ステラ・プレイヤーズ 14*大町星雨

Ⅱ(エシェ) 小麦粉(のようなもの)のわな

 クラルを構えて立っている。小さな武道場の中で、同じように構えた相手と向き合っている。
「始め」
 審判の声が聞こえて、ゆっくりと動き出した。しばらく相手の様子をうかがって、一気に攻撃に出る。
 顔の脇を刃がかすめて、ひやりとした――。

 起きて膜を開けると、大斗もちょうど着替え終わった所だった。
「置いてあったスケジュールによると、そろそろ朝飯らしいぜ」
 私はふうんと頷いて、大斗の後ろから部屋を出ようとした。寮の部屋は(なぜか)手動の引き戸だ。
「うわあ!」
 大斗が叫ぶと同時に、目の前で白い煙が立ち上った。空調の作る風に乗って、こっちに押し寄せてくる。
 鼻がむずむずしてきて、連続でくしゃみをした。そのたびに白い粉が舞う。
 奥の方で笑い転げる声がした。煙の向こうに目をこらすと、大斗と同じような服を着た人が数人、お腹を抱えて笑っている。
 しゃべろうと口を開けたけど、その拍子に粉が舞い込んで、私はせきこんだ。これ、小麦粉!?
「服は浴室の洗濯機に入れとけよ」
「シャワー浴びるのも忘れずに」
 そんなことを言いながら、声が遠ざかっていった。
 小麦粉(仮)が収まるのを待って、粉が舞わないよう慎重に敷居をまたぐ。小麦粉はソフトボールぐらいの袋に入っていて、それが黒板消しのわなの要領で落ちてきたらしい。ふと大斗を見て、思わず吹き出した。
 髪が粉を浴びて白くなって、顔も同じような目にあっている。かなり不機嫌そうな顔だ。
 私がその格好を見ながらにやにやしていると、大斗は上目遣いにこっちを見た。
「お前だって似たようなもんだぜ」
 それだけ言って、あとは口をきいてくれなかった。
 シャワーを浴びて、粉のついた服の変わりに、部屋にあったワイシャツに着替えた。多分、クロリアの制服なんだろう。昨日のロボットが来て、食堂まで案内すると言った。
「オルキーランの話は秘密にするようにとのことです。周りとお話になる時は、地球からの亡命者、ということにしてください。クラルも、持ち歩く際は目に付かない所にお願いします」
 ロボットに言われて、クラルを腰から外して、前のように服の下に隠した。基地の中では危険はないだろうけど、部屋に放っておくのもなんだった。
 食堂はオレンジ色の明かりに照らされて、にぎわっていた。奥にバイキングのスペースがあって、手前に長机がいくつも並んでいる。色々な制服や私服の人がいたけど、昨日の指揮官たちのような格好の人はいなかった。
 パン(のようなもの)と紅茶(の以下略)とサラダ(の以下略)を取ってきて、大斗と端の方に座った。服が同じなのと、クラルを隠してるせいとで、私たちに気づく人はいない。
 ちょっと甘いパンをかじっていると、横に人が座った。三人組で、二人がエガル人だ。エガル人の片方は緑色、もう一人は青っぽい肌をしている。
 自分たちの分をつつきながら、ちらちらとこっちを見てくる。口元がおかしそうに笑っている。その様子を見て、ピンと来た。さては、さっき小麦粉(仮)を浴びせてくださった人たちだな。
 緑のエガル人が口を開いた。
「別に僕たちだけがあんな悪ふざけしてるわけじゃないんだ」
 頷きながら、もう一人のエガル人が口を挟む。
「あれ、いつも新入生にやってるの」
 声からして、青い方のエガル人は女性らしかった。エガル人の年齢は分かりづらいけど、アト人の男の人を見る限り、みんな私たちより年上、二十歳ぐらいだ。どうやら新入りだと思ってるらしい。
 男性の方のエガル人が目を細めた。
「で、地球のどの辺から来たんだ?」
 後ろで大斗が激しく咳き込んだ。私たちまだ何も言ってないのに地球人だってばれたわけ!? 大斗の背中をさすってやりながら、楽しそうにしている三人を見た。



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最終更新:2012年01月20日 16:23