全訳:ラザフォード論文

物質によるα粒子・β粒子の散乱と原子の構造について

アーネスト・ラザフォード
Philosophical Magazine
Series 6, vol.21
May 1911, p.669-688

§1

α粒子とβ粒子が物質の原子と出会うとその直線軌道からずれることがよく知られている。この散乱はβ粒子のほうが運動量と質量が小さいため顕著である。そのように素早く動く粒子が原子を通り抜けることと,観測される偏向が原子の系を横断する強い電場によるものであることは疑いがない。α線やβ線の束が物質の薄い板での散乱は,原子による多くの小さな散乱の結果であると一般に考えられてきた。しかし,ガイガーとマースデン(Proc. Roy Soc. Ixxxii, p. 493 (1909))によるα線の散乱の観測結果は,α線のうち約20,000個に1個が,0.00004cmの厚さ(どうやって測ったんだろうか)の金箔の層を通過すると平均90度曲げられることを示している。この金箔はα粒子の遮蔽力において1.3ミリメートルの空気と等価である。ガイガー(Proc. Roy. Soc. Ixxxiii, p. 492 (1910))は後に90度まででもっとも多い散乱角度はとても小さいことを示した。さらに,後で見るが,α粒子の散乱角度の分布は,角度の大きい部分において,大角度の偏向が多数の小さな散乱からなっているとしたときに期待される法則に従わない。大角度の偏向は1回の原子との衝突であると考えるのが合理的であると思われる。なぜなら2回目の衝突で大角度の偏向が起こる確率は多くの場合とても小さいからである。簡単な計算によって,1回の衝突でそのような大角度の散乱が起こるには,原子は強い電場を生じる場所でなければならないことが分かる。

最近サー・J・J・トムソン(Camb. Lit. & Phil Soc. xv pt. 5 (1910))が薄い物質を通過する荷電粒子の散乱の説明のために理論を立てた。原子はN個の負に帯電した微粒子と,それと同量の正電荷が一様に分布した球から成っている。負に帯電した粒子の原子中での散乱は以下の2つの原因による。--(1)原子中に分布する微粒子による反発力,(2)原子の正電荷からの引力。原子を通り抜ける粒子の偏向は小さいと考えられ,一方でm回の多数の衝突を後の偏向の平均は\sqrt{m}\cdot\thetaとなる(なんで平方根がつくのだろうか)\thetaは一回の衝突による偏向の平均である。原子中の電子の数Nは散乱の観測によって導かれることが(おそらくトムソンによって)示されたが,最近の論文でクラウザー(Proc. Roy. Soc. Ixxxix. p. 226 (1910))によって実験的に検証された。彼の結果は一見(トムソンの)理論の主な結論を裏付けており,彼は正の電荷が連続的であるという仮定の下で,原子中の電子の数は原子量(atomic weight)の3倍であるということを導いた。???

トムソンの理論は1回の衝突による散乱は小さいという仮定に基づいており,正電荷の球の直径が原子の影響力の直径よりも微小であると考えない限り,1個の原子によるα粒子の大角度の偏向は説明できない。

α粒子とβ粒子は原子を通り抜けることができるので,偏向の性質を詳しく調べることによって,観測された現象を生み出す原子の構造についてなんらかの模型を構築することが可能なはずである。実際,高速の荷電粒子の原子による散乱はこの問題に対するもっとも有望な手段である。ひとつひとつのα粒子を数えるシンチレーションの方法の発展は,研究にも貢献し,この方法によるハンス・ガイガーの研究は物質によるα線の散乱に関する我々の知識に多くを付け加えてくれた。

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最終更新:2011年05月29日 18:34