【いつかの大ゲート祭】

海の高架を行くポートライナー。
眼下にはかつてポートアイランドと呼ばれていた跡地、海に沈む人工漁礁が広がっている。
神戸都市部より、異世界交流特区新ポートアイランドへと伸びるポートライナー海上路線は、巡航中型客船タコライナーと並ぶ公共交通手段である。
「建てられた時代がもっと後だったらポートアイランドもずっと維持できてたのかなぁ」
「それはどうかな。一度やってみないと分からない改善点問題点というものはあると思うよ。 それより窓にへばり付いてると小学生と思われてしまうよ」
学生服の男女二人。鱗人の男子生徒と人間の女子生徒。
大ゲート祭に動員される異世界からの観光客を、市内巡り案内するボランティアからの帰路。
年々増加する日本への異種族移住者、観光客への対応のために市も政府も本格的に動きだし、他県での異世界交流特区建設の案もいよいよ本格的に骨子が決定したという。
「ねぇ、ヤマカ君?」
ショートカット、後ろ髪をぴんと靡かせる。 問い掛け。
「何?テンさん」
流れるロングヘアーを後ろでまとめる。 応える。
「進んでいると思う?」
悪戯そうな眼差しで、静かに手元の書に目を落とす彼に聞く。
「異世界交流という点では日本は世界でも最先端にいると思って良いよ。 今年も更に交流は進んでいると僕は思うね」
眼鏡も眉も微動だに言う。手の甲に鱗並ぶ、細い指先がページをめくる。
「ぶー。私と君の仲のことを聞いたんだけどね!」
「フフっ。何を… 僕と君は何度も ───


 ───さん? ヤマカさん?
「わっ、と!何?私に何か聞き逃した?」
神戸ラジオ主催の大ゲート祭神戸市観光ツアーとその中継。その最中。
白昼夢でも見ていたかのように少し呆けたままで周囲を見回す鱗人の女性。
眼鏡の元を正して数回瞬きする。 その先に、自然と捉える一人の人間男性。
「ボランティア、集まって良かったですね~。局の予算だと案内人の都合がつかないとか、上の見切り発車も大概ですよね」
「え?あ、うん。中継はもうすぐだよね」
「はい!ヤマラジ特番、頑張って下さいね!」
周囲にマイクが近づくのに合わせて深呼吸する。
「ヤマカ、頑張れよ」
案内の旗を持つ若者がすれ違い様に小さく声を掛ける。
「うん、ありがとうテンちゃん」
離れていく背中に聞こえたどうかは分からないが、微笑で応える。


大ゲートが神々の力によって強く解放される祭りの間。
地球と異世界、それとはまた違う別異と何かが繋がったのだろうか。
それは誰にも神すらも分からない。

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最終更新:2019年07月10日 04:08