ステラ・プレイヤーズ 17*大町星雨

②キアト奇襲作戦

 レーザー弾を連射すると、画面に移っていた敵機が爆発した。まばゆい光に一瞬画面が暗くなって、すぐ元に戻った。
 戦闘モニターをチェックすると、ちょうど最後の一機をアルタが撃退した所だった。
『ティート、かなりいい腕だ。予想以上』
 通信機から雑音交じりのマーウィの声がこぼれて、俺は明るい声でありがとう、と返した。「タイト」という名前は発音しづらいらしく、仲間うちじゃ「ティート」で通ってる。
『午後の訓練はこれで終了する』
 突然はっきりした声が聞こえて、画面のスイッチが切れた。
 俺は訓練装置のキャノピーを開けて、同じように降りてきたアルタたちと合流した。
「四ヶ月でここまで進歩するなんて大したもんだよ。なんか秘訣でもあんのか?」
 マーウィが俺の肩を叩きながらいって、俺はにやりと笑った。
「秘密」
 ゲーセン通いは無駄じゃないんだって。里菜は微妙な顔するけど。戦闘機って言ったら基本はアラル機もクロリア機もそんなに変わらないし。でも、それを言うのはもう少し後にしておこう。周りに感心されるのは悪い気分じゃないし。
 食堂に行くと、席はほとんど一杯になっていた。どうにか場所を見つけて座る。
「ところで、アルタたちとミラってどうやって知り合ったの? 所属違うし女子なのに」
「幼馴染なんだ」
 スパゲッティ(に似てるけどちょっと辛め)をフォークでからめ取りながら、アルタが答えた。
「家が近くでね。ティートたちと同じだよ」
 そこでマーウィがにやりと笑った。
「二人して逃げてきました、なーんてロマンチックな話じゃんか」
「って待て! そんなんじゃねえっ! たまたまあいつがルシン人に間違われて襲われる羽目になって、あいつが一人じゃ駄目で俺を巻き込んだから仕方なくついてきたんだって!」
 俺はスプーンを置いて言い返した。これは俺が考えた、一般人に説明する時の「いきさつ」だ(一部に反論があることは認める)。マーウィは相変わらずにやけてるし、アルタはそんな俺たちを見て苦笑いしている(って、見てないでとめろよ!)。俺はしかめ面で食事を再開した。
「あとさ、アルタあれ教えてやれよ」
「そうだ、今はまだ機密情報な作戦あるんだけど、知りたい?」
「教えろ!」
 アルタの声に、俺はさっきの会話をすっかり押しのけて身を乗り出した。「情報」なんて聞いたら黙ってられねえって!
「耳貸して」
 言われるままにテーブルに身を乗り出すと、アルタがささやいた。
「キアト、攻めるんだ」
「キ!……アトっていったら首都惑星じゃんか」
 俺は大声を出しそうになって、慌てて押さえた。
 アルタがにかっと笑い、上官の硬い口調を真似た。
「諸君、知っての通りキアトは大統領官邸を始めアラルの政治機関が集中した所であり、必然的に最も厳重な警備がとられている。しかし逆に考えれば、アラルの誰が、我々がキアトを攻めると思うだろうか」
「この機密を誰が軽々漏らすと思うだろうか」
 からかうような声がして見上げると、ミラがお盆を持って立っていた。守備隊の訓練後らしく、里菜も一緒だ。
「全くあんたらの口ときたら、ゆるゆるのゴムよりたちが悪いんだから」
 そう言っときながら、食後俺たちの部屋(俺がアルタたちの部屋に入れてもらった)に里菜とやってくるなり、こぶしを握ってしゃべくりだした。
「まず、航宙部隊がキアトの上空にある宇宙衛星基地を攻撃するの」
 3Dの地図を指しながらミラが言った。
「もちろんこの基地は軍事用だからバリアも堅いし、戦闘機(ふね)も豊富だからそう簡単には落とせないわ。でも事前に他の宇宙基地を攻めて救援に行かせれば、隙ができる」
「と、アラルは考えるよね」
 アルタがベッドの上にあぐらをかきながら口を挟んだ。里菜がへっと変な声を出した。
「本当の目的は違う」
 ミラが地図をいじって、地上の様子を映し出した。一箇所が赤く光っている。
「アラルの視線がそっちにずれている間に、地上部隊が大統領官邸に入るの」
 そう言うと同時に、官邸の地図が現れる。
「今大統領の権限は大きくなりつつある。だからそれを逆手にとれば、大統領を捕らえればアラル政府の機能を停止に追い込めるってことになる」
 説明が終わると、全員がしばらく黙った。俺が座り直すと、その音がやけに大きく響いた。
「そんなにうまくいくかな?」
 里菜がポツリと言った。マーウィが肩をすくめる。
「絶対うまくいく作戦なんてないさ。でもこれがうまくいけば、形勢大々逆転だ。いい知らせを楽しみにしてろよ」
 そのセリフに俺は一瞬考えて、あ、と頷いた。いつも一緒に訓練してたら忘れてたけど、俺や里菜は過程終わってないからまだ実践ダメなんだよな。
「心配しなくても大丈夫。お土産にキアトの空気でも瓶詰めしてきてあげるよ」
 アルタの言葉に、俺は吹き出した。
 戦闘機に乗ったままどうやって瓶詰めなんかするんだよ!



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最終更新:2012年01月20日 16:28