【おつかい猫と僕】


「――というように、ミズハの鬼族排斥の動乱は不幸な積み重ねによって生じたという見方が現在は主流となっているわけだ」
火乃先生の分かりやすい講義を聴きながら黙々と板書のノートを取る。
まあ、実際いまは鬼人と鱗人のわだかまりはさほど強いものではないというのは、杉浦さんが鬼人の生徒と普通に仲良く話してたりすることからも見て取れる。ここの環境がとりわけ垣根のない雰囲気だというのも多少はあるだろうけど。

 きーんこーんかーんこーん…

「……ふむ、では今日はここまで。次回は今回の騒動の引き金にもなった竜宮の三権について話すぞ」
日直の号令とともに四時限目が終わった。
さて弁当……と、そういえば家に忘れてきたんだった。気づいたネネコさんが自分のお昼ご飯にでもしてくれていればいいんだけど。

売店でてきとうに売れ残りのパンを見繕って屋上に向かう。こういう食事も久しぶりだし、たまにはいいな。

「なんだヒサ、もう買ってしまっていたか」

よく陽の当たる場所を見つけて座ろうとしたところで、唐突に声をかけられた。
振り向くと、フェンスにネネコさんが弁当包みを手に座っていた。
「え、ネネコさん!? どうしてここに」
「忘れ物を届けにきたんだ。あまり人目につくのは好きじゃないから、人気のないところに来るのを待ってたんだぞ」
「…で、なぜそんなところに」
「人目につきたくないと言ったろう。建物の中を通らず、裏からよじ登ってきた」
とんでもないことさらっとおっしゃいますね貴方。
「しかし、揚げ物ばっかりだなこの弁当。私の好みじゃない、そっちと交換しろ」
「届けにきたというより、気に入らないから交換にきたんじゃないか…」
「まあ結果的には同じことだろう。ほら、よこせ」
やれやれとため息をつきつつ、パンの包みと弁当を交換した。
「うむ、おつかい終了と。ではな」
微笑とともに、ネネコさんがくるりとフェンスの向こうに身を翻した。ちょ、ここ屋上!?
あわててフェンスに張り付き下を見ると、ごろごろっと転がり受身をしてそのまま何事もなく歩き去っていくネネコさんの姿があった。
なんというヤマカシ……そりゃあ鍛えてるっていうのは体つきからなんとなくわかってたけど、軽く想像を超えてくるなあ。



【閑話 今夜はスシ】

「ヒサ、今日はスシが食べたいな」
今日もまたネネコさんが気ままをおっしゃい始めた。TVでなにか美味しそうな寿司屋でも出て来たんだろうか。
「お店でも握りでもなく、てきとうに手巻き寿司とかでもいい?」
「それはどんなスシなんだ?」
「具になるものをてきとうに買ってきて、それを海苔と酢飯でてきとうに巻いて食べる感じかな」
一番お手軽でおなかも膨れる、マーケティング的にも正しい選択だと思う。幸いお米の備蓄は十分あるし。
「ちょっと買い物するようだけど、今夜は期待してもらっていいよ」
「全裸で待つ」
「脱がなくていいっ」
くだらないやりとりをしつつマイバッグ持参で家を出る。えっと、ツナ缶はまだ残ってるから買うのは刺身パックを二つくらいと、納豆と、青じそと…。あ、大判の焼き海苔も一応買い足しておくかな。


  • 弁当を届けてくる時点で転げまわるくらいあまーい。身悶えるほどの同棲生活よ -- (名無しさん) 2014-08-09 00:01:37
  • 親公認で一緒に生活という雰囲気ですが夢のようなことも交流の賜物でしょうか。異種族向けの就労枠なども気になるところ -- (名無しさん) 2016-03-06 19:28:37
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

f
+ タグ編集
  • タグ:
  • f

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2014年08月09日 00:00