ステラ・プレイヤーズ 18*大町星雨

 最後の艦艇が空に消えると、クロリア第十六駐留所はしんと静まり返った。この作戦のために指揮官や兵士が大勢かりだされて、今駐留所に残ってるのは新兵や非戦闘員、留守番の少数の士官ぐらいだった。人が少ないせいで、訓練も休みだ。
 ごろごろしてるのもなんだったから、三日目に、俺は里菜にくっついてトレーンさんの所に行くことにした。里菜は訓練のない時、トレーンさんからオルキーランの授業を受けている。
「つくづくすごい作戦だよねぇ」
 分厚いファイルを抱えてきながら、トレーンさんが息を吐き出すように言った。
「まあこれで大統領が捕まってしまえば僕も万々歳だけどね。アラルにいるとどうもやりづらくって」
 トレーンさんが首を振った。アラルではオルキーランやルシンの研究が厳しく規制されてるらしい。トレーンさんも資料を没収されそうになって、クロリア管理下の星へ、その後暗殺を恐れて駐留所へ転がり込む羽目になったらしい。
「まあ僕たちに今できることったってそう無いしね。オルキーランの話でもしようか」
 そう言ってトレーンさんがノートをめくった。
「前に、オルキーランが使ってた言葉は分かってないって話をしたよね。この間オルキーランと交流のあった人と話をしてきて分かったことがあるんだ」
 指でしばらくノートの文をなぞって、ようやく頷いた。
「シンナミア、オラスア、ミズアト、ビユ。意味は分からないって言ってたけど、オルキーランの間であいさつのように使われてたらしい。リナさんは何か心当たりある?」
 里菜は少し考えて、首を横に振った。そう言えばこの前、たまにぼんやりとしたイメージがわいてくることばあるけど、はっきりしたものはよく分からないって言ってたっけな。
 トレーンさんは残念そうに頷くと、ノートを閉じて話題を変えた。
「じゃあ、クラルの種類の説明をしようか。リナさんが持ってるのは短剣型だけど、他にも長剣型や腕輪型、ネックレス型なんていうのもある。それによく分かってないけど、オルキーランがクラルを持ってると特殊な電波が発せられるらしい」
 俺ははっと頭を上げた。地球でアラル軍の通信を聞いたとき、アラルは特別な波長を元に里菜の居場所を探っていた。
「じゃあアラルはその方法を実用化してるんだね。常に発せられてるわけじゃないって聞いたことがあったけど」
 トレーンさんがそう言うと同時に、部屋中に警報が響き渡った。ぎょっとして全員飛び上がった。俺はとっさにイスを蹴倒して立ち上がると、出入り口に向かって走った。
「大斗、どこに」
「管制室だ! 何があったか確かめてくる!」

 バスケットコート程の大きさがある管制室前広場に行くと、既に居残り組がそろって集まってざわめいていた。周りは大人ばかりだから、俺たちはうずもれそうになる。管制室のそばにあるすり鉢形の巨大スクリーンが、この基地があるオルア星の3D図が映し出している。大気圏の外に黄色い点が、地上にそれより大きな赤い点が表示されている。
「えっと……山火事!?」
 里菜が人ごみの後ろから何度も跳びはねて、表示を確認した。乾季が来ている地区で数日前から起きていた火事が、風向きが悪く、集落の一つに迫ろうとしている。いつもならあちこちにある水場のおかげで自然鎮火してるのに! 悪いことに、集落が山の上にあって火に囲まれたせいで、逃げようにも逃げられない。
「あそこにクロリアの監視塔はないの? あったらそこを使って逃げられるのに!」
 里菜が今にも泣き出しそうな顔で言った。俺は周りの声に負けないよう声を張り上げた。
「あそこは見張りに向かないから置かれてないんだ!」
「じゃあ地上飛行艇は? 今度の作戦には使わないから残ってるんじゃない?」
「里菜、よく見ろ!」
 俺は背伸びしながらスクリーンを指差して、警報が鳴った本当の原因を示した。
 惑星の上空にアラルの探査機が飛んできて、オルア星を捜索している。こんな中で飛行艇を飛ばしたら、クロリアがいると教えるようなもんだ。この星に、本来文明はないはずなんだから。事実、助けに向かいかけてた船を最寄りの格納庫に避難させてるらしい。
 つまり探査機がいなくなるまで救助に向かうことはできず、状況からしてそれを待っていれば手遅れってわけだ。騒がしかった広場は、いつの間にか静かになり、時折ため息やイラついた声が聞こえるだけになっていた。
 里菜はこぶしを握り締めながら、爪先立ちでしばらくスクリーンをにらみつけていた。そして急に戸惑ったような表情を浮かべると、辺りを素早く見回してどこかに駆け出していった。
 俺はぽかんとその後ろ姿が消えるのを眺めていたが、我に返って慌てて後を追った。



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最終更新:2012年01月20日 16:30