ステラ・プレイヤーズ 11*大町星雨

 風呂から上がると、脱衣所に新しい服が置いてあった。学校の制服に似た、ワイシャツと黒いズボンだ。きちんと糊が利いている。格納庫での撃ち合いで服を焼け焦げだらけにしていたし、手ぶらで来たから、ありがたく袖を通す。
 ユニットバスから出ると、小さなテーブルに肘をついて、里菜が待っていた。考え込むように眉を寄せながら、小さなりんごをかじっている。自分の荷物に入れてた物らしく、黄緑のワイシャツにジーンズの七部ズボンだ。ベルトには返してもらった短剣が下がっている。
 俺がテーブルのかごに入っているひめりんごに手を伸ばしながら座ると、里菜が真っ先に口を開いた。
「これって牢屋じゃないよね」
 俺は大きく頷く。ドアに鍵こそかかってるけど、他はホテルみたいな部屋だ。
「急にこんな態度が変わるなんて、最初はまた短剣が何かしたのかと思った。でもそれじゃ、あの人たちが何であんなに驚いてたのか分からないよ」
 俺はまた頷く。里菜がりんごの芯でかごをつついた。
「あの人たち、最初短剣を拾っても何ともなかったし、私たちをずっと見てたはずでしょ。だったら何で」
 里菜は頭を抱えた。頭の中がパンク寸前みたいだ。まあそこは俺も似たようなもんなんだけど。
「俺が思うに……あの時の俺たちの行動が、関係してるんじゃないかと」
「どんな動き?」
 里菜が頭を抱えたまま、上目遣いに聞いてくる。
「それは分からん」
 きっぱりと答える。里菜が顔をしかめた。頭を抱えるのをやめて、背もたれに寄りかかる。
「あと、ここはどういう人たちの組織なんだろう? 短剣が示した所だから、少なくともアラル政府関係ではないよね」
「どうだか」
 そこは疑わしいだろ。生返事を返すと、里菜は背もたれから起き上がった。
「だ・か・ら、短剣は私に『危険が迫ってるから逃げろ』って夢で伝えてきたんだよ!? アラルの味方な訳ないじゃん!」
 声がでけえ。
 俺は耳に指を突っ込みながら答えた。
「じゃあ反抗組織かもな。結構騒がせてるみたいだし」
 里菜がうなった。
 二人でじっと考え込んでいた時、ポーンと電子音がした。突然の音に、思わず二人して立ち上がった。
 壁を見ると、3Dのインターホンに人が映っていた。
『会議室にご案内します。皆様そこでお待ちです』
 機械のように無表情な声だ。実際、ロボットかもしれない。
 俺はゆっくりと深呼吸して、気持ちを落ち着けた。
 いざ、ご対面だ。

 自動扉が開くと、明るく広い部屋だった。教室四つ分はあるだろう。そこに楕円形のテーブルが置かれ、奥の席に人が座っていた。全部で五人、うち一人は幽霊みたいにちょっと反対側が透けて見えるから、立体画像かな。その画像の女が腰までの着物に似た、アラル式の礼服を着ていて、他一人が私服、後は軍服だ。軍服のうち二人がエガル人で、多分男。女は画像の人だけだ。全員が壮年と呼べる年頃だ。
 俺たちの背後でドアが閉まった。一番奥に座っていたアト人が席を指し示し、俺たちは並んで座った。五人と向かい合う形になる。里菜はかちこちだ。
「クラルを、見せていただこう」
 さっきのアト人の男が言った。日焼けして、髪に白髪が混じっている。軍服を着ているのに、何だか穏やかな感じを受けた。
 俺たちは顔を見合わせた。
「その短剣を」
 男がもう一度促して、里菜は慌てて短剣をベルトから外した。男の方に滑らせる。
 男はゆっくりと手にとって、鞘から引き抜いた。両面の文様を確かめる。横の画像の人にも差し出して、何か小声で話している。やがて軽く頷くと、鞘に戻して私服の男に回した。
 私服の男も同じように確かめていく。時々ノートを開いて見比べる。この人は周りより若い。三十前後だろう。眼鏡をかけ、ワイシャツの胸ポケットに、何本もペンを挟んでいる。軍人って言うより学者風だ。
 里菜が横で座り直した。ちらちらと短剣のほうを見ている。先生にでも呼び出されたみたいな気分だ。
 ようやく学者が短剣を収めた。さっきの男に戻しながら、小声で短く言葉を告げる。男は頷いて、短剣を里菜の方に返した。



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最終更新:2012年01月20日 16:17