EP#0「ツーリスト~旅する死神~」

ハーパーがアラスカに向かうまでの流れ、通しで試作してみた。
文体、流れなどこの感じでいいのか?

 「無理だぜ、Gメン。オレを捕まえようなんてぇなぁな!」
ビル風吹きすさぶ屋上で「トマホーク」は犬のように吠えると、獲物の少女を盾にするのを止め、足元に下ろした。
「……こいつを助けたきゃあよ、Gメン。オレをよぉ、殺すっきゃねえなぁ」
殺人狂は右手に下げた手斧、自らの仇名の由来となった「トマホーク」を顔の前にかかげて見せた。
14人の犠牲者の血が斑になってこびりついた手斧の、ノコギリのように欠けた刃に、「トマホーク」はねっとり舌を這わせた。
「さあGメン、さっさと殺れよ、オレを!」
興奮状態の殺人狂に相対して、「Gメン」と呼ばれた男はあくまで冷静だった。
唇を微かに開いて静かに息を……吐く……吐く……吐く……。
「さあ!さあ!さあ!さあ!決心はついたかGメン?オレを殺す決心がよぉ!」
狂ったようにまくしたてる「トマホーク」。
殺人狂の狙い。
Gメンと呼ばれた男には判っていた。
最高の捜査官に射殺されることで、「トマホーク」主演の物語は完結する。
そして殺人狂は永遠に生き続けるのだ。
アメリカ都市伝説の中に。
「撃てよ!Gメン!さあ!さあ!さああああっ!」
目に狂気と恍惚の光とをたぎらせ、唾を飛ばして殺人鬼は喚き散らした。
「撃てよ!Gメン!……どうしても撃てねぇってんならよぉ!」
「トマホーク」の狂気が一瞬で頂点へと駆け上った!
「こいつを先に殺してやるぜぇ!」
殺人狂が獲物の少女を足元に引き据え、手斧を振りあげた!

しかしGメンは、この瞬間を待っていたのだ!
腰がすとんと落ち、水平に伸びた右手にはS&WM586!
ハンマーが落ちる寸前までダブルアクションのトリガーが一気に引き絞られる。
同時に肺の中から最後の空気が絞り出され……。
この間、時間にして0.5秒!
そしてGメンの人差し指が、トリガーを引き切った!
轟音とともに飛び出し空を裂いた357マグナム弾は、殺人狂の振りあげた手斧の刃に命中!
オレンジ色の派手な火花とともに、手斧の刃を真っ二つに叩き割った!
右手に走る衝撃に思わずのけぞった殺人鬼の視線が再び前へと戻ると、Gメンの煉瓦のような拳がうなりをあげて飛んでくるところだった。

「さあ、もう大丈夫だ。おじさんが、ママのところに連れて行ってあげるからな」
Gメンがビルの一階まで降りると、遅ればせながらLAPDのパトカーがわらわらと集まって来たところだった。
血相変えて走って来た警部補が、拳銃ふりかざし尋ねた。
「『トマホーク』のヤツは!?」
抱きかかえた少女を、これまた駈け寄って来た巡査に引き渡しながらGメンは応えた。
「屋上に繋いである。ヤツの魂を砕いてやったから、もう危険は無いだろう。あとはそっちでやってくれ」
警部補は噛みタバコを地面に吐き捨てると、拳銃を仕舞い込ながら言った。
「そ、そうか……それなら礼を言わなきゃならんな。チャールズ・ハーパーの旦那」

××××/FBI広域捜査班
ファイルNoゼロ 「旅する死神」

 前夜の騒動翌日……。
半クラッチ状態の頭にカツを入れようと、ハーパーは馴染みのコーヒースタンドへと足を運んでいた。
「オヤジ、オレにはメニューくれないのか?」
「メニューなんか見てどうすんのさ。どうせいつものモーニングセットだろ」
何も注文しないうちに、ハーパーのテーブルにはサニーサイドエッグとトーストにブラックコーヒーのモーニングセットが並んでいた。
自分自身はFBI、妻はLAPDという夫婦にあってはスレ違いも日常茶飯事だ。
そんなときハーパーはこの「ボブおやじの店」で食事を済ますことにしている。
店主のボブとももちろん顔なじみだ。
ちなみにモーニングセット以外の料理を注文したことは……全くない。
「おつかれさん……」と言いながら、ボブは通称「ハーパー・スペシャル=特濃ブラックコーヒー」を置いて行った。
これはオヤジからのサービスだ。
彼もなんとなく気付いているのだ。
昨夜殺人狂を逮捕したのは、本当はLAPDではないことを。
ささやかな感謝の現れに微かな微笑みで応えると、ハーパーは特濃コーヒーのカップを鼻先へと持っていった。
凄まじい香りが鼻にパンチを入れてくる。
毒々しいほどの黒さを湛える液体を、意を決してハーパーは胃袋へと流し込んだ。
たちまち頭が冴えわたり……同時に激しくむせかえった。
すると……
「はっはっはっは、とても昨夜のヒーローとは思えないお姿ですな」
信じられないほど容積のある大男が、ハーパーを見下ろし笑っていた。

目の前に立っていたのは、プロレスラーと並んでも巨漢でとおるような大男の白人だった。
身長は190を軽く超えているだろう。
体重は……120から130キロぐらいか。
両サイドの一部を残して奇麗に禿げ上がった頭部と、形よく刈り込まれた豊かな顎鬚。
秀でた額の下で、明るいブルーの目が笑っていた。
「昨夜のヒーローってのは、いったいどういう意味ですか?」
「とぼけることはないでしょう」
大男は手にした新聞を差し出した。
一面トップは真っ二つに割られたトマホークの刃の写真だった。
「これは貴兄の仕業ですね」
訛りが全く無い輪郭のはっきりした発音……「女王陛下のイングリッシュ」で、大男は自己紹介した。
「申し遅れましたが、私(わたくし)はウォレス。バーナード・ブルータス・ウォレスと申します」
大男がグローブのような手を差し出すと、ハーパーも手の平を上着で拭いて握り返した。
「これをなんで私の仕業だと?」
「殺人狂トマホークの狂気の源は、この血塗られた手斧です。犯罪者を撃たずに、犯罪者の邪悪な魂を撃つ……そんなことをする捜査官は私の知る限り貴兄だけです」
「……私の仕事について随分お詳しいようですが、Mrウォレス……」
「ウォリーで結構ですよ」
「それじゃ改めて……ウォリー、あなたはどういう素姓の方なんですか?イントネーションからしてイギリスからいらしたようですが……」
よろしいですかと言って、ウォレスは自分のカップを持ってハーパーに向かいに腰を下ろした。
「私はただの退役軍人です。今はこの国で本を書いておりまして……」
「本と言われるとどんな内容の本ですか?」
「犯罪学についてです」

「グラーツ学派の祖、ハンス・グロスの著した『予審判事要覧』は、発表後100年に渡って、その輝きを失いませんでした」
「ハンス・グロス?……ああ、確かドイツの学者でしたね」
ハーパーは子供のころ読んだ推理小説を思い出した。
「たしかヴァン・ダインが……」
「そうです。『グリーン家殺人事件』には『予審判事要覧』が重要な小道具として登場いたしますね。しかしこの21世紀の世界においてより重要なのは『カナリア殺人事件』の方でしょう。
ヴァン・ダインはこの作で『心理的手がかり』と称してポーカーゲームを使った犯罪者心理の分析を行っていますが、その元ネタは……」
「つまりウォリーはハンス・グロスのことを、最近脚光を浴びているプロファイラーの祖だと言いたいわけだね」
「そのとおりです」
わが意を得たりと大男はニッコリ笑みを浮かべた。
「輝きを失わないのも当然でしょう。20世紀の後半になって流行るようなことを、19世紀に記述していたわけですから」
「でもあなたはさっき言いましたね。『輝きを失わなかった』と過去形で……ということは、現在は輝きを失いつつあるということですね?」
「さすがですね。私の用いた言葉を、極めて正確に解釈しておられる」
軽く相手を持ち上げると、ウォレスは言葉を続けた。
「しかし、より以上に問題なのは……」
ハーパーに覆いかぶさるように巨体を近寄せると、囁くようにウォレスは言った。
「……警察をはじめとする既存の捜査機関も、犯罪の変化に対応できなくなっているということなのです」
「……既存組織の捜査官の一人としては聞き捨てならない話だけども……いったいどういう根拠に基づいてそう考えるんですか?」

ウォレスの考えによると、最近の犯罪はテロ集団などによる国際犯罪、ネットを舞台とする電脳犯罪、交通手段の発達による高速移動犯罪、犯罪組織の多角経営によるコングロマリット的複合犯罪化が顕著なのだという。

「……しかし、従来からの州別警察や、酒・タバコ・脱税などといった管轄別の捜査機関はこうした新しい形の犯罪に全く対応できていないと、私はそう申し上げたいのです」
「うーーん……」
実はハーパーにも思い当たるところが無いワケでもなかった。
昨夜逮捕した「トマホーク」のことだ。
ハーパーが腕組みして考えていると、偶然なのかウォレスも「トマホーク」のことを持ち出してきた。
「『トマホーク』は二週間ばかりの間に、三つの州を股にかけて14人の人間を殺しました。
しかしLAPDを始めとする州警が、14件の殺人を同一犯によるものだと気付いたのは、僅かに3日前のことです。
もしアナタが独断先行しなかったら、犠牲者の数はもっと増えていたでしょう」
「もっともその独断先行のおかげで……」
ハーパーの、上司からのウケは最悪だった。
「しかしミスター・ハーパー」
椅子に深く腰掛けなおすと、自分の顔の前に人差し指を立ててウォレスは言った。
「現代型のグローバル犯罪、ハイパー犯罪に対抗するには……」
ウォレスは立てていた人差し指をゆっくりとハーパーの方に向けた。
「……必要なのですよ。貴兄のような捜査官が。………おお、こりゃいかん」
ふと壁の時計に目をやるなり、慌ててウォレスは立ちあがった。
「……ちょっと予定がありまして。お引き留めして申し訳ございませんでした」
コーヒーカップを乗せたトレイをもってあたふたと返却口に向かいかけたウォレスだったが……、
二三歩行きかけたところで不意にハーパーをふりかえって言った。
「そうそう、ミスター・ハーパー。ひとつご指摘するのを忘れていました。貴兄は存じですかな?三日ほど前、アラスカで発生した殺人事件のことを」

 ごく短い会見であったが……この不思議なイギリス人の言葉は、ハーパーに抜き難い印象を残していった。
ウォレスが最後に指摘した「アラスカの事件」とは?
FBIのネットワークで情報を集めることもできるが……。
ウォレスと会ったその翌日、ハーパーは単身アラスカへと飛んでいた。

ハーパーがアンカレッジ空港のロビーに出ると、ガラスの向こうでは猛然と雪が降りはじめたところだった。
(タッチの差で降りられたか……)
あの降りようだと、降着があと数分でも遅れたら、機はロスに引き返しただろう。
「ここまでは幸先良いのか?」
自分に言い聞かせるようにハーパーは呟いた。
ハーパーの任地は「少なく見積もっても365日晴れている」と言われるカリフォルニアだ。
もちろん雪道ドライブの経験なども殆ど無い。
ここから先、数十キロは続くであろう雪道ドライブを考えると、さしもの彼も気が重くならざるをえない。
意を決して、ハーパーがレンタカー窓口に向かって歩きだしたときだった。
「キミ、ハーパーくんだろ?」
名前を呼ばれ振返ると、防寒着姿の年配の男が、口角を上げ目を細めて笑っていた。
「やっぱりキミがハーパーくんだな」
男は農夫か樵のように分厚い掌を差し出して言った。
「オレはベックマン。アラスカ支局のトーマス・ベックマンだ」

 本人的には、まだ状況説明が多くテンポ悪くしていると思う。
イメージ的にはゴドリー・アンド・クリームの監督したプロモーション・ビデオみたいな文章にしたいんだが、……ちょっと難しい。
一時間ものの設定だとレスの長短で違いもあるが、トータルで30レスぐらいか?

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最終更新:2011年03月31日 01:56