;五日目 9月12日(月) シーン1 喫茶店メニューな話 昼休み。 いつも通り彩葉、明と机を囲んでお昼を食べていると教室内に紅茶のいい香りが漂ってきた。 明「お、やってるやってる」 一樹「喫茶メニューの試飲するんだっけ、今日って」 明「そうそう。どうせなら昼休みに食後の一杯で配ってくれよって頼んでたのさ」 彩葉「私ももらいに行こうっと♪」 彩葉「一樹の分も取って来てあげよっか?」 一樹「いやいいよ、僕も淹れてるところ見たいし。一緒に行こう」 (場面転換で一度暗転する) 一樹「なかなか手馴れてるね」 彩葉「美味しそう♪」 試飲用の紅茶を淹れているのは『灰原 凜』さんだ。 彩葉とは仲がよくお互いの家に遊びに行くくらいの仲ではあるようで、よく話にも登場する。 彩葉「凜ちゃん紅茶に凝ってるもんね」 彩葉「遊びに行ったときたまに淹れてもらうんだけど、おうちにはすっごく沢山の種類置いてあるんだよぉ」 一樹「へぇ。紅茶好きなんだ?」 凜「そんな大したものじゃないって。きっかけもたまたま読んでた漫画からだったりするしね」 凜「下手の横好きっていうのかな」 とはいえポットから別のポットへと紅茶を濾過する手つきは慣れたものだ。 凜「最後までぎゅっと濾すのがコツ……かな?テヘヘ」 照れながらも嬉しそうに紅茶をカップに注いでいく。 ほんのりと甘酸っぱい香りが漂い、つられた人だかりがぞろぞろ集まってきた。 凜「はい!定番だけどアールグレイをどうぞ!」 凜「他にもダージリンとかアップルとかもあるから後で飲んでみてね」 凜「文化祭当日はあまり沢山の種類は用意できないと思うから絞っておかないとね」 彩葉「わーい♪いただきまーす」 人だかりから少し離れたところから、赤坂さんがチラリとこっちをみて目が合った。 一樹「赤坂さんもどう?味見しようよ」 桃香「わ、私はいい」 声をかけられたのが意外だったのか、少し動揺してそっぽを向いてしまった。 赤坂さんなら、そっぽ向いてはいるけど直接手渡したら断り切れずに飲んでくれるだろう。 後であまったカップを持っていこうかな。 せっかくの文化祭なんだから、クラス皆で参加したほうがいいし。 葵「ブラックで」 一樹「うわっとっと。相変わらず唐突に……」 葵「葵は大人なのでブラックで飲む」 一樹「ブラックって……珈琲じゃないんだから」 凜「と、とりあえずストレートでいいかな?」 渡されたカップを前に水樹さんはがさがさと鞄から何か袋を取り出した。 粉っぽい小石が入っているように見える。 一樹「それ、なに?」 葵「黒砂糖」 一樹「黒砂糖?」 葵「黒砂糖」 一樹「もしかして……『黒』砂糖入れるから、『ブラック』なの?」 頷きながら水樹さんは紅茶に黒砂糖を入れ始めた。 どぼどぼと黒い塊がひとつ、ふたつ、みっつ……と、計7つ入れたところで軽く味見をし、満足げに黒砂糖の袋を鞄にしまった。 一樹&彩葉&凜「……。」 黒砂糖の塊が7つ入った味を想像しながら絶句する僕らを尻目に、水樹さんは美味しそうに紅茶をすすっている。 凜「健康にいいから黒砂糖と生姜を入れる飲み方はあるにはあるんだけど……」 彩葉「7つは入れすぎ……だよね……」 葵「?」 葵「欲しい?黒砂糖」 三人そろってぶんぶんと首を振る。 葵「美味しいのに」 葵「ブラックが飲めないのは、お子ちゃま」 一樹「う、うん。お子ちゃまでもいいかな……僕は」 彩葉&凜「だね」 満場一致だった。水樹さんを覗いて。 ---