『創世記』

神は何故、この世界を創造したか

 『創世記』には、天地創造の動機についての記述はないが、カバラの伝承によれば、自分自身の姿を見るため、であったという。しかし、神は宇宙そのものなので、宇宙が無の状態では、何も見ることはできない。そこで、世界の創造が始まる‥‥というわけである。

セフィロトの放射

 神は、自らの姿を見ようと欲し、この世を創られたとされているが、神(=宇宙そのもの)から我々の住む物質世界は、じかに発生させることはできなかった。そこで神は、自らと現象世界を媒介とさせるために「セフィロト」を放射したといわれている。この世に存在する自然万物はすべて「セフィロト」の力によって発生したものとされている。この「セフィロト」は、神の諸力とも、神の器とも、神の輝く衣ともいわれ、神の属性を象徴的に顕現している。

生命の樹(セフィロトの樹)の完成


 神が放射した「セフィロト」は、その後3つに分かれてそれぞれ柱を創り、「生命の樹」を完成させた。この「生命の樹」は、左の“峻厳の柱”、右の“慈悲の柱”、中央の“均衡の柱”から構成されており、さらに、10個の放射点(セフィラ)があり、一つひとつが直観的な洞察に満ちているとされている。
 前後するが、モーセがシナイ山で「神」から授かった「山上の垂訓」こそは、カバラの叡智であり、私達人間に限りない可能性をもたらしてくれるものとされる。モーセの「十戒」はセフィロトに基づいて作られ、戒律・行為・献身・考察などを示しながら、「神」への深い感謝と畏敬の念を持って祈り・行為する“献身の道”を顕わしている。
 以下、各セフィラの名前とともに、対応する「十戒」の句を記載。

1.ケテル   汝、我の外、何をも神とすべからず
2.コクマー  汝、自己のために何の偶像をも刻むべからず
3.ビナー   神の名をみだりに口にすべからず
4.ケセド   安息日を憶えてこれを聖とすべし
5.ゲブラー  汝の父母を敬へ
6.ティファレト 汝、殺すなかれ(霊的成長の希望を殺してはならない)
7.ネツァク  汝、姦淫するなかれ(霊的生活を穢してはならない)
8.ホド    汝、盗むなかれ(得た知識を乱用し、不正な利益を得てはいけない)
9.イエソド  汝、その隣人に対して 虚妄の証をたつるなかれ(自他共にいつわらない)
10.マルクト  汝、その隣人の家を貪るなかれ(執着や貪りを戒める)

 この生命の樹の誕生が「天と地の創造」ということになるのだが(マルクトが人間世界と言われている)、カバラによらない解釈では、人間世界(地)が具体的に創造されるより前に、天使たちの世界(天)が創造されたが、天の創造から物語を始めると、読み手である人間が混乱するので『聖書』では省略された、としている。それゆえ、天使や悪魔の出自も、天地大戦の記述も『聖書』には登場しないのだ、と。しかし、それではわざわざ天使の世界と人間の世界を二重に創造する理由がわからない。また、天使を人間に仕えさせる理由については、さらにわからない。もっとも、この場合、人間に使えるというのは、そもそもの天使の存在意義ではないのだから、それを拒否する天使が大量に発生した、というのは、至極当然のなりゆきで、非常によくわかるのだけどもww

アダム・カダモンの創造

 しかし、神には、ここから先の創造を直接行うことができなかったとされる。これに関してはさまざまな解釈があるが、大きな道具は大きな「もの」を造るのに適しているのであり、小さな「もの」を造るには、それなりの小さな道具が必要であった、というあたりが妥当であろうか。
 そこで、神は自分自身の姿を写した人間を創る。これが「アダム・カダモン」である(詳しくは辞典を参照)。結論から言えば「アダム・カダモン」は、天使よりも上位の存在であり、文字通りの人間ではないのだが。
 「光あれ」以後の天地創造については、神の指示に従って「アダム・カダモン」と、その後に創造された天使たちが行ったとするのが定説である。『創世記』は、人間の住む世界(?)に関してのみの記述であるが、当然、7階層ある天界についても、同時に造られたと考えるべきであろう。
 グノーシス主義に基づけば、別の解釈も可能である。アダム・カダモン(ソフィア?)が『創世記』の七日間で創造したのは天界であり、その後、息子であるサタンが地を造った。我々人間も、サタンが創造したことになる。これだと、6日目に人間を創ったとしておきながら、再度、アダムの創造が描かれていること、すでに木々が生い茂っていた筈の地上に「野の木も、野の草も生えていなかった」とされていることにも納得できる。しかし、改めて説明するまでもなく『創世記』での天地創造は、人間界とは別の世界のことである。また、天使たちは、彼女から生まれたとされている。彼女が救いを求めたとき、再度、神が生み出したのが、イエス・キリストであり、ソフィアが地に降りた以上、たったひとりの「神の子」となりうる。

リリスの創造

 『創世記』の6日目の記述にある、人間の創造が「アダム・カダモン」を指すのであれば、同時に彼と対となる存在も創られたことになる(ただし「アダム・カダモン」が全面的な神の代行者であるなら、それは第1日以前ということになるが)。「人間」であるアダムと同時に創られた「女」がリリスであるとするなら、その後のリリスの扱いについて、堕天使か、それ以上の力を持っていることに疑問が残る。
 この疑問の答えのひとつとなるのが、またしてもグノーシス主義における『創世記』の解釈である。ソフィアが創造した人間の男女を、サタンとリリスと考えるとしたら、どうだろう? アダム・カダモンとして性を受けた際のソフィアは両性具有であった(地に降りた辞典で女性となったみたいだが)。その姿を模して男女を創れば、それは両性具有となったとしても不思議ではない(見かけ上の性別はあったのだろうが)。また、天使が、肉体を持たないのに、サタンやリリスが生殖行為を行う記述が出てくることも説明が可能である。さらに、サタンとリリスが、もともと天使の上位に立つべく創造されたのであれば、神が天使に「人間(サタンとリリス)に仕えるよう、天使に命じるのも当然である。

天使の創造

 人間が土から創られたように、天使は光から創られた、とされる。伝承には「創造の天使」と呼ばれる7人の天使が、第1日目に創造され、7つある惑星に陣取り、天地創造の詳しい計画を立てたとされる。とするならば、4日目とされる天体の創造は、少なくても7つの惑星に関しては、2日目には行われたことになる。ただ、天体がそれ自体、天使であるとする考え方もあるので、そう考えれば、主要な天使と惑星が1日目に創られ、その他の主だった天体と天使たちが4日目に創られた、考えるのが妥当かも知れない。

7日間

  • 1日目以前‥‥セフィロトの放射。アダム・カダモンとリリスの創造。時はまだ、動き出していない。
  • 1日目 ‥‥‥光と闇の創造。光から最初の天使たちが創られる。少なくとも7つの惑星(太陽と月を含む)の創造。
  • 2日目 ‥‥‥空と海の創造。
  • 3日目 ‥‥‥陸地の創造。
  • 4日目 ‥‥‥他の天使たちの創造。星々の創造。
  • 5日目 ‥‥‥植物の創造。
  • 6日目 ‥‥‥動物の創造。
  • 7日目 ‥‥‥安息日。
 『創世記』の記述とは少し異なるが、天使の創造と、その天使たちが実際の天地創造の作業をしたというあたりを考慮すると、こんな感じが妥当と思われる。

以下「天地大戦と大洪水」のページを参照。

最終更新:2011年03月27日 15:08
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