブサのシンの前だ。 正体を迂闊に知られるわけにはいかないし、変身はできないか──。 いや、迷うことはない。 あんな行動、黙って見ているわけにはいかない。無論、誰かの前であってもだ。 剣崎なら──あいつなら、迷わずこうするだろうな。などと考えながら。 橘はギャレンバックルを装着する。 「変身!」  ──Turn Up── ★ ★ ★ ★ ★ 北岡の真横に、ジェットコースターのレールが落ちていた。真近くでは、軽い地震と轟音を感じたが、それ以上に自分が生きているという事実に驚いた。 一方、哀の元に駆け寄ったコナンも無事らしい。彼はすぐにレールが地面と当たるところを目測し、避けられる範囲だということを理解したうえで走ったのだろう。いや、彼の年齢を見るとただの偶然か。 ともかく、彼の表情は険しかった。 「灰原……」 灰原哀の死体を探そうにも、コナンと北岡の力をもってジェットコースターのレールを持ち上げるのは不可能だった。遊園地といっても、有名レジャーランドとは程遠い、田舎の遊園地のようなジェットッコースターだ。 しかし、人の頭より数十メートル上のこのレールが落ちてきたら。 当然、それを持ち上げることなんかできない。 「あ~あ~……こりゃひどい……」 北岡もまた、その惨事には目を瞑りたくなった。 どこをどう潰せば、人の身体からこれだけの血液が搾り出されるのだろうか。 赤色。 どこをどう見ても赤色。 刑事事件の資料として、死体の写真は何度か見たことがある。だが、これだけの重量をもつものが落ちてきた圧死というのは北岡でも滅多に見ることがない。 今まで遊園地でこんな事故が起きた話など聞いたことがなかった。 いや、ビッグバンが最初からジェットコースターの骨組みを甘くしていたとか? とも思えない。これではまるで、ビッグバン自体が誰かを狙っているようだ。彼の目的は本当に殺し合いを楽しむことに見える。──神崎士郎のようなカゲがない。 ならば、こんなことができそうなのは……。 (ライダーか、あるいはモンスターか……) 人為的にこんな重量の柱を壊せるもの……。 そんなもの、可能性が幾つも考えられるわけがない。 ゾルダのエンドオブワールドなら軽々とできる。他のライダーのファイナルベントを使っても同様だ。 つまりは、こんなところでライダーバトルをしたバカがいるということだ。おそらく浅倉くらいだろう。 (浅倉だったら参るな……) 浅倉は北岡を付けねらう正真正銘の北岡の敵だ。何があろうと遭遇したくないし、できれば彼には勝手に死んでいて欲しい。 ……いや、あんな怪物を生み出したのは北岡自身か。さっさと死刑にしてやれば良かったものを、北岡が少しでも刑を軽くしてしまった。 悪徳弁護士の異名をもつ彼も、この判決だけはミスだったとしか言いようが無い。 ともかく、これ以上の判断ミスは許されない。まだ地面に落ちてはいず、傾いて倒れそうなだけのレールもあるのだ。いつそれらが落ちて彼らの身を壊すかはわからない。 「コナン君、ここにいたら二次被害が心配だ。俺たちもさっきは危なかったんだしね」 「……ああ。ここは離れて、広いところに向かったほうがいい」 (雰囲気が変わったな) さすがに友達を失って、参っているのだろう。 このトシにして、泣きもしないのは我慢強い。いや、このトシだからか? 死を認識していないというか、深く考えてないというか……。 まあ、詳しいことなど北岡には知る由もない。 彼らのいう、「広いところ」とは先ほど二人が出会ったゴミ箱のある場所だ。あそこは休憩所やトイレが近く、ジェットコースターのレールは周囲にない。さすがに、近くであんなものが走っていたら休憩もし難いからだ。 そのため、その近辺は比較的安全といえる。迂闊に遊園地から出ようとするほうが余程危険だ。 (灰原……すまない。俺はお前を元の身体に戻す事も、お前を助けることもできなかった……。だが、お前をあんな風にした犯人だけは、絶対に探し出してみせる!) コナンは又、密かに闘志を燃やす。 ジェットコースターのレールが、あんな風に自然に倒れるわけがない。 地面を抉るようにしてレールが倒れたことを考えると、もっと別の部分がバランスを崩して倒れ、それに巻き込まれる形で次々とレールが同じ方向に倒れていった可能性がある。 ならば、レールが壊された方向はだいたい検討がつく。哀がいた面……走っているジェットコースターから見て右側の部分だ。 位置はジェットコースターの走るルート順に壊れていったことを考えると、壊された部分は自然と哀のいた手前ということになる……。 犯人が遠くに行ってないかもしれないのだから── 「ごめん、北岡さん! 先に行ってて!」 コナンは迷わずに振り向き、走り出した。 犯人がそこにいるかもしれない──そんな気持ちから。 そもそも、哀のいるレールより手前側は既に倒れている。ということは、そこにレールが倒れてくる心配はない。 確かに、倒れたレール自体がボロボロと崩れてくる心配もある。だが、そんなことは関係ない。 高校生探偵・工藤新一が目指したものは、己の危険よりも犯人逮捕だ。 「まったく……これだから子供は嫌いだよ」 呟くと、北岡もコナンを追い始める。 はぐれると色々厄介だ。コナンくらいの年頃は、自分からはぐれても保護者のせいにすることもある。 まあともかく、迷子アナウンスで「北岡さん」と鳴ったら恥ずかしい。 今は彼を追うしかない。 たとえ子供だろうが、一応は仲間がいたほうがいいだろう。 ★ ★ ★ ★ ★ 「俺はこっちを捜す。不動はそっちを任せた」 「ああ! またどこかで会おう!」 ところ変わって、不動と手塚である。 二人は今、遊園地に降りかかる運命を救うべく、それぞれ方向を分担して遊園地の入り口に入っていった。 右側と左側……二人は参加者を探すべく、二手に分かれて走り出す。 首輪探知機を持つ不動が彼と別れるのは、躊躇いもなくあっさりとしたものだった。 遊園地に入ってからは、この言葉を交わしたのみですぐにそれぞれを探し始めた。 「……首輪の反応がある? こっちか!」 走る。走る。走る。 不動は二つの反応を見つけて、そちらに向かって走っていった。 二つの反応? これは殺しあう二人なのか? それとも、手塚と不動のように協力関係にあるのか? どちらにせよ、彼はリュウガンオーとして、S.H.O.Tとして、警察として動かないわけにはいかない! 必死で走っていくと、その二つの反応が薄っすらと目に見えてきた。 手を繋ぐ二人の女の子。片方は洋風、片方は和風──そんな印象を持つ顔、服装が見える。 彼女たちが手を繋いでいるのは、すごく仲が良いからだろう。 不動は、それが微笑ましく見えた。 なんだ、仲が良い女の子たちか──。 走り寄っていくのも変だな、ここには他の参加者もいない。彼女たちが襲われることはないだろう。 焦って損した、という気分だ。 不動が少し笑って、走るのをやめ、歩いていこうとしたときだ。 彼が彼女たちを見ていると、彼女たちの姿が少しずつ影に飲まれていくのが何となくわかった。 明るい遊園地では、夜でも少しの影ができるのだ。 一瞬の顔のほころびは、許されざるものだったのかもしれない。 参加者がいなくとも、彼女たちが危険に晒されているのは確かだった。 彼女たちの真上に、ジェットコースターのレールが落ちてこようとしている。 彼は咄嗟にゴウリュウガンを構え、変身のポーズをとる。 これから彼が姿を変えるのは、彼が人を救うときの姿だ。 「ゴウリュウガン!」 「リュウガンキー!」  ──チェンジ・リュウガンオー── 「剛龍変身!」 不動ではなく、リュウガンオーとしての彼が、少女たちの下へと駆けて行く。 彼はリュウガンオー。 ここで命を救わぬ手があるものか。 リュウガンオーの走力をもってすれば、彼がレールの下に立つのは一瞬であった。 死を覚悟していた二人の少女──アイリス、沙都子が驚いて目を見開いていた。 突然現われた謎の人型が、自分たちを庇うようにレールを支えている光景に、彼女たちは驚かずにはいられなかった。 彼が何者なのか。今、助かった現状に安堵するよりも、彼女たちはそれを気にしていた。 「逃げるんだ。すぐに!」 リュウガンオーが、呆然とする二人にそう言った。 彼はヒーロー──人の命を守る正義のヒーロー。 だから、二人の少女を逃がすということは当然の行為である。 両腕が頭の上でレールを支える。案外、リュウガンオーの姿をしても身体は持たないものだ。 これでも身体の力がうまい具合に働かず、ぶるぶると震えている。 ようやく我に返ったアイリスと沙都子がその場から少し離れた。 目測ではレールが上には落ちてこない場所だ。 不動はそれを見て安心する。 彼女たちを逃がすことはできた。とりあえず、一難去ったということだ。 「だ……大丈夫ですの!?」 心配する少女の声が、不動には確かに聞こえた。 彼女が安全地帯にいる事に安堵し、リュウガンオーはそこから抜け出していく。 確かに多少きついが、リュウガンオーはすぐ抜け出すことができた。 ドシン、と地面にレールが落ちる音がなる。 「ふう……なんとか間に合ったな?」 「おじさん誰?」 「こらっ! おじさんって言うな! まったく……。俺は! 魔弾戦士! リュウガンオーだ!」 と、カッコいいポーズをとるが、アイリスと沙都子はじっとそれを見るのみだった。 目は開いていて、まだ驚きがとれないという様子である。……まあ、無理もないかもしれない。 とりあえず、恥ずかしがりながらリュウガンオーはポーズを崩す。 「さて、俺は次の仕事があるんだ! また会おう!」 ヒーローらしく、リュウガンオーはカッコよく走り去っていく。 アイリスと沙都子は未だ呆然としたままだ。あんな人間を見たことはない。 ……いや、テレビの中でならあるかもしれない。とりあえず、二人は礼を言うのを忘れていたことに気付く。 あまりの出来事に全てを忘れていたが、今や正義の戦士は風のなか……。 「おーい!」 と思ったが、代わりにスーツの男がこちらにかけて来た。 なんともタイミングよく、彼女たちから見て「おじさん」「おじさま」な年齢の男── 「いやぁ、さっきは危なかったね、君たち」 「おじさん、さっきの人でしょ? さっきはアイリスたちを助けてくれてありが──」 「いやいやいやいや! あれはお兄さんの友達だよ。まあ、お礼はお兄さんが後から彼に……」 「さっきはありがとうございますわ」 「って聞いてないし!」 不動である。リュウガンオーの正体を知られるわけにはいかない彼は、一度リュウガンオーとして去り、今度は不動銃四郎として彼女たちに会わなければならなかったのだ。 正義のヒーローとして、彼女たちをこんな危険な場所に放っておくわけにはいかない。 ともかく、彼女たちに正体がバレバレであることはスルーし、不動はともかく「ここで誰かが死ぬ」という運命を回避できたことにほっとした。まさか手塚が死ぬと予言したのは、こんな小さな少女だったとは……。 (手塚、俺はお前の占いを変えた──後はお前にこのことを伝えるだけだ) 「とにかく、この遊園地から出よう! ここは危険だ」 「待って、おじさん! まだ哀がいないよ……」 「哀? 誰だいそれは……」 「私たちの最初の同行者ですわ。今ははぐれてしまいましたが……。ここで待ってて、と伝えられてますの」 アイリス、沙都子はここで誰かを待っているらしい。 だが、ここはレールが倒れるほどの危険地帯だ……。 どうするべきか……。 「わかった。俺が君たちと一緒にここで彼女を待つ。何かあったら俺がリュウガンオーで──」 「ありがとうございますわ。リュウガンオーさん」 「だから、俺はリュウガンオーの友達だって言ってるだろ! ……俺の名は不動銃四郎。君たちは?」 「ワタクシは北条沙都子と申しますわ」 「私はアイリス。本当はイリス・シャトーブリアンっていうんだけど、アイリスでいいよ! よろしくね、不動のおじちゃん!」 「おじちゃんじゃない!」 「じゃあリュウガンオーのおじちゃん?」 「そこじゃないっ!」 ★ ★ ★ ★ ★ 眼前で変身した橘朔也の姿に、シンは一度見惚れた。 仮面ライダーギャレン。それはBOARDが生み出した正義の銃戦士。 彼らの世界に存在する都市伝説・仮面ライダーその人である。 「……うぉぉぉぉぉっ!!」 ギャレンが一度接近し、眼前の怪物を殴る。 まずは銃やラウズカードよりも、ここは直接殴って教えてやりたかった。 それを破壊するな。みんなを危険に巻き込むな。──そんな怒りの込められた攻撃。 「ウガゲェェェァァァァッゴペェェェェァァァィィィゥゥゥゥェェェェェェェェォッ!!」 聞こえたのは声ではない……。音とも言うべき不気味なもの。 声帯自体が壊れ果てたのかもしれない。少なくとも、必死であげようとした咆哮がそれだった。 「……しかし、手ごたえのないヤツだな」 ギャレンの攻撃は一方的で、そのうえに相手の攻撃が止まっていた。 どういうわけか、相手には全く反撃する様子がないのだ。それに、筋肉の割りには弱弱しい。 「ウゴリャァァェッェォッッッ!!!!ゲペゲペァオアォアァオッッェェヶヶァッアッッ!!!」 咆哮は、まるで嘆き声にも聞こえた。 そのうえに、ギャレンがもう一度飛び上がり、その腹を叩くと── 「ウガァルルニャリュォォォォゥゥェェェャヶッゥ!! ゴロニャァァァァァァァァァァゥッ!!」 そんな咆哮とともに、彼は地面に沈んでしまった。 一体、このジェットコースターを壊しただけの力は何だったのか……。 ともかく、ギャレンは拳だけでこの男を倒してしまったらしい。 「倒したんですか?」 「ああ……そうらしい」 「殺してはいませんよね?」 「ああ。殺しはしない」 「良かった……」 シンには、一応不殺という主義がある。なので、目の前で人が死んだり殺されたりすれば、発狂したように嘆き悲しむだろう。ましてや、それが同行者なら。 真っ先にそんな心配をしたシンを、橘は少し訝しげに思った。 何故なら、今彼はギャレンの姿をしているままだからだ。 「驚かないのか?」 「え……?」 「俺の姿についてだ……」 シンは、自らもアークエターナルを使ってオメガフリーダムに変身できることを教えようと思ったが──やめた。 これはある意味、切札だ。ビッグバンを倒すための切札──。 「僕みたいな人も、いるんですよ」 とりあえず、そう答えるしかなかった。
*三銃使 ---- 橘とシン──二人の前方に見えたのは信じがたい光景であった。 ただの人間……とも思いがたいな──人間と思しき生物が奇声を発しながら壊れたジェットコースターのレールを破壊していく。既に支柱が倒れ、レールが地面に落ちているという状況も信じがたいものだ。これも全て彼がやったと見える。他にここには誰もいないし、実際彼は大破したレールを、更に壊すことができている。おそらくは同じ材質だし、先ほどまでもこれと同じものを壊せたのでは? だいたい、あれが人間であるというのなら、筋肉の比率がおかしい。発達しすぎた筋肉が人の身の丈の倍の大きさを構成している。 どちらにせよ、あれは止めなければならない。 最悪の暴挙だ。誰かが怪我をするかもしれないし、或いは死んでしまうかもしれない。 だが、生身での戦いで勝てるような相手には見えないし、今はハヤブサのシンの前だ。 正体を迂闊に知られるわけにはいかないし、変身はできないか──。 いや、迷うことはない。 あんな行動、黙って見ているわけにはいかない。無論、誰かの前であってもだ。 剣崎なら──あいつなら、迷わずこうするだろうな。などと考えながら。 橘はギャレンバックルを装着する。 「変身!」  ──Turn Up── ★ ★ ★ ★ ★ 北岡の真横に、ジェットコースターのレールが落ちていた。真近くでは、軽い地震と轟音を感じたが、それ以上に自分が生きているという事実に驚いた。 一方、哀の元に駆け寄ったコナンも無事らしい。彼はすぐにレールが地面と当たるところを目測し、避けられる範囲だということを理解したうえで走ったのだろう。いや、彼の年齢を見るとただの偶然か。 ともかく、彼の表情は険しかった。 「灰原……」 灰原哀の死体を探そうにも、コナンと北岡の力をもってジェットコースターのレールを持ち上げるのは不可能だった。遊園地といっても、有名レジャーランドとは程遠い、田舎の遊園地のようなジェットッコースターだ。 しかし、人の頭より数十メートル上のこのレールが落ちてきたら。 当然、それを持ち上げることなんかできない。 「あ~あ~……こりゃひどい……」 北岡もまた、その惨事には目を瞑りたくなった。 どこをどう潰せば、人の身体からこれだけの血液が搾り出されるのだろうか。 赤色。 どこをどう見ても赤色。 刑事事件の資料として、死体の写真は何度か見たことがある。だが、これだけの重量をもつものが落ちてきた圧死というのは北岡でも滅多に見ることがない。 今まで遊園地でこんな事故が起きた話など聞いたことがなかった。 いや、ビッグバンが最初からジェットコースターの骨組みを甘くしていたとか? とも思えない。これではまるで、ビッグバン自体が誰かを狙っているようだ。彼の目的は本当に殺し合いを楽しむことに見える。──神崎士郎のようなカゲがない。 ならば、こんなことができそうなのは……。 (ライダーか、あるいはモンスターか……) 人為的にこんな重量の柱を壊せるもの……。 そんなもの、可能性が幾つも考えられるわけがない。 ゾルダのエンドオブワールドなら軽々とできる。他のライダーのファイナルベントを使っても同様だ。 つまりは、こんなところでライダーバトルをしたバカがいるということだ。おそらく浅倉くらいだろう。 (浅倉だったら参るな……) 浅倉は北岡を付けねらう正真正銘の北岡の敵だ。何があろうと遭遇したくないし、できれば彼には勝手に死んでいて欲しい。 ……いや、あんな怪物を生み出したのは北岡自身か。さっさと死刑にしてやれば良かったものを、北岡が少しでも刑を軽くしてしまった。 悪徳弁護士の異名をもつ彼も、この判決だけはミスだったとしか言いようが無い。 ともかく、これ以上の判断ミスは許されない。まだ地面に落ちてはいず、傾いて倒れそうなだけのレールもあるのだ。いつそれらが落ちて彼らの身を壊すかはわからない。 「コナン君、ここにいたら二次被害が心配だ。俺たちもさっきは危なかったんだしね」 「……ああ。ここは離れて、広いところに向かったほうがいい」 (雰囲気が変わったな) さすがに友達を失って、参っているのだろう。 このトシにして、泣きもしないのは我慢強い。いや、このトシだからか? 死を認識していないというか、深く考えてないというか……。 まあ、詳しいことなど北岡には知る由もない。 彼らのいう、「広いところ」とは先ほど二人が出会ったゴミ箱のある場所だ。あそこは休憩所やトイレが近く、ジェットコースターのレールは周囲にない。さすがに、近くであんなものが走っていたら休憩もし難いからだ。 そのため、その近辺は比較的安全といえる。迂闊に遊園地から出ようとするほうが余程危険だ。 (灰原……すまない。俺はお前を元の身体に戻す事も、お前を助けることもできなかった……。だが、お前をあんな風にした犯人だけは、絶対に探し出してみせる!) コナンは又、密かに闘志を燃やす。 ジェットコースターのレールが、あんな風に自然に倒れるわけがない。 地面を抉るようにしてレールが倒れたことを考えると、もっと別の部分がバランスを崩して倒れ、それに巻き込まれる形で次々とレールが同じ方向に倒れていった可能性がある。 ならば、レールが壊された方向はだいたい検討がつく。哀がいた面……走っているジェットコースターから見て右側の部分だ。 位置はジェットコースターの走るルート順に壊れていったことを考えると、壊された部分は自然と哀のいた手前ということになる……。 犯人が遠くに行ってないかもしれないのだから── 「ごめん、北岡さん! 先に行ってて!」 コナンは迷わずに振り向き、走り出した。 犯人がそこにいるかもしれない──そんな気持ちから。 そもそも、哀のいるレールより手前側は既に倒れている。ということは、そこにレールが倒れてくる心配はない。 確かに、倒れたレール自体がボロボロと崩れてくる心配もある。だが、そんなことは関係ない。 高校生探偵・工藤新一が目指したものは、己の危険よりも犯人逮捕だ。 「まったく……これだから子供は嫌いだよ」 呟くと、北岡もコナンを追い始める。 はぐれると色々厄介だ。コナンくらいの年頃は、自分からはぐれても保護者のせいにすることもある。 まあともかく、迷子アナウンスで「北岡さん」と鳴ったら恥ずかしい。 今は彼を追うしかない。 たとえ子供だろうが、一応は仲間がいたほうがいいだろう。 ★ ★ ★ ★ ★ 「俺はこっちを捜す。不動はそっちを任せた」 「ああ! またどこかで会おう!」 ところ変わって、不動と手塚である。 二人は今、遊園地に降りかかる運命を救うべく、それぞれ方向を分担して遊園地の入り口に入っていった。 右側と左側……二人は参加者を探すべく、二手に分かれて走り出す。 首輪探知機を持つ不動が彼と別れるのは、躊躇いもなくあっさりとしたものだった。 遊園地に入ってからは、この言葉を交わしたのみですぐにそれぞれを探し始めた。 「……首輪の反応がある? こっちか!」 走る。走る。走る。 不動は二つの反応を見つけて、そちらに向かって走っていった。 二つの反応? これは殺しあう二人なのか? それとも、手塚と不動のように協力関係にあるのか? どちらにせよ、彼はリュウガンオーとして、S.H.O.Tとして、警察として動かないわけにはいかない! 必死で走っていくと、その二つの反応が薄っすらと目に見えてきた。 手を繋ぐ二人の女の子。片方は洋風、片方は和風──そんな印象を持つ顔、服装が見える。 彼女たちが手を繋いでいるのは、すごく仲が良いからだろう。 不動は、それが微笑ましく見えた。 なんだ、仲が良い女の子たちか──。 走り寄っていくのも変だな、ここには他の参加者もいない。彼女たちが襲われることはないだろう。 焦って損した、という気分だ。 不動が少し笑って、走るのをやめ、歩いていこうとしたときだ。 彼が彼女たちを見ていると、彼女たちの姿が少しずつ影に飲まれていくのが何となくわかった。 明るい遊園地では、夜でも少しの影ができるのだ。 一瞬の顔のほころびは、許されざるものだったのかもしれない。 参加者がいなくとも、彼女たちが危険に晒されているのは確かだった。 彼女たちの真上に、ジェットコースターのレールが落ちてこようとしている。 彼は咄嗟にゴウリュウガンを構え、変身のポーズをとる。 これから彼が姿を変えるのは、彼が人を救うときの姿だ。 「ゴウリュウガン!」 「リュウガンキー!」  ──チェンジ・リュウガンオー── 「剛龍変身!」 不動ではなく、リュウガンオーとしての彼が、少女たちの下へと駆けて行く。 彼はリュウガンオー。 ここで命を救わぬ手があるものか。 リュウガンオーの走力をもってすれば、彼がレールの下に立つのは一瞬であった。 死を覚悟していた二人の少女──アイリス、沙都子が驚いて目を見開いていた。 突然現われた謎の人型が、自分たちを庇うようにレールを支えている光景に、彼女たちは驚かずにはいられなかった。 彼が何者なのか。今、助かった現状に安堵するよりも、彼女たちはそれを気にしていた。 「逃げるんだ。すぐに!」 リュウガンオーが、呆然とする二人にそう言った。 彼はヒーロー──人の命を守る正義のヒーロー。 だから、二人の少女を逃がすということは当然の行為である。 両腕が頭の上でレールを支える。案外、リュウガンオーの姿をしても身体は持たないものだ。 これでも身体の力がうまい具合に働かず、ぶるぶると震えている。 ようやく我に返ったアイリスと沙都子がその場から少し離れた。 目測ではレールが上には落ちてこない場所だ。 不動はそれを見て安心する。 彼女たちを逃がすことはできた。とりあえず、一難去ったということだ。 「だ……大丈夫ですの!?」 心配する少女の声が、不動には確かに聞こえた。 彼女が安全地帯にいる事に安堵し、リュウガンオーはそこから抜け出していく。 確かに多少きついが、リュウガンオーはすぐ抜け出すことができた。 ドシン、と地面にレールが落ちる音がなる。 「ふう……なんとか間に合ったな?」 「おじさん誰?」 「こらっ! おじさんって言うな! まったく……。俺は! 魔弾戦士! リュウガンオーだ!」 と、カッコいいポーズをとるが、アイリスと沙都子はじっとそれを見るのみだった。 目は開いていて、まだ驚きがとれないという様子である。……まあ、無理もないかもしれない。 とりあえず、恥ずかしがりながらリュウガンオーはポーズを崩す。 「さて、俺は次の仕事があるんだ! また会おう!」 ヒーローらしく、リュウガンオーはカッコよく走り去っていく。 アイリスと沙都子は未だ呆然としたままだ。あんな人間を見たことはない。 ……いや、テレビの中でならあるかもしれない。とりあえず、二人は礼を言うのを忘れていたことに気付く。 あまりの出来事に全てを忘れていたが、今や正義の戦士は風のなか……。 「おーい!」 と思ったが、代わりにスーツの男がこちらにかけて来た。 なんともタイミングよく、彼女たちから見て「おじさん」「おじさま」な年齢の男── 「いやぁ、さっきは危なかったね、君たち」 「おじさん、さっきの人でしょ? さっきはアイリスたちを助けてくれてありが──」 「いやいやいやいや! あれはお兄さんの友達だよ。まあ、お礼はお兄さんが後から彼に……」 「さっきはありがとうございますわ」 「って聞いてないし!」 不動である。リュウガンオーの正体を知られるわけにはいかない彼は、一度リュウガンオーとして去り、今度は不動銃四郎として彼女たちに会わなければならなかったのだ。 正義のヒーローとして、彼女たちをこんな危険な場所に放っておくわけにはいかない。 ともかく、彼女たちに正体がバレバレであることはスルーし、不動はともかく「ここで誰かが死ぬ」という運命を回避できたことにほっとした。まさか手塚が死ぬと予言したのは、こんな小さな少女だったとは……。 (手塚、俺はお前の占いを変えた──後はお前にこのことを伝えるだけだ) 「とにかく、この遊園地から出よう! ここは危険だ」 「待って、おじさん! まだ哀がいないよ……」 「哀? 誰だいそれは……」 「私たちの最初の同行者ですわ。今ははぐれてしまいましたが……。ここで待ってて、と伝えられてますの」 アイリス、沙都子はここで誰かを待っているらしい。 だが、ここはレールが倒れるほどの危険地帯だ……。 どうするべきか……。 「わかった。俺が君たちと一緒にここで彼女を待つ。何かあったら俺がリュウガンオーで──」 「ありがとうございますわ。リュウガンオーさん」 「だから、俺はリュウガンオーの友達だって言ってるだろ! ……俺の名は不動銃四郎。君たちは?」 「ワタクシは北条沙都子と申しますわ」 「私はアイリス。本当はイリス・シャトーブリアンっていうんだけど、アイリスでいいよ! よろしくね、不動のおじちゃん!」 「おじちゃんじゃない!」 「じゃあリュウガンオーのおじちゃん?」 「そこじゃないっ!」 ★ ★ ★ ★ ★ 眼前で変身した橘朔也の姿に、シンは一度見惚れた。 仮面ライダーギャレン。それはBOARDが生み出した正義の銃戦士。 彼らの世界に存在する都市伝説・仮面ライダーその人である。 「……うぉぉぉぉぉっ!!」 ギャレンが一度接近し、眼前の怪物を殴る。 まずは銃やラウズカードよりも、ここは直接殴って教えてやりたかった。 それを破壊するな。みんなを危険に巻き込むな。──そんな怒りの込められた攻撃。 「ウガゲェェェァァァァッゴペェェェェァァァィィィゥゥゥゥェェェェェェェェォッ!!」 聞こえたのは声ではない……。音とも言うべき不気味なもの。 声帯自体が壊れ果てたのかもしれない。少なくとも、必死であげようとした咆哮がそれだった。 「……しかし、手ごたえのないヤツだな」 ギャレンの攻撃は一方的で、そのうえに相手の攻撃が止まっていた。 どういうわけか、相手には全く反撃する様子がないのだ。それに、筋肉の割りには弱弱しい。 「ウゴリャァァェッェォッッッ!!!!ゲペゲペァオアォアァオッッェェヶヶァッアッッ!!!」 咆哮は、まるで嘆き声にも聞こえた。 そのうえに、ギャレンがもう一度飛び上がり、その腹を叩くと── 「ウガァルルニャリュォォォォゥゥェェェャヶッゥ!! ゴロニャァァァァァァァァァァゥッ!!」 そんな咆哮とともに、彼は地面に沈んでしまった。 一体、このジェットコースターを壊しただけの力は何だったのか……。 ともかく、ギャレンは拳だけでこの男を倒してしまったらしい。 「倒したんですか?」 「ああ……そうらしい」 「殺してはいませんよね?」 「ああ。殺しはしない」 「良かった……」 シンには、一応不殺という主義がある。なので、目の前で人が死んだり殺されたりすれば、発狂したように嘆き悲しむだろう。ましてや、それが同行者なら。 真っ先にそんな心配をしたシンを、橘は少し訝しげに思った。 何故なら、今彼はギャレンの姿をしているままだからだ。 「驚かないのか?」 「え……?」 「俺の姿についてだ……」 シンは、自らもアークエターナルを使ってオメガフリーダムに変身できることを教えようと思ったが──やめた。 これはある意味、切札だ。ビッグバンを倒すための切札──。 「僕みたいな人も、いるんですよ」 とりあえず、そう答えるしかなかった。 |048:[[狂気に変わりゆく]]|投下順|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|時系列順|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|イリス・シャトーブリアン|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|北条沙都子|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|reionikusu|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|橘朔也|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|ハヤブサのシン|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|手塚海之|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|不動銃四郎|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|劉鳳|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|凱聖クールギン|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|津軽兄|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|江戸川コナン|048:[[未来、それぞれ]]| |048:[[狂気に変わりゆく]]|北岡秀一|048:[[未来、それぞれ]]|

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