【クルスベルグの空を飛んで】

『うーん、良い気持ちー!』
空に突き立つ山脈のその上、雲を貫き飛ぶ影がある。
人の頭大の小さな人影は鳥よりも速い。透き通る碧の体を覆うフードとそれを巻く赤いマフラーを激しくはためかせて風を巻き起こす。
そしてその後ろに涅槃のポーズで飛行する人間の青年。
「いやぁ、最初の頃は寒いの空気薄いの体は捻じれるだのしてましたけど…今ではもう安全快適ってなもんですよ」
もうじき始まる大ゲート祭を異世界各地の精霊に伝えて回る旅もクルスベルグへと。目的は土精霊達に祭りを報せることなのだが。
「どこか洞窟とかないもんかな?以前に土精霊と遭遇したのは鍾乳洞の岩氷柱だったもので」
『狭くて風の通らないとこに行くのはいやなんだよね~』
「じゃあ何かこう大きく立派な岩とか探して見ます?話しかければ伝わると思いますけども」
物静か、寡黙、動じない。アクションをかけてくることのまずない土精霊を見つけるのは容易いことではないが、オーラを感じるようなそれっぽい場所には高確率で存在しているのも彼らの特徴である。
『そだねー、どっか良さげなとこに降りてみよっかー。んっふっふっふー。どんな話をすればお祭りに来ってくれるかな?』
 【シンニュウシャヲカクニン ゲキタイシマス】
声、というよりは頭の中に直接響くテレパシーのような。しかし、その文言を認識した瞬間、視界がぐっちゃぐちゃに回転する。
激しい衝撃、空気の壁が連続で衝突したと言うしかない状況。浮遊力を失い錐揉み落下する中で見えたものは、光の乱屈折により全体像が浮かび上がった透明の巨大柱だった。

「はっ!?」
「ん?やっと目が覚めたか」
頭の後ろに硬さを感じて目をはっと開いた。岩肌に囲まれた中にぼうっと揺らめくランタンの灯。そしてスコップの切っ先を手入れしている鼠人。
『やーっと起きたよー!』
風精霊、エトラが頭上でぐるぐると飛び回り無風の岩洞に風を起こす。
スコップの鼠人が言うには、上も下もどこまで続くか見えない分からない巨大な縦穴から自分が落下してきたという。しかし、風精霊の起こす風により何とか横穴に放り込まれたのだ。
「うん?おかしいな?土精霊の気配がしませんよ?」
こういった土に囲まれた場所では大きくはなくとも微かに土精霊の声が聞こえるものなのだが、それと同じく呼び掛けにも全く反応がない。
「ここら一帯には土精霊は見かけたことがないな。俺も不思議に思ったが、神印の磁矢が巨穴の下を差し続けている。よく分らんが何かしらの神力が精霊を寄せ付けないようにしているのかもな」
鼠人が不思議な知り合いから貰ったというコンパスのようなものは確かに穴の下へと傾き差している。
『うぅー!風が吹いてないから自分でぐるぐるしないといけないじゃないかー!土精霊もいないみたいだし早くこんなとこ出ようよー』
「まぁ風精霊にはよろしくない場所ではあるな。ところで、あんたらは何で落下してきたんだ?」
ここが何処なのかも分からない内は無闇に動いても危険だろう。兎に角何でも情報が欲しいと思ったので、これまでの経緯を話した。
「クルス、ベルグだって?…ふぅむどうやらここは想像以上におかしな場所みたいだな。 しかし、俺の経験から察するに出ようと思えば簡単に出れるかも知れないぞ」
「それってどういうことなんです?」
「単純なことさ。ここから出たい離れたいと強く思えば何かしらの標を感じるかも知れない」
『出たいー!出たいー!』
「強く思う、ですか?」
鼠人がよっこらせと腰を上げスコップを肩に担ぐと同じくして、何処からともなく一陣の風が吹いてきた。
『あっ!風を感じるよー!』
「よし、じゃあそれを辿って行けば何処となりに出ることができるかもだな」
「ありがとうございます! あなたはこれから何処へ?」
「気の向くまま掘って行くさ。 あんたらも神力には気を付けてな」
お礼にとカロリーメイトを渡すと、鼠人はスコップを掲げ岩洞の闇の向こうへと消えていった。

その後、無我夢中に風の先を求め飛ぶエトラの後を追って登り坂を走っていると外の光が見え、気が付くと森の中に立っていた。
呆然としていると近くに住んでいるのだろうか、子供達に遭遇し村まで案内してもらい何とか事なきを得たのだった。
一晩泊めてもらった際に、今年の大ゲート祭では著名な木彫りや彫刻の匠がやってきて頼めば色々と作ってくれるとのこと。
『わーい、良い話が聞けたよーあっちこっちの精霊達に教えてあげなくっちゃ』
すぐに子供達と仲良くなったエトラは少し名残惜しそうであったが、すぐに次なる場所へと向けて私共々飛び上がる。
大ゲート祭の開催はもう直である。


大ゲ祭広報の旅inクルスベルグ

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最終更新:2019年06月23日 22:12