天界

「天界」と「天国」

 そもそも、初期のユダヤ教には「天界」という概念も「天国」という概念も、なかったと考えられます。神が天の高いところにいて、そこから人々の営みを見ている、という認識はありましたが、『創世記』『出エジプト記』『レビ記』『民数記』『申命記』『ヨシュア記』『士師記』までの記述を見る限り、それは暫定的で、シナイ山などの御座所がいくつもあって、それらのいずれかに鎮座しているというのが基本であったようです。出エジプト以後は、イスラエルの民がつくる幕屋も、御座所のひとつとなっていました。
 「天界」という概念は、神が直接、人々の前に現れなくなり、かわりに「天使」という存在が人々の中で強く認識されるようになるのにしたがって、自然発生的に形成されていったようです。最初は、漠然とした空間としての認識でしたが、さまざまな天使が知られるようになり、それぞれの天使に役割がふられるようになると、天使の階級が出来、さらに天界の構造といったものも考察されるようになったのだと考えられます。
 「天国」という概念は、さらに後になって生まれたと考えられます。最初は、モーゼやエノクなど、ごく限られた人々が、天使に導かれて「天界」に召されるだけでしたが「地獄」や「最後の審判」という概念が教義にとりいれられるのに伴い、「地獄」と対をなす存在として「最後の審判」に至るまで人々の魂が住まう場所として「死者の国」が「天国」と認識されるようになったのだと考えられます。初期のうちは、必ずしも「天界」=「天国」ではなかったのですが、キリスト教の発生以後は、両者が同一であるという考え方が一般的になっています。

天使とは

 ヘブライ語で「神の影の面」「使者」を意味するmallakのギリシア語訳であるangelosangelという言葉の語源。日本語では天使と訳されます。神の代理として人々の前に現れ、神の言葉を伝えたり、奇跡を起こしたりします。
 基本的には、人間と同じような姿をしており、初期の頃には鎧を纏い剣を手にした勇ましい姿であるとされてきました。天界においては、しばしば異形の姿で存在しているようですが、これは中級以上の天使(特に智天使と座天使)に顕著に見られる傾向で、直接、人間と関わる下級天使は、例外なく人間と同じ姿をしています。ヘレニズム文化に触れることで、天使のイメージは、次第に柔らかなものへと変化し、ギリシアやローマの絵画や彫像(特にキューピットの影響が大であると思われる)の影響を受けて、トレードマークである白い翼を持った姿として認識されるようになりました。
 実は、イスラエル民族が放浪したり、各地に広がったりしていく課程で、土着の神々がユダヤ教の中に取り込まれたもので、祭祀をとりしきる人々の都合で、神の代理人とされたり、神に反旗を翻したもの(堕天使>悪魔)とされたりしているので、同じ天使が、時には神の使者として、また別の時には悪魔として登場したりしてします。

天界の構造

天使の階級

最終更新:2011年03月25日 08:07