【大ゲート祭においでよ!】

『ねぇねぇ知ってる?』
異世界でも有数の巨峰。乱風吹き交じる頂きにて談笑する風精霊達。
精霊の中でも意思を持ち、交わすことが出来るのは自然事象と共に生まれ消える種とは違い、力の階段の一つ上に位置するものである。
『なになになにー?』
『もうすぐ始まる大ゲート祭なんだけど、行ったことある?』
『えー?何それ知らないー』『おしえておしえてー』
『大ゲート祭っていうのはねー』

去年、東西イストモスの中心にあるラタ城塞都市で催された大ゲート祭は草原の風精霊の注目することとなった。
数々の競技もさることながら、歌や舞踊の催しが多かったこともあってか風精霊達に大いに好評であった。
来年も祭りが開催されることを知った風精霊は精霊の皆にも楽しんでもらいたいと異世界各地に飛んで行き大ゲート祭のことを教えて回っているのである。
『でもほかのせいれいにはことばがつうじないんじゃないの?』
『んっふっふっふー。 それについてはとっておきを用意してあるんだよー。じゃじゃーん!』
『えっ?ひょっとしてうしろでげっそりしているのがとっておきなの?』
つむじ風が草葉を巻き上げる後ろで人間の青年が見るからにやつれた形相で虚ろに立っている。
「どーも。とっておきです。 …あ、風精霊相手なら翻訳加護いらないですよね。 ちょっと休ませてもらいますよ」
青年は大きなため息をついて背負った荷袋から水筒を取り出しひと飲みするとう傾れて目を閉じた。
『あれ?どうしたの? 食事はさっきしたでしょ?』
「まだ睡眠の概念を理解できませんかぁ。 そういや空気を分かってもらうまで一か月かかったっけか…」
『そんなとっておきでだいじょーぶなの?』
『うん!人間が神からもらった翻訳加護ならどんな精霊とも話ができるんだよー! 私の言葉を人間に翻訳してもらって他種の精霊にも伝えることができるんだー!』
『あ~なんかかぜのうわさできいたことがあるそれ。 そっかーべんりだねー』
『じゃあ他の風精霊に会ったら祭りのことを教えてあげてね! あと…えぇと…』
「三十回ほど月と太陽が入れ替わったら、祭りが始まりますよ」
『そうそうそうなの!ちゃんと教えてあげてねー!』
会話が終わるや否や小竜巻が発生し、四方八方に風の翼が舞飛んでいった。
『そろそろどう?行けそう?』
「本当はもうちょっと寝たいんですけども…次は何処へ飛ぶんです?」
『イストモスをぐるっと回って海を越えて新天地を通ってオルニトとラムールを巡った後にまた海越えてミズハミシマ行って今はエリスタリアだっけ。 あれ?途中でどこか抜いちゃった?』
「うんまぁ良いんじゃないですか? 次はクルスベルグか大延国とかどうです?自分としては大延国に行ってみたいんですけど、食べ歩きとかしてみたいなぁ」
『大延国かー、ちょっと遠いなー』
「異世界旅行の手伝いをしてくれるってことで自分も翻訳しているんですし、大延国無理そうですか?」
つむじ風はひゅうひゅうと思案しながらぐるぐる吹き飛んでいる。
「あぁそうそう話は変わるんですけど、呼び方 フー子 とかどうですか?」
『ブッブー!その名前は既に使われてまーす』
「何と異世界にもドラ読んでる人がいましたか。フー太郎もカン太郎も駄目でしたし…そのままだとまた駄目そうなのでちょっともじって エトラ とか」
『エトラ!いいねー!ヤッター!』
風が青年の周りをぐるっと吹くと、目の直前に長い緑のマフラーを巻いた小さなフード姿が現れる。
「元は旅人って言葉をちょっと変えてみたんですけど、通りましたかぁ」
『うーん何だか力がみなぎってきたぞー!今なら大延国まで飛んでいけそう! さぁ、飛んで飛んで!』
「え?本当ですか? じゃあいつもの行きますよー。 ライダァァーーキィーーック!!」
『ばひゅーん!』
青年はジャンプしたポーズのまま一直線に風に押され空の彼方へと飛んでいく。 特別な『名』を持った精霊は、一つ上の存在へと成るのだ。

「ちょっとちょっと!あまり高いとこまで昇らないで下さいよ?!空気が!空気がぁあー!」
『えー?今ちょっと気分が良いから高く速くなっちゃうー。すーぐに大延国につくからいいじゃーん?』
「到着前に脳が酸欠になるッ!」


来る八周年のテーマは【精霊も楽しむ大ゲート祭】ということで前日譚を一本

  • 人と精霊が分かり合えたとしてやはり最後は「別れ」が問題になりそう -- (名無しさん) 2019-05-20 22:07:07
  • 言葉が通じる=コミュニケーション可能ってのでかいよな>翻訳加護 -- (名無しさん) 2019-05-24 00:19:05
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最終更新:2019年05月19日 23:44