ステラ・プレイヤーズ 15*大町星雨

「別に、盗聴みたいな悪い事はしてないぜ」
 アト人が明るく言った。金髪に青い目が鮮やかだ。その顔を見て、ハッキングに成功した時の大斗を思い浮かべた。
「ちょっと見れば分かるんだよ。部屋にあった荷物が古臭い上に、昨日急に上官会議が開かれたんじゃ、ぱっとわかる」
「もしかしたら、俺たちはもう少し前からいたかもしれないじゃないか。で、たまたまそんな荷物しか用意できなかったかも」
 涙目になった大斗が、しかめ面で反撃した。古臭いはちょっとひどい。
 アト人がにやっと笑った。
「お隣ならすぐ分かるんでね」
「さいで」
 大斗がボソッと言った。
「隣人つながりもあることだし、後で基地を案内してやるよ。これも恒例だしな。軍にははいるつもり?」
「まだ、そこまでは……」
 アト人の言葉に困って、首をかしげながら答えると、エガル人の男性が手を振った。
「ここを離れるにしろ、いるにしろ、何日かは過ごすだろう?」
 これには頷く。昨日、パピルス首相もそう言ってたし。
エガル人の男性が続けた。
「僕はアルタ。こっちのもう一人のエガル人がミラで、これはマーウィ」
「これはないだろ」
 すかさずアト人のマーウィが、アルタをこづいた。邪魔にならないように、ミラが器用によけている。いいトリオだった。

 基地は、思ったよりずっと大きかった。
 ホテル並みに多い寮の部屋に、野球ドームのような訓練施設が全部で十ほど。格納庫も、地球にいたとき見たようなのが二十以上ある。
 更にすごいのが、それらがほとんど全部地下にあること。監視塔(と言っても、外見はぼろい民家なんだけど)以外はほぼ全部地中に作られている。巨大なアリの巣を思わせる構造だ。深い所に作ってあるから、探査されても分からないそうだ。
「で、こっちは外出が許されてる『庭』だよ」
 アルタが声を弾ませて言って、エレベータを出て、監視塔のドアを開けた。
「……庭、なの?」
 数秒後、私は聞いた。
 すぐ目の前に密林が広がっていた。木は枝打ちもされずに育って、縄文杉みたいに馬鹿でかくなっている。その周りに、ツタがだらしなく絡みついている。薄暗い地上で、わずかな木漏れ日を奪い合うように、ところどころ植物が密集している。遠くで何かが動く音がした。
「安全第一、品質第二ってな」
 マーウィが歩き出しながら言った。確かに、これだけ木の枝が茂ってれば、空から見つかる心配はない。
 慣れてしまえば落ち着く場所だった。道さえ選べば草を掻き分ける必要もないし、歩いてると時間の感覚がなくなりそうだ。
 前でマーウィがツタの塊を探り出した。のぞき込むと、赤い実を見せてくれた。ブルーベリーに似てる。
「カレア・ドミっていって、甘いし栄養豊富なんだ。ツタの皮は、出血を止めるのにいい」
 マーウィが手のひらの実を転がしながら言った。
「もっとも、取るまでにまたケガすんだけどな」
 マーウィの手には、とげで出来た引っかき傷がいくつもついていた。
「他にも役に立ててる物ってあるの?」
「あるけど、俺はこいつ以外知らん。食えてうまいのはこれだけだ」
 マーウィのあまりに堂々とした答えに、私と大斗はそろってずっこけた。
 選手交代して、アルタが役立つ植物を歩きながら説明してくれた。地面に叩きつけると破裂音が大音量で鳴り響く木の実、水に入れると光りだすコケなんていうのもあった。
 カレア・ドミを口の中で転がしていると、急にミラが立ち止まった。つられて私たちも足を止める。
 森の中に、黄色い岩がそびえていた。その前のくぼ地は青い水で満たされていて、その水が、大きく口を開けた洞穴の中に消えている。周りを見渡しただけで、大小の穴がいくつもあった。
「この洞穴は、入らないほうがいい」
 マーウィが珍しく真剣な顔で言った。
「道が入り組んでる上に、水の中に飢えた肉食生物がうようよしてるの」
「勇敢な調査隊が真っ青になって逃げ帰ってきたぐらいだから、相当なんだろうね」
 ミラとアルタが続けた。わずかに差し込んでくる日差しの中で、ほら穴の縁が妙に強調されて見える。
 いきなり、穴の奥で水を打つ音がした。全員飛び上がって、おずおずと顔を見合わせる。
「行くか」
 誰ともなく言って、足早にその場を去った。



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最終更新:2012年01月20日 16:24