ビート独白

蛮族領を逃げ出したのは、メロディが死んだから。
誰も悲しんだりしなかったのが、嫌だったから。

メロディが好きだった人族の文化に触れてみようと思った。
メロディがもう見られないものを、代わりに見ようと。

メロディには、返しきれないほどの恩があった。
でも、メロディにはもう、返せない。

蛮族領を抜け出して、すぐに行き倒れた。
計画性のない逃走劇は、あっけなく終わりを迎えそうになった。

そしたら、奇妙なひとが、パンをくれた。
本来ならば隠れ里の性質上、見過ごすのが正解だったろうに、
彼は自分のお昼ご飯だったであろう、そのパンをくれた。
道を教えてくれた。

その村へ行くと、奇妙なやつらに芋を食べさせてもらった。
しばらく話をしていると、誰かが慌てて駆け込んできた。
その奇妙なひとが大変なことになったらしい。

行き倒れるのを助けてもらった借りは、返さないといけない。
また返せなくなるのは、ごめんだった。

同行した村娘たちは、気の良い子たちだった。
仲が良くて、お互いを大事に思っていて。

その途中で、驚くことを教わった。
家族のことは、心配するものなのだと。
家族は、助けるべきなのだと。

そんなの、蛮族領には無かった。
死んだところで、誰も悲しまない。
メロディが死んだって、誰も悲しまなかった。
娘達の首席が空いたことを、喜んだ者ばかりだった。

人族は、そうなのかなと、思った。
人族だから、こういう考えなのかなって。

でも、違った。

ミァムは、蛮族だった。
キリコも、ハリコも。蛮族だった。

家族を、愛するひとを大事に想う、蛮族だった。

それから、リコットたちの村に住むようになって、
色んなひとに会った。

アルモニカという、気の良いゴブリンに会った。
ペトロという、ちょっとウザいけど仲間思いのギルマンに会った。

どちらにせよ、私の常識には無い奴らだった。
蛮族なのに、友達思いだった。

ミァムも蛮族で友達思いだけれど、あの村が特別だと思ってたのに。

ミゼル・ベゼル・ベリルというグレムリンのきょうだいに会った。
人族の子供達の中に混ざって、仲良しになっていた。

村の外でも、こうだった。
大人たちは怯えていたけれど、けれど、結局は受け入れていた。
ジェイミーとかいうちょっと嫌な奴が、本当はとても優しいひとだった。

人族と蛮族でも、友達になれるんだ。

帰りで、ミァムが言ってくれた。家族にならないかって。

けど、私にとっては家族は怖いものだから。

それに、私と仲良くしてくれたお姉ちゃんは、

死んじゃうから。

ミァムには死んでほしくなんて、ないから。

しばらくしたある日、今度はティアという女の子と、遺跡で出会った。

私みたいに、行き倒れていた。

演技だって言ってたけど、間違いなく演技じゃない。

ティアは、蛮族が嫌いだとあの日言った。

蛮族はひとを傷つけるからだと。

私も、そうだと思った。

けれどミァムは違うと言った。
蛮族の身体は、誰かを守るために使えるのだと。

私も、誰かを守れるだろうか?
今までの冒険で、みんなを守れていただろうか?

答えは、否。

ミァムは、あの遺跡で大蛸に襲われて死にかけた。
ティアは、デュラハンとの戦いで二度死にかけた。

ティアに至っては、隣に私が居たにも関わらず、だ。

メロディは、私の手の届かないところで死んだ。

だからせめて、手の届く範囲は守れるようになりたかった。

大切に思えたひと達みんなを守りたいと願った。
けれど、私の手は小さすぎて、短すぎて。

大都市に来てから、その悩みはじくじくと私の中で大きくなる。

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最終更新:2012年01月05日 22:54
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