;四日目シーン1 明と買出し 各クラス文化祭の出し物が決まったためか分からないが、学校全体の意識が文化祭に向いたみたいだった。 いたるところから内装がどうだ、業者がどうだという話が聞こえてくる。 明「いい雰囲気だよなぁ、祭りの準備期間って感じがさ!」 一樹「僕もこの雰囲気は好きだよ。体がフワフワするっていうか」 買出しに向かう僕らの足も幾分軽やかだ。普段はうっとうしいだけの日傘も、頭の上でクルクルと楽しげに回っている。 明「とはいえもう残り一週間しかないからな。準備期間は」 一樹「一週間で内装、外装、衣装その他諸々を準備するとなるとほんとに寝る間を惜しんで、になるね。比喩でもなんでもなく」 原則として夜間に学校にいるのは禁止だが、この1週間だけは特別だ。 学校の近くに住む生徒を中心に夜も通して準備が進められる。 明「そうだな。でも騒ぎでも起こしてペナルティ食らったら元も子もないからな」 明「過去には出展自体禁止させられたこともあるらしいぜ」 明「まあここ数年は生徒の方もしっかりと心得ており問題らしい問題は起こしていない、だそうだ」 一樹「それにしてもよく通ったよね、コスプレ喫茶なんてさ」 明「通るに決まってんだろ、誰がプレゼンしたと思ってるんだ? この俺だぜ?」 明は拳の親指で自分の胸を指しながらニヤリと笑った。 雨弓祭では出し物は基本的に自由なのだが、学校側が問題ありと判断した企画についてはクラスの代表者がお偉いさん方にプレゼンを行って、 それでやっていいかどうかが決められることになっていた。 問題ありと判断されるものの大半は、今回のコスプレ喫茶のような際物だ。この危機を切り抜けた企画はほとんどないらしい。 一樹「先生から、学校側から待ったがかかったって聞いたときのクラスの落胆っぷりは酷かったね」 一樹「あれだけ盛り上がった所に水を差されたんだから当然といえば当然だけど」 じゃあ次の企画決めよっか。もう適当でいいよね適当で……。 そんな投げやりになったクラスの中、またも明は立ち上がった。 俺はプレゼンの準備があるから早退する。勝手に話し合っててくれ。そんなセリフを残し明は颯爽と帰っていった。 一樹「それでも諦めないんだからなあ。かなわないや」 明「コスチューム分担まで決めてたしな。あのまま適当に終わらせるなんて絶対やらせるもんか」 そして今日。 明は朝から生徒指導室でプレゼンを行っていた。 僕らはといえば授業もなく、出し物も決まらずもうどうでもいいよねみたいな空気が流れていた時だった。明が帰ってきた。手に許可証を携えて。 どうやって了解を得たのか? その質問に明は不敵な笑みを浮かべるだけだったからどうやったのかは分からない。 これは噂だが生徒指導室から出てきたハゲの教頭と筋骨隆々の学年主任が、涙と鼻血で凄い形相をしていたという。 一体どんなやりとりがあったのか……。 それは触れてはいけない部分なのだろうというのがこの噂からも分かった。 一樹「明は人を乗せるのは病的に上手いよね。メリットをどんどん前に押し出してデメリットは置いてけぼり。まるで詐欺師みたいだよね」 明「一樹はほめてるのか貶してるのかよく分からないんだよな」 一樹「何言ってるんだべた褒めじゃないか」 明は複雑そうな顔をした。 明「聞かれてもないデメリットをわざわざ教える必要は無い、営業の基本だぜ?」 一樹「どこで覚えたのそんな知識」 明「まあいろいろ、な。とっとと買い物済ませようぜ」 僕達は駅前の商店街へと急いだ。