終わりの始まり

Chapter.00 Track.01;終わりの始まり

それは太古の昔。世界は、暴走とも言える幾多の種の繁栄により、
致命的な自己の未来像を垣間見た。
それゆえ世界は、当時最も脆弱であり、矮小であり、それゆえ無害な霊長に、あるひとつの『筐』を授けた。

シュメル神話におけるジウスドラ、
ギルガメシュ叙事詩におけるウトナピシュティム、
ギリシャ神話におけるデウカリオン、
あるいは、
創世記におけるノア。

『筐』は『舟』を象り、霊長は種の調整者として世界に君臨した。
しかしその後霊長が文明を得、世界という強固な『意志』の支配から解き放たれ、自らの技術のみで『種の保存』を成すに至ることまでは、
世界は気づかなかった。

あるいは。

世界は再び垣間見たのかもしれない。しかし、もう世界にはどうしようも無かった。
霊長という『意志』の持つ力は、すでに世界という『意志』を咀嚼し嚥下するほどに大きく、強いものとなってしまっていた。

時代は次第に次代に――死体とともに。

およそ五千年の時を経て霊長に再臨した筐。
それは、世界を滅ぼすに至った霊長の『原罪』を封じ込めたパンドラ。
何故、今頃になって再び筐は具現したのか――
それは、霊長が『種の保存』の時代を終え、『個の保存』へと移行したからである。

霊長は知っていた。世界は、もう滅び行く運命であると。
ならば。
終焉の最中、より完全なる個体を以て、より普遍たる永遠を享受しよう。
世界の死を乗り越えて、神ならんとする個を以て、
新世界に悠久の繁栄をもたらそう。

こうして。
筐に目覚めた覚醒者たちの、罪に罪を重ねる生存競争が始まった。

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最終更新:2012年04月11日 03:40