【ウルサ爆ぜる】

大ゲート祭の間には異世界のあちこちから観光客、移住のための視察など多くの異種族が訪れるようになった。
しかし、その様な賑わいとは全く関係のない場所を、道なき道を走行する重厚な車列がある。

 ─── アメリカ某所
鋼の如き剛靭な黒髪を束ねる筋骨隆々の女性が酒の追加を促す。もう何度目か分からない。
「おい、まだ着かないのか?」
「もう直ですよ。お待たせしましたね戦神」
「フン。飲んだことの無い酒が出てくる内は待ってやるさ混神。 しかし連れていきたい場所があるなら走って行けばいいだろうに」
「そうなのでしょうけども、貴女に虎の子を尽く破壊された国が血眼になってやってくる可能性がありますので」
「俺は一向に構わんぞ」
礼服の老紳士は僅かに微笑み保冷庫からワインを取り出した。

戦神ウルサの“話の分かる”交渉役にアポを取り付けた混神レギオンの内一神。
戦神と面会した混神が申し出たのは“地球での強者との闘い”“必ず満足させる”というものであった。
何やかんやとやってきたものの、異世界での戦いに頭打ちを感じていた戦神は興に乗り極めて珍しく大人しく降臨し人並みに力を縮小させドニードニーのゲートをくぐったのである。

「お待たせしました。さぁどうぞ」
地図に無い場所。噂では宇宙への対策基地であったとも言われているが今では異世界への研究対策施設として稼働している。
「地球では幾らか力も弱まるでしょう?丁度良いハンデになると思いますよ」
延々と地下へと降りるエレベーターから出ると薄暗い通路の先に扉が一つ。
厚さ2mにもなる多層構造の円扉が開き、灰色の空間が広がる。
窓も何もない壁にスポーツホールの様な高天井、その中心に微動だにせず立つ人影。
3mにも及ぶ体躯。黒色の体表には目も口もなく、体のあちこちが鱗で覆われている。
「ではどうぞ、お楽しみ下さい」
扉が閉まる。
すぐさま跳躍し間合いを詰めてからの拳の一撃が鱗を砕き割り腹に突き刺さる。 が、黒い体は倒れない。
動かぬ相手にあれこれ考えるのも面倒なので一発叩き込んでみたのだが、予想もしていなかった頑強な相手に心がざわつくのを感じる戦神。
足を動かさぬまま二撃目三撃目と撃ち込んだところで巨体が後ずさる。

「どうですか?」
「いやはや驚きしかありませんね。戦神の攻撃は打ち込むごとに威力を増し、三発目では戦車砲でもびくともしなくなった試験体を弾き飛ばすとは」
「闘いを何よりも楽しむ戦神は相手によって強さを調整するのです。どこまでの進化を見せるのか、楽しみですよ」
「反撃は?」
「安全策を講じ過ぎましたな。存在の危機と感じるまでは立ち尽くすだけで…お?おぉぉっっ!?」
何で映しているのか分からないが、画面の二人が同時に拳を繰り出し相打つ。

新天地と繋がりの太くするアメリカ政府。
新天地を統べる混神レギオンの協力もあってか互いに理解を含めていく昨今、核に頼らない軍事力、両世界に通じる兵器の開発に着手した。
余りにも突拍子もないその計画の内容は政府でも一部しか把握しておらず、その研究や実験は秘密裏に行われてきた。
機械、電子兵器、巨大物質の運用が厳しい異世界に適した兵器。
かつての世界大戦にて邂逅した異種族に端を発した超人計画は、レギオンの力と知識を合わせることで“超神計画”として再始動する。
レギオンの一部、神の細胞とバイオ技術の融合。生態科学の粋により生み出されたものはやせ細った黒いマネキンであった。
高熱、低温でも何ら変化はなかったが、衝撃試験においては試験の都度体に変異が起こる。
体は大きく強靭に、衝撃を受け散らす鱗が生えていく。 が、秘密裏に行える火力試験の限度に達してからは変化はなくなった。
耐久試験は実施できたものの、運動性能は細胞レベルで処置した安全システムにより全く実行できなかった。
生命誕生から何億年もの進化を秒、音速で追い越していくその神の偽体。
攻撃を受ければそれに耐えうる肉体、構造に即座に進化変化する無敵の防御本能。
それは攻撃面においても同じく、相手を消し潰すまで強く強くなっていく。
暴走を抑えるために設定された専守防衛機能と後からの調整を全く受け付けないことから一旦処分も実行されたのだが、既に破壊不能にまでなっていた試験体の扱いに苦慮していた所に混神が一計を講じたのである。
かつて大ゲート解放の91年にてロシア艦隊をたった一人、肉体のみで破壊した戦神が相手では何もかもが違った。

「ハッハッハーッ!合する毎に俺の力が解放されていくのを感じるぞ! 一体貴様は何なのだ?!」
火薬も燃料もない空間で次々と爆発が起こる。
衝撃は施設そのものを揺らす程に大きくなり、その振動は地表にまで達する。
戦神の攻撃に対し、存在を脅かすものと認識した黒体も積極的に攻撃を仕掛けていく。
向き合っての殴り合いは次第に加速していき、次第に黒い拳は戦神と同程度に直撃するまでに至る。
体表の鱗が全身を覆ったと思えば、戦神の回し蹴りを受けて全て弾け落ちる。
その下より現れた漆黒に滑らかに光る皮膚は拳撃の速度をそのまま受け流し、胴体に直撃した蹴りを跳ね返す。
自らの攻撃が跳ね返されるも嬉々とした表情を見せたかと思えば一転、跳躍から駆け出し側面から二の腕で無理矢理床にかなぐり倒す。
が、高速で身を捻じり跳ね起きるついでに戦神の横顔を殴打しそのまま駆け出す。
速度と速度は交錯し合いながらすれ違い様に打撃が弾ける。
戦神の攻撃を上回る黒い攻撃。そしてそれを上回る戦神の攻撃。何度も何度も繰り返されるのを混神と人間はただただ見ているだけで言葉も口から出なくなっていた。

しかし、終わりは呆気なく訪れる。
接近戦から零距離まで詰めての組合いから戦神の頭突きの猛打を受けた黒体は突如巨大化を始める。
倍に膨れ上がった剛腕で戦神を強引に引き剥がし、頭頂から腕鉈を振り下ろすもその攻撃には先程までの速度が欠けていた。
遂に床を割り沈む巨腕。しかしそれをするりと避けた戦神の耳をつんざく咆哮。そしてありとあらゆる打撃が超速で巨大な黒体を粉々に殴り削った。
「どうやらあれが今の限界のようですね。何はともあれ試験体の処分は叶いました」
「早速次を、と言いたいところですがこれまでの研究結果を踏まえて一から構想を作り直しましょう。 最低限度、我々の意思によって行動するくらいまでには…」
「おい!中々楽しめたぞ。久し振りに気が乗った闘いだった!」
扉を蹴破り出て来た戦神は鼻息荒く混神に歩み迫る。 肉体は弾けんばかりに隆起し、湯気が立ち昇っている。
「で、おかわりはあるんだろうな?!」
「いえ、それは流石に。 そうですね、次は異世界で楽しめるようにこちらも用意しておきますので、それで此度は御容赦を」

その後、荒ぶる戦神を鎮めるためにガロンで酒を浴びせ掛けた後、気を良くして眠ったのをそのまま特急で大ゲートまで運搬しドニーへと送り返したのであった。
「あわよくば、と思ったのですが聊か虫が良過ぎましたね。 地球であの程度とは…まだまだ列強なる神々に私達の力は届きませんか」
鬼神が天に戦神を背負い昇り消えたのを見届けた混神は溜め息を一つ、煙の様に姿を消したのだった。

戦神ウルサの地球旅行で一本

  • 良い… -- (名無しさん) 2019-07-01 20:06:14
  • 神細胞兵士とか操作できずに暴走してえらいことになる未来しか見えませんぞー -- (名無しさん) 2019-07-02 22:46:53
  • 地球でも無敵のワンマンアーミーじゃなかろうかウルサ -- (名無しさん) 2019-07-10 04:09:56
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最終更新:2019年07月01日 04:44