ツーリストpage4

ロレンツォは言葉の最後の部分を、ペースを下げて繰り返した。
「偽りを…退けたが…愛から…離れた」

『マニュエル・ルービン老は、街の郊外の富裕層が多く住む高齢者向けマンションの一室に、家族とも離れて一人で暮らしていました。どうもルービン老は正義感が強すぎて付き合い難い人物だったようですね』

無表情なソフィアの顔の中で、ライトブルーの瞳が険しくなった。
「ドクター・ロレンゾ。以前私とグレック刑事がお訪ねしたとき、ドクターはルービン老人を評して同じようなことを言われましたね」
目まぐるしく複雑に動いていたロレンツォの指が動きを止めた。
「……この観光案内を見つけたときから、私はずっと考えているんです。偶然なのかと。私の考え過ぎなのかとね」
「偶然?……なにがですか?」
「経済紙の編集者(editor)が電気ヒーター(electricheater)の感電死(electrocution)で死んだ。
ところが現場に行ってみると、寝室に失禁(evacuation)の痕があり、その枕元にはこれ見よがしにエフェス(Efes)の観光案内が置いてあった……」
「もちろんそんなことは偶然……」
そのときソフィアは、ついさっきのロレンツォの奇妙なセリフに思い当たった。

『……ドクター……ド・クター……ドアストッパー……ド・アストッパー……』

「ドクターは、犯人が言葉遊びをやっているとでも!?」
声には出さず、首も降らなかったが、見つめ返すロレンツォの黒い瞳が「答えはイエスだ」と語っていた。
「しかしドクター!」
ソフィアの声から、冷静さのメッキが剥げかけていた。
「……デルハイル殺しではどうなんですか?デルハイル殺しでは文字遊びなどは……」
「デルハイルはライフル(Rifle)銃で射殺された……」
聖書の預言者のごとき厳かな口調でロレンツォは応じた。
「……殺人現場には犯人の手でレンブラント(Renbrandt)の絵が掛けられていた。そして死の翌日、新聞各紙の見出しに踊った言葉は……」
(あっ!)
ライトブルーの瞳の前に、彼女も目にしたあの日の新聞がまざまざと蘇った。

『……没落した(Ruined)社長、ニューヨークの地で横死』

(ニューヨークではR、スーフォールズではD、タラハシーではE……まさか、まさか本当に文字遊びなんか……)
「……プリスキン刑事……」
ロレンツォに呼びかけられ、ソフィアははっと我に返った。
「……プリスキン刑事。ここ何日か、私は夢に見るんです。ルービン老殺しの場面をね。もちろん犯人の顔は判らないんですが……」
ロレンツォは芝居がかった仕草で立ち上がった。
「犯人は……Eに拘ってるんです。
だから、何が何でも持参した電気ヒーターで殺したことにしたかった。
エフェスの観光案内もそのために持参した。そうしたら……ルービン老は死に際に失禁するんです。
すると……犯人はゲラゲラ笑うんですよ。何故かって、労せずしてもう一つ『E』が揃ったから。
哀れにも感電死させられて失禁したルービン老の枕もとで、体を二つに折ってゲラゲラと、さも可笑しそうにね」
そして急にロレンツォは真顔に戻った。
「……こんな考え、信じてくれとは言いません。でもプリスキン刑事。私はアナタに賭けてみます。こいつがルービン老殺しで仕事を終えたとは思えないんです。一分一秒でも早くこいつを捕えてください」

場所は変って……ここはバージニア州クワンティコ。FBIアカデミー併設された資料室。

(あぁあ……「問題児」のあとに「サイボーグ女」ときて今度は「ハムスター女」なんて、今日はなんて日なのかしら)
エミー・ハワードはカウンター越しにこれみよがしのうんざり顔をみせた。
…が、「ハムスター女」別名「プレーリードッグ女」ことキャリー・グリーンに動ずる気配は無かった。
「こんにちわっ!ミス・無愛想さん」
「今日は何の用?」
「……判ってるクセに」
「あの死体に文字を刻む連続殺人鬼ってヤツなら、別に情報なんてないよ。そんな事件は、あんたの頭の中だけに在るの」
さっさと帰れと言わんばかりの態度で、エミーは「みのむしパソコン」へと視線を戻した。
「みのむしパソコン」というのは、大小のメモがディスプレイの周りに無数に貼り重ねられた有様に基づくキャリーの命名だ。
いまは室内なので軽装だが、冬の外出時にはエミー自身も「みのむし」みたいになる。
寒ければ、寒くなくなるまで重ね着する。
そのときコーディネイトとか、流行とかは一切考えない。
だから冬のエミーは、しばしば「みのむし」かホームレスのような姿になる。
逆に暑ければほぼ水着といった具合だ。
これにはいろいろと理由も囁かれているが、キャリーの見るところでは単なる「面倒くさがり」というだけだ。
 バシッ!バシッ!……バチ!バチ!バチッ!
エミーは、必用以上に力強くキーを打ち、叩きつけるようにマウスを操作した。
すべて、さっさとどっか行け!という無言の威嚇なのだが……。
「…………用が無いなら、さっさとどっか行ったら」
キャリーは何処へも行かず、資料室のカウンター越しにエミーの操作するパソコン画面をじいっと見つめ続けている。
「聞えなかった?用が無いならさっさと……」
「待ってるの」
「……何を?」
「死体に文字を残すシリアルキラーの情報が入って来るのを待ってるの。だってまだ何も情報来てないんでしょ?資料部のパソコンならどんな情報だって一番に……」
……メガネの向こう、エミーの額に深い縦ジワが現れた。
「(このドチビ!)鬱陶しいからさっさと……」
そのとき、資料室の戸口近くで、歓声があがった。
「おお!こりゃ珍しい!」

振返りざまにキャリーが叫んだ。
「ウィンフィールド先生!」
一方エミーは不機嫌に唸った。
「珍しいだって!?いったい何が珍しいって言うの?!」
「だって珍しいじゃないか!」
戸口で笑っているのはアフリカ系の男性だった。
パッと見だと、テニス選手かサーファー。それともロックミュージャン?
いずれにしてもFBIアカデミー内をうろうろしている類の人物には見えない。
射すようなエミーの視線をおどけた仕草でかわすと、アフリカ系の青年=クリストファー・ウィンフィールドは真白な歯を見せ笑った。
「珍獣対決なんて滅多にゃ見られないからね。それも、みのむし対ハムスターなんて黄金カードじゃない?」
「み…みのむしだって?……誰が言ったの、みのむしって?」
キャリーがさりげなくエミーの視界から脱出した。
「ま、気にしない気にしない」
「ウィンフィールド先生!おはようございます!!」
改めてキャリーが挨拶すると、クリスも笑顔で応えた。
「おはよう。キャリー・グリーン。あいかわらず無駄に元気そうだね」
「もっちろん元気です!だって、元気に無駄なんてありませんから!」
ウィンフィールド先生といってもここはクワンティコ、FBIアカデミーの所在地なので数学や体育の先生のわけはない。
近年増加するサイバー犯罪に対応し、FBI内部にもサイバー犯罪捜査部門が設けられている。
クリスはそうした部局の一員であり、クワンティコのアカデミーではサイバー犯罪について「実技」を中心とした教育プログラムの講師も務めていた。
「ところでキャリー、悪いけどキミとエミーの話を聞かせてもらったんだけどさ。死体に文字を残すシリアル・キラーってのは何の話なんだい?」

「……アリゾナで電ノコかぁ……」
「チェーンソです。ウィンフィールド先生」
わかったわかったと手真似で応えるとクリスはエミーに向かって言った。
「なあエミー、キミ、どう思う?キャリーの言うシリアル・キラーなんだけど…」
「考えられない」
即座にエミーは顔を横に振った。
「普通シリアルキラーは好みにうるさいもんでしょ?
なのにアリゾナの被害者は60過ぎの男性で、アラスカは45歳の女性。
被害者にも手口にも共通性は無し。
それに、そもそもこれだけの遠隔地に住んでいる被害者をどうやって選別したっていうの?
そんなの不可能だわ。以上。終り」
「たしかにプロファイリングの常識じゃ、この仮定上のシリアルキラーは考え難いね。
でもね、エミー。遠隔地に住む相手であったとしても、被害者として選別することは不可能じゃないよ。今はコレがあるからね」
クリスは「みのむしパソコン」を指さした。
「あっそうか!」
すぐさまキャリーが歓声をあげた。
「……ネットの掲示板ですね!」
キャリーに大袈裟に頷くと、すぐさまクリスはエミーへと向き直った。
「検索したいことがあるんだけど、ちょっとパソコン貸してくんない?」
……クリスの検索はものの一分もかからずに終了した。
「……思ったとおりだね」
「………」
クリスの肩越しにディスプレイを眺めていたエミーも、眉間に皺を寄せて何かを考えている。
クリスにとって何が「思ったとおり」だったのか、判らないのはディスプレイの向こう側にいるキャリーだけだった。
「あのウィンフィールド先生……」
「ああ、ごめんキャリー。いま説明してやるよ。あっ、それからウィンフィールド先生じゃなく、クリスでいいぞ」
クリスは、キャリーをディスプレイの見える位置に呼びこんだ。
「アリゾナの事件には宗教的な臭いがする。現場は聖具販売店だし、キャリーが言うみたいにキャノニストって言葉が関係してるんなら、なおさらだ。それでね……」
クリスはパソコンをどんどん前画面へと戻していった。
いくどめかの「戻る」のあと、見覚えのある画面で止まった。
「……ウィキですか?」とキャリー。
口先を尖らせ、クリスは頷いた。
「内容が正しいかどうかは保証のかぎりじやないけど、でもとっかかりにはなるからね。
……でこのページは『聖書の登場人物の一覧』なんだけど……見て御覧」
クリスはその中の一つにカーソルを合わせてクリックした。
「……うわぁ……なに、この気持ち悪い絵!?」
「カラヴァッジオ作『ホロフェルネスの首を斬るユディト』……キミの言うシリアルキラーは、これのパロディーをやったんじゃないかな?」
「それじゃやっぱり!?」
「犯人は宗教的な理由で被害者……っていうより、たぶん生贄を選んでるんだよ。どこかの宗教関係の掲示板でね」
膝を叩いてクリスが席から立ちあがった。
「もし、アリゾナかアラスカの被害者が使ってた携帯電話かパソコンに触れれば……出入りしてた掲示板を突きとめられるんだけど……」
そのとき、クリスの鼻先に一枚のメモがつきつけられた。
「ロス支局の番号よ」
ぶっきらぼうにエミーは言った。
「……ハーパーに連絡して調べてもらうのよ。その方が速いわ。それからキャリー、このあんたはこっちの番号に電話して」
「これは?どこの番号??」
「アンタが来るより少しまえに来たニューヨークの刑事の携帯よ」



「カナダの捜査官にも指摘されたんだ。旅人はどうやって獲物を選んでるのかってね。ネットの掲示板からとは思わなかったよ」

クリスからの電話の三日後、早くもチャールズ・ハーパーの姿はバージニア州クワンティコにあった。
「アメリカは精神病大国ですからね。国民の大半が心を病んで精神科に通っていて、残りのは教会に頼ってる……で社長。例のものは?」
「社長??…オレのことか?」
「他に人、いないでしょ?」
ハーパーとクリスの他に部屋にいるのは、ミス・ミノムシとプレーリードッグ女だけだ。
ベックマンはウィスコンシンとトロントを廻って来るので、まだ到着していない。
「…やれやれ、勝手に昇進させるなよ」
頭を掻きながらハーパーはポケットからメモを取り出した。
「パソコンでなく携帯で助かったよ。パスワードなんて聞かれたってどうしようもないからな」
メモは、「主の羊社」のホバート老人の携帯に残っていた履歴情報だった。
「これと他の情報を突き合わせればー、犯人が狩場に使ってた掲示板をー特定できるんですねー!」
「先走らないでキャリー」
目を丸くするキャリーにエミーが釘を刺した。

「『掲示板を使ってた』ってのは、まだ仮説にすぎないんだから。
それにもし『旅人』が掲示板を使ってたとしても、それが一つだけとは限らないのよ」
「しかしもし掲示板による繋がりが証明できれば、『旅人』というシリアルキラーの存在を証明する一助にはなるんだ」
ハーパーの言葉には強い期待がこめられていた。

 ワシントンDCのFBI本部に対しベックマンが送った上申には、いまだ上層部からの反応が返されていなかった。
北米大陸ほぼ全土をめまぐるしく移動しながら狩りをするシリアルキラーなど、いまだ現れたためしが無かったからだ。

「獲物や殺人方法にも全く共通点が無いときちゃ、シリアルキラーの存在を信じろという方が無理ってわけさ」とハーパー。 
「いずれにしても……」
ウォードがFAXしてよこした走り書きのメモに目を通しながら、クリスは言った。
「……デルハイル、アイアンズ、レイノルズ、そしてルービン、ホバート、ソーンダーズ、カーモディー、スローン、全員分のデータが揃えば、何かが見えてくるはずですよ」
「そのために私たちだってー随分頑張ったんですからー」
キャリーはバーモント州サウスバーリントンのアイアンズ宅に、エミーはウスダコタ州スーフォールズのレイノルズ医院までそれぞれ足を伸ばし、現地警察の協力も得てパソコン履歴を調査してきたのだ。
「……おかげで仕事は溜まるわ、有休は減るわ……」
「気にスンナよエミー。君の仕事なんてどうせ窓際の退職勧奨ポストなんだから」
エミーがクリスの後頭部をゲンコでこづいた。
「…私が気にしてんのは有休の方よ」
「ともかくだ。FBI本部を納得させ動き出させるまでは、ここにいるオレたちだけで『旅人』を追うしかないんだ」
「おいおいハーパーくん、『ここにいるオレたちだけ』って、オレは抜きなのかい」
新たな声に部屋の四人が一斉に振返った。

「……やっかいだったのはカーモディーさ。もうまいったよ。仕事が仕事だから使ってるパソコンがいくつもあってね……」
ベックマンの国境を三度も跨ぐ大移動をねぎらうように、ハーパーが言った。
「よくパスワードが判りましたね。私なんか……」
「オレがパソコン詳しいわけないだろ、ハーパーくん。……ゴーントに頼んだんだよ」
「ところで、おつかれさまってとこなんですけど大統領」
割って入ったクリスのセリフにベックマンの目が点になる。
「大統領?……ハーパーくんのことか?」
「いや、オレは社長らしいから」
「もちろんベックマンさん、アナタのことに決まってるでしょ。さっさと例のものを出してくれませんか?」
「オレは大統領選に出た覚えなんてないぞ」と言いながら、ベックマンはクリップで止まった紙束を取り出した。
「プライベートのはどれですか?」
「プライベートのパソコンかい?」
「バソコンと携帯」
「ちょっと待って……………ああ、これだこれだ!」
さまざまなメモをバタバタ出したり引っ込めたりしてからベックマンは目的の一枚を探し当てた。
「ちょっと拝見…」
会議机の上に、デルハイル、アイアンズ、レイノルズ、ホバート、ソーンダーズ、カーモディー、スローン、8人の被害者の携帯およびパソコン履歴が並んだ。
「通信内容は家族や宗教観についてのもののハズだから……仕事用の携帯やパソコンは使わないでしょ」
クリスは各被害者の記録を更に、公式のものを奥に、プライベートのものを手前に並べ分けた。
「どうですか?ウィンフィールド先生?どっか共通する掲示板とかHPあります?」
前のめりに飛びかからん勢いのキャリーの首ねっこを掴んで、エミーが強引に引き戻す。
クリスは基本的には真正のコンピュータ・オタクなので、コンピュータ絡みの作業をしているとき邪魔されることを酷く嫌う。
エミーはそのことをよく知っていた。
クリスは胸ポケットからペンを取り出すと、8人のパソコン履歴に小さな○を次々書き加えた。
「……全部に共通した接続先が一つだけ在りますよ。こりゃ、行ってみるっきゃないでしょね」
クリスはパソコン前に席を移した。

「……ブッブー!はっずれー。マイケル・ジョーダンのファンサイトでしたー」
的外れの判定を下したキャリーが、エミーにより直ちに退場を命じられた。
「『ヨルダン(jordan)の辺(ほとり)』……」
クリスはサイトが掲げる文字を無意識に読み上げた。
「毒蛇の子らよ、集え。寄り集いて悔い改めよ……」
茶色の唐草模様が無限のループを描いて渦巻き、折り重なり、もつれ合う様を背景に、蛍火のように文字が明滅する。
エミーが憤慨したように言った。
「……このサイト、性質が悪いわね。画面になにか仕掛けがしてあるわよ」
「さすがだエミーだ。伊達に性格悪くないな」
「……あんたにゃ負けるわよ」
「後で調べてみるけど、たぶんサブリミナル系の仕掛けがあるよ。全体のデザインは……ルイス・ウェインが末期に描いた絵みたいだね」
メインメニューからBBSへと次々画面を切り替えていく……。
「………こりゃなんていうか……電脳告解室って感じだな」
掲示板を流し読みしていたクリスが呆れたように呟いた。
「掲示板の管理者なんて、何処の馬の骨かも判らないってのに……個人的な話をよくもまあ……」
「でもクリス……」それまで我慢していたハーパーが口を挟んだ。
「……掲示板ってのは実名やなんかは判らないんじゃ?」
「判りますよ」
クリスの答えは呆気なかった。
「捜査機関だって法的手段に訴えりゃ誰が何書き込んだか特定できるでしょ?
合法的にできるんなら、非合法にだってできるんですよ。
それになんてったって非合法の手段の方が、合法的手段より早くて簡単」
「しかし……」
反論しかかったがハーパーは言葉を飲み込んだ。
クリストファー・ウィンフィールドの「前科」を思い出したからだ。

いまから20年ほど前、ペンタゴンを始めとする軍関係のコンピュータが次々と不法侵入を許し、「三目並べ」のプログラムを残されるという事件が立て続けに発生した。
「三目並べ」にちなみ「○×」と名付けられたこのハッカーは、「反戦意図の左翼人種」とプロファイリングされ「かなりの若年。あるいは未成年かも」と推論されたのだったが……。
捕まえてみればハイスクールの優等生。
クリストファー・ウィンフィールド少年だったのだ。
FBIや軍を始めとする国家機関は、そのころから単純なハッカー敵視を止め、ハッカー対策としてハッカーをスカウトするようになっていた。
ただし……ハッカーでありさえすれば、ハッカーとしての腕が良いのであれば誰でもOKというわけにはいかない。
スパイの採用基準と同じで、肝心なのは「人物」なのだ。
そういう基準でクリストファー・ウィンフィールドは、起訴取引の一環としてFBIの所属となったのだ。

「うっわあぁ……いるわいるわ、心を病んだ奴らがいっぱい」
「病んでる病んでる……こりゃ凄いね!」
画面の流れる速さは目にもとまらぬほどで、ハーパーやベックマンにはHNを読みとることすらできないのだが、しかしクリスとエミーにはしっかり読めているらしかった。
「…ちょっとストップ!」
エミーが短く叫ぶより一瞬早く、クリスがスクロールを止めた。
「HNはアクトレス、常連だったみたいね」
「……そうだねエミー。まちがいないよ。こりゃあニッキー・スローンの書き込みだ」

『……子供のころはこの名前のせいで虐められたりしたけど、初めて自分の名前を好きになれました。
だって、この名前のおかげで大きな役を貰えたんだから……』

「……その掲示板を丸ごと保存しておいてくれ」
やりきれない想いにハーパーは堅く目を閉じた。
過剰な自意識と明日への不安、根拠のない自信……掲示板に残ったニッキー・スローンの横顔は、どこにでもいる普通の若い女性だった。
「トロントで撮影してることも書いてるわね」
「このライダーってHNのヤツ、上手いね。まるでカウンセラーだ。相手を安心させて話を引きだすのが最高に上手い……」
まだ続いているエミーとクリスのやりとりに背を向け、ハーパーは部屋を出た。
廊下では、「追放処分」を食らったキャリーがふくれっ面して立っていた。
「やあ、お疲れさん」「……お疲れさまでしたー」
元気がとりえのハムスターのはずだが、テンションが低い。
事件が急展開を見せたところで、エミーに部屋から摘み出されたのが不満なのだ。
「本当におつかれさま」
ハーパーはねぎらいの言葉をもう一度繰り返した。
「アリゾナで会ったあと、一人で捜査を続けてたんだってな」
「捜査だなんて……ただ一人でバタバタしてただけです」
「しかしそのおかげで、アリゾナとアラスカ、トロントで起こった4件の殺人と、ニューヨークを起点にした4件が一本の線で繋がったんだ。
全員があの掲示板にアクセスしてたことが照明できれば、DCの本部を納得させることだってできるだろう。
キミはその最大の功労者なんだ」
ハーパーの言葉にウソはなかった。
後半4件と最初の4件を繋ぎ、エミーとクリスを巻き込んだ結果、バラバラだった情報が科学反応を起こして一つになった。
キャリーはその触媒としての役目を果たしたのだ。
「……そうおっしゃっていただけると、素直にうれしいです」
キャリーの話し言葉から語尾を引っ張るクセが消えた。
「背がちっちゃいし、東洋系が入ってるせいか童顔なんで、いっつもいつも子供扱いされて……でも今回初めてなんか役に立てました。私、FBIに入って良かったです……」
キャリーの素直な告白と女優を目指しながら惨殺されたニッキー・スローンの書き込みが、ハーパーの心の中で二重奏を奏でる。
現実とぶつかりながらも、それでも希望を捨てない、若い女の善なる魂の二重奏……。
そのとき、ハーパーが後にしてきた部屋から、エミーが追いかけて飛び出してきた。
「ハーパーさん」
「どうしたエミー?」
「ひょっとすると、ひょっとすると8件じゃないかもしんない。『旅人』、たぶんもっと殺ってるよ」



ハーパーが部屋に戻ると、パソコン画面はスクロールを止めていた。

「もっと殺してるって話だが、いったいどうしたんだ?」
ハーパーの問いにクリスは「僕には……」と顔を横に振ってエミーを指さした。
「ハーパー、ベックマンさん、ご存知ですか?HRTの問題児の……」
「アイツか?!それならアラスカまで轟いてるよ」
ベックマンはニヤッと笑った。
「たしかデミトリィ………ええと……」
「…ノラスコです。ディミトリィ・ノラスコ」
「で。あいつがとうかしたのか?」
「実はここしばらく拘ってる事件があったんです。このヴァージニア州内で地方紙の名物記者だったババア……じゃなかった、老女が」
「ば、ばばあ!?」「聞いちゃった!聞いちゃった!」
すかさずクリスが突っ込み、キャリーが尻馬に乗る。
「…め、名物記者だった老女が…」
「あ!ごまかそうとしてる!」「………」
二度目の突っ込みはクリスの裏切りでキャリー単独の特攻になり、結局キャリー一人が再度の追放刑に処せられた。
「……地方紙の名物記者だった老女がエレキギターで撲殺された事件があったんですが……」
「ああ、僕もネットのニュースで見たような気がするな。たしかウィンチェスターじゃなかったっけ?」
「そうよクリス、その事件よ。で、ベックマンさん、その事件でストリートギャングが一人挙げられたんですけど、ノラスコのヤツが冤罪だってバタバタ騒いでて……」
「それと、この『旅人』の事件とどういう関係があるんだい?エミー?」
「殺されたババ……老女の名前はミリアム・カポーティっていうんですけど、あだ名が……」
「あっ!思い出したぞ!」
椅子からクリスが飛び上がった!
「そのババアの仇名は『エリス』!つまりギリシャ神話の『不和の女神』だ!!」
スクロールの止まった掲示板に書き込まれていたのは、「不和の女神」というHNによる書き込みだった。

「前の4件と後の5件のあいだか!前後が開き過ぎてるのが気になってたんだが……まてよ!?」
画面を覗きこ込んだハーパーの声のテンションが一変した。
「……ニッキー・スローンはHN『アクトレス』、カポーティは『不和の女神』……」
眉を寄せたハーパーの呟きがブツブツ続く…。
自ら手を伸ばしマウスを掴むと画面をスクロールさせはじめた。
「……アリゾナのホバート老人は『カノン』…………」
カチッ!カチッ!
クリック音が続き、画面がぎこちなくギクシャクとスクロールする。
「……あった!これだ!「『キッチンドリンカー』!!」
ハーパーが小さく叫んだ。
「「いままで『旅人』は被害者の特定のアルファベットについて拘りを見せていたが、その特定のアルファベットを選ぶ理由がサッパリ判らなかった。しかし……」
手近の紙きれを引き寄せると、それに「Kitchindrinker」と走り書きした。
「『旅人』は基本的に獲物を掲示板『ヨルダン川の辺』の住人として知っている。『旅人』にとって獲物は『人』である前に、掲示板記載の『文字データ』なんだと思う…。だから…」
ハーパーは、今度は「Kitchindrinker」の上に「Canon」、「Kitchindrinker」の下に「Producer」「Actress」と書いた。
「どっちもHNとして書き込みがある。『アクトレス』は内容的にニッキーだから、『プロデューサー』はたぶんカーモディーだろう」
「じゃあ!?じゃあ!?じゃあー!?」
何時の間にか自主的に現場復帰していたキャリーが大声で叫んだ。
「他の被害者のHNはー!?」
「ちょっと退いてくれハーパーさん。オレが調べる。その方が速い」
クリスが再びパソコン前に戻り、猛烈な勢いで画面をスクロールさせ始めると、「なんだか面白くなってきた」とエミーももう一台のパソコンを立ち上げた。
「クリス!情報があったら読みあげて。全米犯罪情報センターに照会するわ」
「オッケー、判った!」
クリスが掲示板からHNと個人の特定に結びつく情報を読みとると、直ちにエミーが犯罪情報センターの記録と照会。
自然発生的に集合した5人は、既にチームとして機能し始めていた。
そして、更に……。

「……HNウルフェン!」
「ウルフェン??」
「ホイットリー・ストリーバーの小説だよ。正体は多分プロの投資家で、自分が貪欲に過ぎないかと書いてる」
「貪欲?……ああ、ウルフィッシュ(Wolfish)の駄洒落ね。ちょっと待って……それならWで始まる凶器か……」
クリスに負けず劣らずのスピードでキーが打ちまくられ、すぐさまエミーは答えに行き当たった。
「ビンゴよ。ビル・アッシャー。52歳。オレゴン州ポートランドの自宅でウィスキーボトルにより撲殺」
「お、おい、また当たりなのか!?いまので何件目だ?」
「いまのビンゴで6件目でーす」
キャリーは三代目のパソコンで被害者データの表を作成していた。
「キャリー!発生日付順に並べ替えてくれよ」
「了解です、ウィンフィールド先生!」
カチッ!
キャリーはなれた仕草でデータを発生日/昇順でソートをかけた。

Ruin/ライフル銃による射殺
Ironist/象牙の彫像による撲殺
Doctor/ドアーストップによる撲殺
Editor/電気ヒーターによる感電死
Wolfen/ウィスキーボトルによる撲殺
Honeydripper/ハーケンによる刺殺
Indian/アイロンのコードによる絞殺
Rocker/ロープによる絞殺
Elis/エレキギターによる撲殺
Dominic/辞書のページを大量に喉に詰め込まれたことによる窒息死
Brewer/バットによる撲殺
Lowyer/羊の骨付き肉(おそらく使用時は凍結)による撲殺。死体の上にはラオディキア教会の観光案内あり
Canon/チェーンソウによる滅多切り
Kitchindrinker/ナイフによる喉斬り
Producer/ピースメーカーによる射殺
Actress/アーミーナイフによる喉斬り

「ちょっと待って」
並びを変えた表を見たベックマンから注文がついた。
「アリゾナとニッキーの事件は小文字だったんだ。すまないがキャリー、小文字にしてくれるかな。それからエミー、死体に文字の情報は?」
「特には無いですね」
「それじゃ『旅人』の仕業とは限らないわけか」
「でもベックマン…」
エミーはだんだんベックマンとため口をきくようになっていた。
「……羊の骨付き肉で殺られたネバダの事件じゃ、ラオディキア教会の観光案内があるわ。
少なくともこれだけは『旅人』の仕業に間違いないでしょ」
「うむ……しかし……」
ベックマンはキャリーの表にもっと顔を近寄せた。
「…この文字列じゃなんの意味も読みとれないな。並べれば、何か意味が浮かんでくると思ってたんだが……」

「……いや、意味は通ってると思いますがね」

肩越しに聞えた未知の声に、ベックマンが驚いて振返った。

 エミーが戸惑い顔で尋ねた。
「プリスキン刑事、その方は??」
尋かれたソフィアも明らかに戸惑っている。
「……来なくてもいいと言ったんですが……」
「ああ、僕のことなら気にしないで……夜の安眠を取り戻したくてついて来ただけですから」
「ドクター・ロレンゾです。ドクター・サンベルト・ロレンゾ」
「ロレンツォです」
ソフィアの紹介を即座にロレン「ツォ」は訂正した。
「ゾ、じゃなくてツォですから、プリスキン刑事はちっとも覚えてくれなくてね」
「あのー、一般の方はー……」退去させようとしたキャリーにあやすような仕草を見せると、ロレンツォは室内に一瞬視線を走らせ、誰が指導的立場にあるのかを直ちに見切った。
「あなたは……?」
「ハーパーです。チャールズ・ハーパー。失礼ですが部外者は……」
「その前に、私の話を聞いたほうがいいと思いますよ。なにせ、次の被害者に関わる話しですから」
「つ、次の被害者だって!?」
「……いいですか?」
ロレンツォはまんまとその場に留まる暗黙の許可をゲットすることに成功した。
「この犯人、……あなた方の呼び方に従って私も『旅人』と呼ぶことにしますが……『旅人』は、『ヨハネの黙示録』に拘りのようなものを見せていますよね?」
ハーパーもこれに応じた。
「それは我々も感じています。一連の殺人で観光案内の置かれていたのが三件で、エペソ、ペルガモン、ラオディキアと総て黙示録に関係したキリスト教会の所在地ですね。
それにトロントで二件続いた殺人では、ペルガモン教会についての黙示録の記載が再現されています」
「ニューヨークでの事件だと現場にレンブラント作『洗礼者ヨハネの斬首』が飾られていた。それからそのHPの名前ですが……」
ロレンツォは「ヨルダン川の辺」を指さした。
「……ヨルダン川というのは、ヨハネが洗礼を行っていた場所ですよね。イエスもそこでヨハネの洗礼を受けています。だから……」
ロレンツォは今度はキャリーの作った表を指さした。
「あの文字列も、『ヨハネの黙示録』に即した内容だとして読むべきなんです」
FBI捜査員とニューヨークの刑事の視線が文字列に集まった。
「いいですか?ここに少なくともREDと読める部分があります。それからその下の部分はBLCKと続いてますね?これはLとCのあいだにまだ繋がりの見えてこないAの事件があると考えれば……」
「……ブラックだね。だけどそりゃ論理の飛躍が……」
しかしクリスの反論するより早く、ロレンツォは自論を結論まで突っ走った。
「……レッドの上にはWHIがある!これは明らかにホワイトだ!つまり!黙示録の四騎士のうち『ホワイト』『レッド』『ブラック』と三騎までが揃っていることになる!」
反論しようとしていたクリスも含めた全員の目が被害者リストに集まった。
「……で、ブラックの次はPAまで来てるんですよね?次にくるアルファベットが何か、もう私が言わなくっても判ったでしょ?」
………数秒の沈黙のあと、ハーパーはクリスに命じた!
「クリストファー・ウインフィールド!その掲示板に、HNがLで始まる書き込みがあるか!?」
「一人います!HNはロンサムボーイ(Lonesomeboy)」
すると、それまで口を出さずに聞いていたベックマンが不意に口を開いた。
「ウィンフィールドくん!合法であると非業法であると手段は問わない。そのHNの主を特定できるかな!?」
「………大統領、僕の前科を忘れたんですか?」
クリストファー・ウインフィールドの瞳が鋭く光った。



 「HN『ロンサムボーイ』は、メリーランド州フレデリック……」
ネット上での追跡を開始してからクリストフォー・ウィンフィールドが目指す相手を特定するまで、僅か十数分だった。
「……番地13号、ロバート・モーガン」
「近いわね!」とエミー。「やっほー!」はキャリー。
「ハーパーくん!行ってくれ!!」
「了解です!」
「社長!車は僕のを使って!」とクリスがキーを投げた。
「ご一緒させてください」と申し出たソフィアに、ハーパーが手真似で「来い」と承諾すると、二人はアカデミーを飛び出していった。

「……青ざめた馬が完成するまで……」

一同が声に振返ると、ロレンツォが独り、幽霊でも見たような顔でパソコン画面を見つめていた。
「青ざめた馬(Pale・horse)が完成するまで、あと2文字です」
のろのろとロレンツォがベックマンの方に向き直った。
「『ヨハネの黙示録』は世界の最終闘争について記述しています。そして『旅人』は、その黙示録に異様な拘り見せている……ベックマンさん……あと二文字です。『旅人』が『ペイル』を完成させたとき、いったいどんなことが起きるのだと思われますか?」

州道4号を抜け5号に入ってから約一時間弱……ハーパーの運転するピックアップトラックが隣州メリーランドの住宅地へと滑り込んだ時、辺りは既に夜になっていた。
急に車の窓を開け闇に目を凝らすソフィアに、ハーパーは尋ねた。
「………どうかしたのか?」
「警官の臭いがします…」
「今のいままで知らなかったよ。警官に臭いがあるなんて」
「………随分来ています。遅かったようですね」
ナビの表示が目的地に近付くにつれ、樹間や屋並みのあいだに赤い回転灯が垣間見えるようになってきた。
目指す家の周りはまずパトカーと野次馬で一杯だった。
 やって来たピックアップトラックに気付いた年配の警官が野次馬を押しのけやって来た。
「FBIのチャールズ・ハーパーさんとプリスキンさんだな?」

「……ひょっとしてベックマンから?」
「決まってるだろ。オレはここの署長のビンセントだ。まあこっち来てくれ」
どうやらベックマンは、ソフィアのこともFBI捜査官と伝えてあるらしい。
ソフィアに目配せすると、二人のFBI捜査官は署長に先導されてローバート・モーガンの家へと入って行った。

 ロバート・モーガンの家は、見かけと中が全く違っていた。
見かけは古いレンガの壁に蔦の這うニューイングランド風の作りなのだが、地下室に降りるとそこはライトグレイのプラスチックと金属の銀色に支配された別世界が広がっていた。
壁に作りつけられた様々なスイッチのいくつかは警報装置で、いくつかは空調装置のようだ。
警報装置を一目見るなりハーパーが唸った。
「なんだ?この警報装置は??民間の住宅に設置される水準のものじゃないぞ!?」
「空調の方も妙ですね。最初は一時流行った個人宅用核シェルターかと思いましたが、与圧の設定が逆です」
核シェルターの場合、放射性物質を含む空気がシェルター内に入り込まないよう、室内の空気圧を高くする。
だがロバート・モーガン宅の地下空調は、室内を減圧する設定になっていた。
「ハーパーさん。この家でロバート・モーガンはいったい何をしていたんでしょうか?」
「……嫌な予感がするよ」
「いい感してるな。さすがはベックマンの仲間だ」
振返りもせずそう言うと、署長は地下室最奥の扉に手をかけた。
「さてと……こっから先は地獄の一丁目だぞ」
ビンセント署長が外から圧の掛ったドアを重そうに引き開けると、シューーーーッと外の空気が中へと吸い込まれる音が聞えた。

塵ひとつ落ちていない銀とライトグレイの部屋の中で、深紅の広がりはとてもよく目立った。
試験管に培養皿。
顕微鏡に小型冷蔵庫。
最奥の部屋は明らかに研究施設。それも、絶対外に漏らしてはならない物のための研究施設だった。
無機的な部屋のど真ん中で、ロバート・モーガンは脳天をトマトのように潰され、大の字に手足を伸ばしていた。
血にまみれた長さ20インチほどの金属の棒が死体の傍らに転がっており、それが凶器らしい。
「鋳鉄製だ。妙な装飾がされいるんだが……何なのかはまだ判ってない」
「プリスキン、何か思い当たるか?Lで始まる道具でこういうものを……」
「……天秤秤」
「畜生!」
悪態ついて右拳を左手の平に叩き込んだとき、ハーパーは殺人現場でうろついている人間の動きがプロらしく……というより警官らしく見えないのに気がついた。
「署長」
同じことを感じたらしくソフィアが署長に尋ねた。
「彼らは鑑識のように見えません。……鑑識の作業前に素人らしい者が現場をうろついているワケをご説明いたたげませんか?」
「ヤツらは殺されたロバート・モーガンの勤めていた研究所の者だ。なんでもモーガンが職場からなんたらいう株式だかを勝手に持ち出してたらしくてな……」
「……株式だって?」
冷蔵庫の中を調べていた男が突然振返った。
真っ青な顔色と血走った目が、彼の心境を何より雄弁に語っている。
「何度行ったら判ってもらえるんです!持ち出させていたのは、レストン株です!」

 「レ、レストン株ですって!?」
ハーパーからの緊急連絡を耳にするなり、サンベルト・ロレンツォが飛び上がった。
「で、その大馬鹿者は、レストン株で何をやっていたんですか!?」
「『ヨルダンの川辺』での告解の書き込みからするとですねー……」
掲示板に目を通していたキャリーがロレンツォに言った。
「……改良って書いてるんですけどー……。ところでドクター、レストン株ってなんですかー?」
「エボラ出血熱って知ってるかい?死亡確率80%に達する悪魔のウィルスなんだけど……」
「昔本で読んだわね」ミノムシ女エミーも身を乗り出してきた。
「……たしか血液その他の体液の飛沫で感染するって……」
「普通のエボラアィルスなら、たしかにその通り。感染者の体液に触れない限り安全です。
しかし、レストン株だけは違う!あのタイプのエボラは……」
ロレンツォの顔は、モーガンの家を創作していた同僚たちと同じほどに青ざめていた。
「……エボラウィルスのレストン株だけは、空気感染するんです!」

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最終更新:2011年10月27日 23:19